第33話 「うわーそれは嫌ですね。奴隷を作れるってことじゃないですか」
パッシブスキル【錬気】に慣れることを兼ねて研究を重ねた結果、三つのことが分かった。
一つ目、オーラは変幻自在に形を変えらえる。
手を猛獣の前のようなオーラで覆ったり、細く伸ばして鎌のようにしたり、さらに伸ばしてしなやかさを取り入れて鞭のようにしたり……。
ただ、形状が複雑なほど維持が難しく、少しでも意識を逸らすと忽ちに消えてしまう。実用性を考えるなら細部にこだわるのは無駄だ。
二つ目、オーラは念じることで性質が変化する。
癒すことを考えながらオーラを使えば、さっきのフィーアみたいにHP回復効果を付与できる。逆に敵を倒すという意識で使えば威力が上がった。熱い思いなら炎属性が付与され、冷たい氷を思い浮かべれば氷属性が付与された。
ただし、この性質の変化はMPの消耗が激しい。
三つ目、オーラは素手専用スキルと同時使用可能だ。ツリーマンでその威力を試してみたけど、元からオーバーキル気味だったせいかどれだけ強力になったかは分からなかった。
四つ目、呼吸の仕方によってオーラが活性化することが分かった。どういう原理と理屈なのかは全く分からないが、深く長くゆっくり吸って吐いたりするだけで活性化し、暫く持続する。頭が冴えて感覚も鋭くなるのでやり得だ。“オーラの呼吸”と名付けた。
今はオーラの操作をより速く精密にする為、オーラの呼吸を続けながらアネモネの隣で瞑想中だ。まぁアネモネはよだれ垂らして幸せそうな顔でずっと寝ているが……
――むっ、誰か来たな。
感覚が鋭くなったせいか見えていないのに気配が感じられた。
少し待てば通路の方から五人組のプレイヤーがやってきた。全員人間の男で、山賊みたいな毛皮付きの防具を身に着け、ラウンドシールドと取り回しのいい手斧を持っている。
なんだろうこいつら……みんな笑ってる。怪しいというか、ケダモノ?
フィーアが剣を構え警戒しながら男たちの前に立つと、男たちは名前が表示されない距離を保って足を止め、二メートルはあろうかという巨漢が一歩前に出て言った。
「こんにちは、麗しい美少女よ。こんな所で休憩中かな? それとも……ダンジョンから出られず立ち往生しているのかな?」
「前者ですわ。それと心配ご無用でしてよ。わたくしたち、強いので」
「ほぅ、強いのか。それはそうと、俺たちのギルド『スマイル商会』に入らないか? 見ての通りむさ苦しい男ばかりで組んじまって、華が欲しいと思っていたんだ。勿論、道案内役の妖精も一緒にどうだ? こう見えて俺たち、絶賛迷子中でな。ハハハ……」
「嬉しいお誘いですけどお断りしますわ。わたくしたち、既に別のギルドに加入してますので」
「……そうか。そいつは残念だ」
控えていた四人がおもむろに動き出した。散開してフィーアを囲むような位置で止まり、武器を構えた。
「……なんの真似ですの?」
「今すぐに俺たちに従うなら仲間として扱ってやる。だがそうでないなら、痛めつけて拘束し奴隷として扱う。こんな風にな!」
巨漢が盾の内側を見せた。小さなランタンのような籠が吊り下げられていて、その中には妖精が一人、揺れに耐えるように柵にしがみついていた。痛めつけられたのか表情が暗い。
うわっ、マジかこいつら!
こんな序盤でそんなあくどいことをするなんて……なんてバカなんだ。慈悲も同情も無く気楽にヤれる!
ああくそっ、今からフィーアの隣に移動して一緒に戦おうとするのは雰囲気を壊すし、ダメだな。
「……くひひひひ。もしやと思ったら、とんだ悪人集団ですのね」
「っ、何がおかしい!?」
笑うフィーアに男たちが“えっ、こいつヤバくね?”みたいな感じに互いの顔を見て動揺を始めた。
「これが笑わずにいられませんわ。あなたたちは仕掛ける相手を間違えましたの。ここは袋小路、そして近くに他のプレイヤーはいない。助けなんて来ません。ここでわたくしに殺されて、冒険は終わりですわ」
「それはこっちのセリフだっ! やれ!」
男たちが動き出し手斧が次々に振り上げられたが、フィーアは一切動じない。まるで後ろにも目が付いているかのように背後の男――最初に攻撃が来る奴をノールックで喉を一突き。そこから手首をスナップさせて素早く持ち上げ、頭部を切断してあっさり殺した。
続いて左右から同時に仕掛けた二人の手斧を盾と剣でパリィし、まるで加速したかのような動きで素早く二人の首を斬って殺した。
四人目の振り下ろし攻撃は最小限の動きで回避。流れるように盾で顔を殴って怯ませ、隙だらけになったところで皮鎧を貫いて腹に剣を深く突き刺し、まるで紙でも切るかのようにスーッと上へ引き上げて大量のダメージエフェクトを散らしながら殺した。
ヤバいなアシスト……私でも無策じゃ勝てないかも。
「くひひ、残りはあなただけですわよ」
「くっ、なんなんだお前は……化け物め!」
あ逃げた。
男は立ち向かうどころか背を見せて全力で走り出した。が、通路に入ろうとしたところで見えない壁に激突して倒れた。
「……あら?」
あらら……気絶したか。
フィーアはゆっくりと近づき、剣でツンツンして起きないことを確認すると、そのまま頭に足を置いて一息に踏み潰した。
ぐしゃっと赤いダメージエフェクトが飛び散り、頭を失くした男の体は粒子となって消えた。
残されたのは籠に囚われたままの妖精一人。わたしたちを警戒しているのか、助けられたのにお礼の一つも言わない。
籠を拾ったフィーアは私たちの所まで来て、アネモネの肩を揺すった。
「起きなさいアネモネ」
「――ハッ、寝てませんよ!?」
いや寝てただろ。
起こしたフィーアは気にせず、妖精が入った籠を私たちの目の前に置き、対面に座り込んだ。
「さて、アハト、アネモネ、二人にこのゲームの仕様を一つお知らせいたしますわ」
「仕様? この憐れで可哀想な可愛い妖精さんが関わることですか?」
寝起きにしては酷い言い草だな。
「えぇ、関わりますわ。実は全てのプレイヤーはこうして囚われて脱出不可能とシステムが判定すると、アイテム化してしまうのでしてよ」
アイテム化だと!? ……そういえば、この妖精の名前がこの距離なのに表示されていない。
「……つまり?」
「つまり、所持者となったプレイヤーの命令に絶対服従するようになりますの。まぁ感情や心までは操れませんけど」
「うわーそれは嫌ですね。奴隷を作れるってことじゃないですか」
「その通りでしてよ。この妖精はおおかた、“求められた時以外は口答えするな”、“檻の中で余計な動きをするな”とでも命令されているのでしょう」
だろうな。目と表情は動いてるのにずっと黙っているし、ほぼ動かないし。
「それともう一つ、アイテム化した妖精に限りますけど、インベントリに仕舞うことが可能ですわ」
うわ、人として凄い尊厳破壊だな。
でもちょっと気になる。
ので、手を上げる。
「フィーアしつも~ん」
「はいどうぞ」
「インベントリに仕舞われたら、肉体や意識はどうなるの~?」
「試したことはないですけど、肉体は粒子データ化され、意識がプツッと途切れて無くなると思いますわ。ただ、アイテムの詳細を開けば意識だけ一時的に戻すことができるかと」
「もし所持者が死んだらどうなるの~?」
「インベントリから吐き出されますわ。誰かに拾われなかったらそのままですわね」
そのまま……?
「それ餓死しない?」
「しませんわ。アイテム化したプレイヤーは一時的に空腹によって死亡はしません。まぁ飢餓感はそのままなので、死ぬほどきついでしょうけど」
さらっと空腹で死ぬと言ったな。
「そういうわけですので、くれぐれも他のプレイヤーに囚われないよう注意してくださいまし。特にアネモネは」
「アッハイ」
フィーアが籠に触れ、中の妖精ごとインベントリに仕舞った。




