第24話:神速の魔導レールガン
「主砲魔力充填率、百二十パーセント! 龍脈コンデンサー、臨界突破だぜ総裁!」
戦闘指揮車両の砲塔下部で、バロック親方が太いレバーをガコンと力任せに引き倒しながら大声を張り上げた。
鉄槌号の全長八メートルの砲身から、青白いプラズマの稲妻がバチバチと激しくスパークしている。
大気中の空気がツンとしたオゾン臭で満ち、砲身の周囲の砂埃が、強力な磁場によってふわりと宙に浮き上がった。
地下の龍脈から吸い上げられた超高圧の過熱魔力が、超伝導レールを通じて砲弾へと送り込まれ、発射準備が完了する。
一方、前方わずか千メートルの直線上で、帝国装甲騎兵大隊は完全な恐慌状態に陥っていた。
線路の左右は切り立った断崖絶壁。
逃げ場のない狭隘な谷底に、時速百二十キロの鋼鉄の巨人が、一秒ごとに距離を縮めて猛然と迫り来る。
馬たちは恐怖で狂乱し、手綱を引き絞る兵士たちの指示を無視して棹立ちになっていた。
「う、撃てえええっ! 魔導士隊、一斉射撃だ! あの鉄の怪物を吹き飛ばせ!」
ブラント准将が、額に青筋を浮かべてサーベルを振り回しながら叫んだ。
騎兵大隊に所属する三十人の軍属魔導士たちが、恐怖で震える手で一斉に杖を掲げた。
詠唱とともに、巨大な火炎球や岩石弾、雷撃魔法が鉄槌号に向けて一斉に放たれる。
数十発の紅蓮の魔力弾が、尾を引いて装甲列車の先頭部へと降り注いだ。
激突の瞬間――。
ドガガガガアンッ! ドガアアアンッ!
猛烈な爆炎と黒煙が、鉄槌号の先頭車両をすっぽりと包み込んだ。
視界が塞がれ、激しい火花が飛び散る。
ブラントの口元に、一瞬だけ安堵の嘲笑が浮かびかけた。
だが、次の瞬間――その煙の幕を何事もなかったかのように切り裂いて、傷一つついていない漆黒の巨躯が、さらに加速しながら飛び出してきたのだ。
「な……効いていない……!? 軍団魔導士の一斉集中射撃が、かすり傷一つつけられないだと!?」
「傾斜複合装甲だ。三十度以下の浅い角度で命中した魔法弾は、すべて表面の耐熱竜鱗鋼と魔力結界で滑り落ちるように拡散する」
運転席のハルトは、冷静に光学照準眼鏡を覗き込んでいた。
彼の目的は、兵士たちの無意味な殺戮ではない。
敵の戦意を瞬時に、完全に叩き折り、味方にも敵にも無傷のまま降伏させることだ。
「主砲、目標座標――敵陣前衛後方の『烏帽子岩』。……てーっ!」
ハルトの指先が、発射ペダルを踏み抜いた。
ドッパアアアアアアアンッ!!!!
天地が裂けたかのような大音響とともに、砲口から目も眩むような白銀の閃光が一直線に放たれた。
マッハ三。
音速の三倍で撃ち出された超重量ミスリル徹甲弾が、大気を圧縮して凄まじい衝撃波の輪を幾重にも撒き散らしながら、荒野の空間を瞬時に貫通した。
騎兵たちの頭上わずか数メートルを通過した砲弾の風圧だけで、先頭の騎兵数十騎が馬ごと横転して地面に叩きつけられる。
そして――。
ズドッ……ドッガアアアアアアアンッ!!!!
敵陣のわずか後方にそびえ立っていた、高さ二十メートルを超える巨大な一枚岩――烏帽子岩に砲弾が直撃した。
爆発ではない。
純粋な超音速の運動エネルギーが、巨大な岩石の分子結合を一瞬で粉砕したのだ。
山のような大岩が、まるで薄い陶器の皿のように粉々に砕け散り、何万個もの石礫となって天高く吹き飛んだ。
遅れて届いた衝撃波の突風が、猛烈な砂嵐となって帝国軍全体を薙ぎ払う。
「ひ……っ、ひいいいいいいっ!?」
「山が……岩山が一撃で消し飛んだぞ!!」
「化け物だ! こんなものと戦えるわけがない!!」
騎兵たちの間に、絶望的な悲鳴が木霊した。
自分たちの誇る黒鉄の甲冑や盾など、あの神速の砲撃の前には、紙切れほどの意味も持たないことを骨の髄まで理解させられたのだ。
「さらに、牽制射撃。ミュウ、機銃座を開放」
「了解ニャ、総裁! 両舷、四十ミリ魔導機銃、斉射ニャッ!」
ダダダダダダダダダッ!
鉄槌号の両側面の射撃スリットから、十基の重機関砲が一斉に火を噴いた。
放たれたのは、殺傷用の鉛弾ではなく、敵の武器だけを狙い撃つ高精度の閃光ゴム弾と電磁パルス弾。
前衛の騎兵たちが握っていた鉄の槍が、ボキボキとへし折られ、サーベルが手から弾き飛ばされ、軍馬の足元の地面が蜂の巣のように耕されていく。
「ひっ、馬が言うことを聞かん!」「降参だ、武器を捨てろ! 降参する!!」
騎兵たちが次々と落馬し、サーベルを放り出して地面に両手をついて平伏していく。
時速百二十キロの神速。
ドラゴンのブレスすら通さない無敵の重装甲。
そして、一撃で山を粉砕する神速の主砲。
近代技術の極致たる重装甲列車を前に、中世の栄光に縛られた帝国装甲騎兵大隊は、交戦開始からわずか十分で、一兵の死者も出さずに完全なる壊滅へと追い込まれていた。




