↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
62/70

第62話:全車連結――超魔導列車砲

「各編成、自動列車制御装置(ATC)を同期モードへ移行! 速度を時速六十キロメートルに固定せよ!」

 創世号の操縦席から、ハルト・クゼの研ぎ澄まされた指示が魔導通信回線を通じて平原全域へ飛んだ。

 アルカディア大平原に敷設された複線主幹線。その上を、三つの異なる威容を誇る魔導列車が、寸分の狂いもない車間距離を保ちながら並走していた。

 先頭を走るのは、数万年の時を超えて蘇った神話の超特急『創世号(ジェネシス)』。

 白銀の流線型ボディから青白いプラズマの粒子を撒き散らし、大気を切り裂いていく。

 その直後方、わずか三十メートルの距離に迫るのは、漆黒の重装甲で身を固めた要塞列車『鉄槌号』。

 そして最後尾には、十六門の対空魔法陣と鋭利な探照灯を煌めかせる『迎撃号』が追随していた。


「チーフ車掌ミュウより、全編成のクルーおよび避難区画へアナウンスですにゃ!」

 車内スピーカーから、ミュウの引き締まった凛々しい声が響く。

「これより本列車は、アルカディア鉄道史上最大の『走行中・三段電磁連結』を開始します! 座席の手すり、または安全バーにしっかりと掴まってくださいにゃ! 衝撃は最小限に抑えますが、立席の方は足元に注意してください!」


「ハルト様、後方編成との距離、二十メートル……十メートル!」

 アステリアが計器盤の水晶球を両手で包み込み、緋色の瞳を輝かせながら叫んだ。

「電磁カプラー、励起開始! 三編成の魔導波長、誤差〇・〇三パーセント――完全同期圏内に入りました!」

「よし。――連結器(カプラー)、開放!」


 ガシュゥゥゥゥゥッ!

 創世号の尾部装甲が左右に割れ、極太の超伝導電磁連結器が姿を現した。

 同時に、後続の鉄槌号の先頭ノーズからも、巨大な電磁ロックアームが射出される。

 二つの超重量級の鉄塊が、時速六十キロという高速走行を維持したまま、わずか数ミリのズレもなく接触した。


 ガキィィィィィィィンッッ!!


 激しい火花とともに、鈍く重厚な金属音が平原に轟いた。

 二重、三重のセーフティロックが噛み合い、衝撃吸収魔導ダンパーが余剰エネルギーを瞬時に地中のレールへと逃がす。

 客車内にいた避難民や作業員たちが身構えたが、座席を揺らしたのはコップの水が一滴こぼれる程度の僅かな振動だけだった。


「連結完了! 鉄槌号、創世号と直結!」

 鉄槌号の操縦室で、ドワーフの棟梁バランが巨大なスパナを振り上げて吼えた。

「おいエルフの嬢ちゃん、遅れるんじゃねえぞ! 尻尾をきっちり繋げ!」

「言われずとも済ませておりますわ、無骨なドワーフ殿!」

 迎撃号の艦橋で、セレスティアが優雅に魔導杖を振るった。

 バシィィィィィンッ!

 迎撃号の先頭カプラーが鉄槌号の尾部と完全に噛み合い、三つの編成が一筋の長大な『巨大列車』へと統合された。

 全長およそ四百メートル。

 白銀、漆黒、そして蒼鋼の装甲が連なるその姿は、まるで大地を統べる鋼鉄の大蛇であった。


「三編成、直列同期連結を完了」

 ハルトは懐中時計の針を一瞥し、冷静に告げた。

「これより、全車魔導炉バイパス回路を解放。エネルギーを鉄槌号の主砲へと集約する」


 その瞬間、連結された全車両の床下を走る極太の超伝導ケーブルが、眩いばかりの黄金色に発光した。

 創世号の古代超魔導炉。

 鉄槌号の高圧重力炉。

 そして迎撃号の精霊魔力増幅炉。

 異なる規格で作られたはずの三つの心臓が、ハルトが定めた絶対規格『アルカディア・スタンダード』の変換魔導陣によって、完全にひとつの巨大な拍動へと束ねられたのである。


 ゴオオオオオオオオオッッ!!


 鉄槌号の中央車両――その巨躯の天蓋が左右へとスライドし、内部から格納されていた超兵器が油圧ピストンによってせり上がってきた。

 全長五十メートルを超える、巨大な砲身。

 砲身の内側には多重の超電導加速レールが敷き詰められ、砲尾には三つの炉から送られてくる奔流のような魔力が渦巻いている。

 アルカディア鉄道が極秘裏に開発を進めていた究極の防衛兵器――『超弩級魔導メガ・レールガン』であった。


「……な、なんだあれは……!?」

 平原の彼方、指揮戦車の上から双眼鏡を覗き込んでいたヴァルハイトが、脂汗を垂らしながら後ずさった。

「列車の上に……要塞の主砲を載せただと!? 馬鹿な! あんな超重量物を載せて走れるわけがない! ましてや、それだけの魔力をどこから供給しているというのだ!?」


 帝国の常識では、それほどの巨大砲を稼働させるには、一国の王城に匹敵する巨大な固定魔導炉と数千人の魔導士団が必要だった。

 移動しながら運用するなど、魔導工学の法則を根底から覆す狂気の沙汰である。

 だが、ヴァルハイトには理解できなかったのだ。

 一本のレールで結ばれ、規格化された炉を直列に繋ぐことで、個々の限界を遥かに超える巨大な出力ネットワークを構築できるという『鉄道システム』の真髄が。


「兄上には、決して理解できないでしょう」

 創世号の通信ウィンドウを通じて、アステリアが静かに、しかし凛とした声で呟いた。

「これは、奪い合うための力ではありません。人と人を繋ぎ、富と命を運ぶために磨き上げられた技術の結晶……! 大地を破壊するだけの巨神に、私たちの希望が負けるはずなどありません!」


 前方の平原では、怒り狂った虚無の巨神が、四本の腕を天へと掲げていた。

 胸部の赤黒い魔力核が限界まで膨張し、平原全域の龍脈を強引に吸い上げている。

 大地が悲鳴を上げ、亀裂から黒い煙が噴き出す。

 巨神の単眼に宿る暗黒熱線のエネルギーは、すでに山一つを地図から消し去る臨界点に達していた。


「照準、虚無の巨神・胸部メインコア」

 ハルト・クゼの冷徹な声が、全車両の射撃統制システムへと入力された。

「目標相対距離、四千二百メートル。横風、右から四メートル。大気密度補正、完了」


 メガ・レールガンの砲身に沿って、青白いプラズマのスパークがバチバチと音を立てて走る。

 三つの魔導炉から供給されるエネルギーは、すでに通常運行時の八百パーセントを超えていた。

 だが、ドワーフの魂を込めて鍛え上げられた砲身と、エルフの精緻な冷却魔法陣は、その超高負荷を完璧に制御しきっていた。


「発射予定時刻、十三時四十五分零秒」

 ハルトは右手の白手袋を締め直し、発射トリガーのレバーへと手を添えた。

「ダイヤグラム通りに、星の歪みを消し去る」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。