第36話 「……一分後、モンスターハウス送りの転送陣を通路に生成しますわ。合図はくしゃみ」
集会に使っていた店に移動。待機していると続々とギルドメンバーが入って来る。
周りが雑談でうるさくなり始めたところで、全員が揃ったのかデュークが口を開いた。
「みんな聞いてくれ!」
よく通るイケてるボイスによって静かになる。
「……急な呼び出しだがよく集まってくれた。事前に知らせているが、改めてここに宣言しよう。現時点をもって、我々は第五階層ボスへ挑戦するッ!」
ギルドメンバーの顔を見れば、ニヤリと笑う者、気を引き締める者とに分かれていた。弱腰の奴はいない。
「今一度、装備とアイテムを確認して準備し、明日の朝に広場に集合して出立とする。相談があれば俺とニケが応じよう。質問はあるか? …………無いなら以上だ。解散!」
ギルドメンバーがぞろぞろと店から出ていき、残されたのは私たちとデュークとニケだけ。
「そういうわけだ。お前たちの活躍に期待している」
「くひひ、お任せを」
二人が店を出るのを見送ったところで、私は言う。
「で、フィーア、いつ仕掛ける?」
「そうですわねー…………ダンジョンの道中で、違和感ない程度のモンスターハウスで小手調べしましょうか」
「いいね~」
「その中で突然の裏切りですね!」
「いえまだですわ」
「まだですか」
そりゃそうだよアネモネ。ボス戦前に裏切っても盛り上がらないだろ。
こういうのはボス戦中、ボスが意外と弱くてあっさり倒せると分かった段階で突如裏切るとか、辛くも勝利してみんなが安堵した瞬間に回復役をヤって裏切りの演説するのがいいんだ。
圧倒的に不利な状況を作り出してプレイヤーたちが必死になる様子を拝みつつ、完膚なきまでに叩き潰し、全滅させる。
そして、自分たちはなんとか生き残れたという体でボス部屋から脱出し、涙を流して暗い顔をしながら事情を求めたプレイヤーに説明。そのまま演技しつつ宿屋で数日引きこもる。
で、ほとぼりが冷めたところで攻略再開……完璧だ!
店を出て、念の為にHP回復用アイテムの『ヒールポーション』とMP回復用アイテム『マジックポーション』を幾つか購入し、いつもの宿屋で一泊――――
――――朝か……いよいよだな。
妖精用のドールハウスのベッドから起き上がり、ササッと手早く身嗜みを整えて出る。
「起きろ~! 朝だぞ~!」
声を張り上げながらまずはカーテンを勢いよく開いて外からの光を部屋に取り込み、続いて眠っている二人の布団を問答無用で引っぺがせば、全裸で寝ていた二人が実に女性らしい仕草で身じろぎした。
「んん……もう朝ですの?」
「ふぁ……おふぁようございまふ」
「はいおはよう! いよいよだから準備して」
「……元気ですわね」
「ですねー」
私のテンションと反比例している二人はのんびりとしたペースで支度を済ませ、朝食にドラゴンステーキを食べた。
店を出て道を歩けば、早朝ということもあり人はまばらで、大広間も全体が見渡せる程度には空いていた。その中でギルドメンバーたちがおおよそ集まっているのが見えた。
約三十人が合流し、最後のメンバーが寝癖を付いたまま慌ててやって来たところでデュークが口を開いた。
「全員集まったようなので、出発前に挨拶させてもらう。……みんなおはよう!」
おはよう! と、私たちも含めてみんなで挨拶を返す。
「これより我々は第五階層ボスの攻略へ向かう。厳しい戦いになるだろう……そこで、これより勝利の女神ニケより、やる気が出るお言葉を授けてもらう。というわけで、どうぞ!」
「いやどうぞじゃないって! 聞いてないよっ!?」
無茶ぶりされたニケはそう言いながらも高く飛び上がり、一度大きく溜息を吐いた後に数秒思案し……言った。
「えっと……まぁその、元男で悪いけど……もしボスに勝利出来たら、エッチな格好してあげる」
着ているメイド服のスカートをたくし上げ、見えるか見えないかの際どい状態で誘ってみせた。
そこまでするか……顔真っ赤だし、後で絶対悶絶するだろ。
あまりにも唐突な魅了に空気が凍り、しーんと静まり返った中でニケはそっと高度を下げ、デュークの肩に座ると恥ずかしさからか顔を覆った。止めとけば良かったのに。
そのデュークは若干頬を赤くしつつも、大きく咳払いをした。
「……まぁそのなんだ、無茶振りしてすまんかった。微妙な空気だが緊張したまま行くよりはマシだろうし、このまま出発しよう。アハト、ニケの代わりに案内頼む」
「あいよ~。【ガイド】、第五階層ボス部屋」
お願いされたので妖精専用スキルを発動し、私が先頭でギルドは動き始めた。私の後ろにはフィーアとアネモネが付き、その後ろに大多数が付いて来る。
……これなら仕掛けるタイミングが相談できるな。
ダンジョンに入ったところでフィーアの肩に座る。
「しばらく真っ直ぐだよ~」
そして小声で。
「いつ仕掛ける?」
「……三十秒後、モンスターハウス送りの転送陣を通路に生成しますわ。合図はくしゃみ」
「りょーかい」
すぐに飛び立つと不審に思われるのでそのまま案内を続ける。
――――そして時は来た。
フィーアが自然な風を装って可愛らしいくしゃみをした数秒後、集団の中ほどを起点として巨大な魔法陣が展開された。
「これは!?」
「まさか転送陣!?」
「戦闘用意!」
ギルドメンバーたちがすぐに反応し、指示されずともそれぞれ身構えた――
――転移した先は、壁のように細い木々で四方を囲われた空間だった。数十人が動くのに充分な広さがあるけれど、出口は見当たらない。
私たちが互いの死角を潰すように中央で円形に陣取っていると、魔物が次々と召喚された。
ツリーマンだ。が、見た目が明らかに違う。
こいつは……上位種か!?
二メートル以上離れているので名前はまだ確認出来ないが、ツリーマンの樹皮が黒く、また顔が怒ったような禍々しい形相をしている。しかも手足は薔薇のような棘が生えていて、頭の葉っぱも柊の葉のようにギザギザとなっている。とても強そうだ。
あと、生っている実が見るからに美味しそうな果実だ。
……気になるな。食べてみるか。
いの一番に動き、まずは名前を確認。『デビルツリーマン』というらしい。
普通のツリーマンよりずっと素早い腕の攻撃を回避してサクランボっぽい見た目の宝石のように透けた赤い果実をもぎ取り、上空に移動。
「それじゃあいただきます」
もぐもぐ……おぉ、みずみずしいサクランボだ! シャクシャクしてて噛めば噛むほどに味が出る。美味ッ!
「――っと、サボってたら文句言われるな」
下ではギルドメンバーが上手く連携しながら戦っていた。盾を持ったタンク役が前に出て壁を作り、隙間から長物を持ったプレイヤーや弓矢を装備したプレイヤーが攻撃。
さらにデビルツリーマンの間を掻い潜ってかく乱と挟撃を狙う者が数人。その中にはデュークもいた。しかも全員ノーダメージ。見事だ。
フィーアは一人で前に出て全ての攻撃を回避とパリィからのカウンターを決めて包囲網を崩しに掛かっていて、アネモネはフィーアを援護するように近くのデビルツリーマンを【ツリーグロウ】で一体ずつ確実に仕留めていた。
そして中心では、少し高い位置にいるニケが状況を俯瞰しながら声を張り上げてあっちこっちへ指示を飛ばしている。
「タンクはそのまま維持! 射手と槍持ちも同様! ……包囲が崩れた。待機していた者はフィーアに続いて突破! 逆包囲に掛かって!」
いい指揮だ。私も貢献しないとな。
食べ掛けの果物を捨てて降下し、頑張って耐えてるタンクを少しでも楽にさせてやるべく初手【ライダーキック】! 一直線上に並んでいた数体を貫いて倒した。
あとはもう押せ押せムーブの流れに乗っててきとーに殴って蹴って戦い、デビルツリーマンを全滅させた。
やっぱり強いな、攻略前線……。




