第37話 「時間だ。みんな準備はいいか?」
「とりあえず皆さん回復しますねー。……【ヒールガーデン】」
メンバーの中心でアネモネが魔法を発動し、モンスターハウス内が一瞬にして花畑となる。強引に包囲を突破する際にダメージをいくらか負ったプレイヤーたちのHPが回復し、ダメージエフェクトが無くなったのを確認。
魔法が止まったところで、アネモネが囲まれた。
「お前凄いな!」
「いいスキルだ。今度、俺たちのパーティーと協同で動かないか?」
「あっ、ずるいぞ。俺たちのパーティーと協同してくれ。ギルド全体の補給線を担当してるから、美味い飯が食えるぞ」
「いいえ私たちのところがいいわ。むさい男よりも女性パーティーの方が安心するでしょ?」
「いや効率を考えると普通に最前線にいてもらう方がいいだろ」
「あ?」
「お?」
「なに? やるの……?」
「あわわわわ……フィーア、助けてください!」
一触即発になり始めたところで、呼ばれたフィーアはパンパンと手を叩いて大きな音を出した。自然とみんなの視線がそちらへ向く。
「はいはい、皆様そこまでですわ。アネモネが困っているでしょう。それ以上わたくしの大事な仲間を困らせるのなら……相手になりますわよ。アハトが」
「えっ」
そこで私に振るのかよっ!?
全員が私に注目している。ここでヘタレる絶対にめんどくさいことになる。
ので、私は右手をグーにして見せびらかしながら笑顔を見せた。
「……殴られたい人、いますか~?」
「…………」
全員、沈黙!
それどころか一部のメンバーが数歩下がって距離を取られた。まぁいいけど。
肩にニケを乗せたデュークが咳払いをして言った。
「とにかく、不運にもモンスターハウスに転送されてしまったが、全員無事でなによりだ。ここを出よう」
いつの間にか端っこに生えていた転送陣を通じて元の場所へ帰還。妖精専用スキル【ガイド】の効果は継続しているので、今以上に気を付けつつ移動を再開。
普通のツリーマンを蹴散らしながら進み、ボス部屋特有のでかい扉が見えた。
そこでは二人組のドワーフが壁に寄り掛かりながら座って休憩していた。というか、声が性別と一致していないあの男女のドワーフだ。
というわけで私は飛んでギルドメンバーから離れ、挨拶する。
「どうも~」
「おや君か。ぞろぞろとプレイヤーを引き連れているようだが……ボスに挑むのかね?」
おぉ、相変わらず女なのにダンディな声。
「そうだよ~。お二人はどうしてここに~?」
「休憩中だよ。ボス部屋前にはエネミーが近寄らないみたいでね」
「へぇ~」
それは初耳だ。デスゲームである以上、ボスに挑む時は落ち着いて考えられるようにする為の配慮だな。
あっ、そうだ。
「一緒にボス戦やる~?」
「フム……」
女ドワーフが男ドワーフの顔色を窺うと、ブンブンと顔を横に振った。
「嬉しい誘いだが、相方が遠慮したいそうだ」
「そっか~。無事にボスを攻略出来たらまた会おうね~」
「ハハ、そうだね。もしもう一度会えたら、お互い自己紹介でもして仲良くしよう。君もそれでいいかい?」
同意を求められた男ドワーフがコクコクと頷いた。
「では、お邪魔にならないよう私たちは移動させてもらうよ。また会おう」
「はいまた~」
二人を見送ったところでギルドメンバーたちが到着。私の隣にニケが来た。
「今の人たちは?」
「んー……運命の相手かもしれない人かな~」
「う、うん。そうなんだ」
「そうだよ~。ところで、突入前に何かすることはある~?」
「知ってるボスだから簡単な説明をする程度かな。まだ序盤だから大した魔法もアイテムも無いし」
「そっか~」
ボス部屋の正面に移動して見つめれば、扉の前にウィンドウが表示された。
ボス『ビッグツリーマン』
……以前戦ったボスのスライムのギミックを考えると、絶対何かあるだろうな。
案内という役目を終えたのでフィーアの肩に座り、しばしの休憩。その間に扉の前に立ったデューク――の頭の上に着地したニケが言った。
「みんな傾聴。今からこのボスについて軽く説明するよ。と言っても、ボスの行動パターンやギミックが大幅に変更されている可能性があるから、あくまで参考程度に留めておいてほしい。まず、第五階層ボスのビッグツリーマンは、名前の通りでかいツリーマンだよ。動きは単純で攻撃も単調……なんだけど、胴体が空洞で昆虫型の魔物『シロリ』が何体か住み着いてる、はず。だから孤立するような動きはせず、数人で動くこと。あと、前からギルドに入っていた人は知ってるだろうけど、ボスは侵入したプレイヤーの数が一定数を超えるごとに補正が働いてHPが増えたり行動速度が上がったりするから気を付けること。以上」
「というわけだ。少し休憩してから突入する。みんな、覚悟を決めておくように」
説明が終わり、デュークの言葉によってみんなは好きな姿勢で休憩を始めた。フィーアとアネモネも壁際に座り込み、インベントリ内に余っていた果物をおやつ代わりに食べ始める。私もちょっと分けてもらう。言葉はいらない。
そうして静かな休憩時間は過ぎていく。
時折他のプレイヤーがやって来るが、一つのギルドが集団で休憩している中でちょっかいを掛けたりボスに挑戦しようとする度胸のある輩はおらず、踵を返していくのが見えた。
……そろそろ動きたいな。
時間が経つにつれて休憩時間が暇に思うようになると同時、程よい緊張感が生まれて早くボスに挑みたくなった。ギルドメンバーの一部は私と同じ気持ちなのか、視線をしきりにニケとデュークに向けている。
そのニケとデュークは少し離れた場所で座って二人で過ごしている。なにやら親し気に話していたが、時間が来たのか気を引き締めた表情に変えて立ち上がり、再び扉の前に立った。
「時間だ。みんな準備はいいか?」
「あぁ」
「待ちくたびれた」
メンバーの一部が応え、私たち全員が扉の前に集まって整列する。まだ序盤だからか隊列とかは考えられていない。
これ、大丈夫?
デスゲームで、五階層ごとの強力なボス戦、なのに綿密な作戦はない。個々人の実力を信じていると言えば聞こえはいいが、そこには明らかな慢心がある。
不安だ……。
デュークが扉を開け、私たちはボス部屋へと入った。




