第5話 「仲間になりにきた」
なんだなんだ? なにが始まるんだ?
広場の端にいるから分かるが、他のプレイヤーが次々と転移してきている。俺も含めて期待半分、戸惑い半分で待機していると、広場の空に半透明な巨人が現れた。
恐らくホログラムだろうそいつは黒いローブを纏って全身を隠し、さらにフードを被っている。そういう処理をしているのか、フードの中は真っ黒になっていて顔が見えず、悠然と話し始めた。
あっ、これって……一昔前に大流行した、VRMMOを題材にしたラノベの冒頭じゃん!
全く同じ状況だからこの後の展開はお察しだ。
どうせ、死んだら終わりだから注意しろ、とか。
ゲームクリアするまで現実に戻れません、とかの宣言だろう。
話が終わればこの場が大混乱になるのは目に見えている。端っこにいるのは幸運だ。みんながこの黒幕の話を黙って聞いている間に、俺は広場から離れて――
なんか見えたな……。
後ろを振り返った直後、路地裏へと入っていく人影がチラリと見えた。
ので、他のプレイヤーに気付かれないように静かに素早く移動して追い掛けてみた。
確かこっちに――いたよ黒幕。
特徴が無い容姿の少女が路地裏の真ん中に立って背を向けている。その彼女はでかいウィンドウのモニターを複数出していて、幾つかの視点に分けて黒幕を映していたり、黒幕からの視点があったり、広場を映していたりした。
「フフフ……有名なラノベのデスゲームをリスペクトした甲斐があった。みんな黙って聞いてくれてる。これなら面白くなりそうだ」
機嫌がいいのか独り言の声が大きい。しかもこいつ、状況と言葉からどう考えても黒幕本人、或いはその関係者だ。
捕まえたり倒しても無意味だろうし、むしろこの場での接触は相手にとって想定外で物理的に消される危険がある。
だが、俺はこの時、魔が差してこう思った。
……現実に戻っても余命短い体だし、黒幕側に付くのもアリだな。
というわけで、俺は息を殺して足音を立てずにそっと近づき、推定黒幕の彼女に抱き着いて言った。
「黒幕かくほー」
「うわっ!? な、なんだお前っ!?」
「どーもー、プレイヤーネーム『ハブサン』でーす」
「プレイヤー!? くっ、折角あのラノベをリスペクトしてやったのに、どうしてこんな場所にいる!? というか振り回すなっ!」
軽いので振り回していたら怒られた。仕方ないので降ろしてやると彼女は振り返った。プンスコ怒っている。可愛い。
「で、お前はどうしてこんな場所にいる? 管理者権限で消してやる前に、冥途の土産として聞いてやる」
そう言って、モザイクの掛かった複雑なメニューを開いた彼女は、最終確認っぽい小さなウィンドウの前に右手の人差し指を置いた。
さて、上手くいくかな?
緊張して速くなる鼓動を抑えるように、ゆっくり深呼吸して言う。
「……仲間になりにきた」
「…………はぁっ!?」
当然の反応だ。だが面白いのでもう一度。
「仲間になりにきた」
「いや聞こえてるから。えっ、なにお前、ほんとに仲間になりたいの?」
「うん。現実に戻っても余命短いんで」
「ああー……そういう……病名は?」
「心不全」
「……嘘じゃなさそうだ。でも残念。生憎と仲間はいらない。正体が露見する可能性は極力避けたいんでね」
「自分、口は堅い方だよ。それに正体露見の可能性を考えるなら、裏切らない協力者と行動して演技に幅を持たせた方が結果的に低くなると思う。……あと、気楽に話し合える相手がいた方が楽しいだろう?」
「…………」
さぁどうだ? 思いついたままに反論してみたが……。
黒幕は小さなウィンドウを閉じた。
「……最後の言葉は効いたよ。確かにデスゲームをするうえで、ずっと孤独に演じ続けるのは疲れる。自分のやることに共感して、話し合える相手は欲しい」
「じゃあ――」
「そうだね。仲間として迎えよう」
よしっ! よしよしよしよし!
これは楽しくなりそうだッ!
「それはそれとして――」
と彼女が言った直後、ホログラムの方の黒幕の演説が終わったらしい。なにかヤバイことを言っていた気がするが、目の前のことに集中して聞いてなかった。
「全員、アバターをランダム編集でニューゲームだ」
「えっ」
目の前にいる彼女の体が光り始めた。俺の体も光り始め、ウィンドウに映る大勢のプレイヤーも光っていた。
視界が真っ白になると、体が分解されているのか感覚が無くなっていく。妙な浮遊感だけを感じてじっとしていると、やがて浮遊感は無くなり、体の感覚と視界が戻った。
ありとあらゆる物が……巨大になっていた。
……目がおかしいのかな?
目をこすってもう一度見てみる。
映る景色は変わらない。目の前にあるのは巨大な初期服のブーツだ。
周りを見れば建物が全て巨大になっている。
上を見れば、百メートル以上はある巨人が俺を見下ろしている。
巨人は長いストレートの黒髪に黒い瞳の超絶美少女だ。恐らく姿が変わった黒幕だろう。
それに、視界の左上の隅にある自分の名前が完全に文字化けしていて、レベルも1に戻っている。
「アハハ、君、AIに強者判定されたみたいだね。ほら」
ニヤついた笑みを浮かべる彼女はメニューを操作し、手鏡を出すとしゃがんで俺の前に置いてくれた。
「な……な……」
なにがどうしてこうなったっ!?
鏡に映る少女が驚きと困惑の混ざった表情をしている。動きから紛れもなく俺自身だ。
その俺は、一言でいうなら超絶美少女妖精になっていた。
身長は恐らく十五センチ程度。
背中には人間に存在しない、ガラスのように透明な羽――いや翅が四枚生えている。上が大きくて下が小さく、鋭く速そうな形をしている。
髪は鮮やかな白銀で、腰まで伸びていて非常に長く、触ればサラサラと手から滑り落ちる。
十代半ばから後半くらいの若々しい白磁のような色白の肌で、世にも珍しい銀の瞳をしている。そして、天使か女神かと錯覚しそうな整った美貌だ。
着ている服も初期服から変わっている。妖精らしさを強調するような、背中がぱっくり開いたファンタジーらしい白色の簡素なドレスで、サンダルみたいな靴を紐で脛に巻いて固定している。
その服の上からでも分かるが、黄金比としか思えない極上の肉体をしている。でかい胸は揉むと気持ち良くて、股間には何もなかった。
そして、腰に携えていた筈のショートソードも無い。この体の大きさならまず持てないので仕方ないが。
「それじゃあ、改めてこれからよろしくね? よ・う・せ・い、さん」
「……はは、お手柔らかに」
妖精を強調するように言った彼女は、伸びて来る手の大きさの迫力に一歩引いた俺を鷲掴みにした。




