第8話 「あのさぁ~、スキル習得の条件というか難易度……間違ってない?」
「ではまず……ひたすら走りますわよ」
「えっ、走るの!?」
ちょっとそれは勘弁してほしい。妖精の身長じゃあ、ここの草の背丈でも茂みレベルだ。
「失礼しました。妖精の場合はひたすら飛んでください」
「ひたすら……どれくらい飛べばいいの~?」
「スタミナの限界まで。そして回復したらすぐにまた限界まで飛んでください。それをずっと繰り返せば……確率で“パッシブスキル”が手に入りますわ」
「へぇ~……どんなスキル?」
「それは習得してからのお楽しみですわ」
「……それもそうだね~」
知ったら楽しみが無くなってしまうしな。
「スキル習得の前に、ずっと走っているという奇行を他人に見られたくはないので、とりあえず向こうの丘を越えて端まで行きますわよ」
え、マジかよ。
フィーアが指さした先はかなり先にある丘の向こう。確かにその丘を越えれば他のプレイヤーから見えなくはなるが……直線距離でも一キロはありそうだ。
「はいよーいドン! ですわ!」
「えぇー……」
勝手にスタートの合図を出したと思ったらさっさと走って行ってしまった。
仕方ないので遅れて飛んで行く。速度を上げればSTが徐々に減り始め、ゲームの中だというのに息が上がって疲労を感じ始めた。
これは……ゲームのシステムが変わっている!?
アバターを強制変更してレベルを初期化するくらいだ。ゲームシステムの根本が変えられていてもおかしくない。
STの減り具合によって疲労感と息の上がり激しくなり、気を張らないと速度と高度が落ちてしまう。
限界が来てSTが空になれば、強制的に速度と高度が落ち始めた。額に少し出た汗を拭う。
草の上に着地し、膝に手を着きながら息を整える。
ちょっと遅れてSTが回復を始めた。
「うへ~、キッツ……」
これ、演技なんてしていられないな。
もうちょっとST伸ばさないと、戦闘時にバレる。
「……ふぅ、よし!」
STが回復しきると嘘のように疲労感と息の上がりが消えた。ただ、一度出た汗はそのままだ。
もう一度飛行を始め、フィーアを追い掛ける。
数度の休憩を繰り返して丘を越え、先に仰向けになって寝転がったフィーアの腹の上に着地して、同じく寝転がる。
「あ~疲れた~」
「お、お疲れさま、ですわ……」
私もフィーアも息絶え絶え。STが回復してすぐにまた限界まで走ると、どうやら疲れ始めるのが早くなるっぽい。しかも立ち止まって回復が始まるまでの時間が長くなるし、回復速度そのものも遅く緩やかになる。
体の方は筋肉疲労などは無いが、既に汗だくでベトベト。フィーアからは汗の臭いがむわっと漂っている。が、そんなの気にならないレベルで疲れているので離れはしない。
ある程度落ち着いてきたところで、フィーアが口を開いた。
「喉……乾きません?」
「乾いてるね~」
汗が出たのなら当然、水分を摂る必要がある。リアルに寄せすぎな気もするが、ゲームの中でも食事の楽しみがあるのはいいことだ。
「近くに川がありますし、移動しましょう。歩いて」
「はーい」
ちょっと飛んで腹の上から退き、フィーアが立ち上がったところで肩に座った。こういう時、妖精は役得だと思う。
「わたくしも妖精になるべきだったかしら……」
「もし正体がバレてプレイヤーたちと敵対する時、妖精だと格好つかないと思うけど?」
「……それもそうですわね」
川に到着。ゲームの中だからか川は非常に綺麗で汚れや小さな虫が一切見当たらない。
二人並んで川の水を手ですくって飲み、は~っと一息。冷たくて美味しい水だ。
……綺麗だし、飛び込んだら気持ちいかも。
喉は潤ったけど、汗でベトベトしてる私はそのまま川に飛び込んだ。
あぁ、やっぱり気持ちいい!
「気持ち良さそうですわね」
「うん、フィーアも入る~?」
「そうですわね……この階層は温かいですしそうしましょう」
メニューを開いて下着以外をデータ化して仕舞い、質素な白い下着姿になったフィーアが川に入ってきた。
「あっ……火照った体にこの冷たさは心地良いですわ」
「このまま泳いだらスキル取れたりする~?」
「しますわよ。ただし、水泳選手の練習くらい泳がないといけませんが」
それ滅茶苦茶キツイやつじゃん。
「あのさぁ~、スキル習得の条件というか難易度……間違ってない?」
「正直、後悔していますわ。次のゲームではもうちょっと緩くしましょう」
「……次があるんだ」
「えぇ、このゲームが終われば次のゲームを始める予定ですわ。勿論、このデスゲームに参加したプレイヤーは続投でしてよ」
「うわっ、ひっど」
笑える。
その事実を知ったら一部のプレイヤーは絶望して精神崩壊するんじゃないかな。
もしぶっちゃけるなら、より効果的になる後半……七十層くらいがいいかもしれない。
「その情報、いつ公開するの?」
「くひひ、順調に進めばという前提ですが、七十層から八十層くらいですわ」
おぉえげつねぇ。私と同じ考えだ。
まさに愉悦ッ! だな。
「さて、そろそろ続きを始めましょう。ひたすら走って飛んで、喉が渇いたりお腹が空いたら休憩ということで」
「りょうかーい」
川から上がり、私は再び空を飛んだ。この階層は温かいから、濡れていても寒くはない。




