第38話 「フィーア、これが終わったら祝勝パーティーをお願いします。有り金叩いて」
ボス部屋に全員が入れば扉が重い動きで勝手に閉まった。中はドーム状の巨大な空間で、床も壁も天井も硬い石のタイルで作られている。また、いつも通り光源が無いのに明るい。
全員が気を抜かずに待っていると、ボス戦用のBGMが鳴り始めて壁際にボスが召喚された。
さぁ、やろうか!
――って、ええええええええぇぇぇぇぇぇ!?
なんだこれ、ばっっっっかじゃねぇの!!
HPバーが無駄に長くて追加ゲージが五本もあるボス――距離に関係なく表示された名前は『ビッグツリーマン』。そいつはまさに巨人だった。普通の人間が脛に届くくらいの身長差で、足も腕も太くて長い。樹皮は皺が多く苔がこびりつき樹齢の長さを想像させ、ツリーマン特有の顔はお爺さんっぽい人相をしている。
まぁそれだけなら私は驚かない。巨人との戦いなんてアクションゲームでは定番だから。
で、驚いた理由はこのビッグツリーマン、《《三つ子》》だった。不幸中の幸いというべきか、三体は別々の方向に出現したので混戦になることはない。
だが……バカだ。すごいバカだ。ただでさえ強そうなボスなのに三体同時とか“加減しろバカ!”って言いたくなる。
フィーアを見れば苦笑していた。開発者としてもAIがこおまで盛っているのは流石に想定外らしい。
「これは……厳しい戦いになりますわね」
「フィーア、これが終わったら祝勝パーティーをお願いします。有り金叩いて」
「よろしくてよ」
ゲーム初心者なアネモネも流石にこれが異常な事態だと分かるようだ。
祝勝パーティーか……いいかも。
なんて思考は今すぐに振り払う。地母神の力を持ってしても、勝てるかどうか微妙なところだ。
「怯むなッ! 恐れるなッ! 我々には勝利の女神と、神の力を持つ二人が付いている! 行くぞおおおおっ!」
「おおおおおおっ!!」
デュークが檄を飛ばし、ギルドメンバーたちが鬨の声を上げて動き出した。前提が崩れた以上、作戦なんてへったくれもない。各々の判断で三体のうちの一体に攻撃を仕掛けていく。
私も動いた。誰よりも速くて強いからこそ、ここで活躍しておかないと終わった後のビックリドッキリネタばらしが成立しないから。
一番槍として、左側にいるビッグツリーマンの攻撃力を削ぐ為に腕の付け根に【ライダーキック】!
サイズ差補正無視の効果に加え、超強化された素手攻撃のスキルによる強烈な一撃によって着弾点からもげてダメージエフェクトが飛び散った。
HPバーがごっそりと削れ、追加HPがまるっと一つ消えた。
「もう一丁!」
【ライダーキック】!
折り返すようにもう一度スキルを繰り出して残った片腕を奪う。
よしっ!
これで他に任せられ――なにぃっ!?
もげた腕の根元から新しい腕がものの数秒で生えた。
……どうする?
再生している間には硬直して動きは無かったが、足元でギルドメンバーたちが攻撃しているが大したダメージを与えられていない。やはり私がやらないとダメだ。けれど胴体を一気に攻撃した場合、新たな魔物が出ると予想される。ビッグツリーマン自体の数が増えていることを考えると、潜んでいる奴の数がどれほどか分からない。
ん?
ふと別の場所を見れば、アネモネが真ん中の右側のビッグツリーマンに対して【ツリーグロウ】で絡め捕り、そのまま絞め殺していた。体中にダメージエフェクトの亀裂が入り、HPバーがゴリゴリと削れ、やがてゼロになると同時に砕け散った。
その瞬間、中から人並みに大きな純白のアリっぽい魔物が数十体現れ、地面に着地すると同時に襲い掛かり始めた。
アネモネ!
近場にいたギルドメンバーたちは数体倒しはしたが魔物の群れに飲み込まれ、光の粒子となって消え始めた。近くにはアネモネもいてタンク役の仲間の一人に守られているが、どう考えても対処できそうにない。
間に合え! 【ライダーキック】!
加速代わりにスキルを使って移動し、タンク役のどうでもいい誰かさんの前に出て白い蟻の魔物『シロリ』の顔面をグーパンチ!
耐久性は無いのか一撃で倒せた。
迫りくるシロリを殴って蹴って倒しつつ安否確認。
「無事だなアネモネ!」
「は、はい! 無事です」
「よし。私が対処するから下手に動くなよ」
「はい!」
「俺は!?」
「お前はどーでもいい。とにかくアネモネを守れ!」
「お、おう!」
大盾にメイスを持ち、全身甲冑にバケツヘルメットを被ったギルドメンバーの一人『ジャスティ』がシロリを攻撃した。一撃で倒せている。これならアネモネに傷一つ付けずに済みそうだ。
僅かに生まれた数秒の間に息を入れてスタミナを回復し……
一気に蹴散らす! 【ライダーキック】!
スキルで直線状に突き進んで一気に蹴散らし、すぐさま反転してまた【ライダーキック】。スタミナが切れる寸前まで何度か繰り返せばシロリは目に見えて数が減った。あとはスタミナ回復に努めつつ普通に殴って蹴って倒し、この場はなんとかなった。
だが落ち着いてはいられない。
真ん中のビッグツリーマンはフィーアとデュークがメインとなって回避とパリィでヘイトを稼いで被害を最小限に抑えつつ他が対処する為の時間を稼いでいる。
私が戦っていた左側は大勢のギルドメンバーが被害を出しつつも正面から戦ってHPを削っていた。
「【ツリーグロウ】!」
この距離から!? いいぞアネモネ。
私とそう変わらない位置から左側のビッグツリーマンに向けて魔法を発動し、足元から木が生えて絡め捕り完全に動きを封じた。
好機だと見るや、ギルドメンバーたちが攻勢に出てHPの削られ具合が加速する。
私も行かないと。
「ジャスティ、アネモネを頼む」
「言われなくても」
二人をその場に残し、私は急いで左側のビッグツリーマンへ向かった。
みんなはシロリを一度見てるし、これだけの人数がいるなら……いけるな。
「よし食らえ!」
スキル【錬気】によるオーラを拳に纏わせ、ビッグツリーマンの顔へ強烈な右ストレート!
たった一撃で残りのHPがゼロになり、数十体のシロリが出てくる。空中で何体かは倒したが、着地した瞬間にギルドメンバーたちの方へ向かい瞬く間に混戦となった。
……まぁ、これなら大丈夫か。
私も一緒になって戦うが、それでも何人かは光の粒子となって消えてしまった。けれどシロリの数は着実に減っているので、ボスの攻略は確定したと言っていいだろう。
さぁどうするフィーア?
五階層ごとに強力なボスが出るって話だったが、あんたの予想を超えた鬼畜仕様になってるぞ。
今ここで攻略に必要なギルドを潰すのはマズいんじゃないか?
……シロリの駆除が完了した。
残るはフィーアとデュークが主体となって相手をしている真ん中のビッグツリーマンのみ。
だがしかし、本番はここからだと言わんばかりにそのビッグツリーマンが初めての行動を取った。
怒っているかのように地団駄を踏み、赤いオーラを出し始める。同時にHPバーの上に一つのアイコンが付いた。怒りで真っ赤にした顔だ。恐らく『暴走』という特殊な状態異常なのだろう。
アネモネが【ツリーグロウ】を発動させるも暴走状態のビッグツリーマンは機敏な動きで回避し、攻撃したアネモネに視線を向けるとアスリートのような綺麗なフォームで走り出した。止められるプレイヤーはいない。私以外に!!
「させるかよっ!」
ありったけのオーラを右足に集中……圧縮……からの【ライダーキック】!
――っ、硬い!
横っ腹を蹴ったのに砕けなかった。だがビッグツリーマンは吹っ飛んで倒れ、大ダメージで追加HPが半分ほど消し飛んだ。
追撃だ!
こいつを自由にさせたらダメだ!
「うっ、く……」
体が重い……MP切れか! だが――
「ぬうぅ……!」
歯を食いしばれば問題ない!
それに、まだスタミナが残っている!
シロリは他の奴に任せて……【スーパーラッシュ】の時間だゴラァッ!
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!!」
よし、削り切った!
HPがゼロになって暴走状態のビッグツリーマンが粒子となって消え始めた。それと同時にシロリが中から数十体現れた。最後っ屁なのか、それともAIフライデーなりの慈悲なのか、暴走状態ではない。これなら多少の犠牲だけで済みそうだ。
……アネモネとジャスティはここで、他はこっちに走って来てて……大丈夫だな。
ふぅ、もう無理! 限界!
スタミナが尽きるギリギリだったから息も絶え絶えで疲労感も半端ないし汗びっしょりで体がめっちゃ重い。正直もう動きたくない!
けど、ここで動かないと疑われるから、スタミナがある程度回復したのを確認してから最後の気力を振り絞ってシロリを倒しに動いた。
――――結局、生き残っているメンバーが誰も死ぬこと無くシロリを駆除しきった。
フィーアとデュークがまともに攻撃出来ずに溜まった鬱憤を晴らすかのように、無双ゲームみたいな一騎当千の活躍をしたからだ。
BGMが止み、勝利を祝うSEが鳴って部屋の中央の空中に大きなメッセージが表示された。
『Congratulations!』




