第39話 「二人とも~さっさと帰って祝勝会するよ~」
大量の経験値が入ってレベルが一気に上がり、40に。
それとリザルトが表示された。
『以下のアイテムを手に入れました』
・スキルチケット×1
スキルチケット……使えばランダムでスキルが習得出来るんだろうな。多分。
それよりフィーア、黒幕……どうする?
ウィンドウを閉じてフィーアの傍まで移動し、黙って様子を窺う。アネモネも合流して来た。
周りは思った以上に静かで、リザルトの確認を終えた者がデュークとニケに視線を向けた。
誰もが二人からの言葉を待っている。勝利か哀悼か……どちらかは分からないが。
ニケがデュークの耳元で何かを言い、頷いたデュークが高らかに言った。
「諸君、犠牲が出てしまったこと、不徳の致すところであるが……今はこう言わせてほしい」
そこで一旦区切り、デュークは持っている剣を掲げた。
「諸君、我々の勝利だッ!!」
「おおおおおー!」
今だけは仲間の死を飲み込んで、勝ち鬨が上がった。
デュークは掲げていた剣を鞘に戻すと天を仰ぎながら目を瞑り、静かに佇んだ。その姿は黙祷のようであり、勝利という美酒の余韻に浸っているようにも見える。
鬨の声が止んだところでデュークは目を開け、続けて言った。
「……みんな、ご苦労だった。疲れただろうから今日はもうゆっくり休んでくれ。これからの事は、追って私かニケからギルドメールで連絡する。以上、解散!」
解散を告げられ、ギルドメンバーが各々動き始めた。さっさと帰る者、その場にしゃがみ込む者、泣き始める者、抱き合う者、祝勝会を話し合う者……等々。
既に絶好の裏切りタイミングからは逸しているが、ここを逃せば疑いを抱く生存者が出てしまう。
だから私は小声で聞いた。
「フィーア、どうする?」
「……はぁ、疲れましたわ。帰りましょう」
溜息を吐き、隅っこに展開された魔法陣に向かい出した。
ので、私は肩に座る。
黒幕……それがあんたの答えなら、従おう。
アネモネがフィーアの横に並んだ。こっちの顔色を窺ってきたが、何も言わず前を向いた。
まぁ、流石に今くらいは空気読むか。
「……祝勝会、後日でいいので何か買って帰りましょうよ」
前言撤回、やっぱ図々しいなこいつ。
「お好きにしなさいな」
フィーアも投げやりだし……そんなに疲れたのか?
それとも……この場では話せないことか?
分からないが、それはいつもの宿屋に帰ってから聞けばいいことだ。だから黙って帰路に就いた。
宿に到着し、部屋に入ってドアの鍵が閉められたところでフィーアが言った。
「ギルドの裏切り、暫く延期しますわ」
あぁ、やっぱり。
「予想はしてたけど、理由は~?」
「開発者であるわたくしの、想像の遥か斜め上を行く鬼畜難易度のせいですわ。一言で言って“クソゲー”ですわ! よくもまぁここまで馬鹿げた改変をしてくれやがって……ふざんけんな! ですわ」
素が漏れ出てるし、マジでキレてるな。
アネモネは帰りに買った串焼きを呑気に食ってるし。
「そういうわけで、正々堂々攻略してやることに決めましたの。ギルドを最大限に利用してね」
「そっか~……いやなんでそこで正々堂々? 嫌なら開発者権限で改変された部分を改変し直したり、チート使って終わらせればよくね?」
「確かにそれは可能ですけど、開発者として、一人のゲーマーとして挑戦状を突き返すみたいで嫌ですの。というより、ムカつくからちゃんとクリアしてドヤ顔を見せてやりたいんですの」
「あぁ~~」
それじゃあ仕方ないわ!
あのAIは嬉々としそうだけど、クソゲーや鬼畜ゲーをクリアした時の達成感は半端なものではない。ドヤァって自慢したくもなる。
「それに、人間がAIの作業速度に勝てると思います? 直した部分をまた改変されたら意味がありませんわ」
「……確かに」
それは盲点だった。人間がちまちまコードを書いてる間に、AIならシステム一式が出来上がってしまう。
改変合戦を始めても勝ち目は皆無だ。セキュリティの強化も無駄なんだろう。
――あっ、でもこれなら効くかも。
「ウイルスを仕込むのは?」
「くひひ、中々に狂気的な提案をしますのね。今のわたくしたちはデータとして存在していますわ。そこにウイルスが入り込めば……分かりますわよね?」
「あぁ……ごめん疲れてるわ」
ウイルスはやっぱりダメだ。良くて消滅、悪いとバグって想像もつかない事態になる。
「そうですわね。もう寝ましょう」
「うん、寝よう」
ということで、私たちはさっさとシャワーを浴びたり歯を磨いたりして寝た。本当に疲れていたのかベッドに入って数秒で眠りに落ちた。
――――次の日、私たちは第一階層に戻っていた。腹の空き具合からして昼時も近いが、我慢だ。もうすぐ目的地にたどり着く。
「着きましたわね」
「もうみんな集まってますね」
深淵の塔の入り口の反対側は、立派な柱や基礎部分だけが残る巨大な教会っぽい跡地の広場となっていた。
信仰対象が安置されていそうな数段高い場所にはモノリスみたいな黒くて分厚い石碑が鎮座していて、私たちが加入しているギルド『攻略前線』の生き残ったメンバーがその前で全員綺麗に並んだ状態で集まっていた。
私たちも最後尾に並ぶ。
すると、モノリスの傍に立っていたデュークが口を開いた。
「諸君、早朝のメールでの、急な呼び出しに応えてくれて感謝する。ただいまを持って、簡素ながらギルド内の追悼式を始める。我らがギルド長……勝利の女神ニケよりお言葉がある」
言い終わるとデュークの肩に座っていたニケが飛び、モノリスの前に来ると言った。
「第五階層ボス戦攻略……なんとかなった。まずはありがとう。そしてごめんなさい。レベルを上げて物理で殴れば勝てるだろうと思っていたけど……違った。慢心した」
手は握り拳に変わり、後悔しているのが見て取れる。
「……フィクサーは私の思った以上に狂っていた。私の記憶しているこのゲームの知識は、恐らく、次第に役に立たなくなっていく。これからが本当の戦いになる。だから……今ここでギルドを辞めてもらっても構わない。もう安全に、誰も死なない攻略なんて出来ない。多大な犠牲を払いながらも一歩一歩着実に進む方法しか、私には思いつかない」
むしろ思いつくだけ凄いと思うよ。流石はGM。
それにさぁ、どんなギルドに居ても、デスゲームに参加させられている以上は命の危険があるわけで……ほら、誰も動かない。
「……いいの? 私は道案内しか出来ない、か弱い妖精で神の名前を騙る偽物だよ?」
いいだろ別に。ゲームの中なんだし。ゲンを担いでるだけだし。
おっ、デューク……。
デュークが動き、わざわざニケの隣に立って言った。
「な? 言った通りだろう? 俺たちはそんなにヤワじゃない。ギルドの名前『攻略前線』の通り、覚悟を持って入って来てる。みんなそうだろう?」
「そうだ! 死ぬ覚悟はとっくに出来てる!」
「仲間が死んだ、だからどうした!」
「みんなを現実に帰す。その為にあんたに命を預けたんだ! 後悔はしていない」
「俺は……リアルじゃダメ人間だ。親の脛かじって生きてる中年デブのニートだ。だからゲームの中でくらい、主人公みたいに輝かせてくれよおっ!」
おい最後ジャスティン!
……生きて現実に戻れたら、親孝行しなよ。
「……うん……ありがとう」
あら泣いちゃった……感動的だな。拍手の一つでもしたくなる。やらないが。
「ほらニケ、死んだ仲間への追悼がまだだ」
「あぁ、そうだったね」
涙を拭ったニケはいい表情に変わった。
「みんな、これから死んだ者たちへ黙祷をする。意味の無いことかもしれないが、形だけでも合わせてほしい。でもその前に説明を一つ。この石碑は本来、死んだプレイヤーの復活地点だった。だが今は死んだプレイヤーたちの名前が刻まれている。今もなお、増えている。もし知り合いの安否が分からなくなったら確認に来るといい」
……あぁ、確かに名前が刻まれてるな。淡く光ってる。
けど、字ちっさ!
約十万人を刻むからか?
いや足りんな。後々石碑が増えそう。
「……さて、黙祷を始めよう。デューク、合図を頼む」
「分かった。それでは死んでいった仲間たちに哀悼の意を示し……黙祷」
ニケが私たちに背を向けて祈りのポーズをし、デュークの合図にプレイヤーたちはちょっと頭を下げた。
私はニケと同じ妖精なので、ニケの真似をして祈りのポーズだ。
ピコン!
『パッシブスキル【妖精の祈り】を習得しました』
おいシステム、空気読めよ。
習得したスキルの効果は、“死者への鎮魂となる”だけ。恐らくはアンデッド系のエネミーの復活を阻止するとかそんなんだろう。
「ん? なんだ!?」
ん? んん!?!
ニケが驚く声が聞こえて顔を上げれば……なんか、石碑の頭上に光りの粒子が集まり、丸っぽい形になると姿を現した。
それはシャボンのような物に包まれた妖精だった。
流石に気になったので黙祷を止めて飛んで近づけば、ニケも同じように近づいた。
「ニケ、これは~?」
「知らない……それにこの妖精、プレイヤーだ」
「……だね~」
多分、デスゲームの救済措置だろうな。妖精がいないとボス部屋に辿り着くのが難しいから……だが、妖精だけが蘇生出来るのは都合が良すぎる。どんなペナルティがある?
妖精の名前は『アイ』。肩に掛かるくらいの藍色の髪をした、端正な顔立ちで眉がキリッとしたイケメン女子だ。服装は初期服である妖精の服で、見るからにスレンダーな体型をしている。
シャボンがゆっくりと落下し始めていたので、二人で支えようとするとパチンと割れた。
おっ……と。
重力に従って落ちるかと思ったが、妖精はシャボンの落下速度を維持してゆっくりと落ち続けていたので、私がお姫様抱っこする。
そのまま一緒に降下して地面に寝かせると、ようやく目を覚ました。
「ん……ここは?」
「ここは第一階層。深淵の塔の入り口の裏手にある教会跡地だよ」
「……?」
あっ、分かってないなこれ。
「……あの、私をご存じですか?」
「えっ」
「あー……まさか……」
これが妖精のペナルティか……実質、死と同義だな。
「君、記憶喪失ってやつかな~?」
「……はい、多分。ここがどこで、私が誰なのか、サッパリ……」
「よし、ニケ任せた~。私は帰って祝勝会する」
「あっ、ちょっ!?」
めんどくさいことを押し付けられる前に飛んで離れ、二人の元に戻る。
「二人とも~さっさと帰って祝勝会するよ~」
「っ! そうですわね。さぁさぁアネモネ、さっさと帰って準備しましょう!」
「え? ……あぁはい。あの妖精さんは偉い人に任せちゃいましょう!」
アネモネの図々しい発言を聞いたギルドメンバーたちは、黙祷が終わったのをいいことにそそくさと帰り始めた。みんな面倒事を進んで引き受ける気など無いらしい。
ぐだぐだな式の終わり方だが、ずっと悲しんでるよりはいいだろう。
その後、私たちはいつもの宿屋で予定通り祝勝会を開いた。盛大に。
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幾年、幾月……どれほどの時間が経ったのだろう。月日を数えるのを止めたので分からないが、沢山の冒険があった。多大な犠牲があった。
だが、それらの経験は無駄ではなかった。
遂に第百階層に到達したのだから。
そして今、ボス部屋の扉が開かれて、最後の戦いが始まる……。




