第4話 『強制イベントを開始します』
ダンジョン『コボルドの森』に入って気の向くままに進んでいく。
最初の方は他のプレイヤーとたまたま同じ道を通っていたが、次第に同じ方向に進むプレイヤーの数は減り、気付けば俺一人になっていた。
おっ、ようやく敵と遭遇。
曲がり角から魔物が出てきた。二足歩行する茶色の毛深い犬って感じの魔物で、身長は一メートルもないくらい。五本指の右手には刃こぼれが目立つ古びた短剣が握られている。
そいつは鼻をクンクンと動かし、俺の方に向くと短剣を振り上げた状態で走ってきた。
…………こいつも遅い。
ゆっくりと鞘から剣を抜く余裕がある。油断はせずに剣を構え、相手の動きを観察。二メートル圏内に入って名前が判明。ファンタジーでは雑魚で馴染み深い『コボルド』だ。
コボルドは飛び掛かってくるわけでもなく、振り上げた状態の短剣をそのまま振り下ろしてきたので後ろに下がって回避。
隙だらけなので俺が剣を振り下ろせば、コボルドは避けられずに頭に剣がめり込み、大きな赤いダメージエフェクトを散らしながらHPが無くなって消滅した。
「よわっ!」
あまりにも弱過ぎる。まだ第一階層で、VR空間に体を慣らすという目的があったとしても、もうちょっと強くてもいいんじゃないかと思う。これじゃあアクションゲームや武道経験がないガチのゲーム初心者だって簡単に倒せてしまう。
「まぁいいか」
手に入れたのは10イェン。ゲーム内通貨だ。
剣を鞘に戻すのも面倒なので、そのままの状態で移動を再開。
すぐに次のコボルドに遭遇した。ただし、少し違いがある。さっき倒した奴は《《茶色》》で柄が無かった。だがこいつは《《白と黒の縞模様》》だ。
しかも、手に持っている武器が自身の身長より長い……人間からすると短い槍だ。
コボルドは俺を見つけると槍の先端を向けて真っ直ぐ走ってきた。
っ! さっきより速い!
人間が七割ぐらいの力で走るくらいの速度が出ている。
剣で槍を外側に受け流しつつ素早くコボルドの首を斬りつけながら斜め前に移動してすれ違う。
振り返れば姿勢を崩してゴロゴロ転がるコボルドが消滅したところだった。
……ふむ。
別種か突然変異かと思ったけど、名前は変わらずコボルドだった。
もしかして、コボルドは個体によって――いや、毛色や柄によってステータスや強さが異なるのか?
それを確定させるにはサンプルが足りないが、間違ってはいないだろう。
念頭に置きつつ移動を再開すれば、またすぐにコボルドと遭遇。
今度は真っ赤な毛色に黄色い斑点がある。両手にはそこそこの大きさの手斧が握られている。
コボルドは獰猛な叫び声を上げながらこっちに走ってきた。速さはそこそこで、手前になって驚異的な脚力で二メートル以上も跳ねて手斧が振り上げられる。
が、それだけだ。
空中じゃあ避けれねぇだろ!
心の中でツッコミを入れつつ斜め前に踏み出し、コボルドの腹を剣で突き刺し、素早く引き抜く。
バランスを崩して地面に落ちたコボルドはそのままHPがゼロになって消滅した。
「やっぱり……毛色とか柄によってステータスとか強さが異なるっぽいな」
移動を再開すれば、その後も次々とコボルドと遭遇した。結構な種類の毛色と柄の違うコボルドと戦い、そのどれもがステータスや強さに違いがあった。
まぁ、所詮はコボルドなのでノーダメージ討伐も余裕なのだが。
ついでにレベルも3から5になった。
「ん? この音は……」
金属……というよりも、鉄の武器がぶつかり合う音が聞こえる。音の大きさからして結構近い。
気になったので軽く走って向かってみれば、短剣を持ったちょっと強い純白のコボルド二体にエルフの少女プレイヤーが挟撃されていた。
少女は二体の攻撃をなんとか避けたり受け流しているが、動きが素人そのもの。その証拠に小さな切り傷の赤いダメージエフェクトが体に幾つかできている。このままではSTを使いきって隙を晒し、組み付かれてやられるか、HPを削りきられるだろう。あくまで可能性だが。
……まぁ、これもいい経験だろう。
頑張れ、見知らぬプレイヤー。
――あっ、目が合った。
「あの、すいません助けてください!」
あぁ、しかも助けを求められたよ。流石にこれで見捨てますは気分が良くない。悪役ロールプレイするなら、まさに愉悦ッ! な状況だけど……流石に助けるか。
仕方なく少女を助けに参戦。
一気に近づき、こっちに気を向けずに背中を見せている純白コボルドの頭を剣でかち割る。
背中を気にせずによくなった少女はもう一体の純白コボルドに正対し、攻撃を回避して――剣を構え直した。
攻撃しないんかいっ!
めんどうなのでそのコボルドも俺が一撃で倒した。めんどうなので!
……周囲に魔物の気配は無く、一旦剣を鞘に仕舞う。
「あ、ありがとうございます」
「別にいいよ。それより君、よくこんな所まで一人で来れたね」
ある意味凄いよ。
名前は……『アネモネ』? 花の名前か。中身女性かな?
「あはは……他のプレイヤーと一緒に行動してたら、いつの間にかはぐれちゃいまして」
他のプレイヤーと行動……
「もしかして、パーティー組んだりせず?」
「はい」
なにやってんだこいつ。
まぁいいや。
「それじゃあ、後は頑張れ」
「ええっ!? そこは“一緒に行こう”とか誘うところじゃないんですか!?」
「知らん。サービス開始初日に見ず知らずのガチ初心者をキャリーする気にはならんよ。こっちだってまだ手探りの状態なのに」
「……キャリーって?」
おぅ……そこから説明しないといけない初心者か。
「キャリーはゲーム用語で、経験者が初心者と一緒に行動して勝負に勝たせたり、難しいクエストを達成させる行為だよ」
「へー、じゃあキャリーしてください」
「だから嫌だよめんどくさい」
離れるように移動を始めれば、彼女は俺の後ろを勝手に付いてきた。
全く……もし何かあっても助けないからな。
――ん?
視界にノイズが走り、視界内にメッセージが表示された。
『第一階層ボスの討伐を確認』
『これより全プレイヤーを対象として』
『強制イベントを開始します』
強制イベント……!?
「あの、これ何が始まるんですか!?」
「知らんよ!」
体が突然光りだしたと思ったら、視界が真っ白になり始め、引っ張られる感覚が生じた。
これは……強制転移!?
待っていると視界が完全に白くなってどこかへ引っ張られ、視界が戻ったらホープタウンの広場に立っていた。




