第六章 決戦 1 side 出雲響~4 side 麻生聖
第六章 決戦
1 side 出雲響
目を開けると目の前に聖が居た。
流石JIPANGのエリート集団科学部時空移動課の皆さん、座標計算結果良過ぎだよ。正確な日時が時空電話に表示される。移動先は二五一〇年一二月二四日。俺の十六回目の誕生日。
しかし、聖だけではなく、多くのp‐type達に囲まれている。
本当に計算力高過ぎ。
これはかなりピンチだ。
武器は鞄に入れておいた小型銃しか無い。人よりも丈夫で再生能力の高いp‐typeに果たして効くのだろうか?
それに、銃のエネルギーはもつだろうか?
「響……どうして……?」
聖の声で我に返る。
そうだ。
聖を無事に二十一世紀に帰さなきゃ。
出来るとか出来ないんじゃない。
やるんだ。
ポケットに入れた銃に手をかける。
「ほぅ、それをしっかり私に向けられるのですか? ここには聖様もいるのですよ」
「東雲さん?」
聖は事態を飲み込めていないようだ。
東雲がこちらを見ていやらしく微笑む。
俺の親父の顔でそういう表情をするな。
吐き気がする。
「へっ、脅しかよ」
鼻で笑って銃をポケットから出す。
そもそも聖が東雲に怯えていないのだ。状況を理解できていない人間を助けるというのは想像以上に困難だ。まず、あいつらが人類の敵だって事を分かってもらう必要がある。
「エネルギーパックを抜いてから地面に置いてください」
「抜け目がないな」
「お褒めに預かり光栄ですよ」
舌打ちをして銃を地面へと投げる。銃が無いのは厳しいが、まだ諦めない。
「聖!」
一番好きな娘の名を呼ぶ。
「お前を連れ戻しに来た。此処はお前の居る時代じゃない」
「響……でも、私将来この木になるんでしょ?」
そう言って聖は目の前の透明な大木を指差す。その木の中心に居るは聖と同じ外見の女性。
これがp‐typeの本体。
そして零先輩が愛した十八歳の聖……。
今より少し髪と背の伸びた聖。
大きな瞳は閉じられていて長い睫毛が目立つ。
零先輩は妊娠していると言っていたが、外見的にはよく分からない。
「さあ聖様。貴女様を裏切った男の言葉に耳を傾けている暇はありませんよ。彼の幸せの為にも、今は無視してこの聖木を治してまた実を結ぶようにしてください。我々p‐typeは全て貴女様の子供なのです」
聖の木を凝視していると東雲が叫ぶ。
俺の幸せ?
このクソ親父、何を吹き込みやがった?
「聖! 治しちゃ駄目だ! その木は沢山の人間を傷つける」
「でも……」
言いたくは無かったが、決定的な事を言わないと理解されそうに無い。
「東雲は俺の親父を培地にしたp‐typeだ! 親父は無理矢理p‐typeの培地にされたんだ。親父だけじゃない。お袋も姉さんもp‐typeの培地にされた。p‐typeに殺されたんだ!」
……これだけは言いたくなかった。
「嘘! この木は響の為になるから治せって東雲さんが……。」
聖がそう言った瞬間、俺の四肢をそれぞれ一人ずつのp‐typeに押さえつけられる。そして聖も東雲に強く腕を捕まる。
「何するのよ!?」
一応聖は格闘の心得が有る。最近は対俺用に格闘技の勉強にも取り組んでいた。
背後から抱きつかれに瞬間、頭を後ろに振り東雲の顎に頭突きをする。しかし、身長差が有り過ぎる為、急所には入らない。こんな事なら聖をもっと鍛えておけばよかった。
――パチン
東雲に平手打ちされて聖が吹き飛ばされる。
「聖!」
駆け寄りたいが、俺も四肢を押さえつけられていて動けない。
「放せ! 邪魔だ!」
叫ぶが、勿論誰もどいてはくれない。
まずい。
2 side 麻生聖
地面に倒れた私の腕を東雲が固める。
「うわぁ!」
顔が苦痛に歪む。
こんなに完璧に腕を固められた事なんて、生まれてこの方、一度たりとも無い。
痛い。
痛過ぎる。
このままでは骨が折れる。
東雲が私の耳元に口を近づける。
流石に元は響の父親だけあってそこはかとなく顔が似ている。だからこそ、最初に響と出会った時、直ぐに仲良くなれたのだから皮肉なものだ。
「貴女が我々の言う通りにしないと、貴女が愛するこの男が全く違う生物になる所を見る事になりますよ」
「騙したのね」
声は結構似てる。ただ、口調がいやらしい。
「いいえ。嘘は言ってませんよ」
「真実を歪めただけ?」
鼻で笑う。
「どうやら私ともあろう者が、レベルの低い生物を作ってしまったみたいね。最悪ね。あなた達は失敗作よ!」
「…………」
東雲が腕の力を強める。
「痛い!」
「言っても分からない様なので体で分かってもらう事にします。出雲響に関しても実際にその大きくて美しい瞳で見てもらいましょうか」
「種は今、作られてないって……」
「ストックくらいありますよ。我らがp‐typeの母、麻生聖様の割には頭の回転がよろしくないんじゃありませんか?」
腕を反転されて無理矢理東雲の正面を向かされる。年齢は三十前に見える。やはりp‐typeだと成長速度が変わるのか……。
ああ、やっぱり響の面影がある。
ただ、もう話すのもむかつくので睨み付ける。
「聖様、そんなに怖い顔をなさらないで下さい。我々p‐typeは皆、貴女の子供なんですよ。それに貴女の態度一つで彼の寿命が決まるのですからね?」
顔を横に向ける。
響が四人のp‐typeに全身を押さえられている。
このままじゃ絶対に助からない。
私はどうしたい?
人類の未来が大切か?
響が大切か?
答えは最初から出ている。
覚悟を決めて大きく息を吸う。
「分かったわ」
人類の皆さんごめんなさい。
「聖木を治します」
その時、遠くから銃声が鳴り響いた。
3 side 出雲響
東雲の申し出に対し、聖が観念して首を縦に振った時、
「ギャアアア!」
東雲が叫び声を上げる。
その右腕には風穴が開いていて、緑色の血が吹き出す。誰かが銃を撃ったんだ。
聖は東雲の腕を振り解いて俺の方へ走り出す。
「聖! 危ないから来るな!」
「響! 頭上げないでね!」
聖はそう言うのと同時に小さな身体をジャンプさせると、そのまま俺の右腕を押さえているp‐typeの顔面に飛び蹴りをぶちかます。
p‐typeは顔から血を流しながら吹っ飛ぶ。
「え……?」
一瞬他のp‐typeも呆気に取られて力が緩む。その隙に俺もp‐typeを力ずくで投げ飛ばす。
「聖様! おいたが過ぎました。容赦しませんよ!」
血を流しながら東雲が走ってくる。
俺と聖の間には四人のp‐typeが居て直ぐには傍に行けない。
――バシュ
発砲。
そして、東雲が前のめりに倒れる。
続けて俺と聖の間に居るp‐type達も次々に銃で撃たれ倒れていく。
音のした方には……。
「零先輩!」
p‐typeの群れの中に見慣れた顔を見つける。
緑色の鬘を外した零先輩の姿を見て、思わす大声を上げる。どうやらしっかり潜入していたらしい。
「オレだってこの位はやれるさ」
嫌味なくらい爽やかに微笑む。でも、嫌味にならない。これだから美形は性質が悪い。
「零先輩のこの位って、一体どの位なんですか?」
この人ごみの中、的確にp‐typeだけを狙う腕……。しかも一発目は東雲の右腕を確実に狙っていた。
確かずっと手抜きして時空移動者テストを受けていたんだな。こんな超人間と比べられたら俺なんて、一回目のテストで時空移動者候補から外されてたに違いない。
「うわぁ!」
一瞬の隙を突かれ、五人のp‐typeが俺に襲い掛かってくる。
一、二人なら倒せるが、五人の相手を一気にするのは流石にキツイ。
聖も零先輩も其々複数のp‐type襲い掛かられていてこっちの援護は頼めそうに無い。
大体、聖の援護を期待するあたりでかなり末期的な状態だ。これではどちらが助けに来たのか分からないじゃないか。それに、聖もだんだん蹴りに切れが無くなってきている。疲れが出てきている様だ。
「!」
不意に左腕から激痛が走る。
そして温かいものが手の甲へ伝わる。
「血?」
俺の左腕から大量の血液が流れている。
ナイフで切りつけられた様だ。
「何だって俺はこんなに隙があるんだ」
刃物を持っていたp‐typeは顎に一発入れて吹っ飛ばす。動く度に血が流れる。飛び散った自分の血液が目に入る。
血の付いていない右手で拭おうとすると、吹っ飛ばした奴とは別のp‐typeが俺の腕目掛けて飛びついてきた。
手には小さな種子を持っている。
それは忘れもしない。
十二年前に俺の家族を奪った種子と同じ形。
p‐typeの種子。
駄目だ!
避けられない!
4 side 麻生聖
「響!」
身体が勝手に動いた。
地面に手をついて近くに居る二人のp‐typeを側転蹴りで吹っ飛ばす。
蹴りには少し自信が有る。しかし、純粋なパワー不足は否めない。この程度の威力では直ぐに起き上がってくるだろう。
急がなきゃ。
響がp‐typeに襲われてる。
血が沢山出てる。
大好きな顔……
血まみれ。
こんなの嫌。
待ってて。
私が助けてあげる。
「!」
響とp‐typeの間に割って入る。
身体の中に何かが入る。
異物。
私はこれが何だか分かってる。
誰よりも良く知っている。
p‐typeの種子を植え込まれた。
「キャアアァァァ!」
あまりの激痛に叫び声しか上がらない。これなら東雲に腕を固められていた方が百倍マシだ。
「聖!」
「聖様!」
響と響の仲間と周りに居たp‐typeが同時に叫ぶ。
自分でも血の気が引いていってるのが分かる。体が変化しようとしているんだ。
「馬鹿! 何て事するんだ!」
響に怒鳴られる。
「馬鹿ってこの天才に向かって失礼よ」
「馬鹿!」
私は精一杯強がって笑って見せる。でも顔の筋肉を動かす事すら辛い。
「だって、響の死ぬ所なんて見たく……な……い……もん」
ホントにただ単純にそれだけ。
私は響が好き。
大好き。
だから生きていて欲しい。
――ピキッ!
その時、透明に輝く聖木に僅かながらひびが入った。




