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カラオケの日

 カラオケの日、この時期であれば午後六時という時間であっても、まだ、空は青く夕闇が見えるには程遠い時間帯だ。

 約束の場所であるカラオケ店の前には、奏多先輩と見空と俺だけがポツン……と立っていた。

 ここは、この街唯一の繁華街で、居酒屋などが並んでいる通りである。自転車で走れば、十分ほどで田園風景の見えるような位置にある。

 近くに電車の駅があり、十五分に一本しか通っていないため、この時間に姿を現さないという事は、もしかしたら他のメンツがやってくるのは、十五分以上後になってくる確率が高い。

 時間に合わせて十五分以上前に、俺と見空はやってきた。

 そこにいたのは奏多先輩と、比喩抜きで首に縄を付けられて連れてこられている東屋の二人だけである。奏多先輩は、俺達の顔を見ると、一番にこう言った。

「やっぱり二人は早く来るね~。真面目すぎても馬鹿をみるだけなんだけどね~」

 時間になっても、俺達以外のメンツは集まらないこの状況を見ると、その言葉の意味が、よく分かってきた。

 だが、その時の俺はそれよりも、首に縄をかけられている東屋の方が気になっていたので、奏多先輩にこう聞いた。

「東屋のソレ……何ですか?」

 縄を握り締めている奏多先輩に向けて聞いたら、東屋がその姿のままカチャリと眼鏡を直しながら言う。

「何かおかしいところでもあるかな?」

 表情は自信満々な感じであるが、その姿で言われても全然カッコつかない……

「首に縄でも付けない限り、連れて来れない感じだったからさ~」

「だからって本当に付けなくてもいいんじゃないですか……?」

「そんな事ないよ。必要だって~」

 その時のあっけらかんとした態度を見て、奏多先輩も、笑顔のままでえげつない事をするものだと、思ったものである。

 だが、今になって、その理由が分かってきた。

 東屋がメガネをカチャリと直しながら言い出した。そんな事をやっても、カッコなんて付かないのに……。

「先輩。どうやら、日付でも間違っているのではないか?」

「だめだよ~。逃げようっていう魂胆が見え見えさ」

「そうだ。僕が駅までみんなを迎えに行こう。時間も時間だし、早くメンバーを集めないといけない」

「ササ君が行くなら、私も一緒に行くよ」

「入れ違いになるといけないだろう。先輩はここでみんなの事を待っていてくれ」

「なら、見空とヨシ君をここに置いていけばいいじゃない~」

「だが、先輩は今回の幹事なんだろう? 集合場所を離れるのはよくないんじゃ……」

 いや……これ以上聞く必要は無いようだ。

 東屋の奴は、ここから逃げ出そうとして必死になっている。首に縄でもかけていなければ、いつの間にかいなくなっていそうな感じである。

 東屋も、そろそろ腹をくくれよ……たかがカラオケじゃないか……

 俺は、普段着でやってきているが、見空は律儀に学校の制服を着てきている。

 俺が、東屋と奏多先輩のやりとりをうんざりしながら眺めているところ、他のメンツがやってきた。

「すごい光景だね……」

 後からやってきた、カラオケのメンバーらしき人が言う。

 学校のどこかで見た事のある顔である、まあ、うちの学校の生徒なのだがら当然だろうが……

「君が見空と奏多が取り合いをしたっていうラッキーボーイなの? なかなか可愛い顔をしているね。女の子二人に取り合いをされた気分はどうだった?」

 その人は屈託の無い笑顔で聞いてきた。だが、目線は明らかに東屋の方に向いている。

「誰に向けて話しているんですか……?」

 後ろに、どこかで見た覚えのあるような顔の男子を連れたその人は、東屋の方から目を離さずに答えた。

「あれほど、気になる光景はないからね……」

 それはそうだ。俺の顔なんか見るよりも、後ろの東屋と奏多先輩のセルフコントを見ている方が、何倍も面白いに決まってる。

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