第7話 「活動方針?」
ちょっと気取った自己紹介が済んだところで、フィーアが言った。
「さて、ようやく飛行の練習ですわね」
「ようやくだね~……フィーア、やる気のない昼行燈の口調ってこんな感じ?」
「それでいいと思いますわ。わたくしの演技はどうかしら?」
「問題無いよ~。それで、どうすれば飛べる?」
「簡単ですわ。自分自身をドローンと見立ててください」
「見立てて……」
「そして、ドローン操縦を頭に思い浮かべて……はい、離陸ですわ!」
離陸! ――おおぉ、飛べた!
妖精の羽が青白く光って、フワーッと浮いた。背中の羽の付け根を起点に体が持ち上げられている感覚がある。そのせいかちょっと前のめりの姿勢だ。
消耗は無いようで無限に飛べるっぽい。
あと、ちょっと恐い。
「って、これドローンの操縦そのままじゃないかな~?」
「ええ。誰でも飛べるようにと考えた結果、既存のドローン操縦をそのまま流用させていただきましたの」
「なら飛行訓練はいらないね~。私、これでもドローン免許持ってるし」
「あらそうですの。なら注意事項だけ。妖精の飛行は基本的に無限ですが、一定以上の速度を出すとスタミナを消耗するので、お気をつけて」
「あいよ~。もし飛行中にスタミナを全て使い切った場合はどうなるの?」
「徐々にスピードと高度が下がって強制着陸になりますわ。その間はスタミナ回復無し、スタミナが全回復するまで走ることも飛行も不可ですわ」
「分かりやすい仕様だね~」
「誰でも出来ないといけませんので。それより、広間も落ち着いてきているでしょうし行きましょうか」
「はーい」
私はフィーアの肩に座り、転落防止に髪の毛を持った。揺れは手で握られている時より大きいが、乗り心地は乗馬のような心地良さがある。それにいつでも飛んで離れられるというのは安心感がある。
塔に向けて移動中、フィーアが急に角を曲がった。
「ん~? フィーア、そっちは広間じゃないけど?」
「承知しております。まぁ見ていてくださいまし」
とのことなので、黙って行動を見守る。
フィーアは誰も来ないような細い路地まで来て、今にも落ちそうな武器屋の看板が掲げられた廃墟の中に入ると、そこは略奪でもされたかのような荒れた店内があった。
だが陳列棚には幾つかの武器が残されていた。
「これって……」
「ええ、ホープタウンをしっかりと探索したら、武器を手に入れられる隠し場所ですわ。数日に一度、この武器は再配置されますの。まぁ入り組んだ場所にありますし、誰も見つけられなかったみたいですけど」
なるほど。
この武器は序盤攻略のお助けアイテムであり、武器を無くしたプレイヤーへの救済措置か。
「防具もあるの~?」
「すぐ近くにありますわ。……これを貰っていきましょう」
フィーアが店内を物色して手にしたのは、円形の小型盾だ。
ちょっと飛んで盾にちょんと触れば、小さなウィンドウが出て『ラウンドシールド』と名前が表示された。
「なんで盾?」
「生存性重視のアピールですわ」
「あぁ~、妖精で戦力外の私を除けば単独行動だしね~」
「そういうことですわ」
早速左腕に装備したフィーアは、ドヤ顔で少し割れた鏡にポーズを取った。
「いかがかしら?」
「似合ってるよ~」
「くひひ、次は防具の調達ですわね」
武器屋を出て向かい側の廃墟に入る。中には幾つかの防具がボロボロの床に転がっていた。
「それで、どの防具にする~?」
「どうせすぐ着替えるので、これでいいですわ」
そう言って手に取ったのはフード付きの茶色いマント。触れて名前を確認すれば『防刃マント』と出た。
「防刃……」
「装備すれば斬る攻撃への耐性が多少上がりますわ。こういうマントの類は防具の上から追加で装備できるので、序盤でもしばらく使えますの」
「なるほど~」
解説助かる。
こういう情報がすぐ手に入るのは、黒幕やってる開発者と同行してる特権だな。
「では、行きますわよ」
「はーい」
バサリと勢いよくマントを羽織ったフィーアの肩に座り、この場を後にする。
大広間に着けば、相変わらずプレイヤーの数は多かった。でも思っていたよりも状況は落ち着いていて、広間の誰もいない場所にプレイヤーが次々と転移してきている。
中には既に初期武器や初期防具から卒業したプレイヤーもチラホラいた。
これなら注目されることは……
「……フィーア、なんか目立ってるね~」
多くのプレイヤーから視線を感じる。驚きや興味がほとんどだが、嫉妬や邪な感情が混じっているのがなんとなく分かる。
「見た目が美し過ぎるというのも考えものですわね」
「そうだね~」
「走りますわ。フードの中へ」
そう言って手でフィーアの首元に寄せられると、フードを被って走り始めた。
上手く人混みを避けて走るフィーアはそのまま境界の霧を抜け、深淵の第一階層に入った。
でもすぐには止まらず、土の道を外れて草原の上を走り続け、誰も近くに居ない場所まで来てようやく立ち止まった。
「ふぅ、ここまでくれば大丈夫ですわね」
一応、確認しておこう。
少し息の上がっているフィーアから離れて飛んだ俺は、ちょっと高度を上げて全周を確認。近くにプレイヤーは見当たらない。
「うん、大丈夫そうだよ~」
「ありがとう。それじゃあ、しばらくの活動方針を決めますわよ」
「活動方針?」
「デスゲームを仕掛けた側とはいえ、いちプレイヤーとして参加している以上は周りに合わせてレベリングや装備の調達、ダンジョンやイベントの攻略は必要不可欠ですわ。でないと周りに怪しまれますし」
「確かに~」
「それでですが、わたくしとアハトでパーティーを組んで、この第一階層でしばらくレベリングをしますわ」
この階層で?
「理由は~?」
聞けば、フィーアは指を一本立てた。
「まず第一に、わたくしは同僚であるゲームマスターたちと、今はまだ遭遇したくありません。恐らくですが、彼ら彼女らは見込みのあるプレイヤーを集めて真面目にゲーム攻略に乗り出すと思うので、しばらくは最前線に身を置きたくないのです」
まぁ妥当な理由だな。デスゲーム開始早々に正体がバレたら面白くない。
それに、最序盤は勢いだけで大体なんとかなるのがゲームのあるあるだし、見どころはなさそう。
二本目の指が立てられる。
「第二に、この階層……というより、全ての階層には幾つかの隠し要素があります。これはわたくしが仕込んだことで、ゲームマスターたちは一切知りません。その要素の紹介を兼ねて回収をします」
そんなの仕込んでたんだ。気になるな。
三本目の指が立てられる。
「第三に、レベルアップ時のステータス自動振り分けの調整と、基本的なスキルの習得をします」
「おぉ~ゲームをしてるって感じだね~」
「それでは、まずはスキルの習得から始めましょう。わたくしの指示に従ってくださいまし」
「はーい」
そうしてスキル習得が始まった。




