第30話 「食事中に失礼、私たちもここで休憩していいかね?」
ダンジョン内に出現していた休憩所で一休みすることになり、小屋の中に入る。中は1DKの質素な造りながら生活が出来る一通りの物が揃っていて、アネモネと一緒にキッチンにある冷蔵庫を覗いたら食料がたんまり入っていた。どれも入手したことのある食材だが。
「美味しそうですね」
「だね~。料理出来る?」
「いえ、私は殆ど病院で過ごしていたので……フィーア、料理出来ますか?」
「人並み程度には」
「では早速調理をお願いします。ステーキが食べたいです」
「……まぁよろしいですわ。ならその間、外に出て防衛をお願いします。休憩所はエネミーを引き寄せる性質がありますので、誰かが見張りをするか休憩に使えるアイテムが無いと危険ですわ」
「うわ、酷いトラップだね~」
「ですね。性格悪いですよ」
「開発者としてはむしろ誉め言葉ですわ。ほら、さっさと外に出て守りなさいな」
「はーい」
「はーい」
促されたので外に出れば、早速ツリーマンが通路からやって来ていた。三体も。
……ツリーマン同士の間隔が狭いし、魔法ならまとめてやれるか?
「アネモネ、今なら魔法で一気に倒せそうだけど、どう?」
「ごめんなさい無理です。【ツリーグロウ】は対象が一体なので」
「あっそう。なら最初に一体おねが~い」
「はい。……【ツリーグロウ】!」
僅か三秒でチャージが完了して魔法が発動。先頭のツリーマンは地面から生えた木に絡め捕られ、締め付けられて倒された。
それを見届けた私はツリーマンが前後に重なる位置に移動してから近づく。そして攻撃範囲の手前から急加速し、日曜朝に放送されるヒーローの真似でライダーキック!
ツリーマンを二枚貫きでへし折って倒した。
「今のってライダーキックですよね!? カッコよかったです!」
っ、分かるのか!?
「……ライダー好きなの?」
「はい! 病院のベッドにいることが多かったので、少ない楽しみの一つだったんですよ。あっ、勿論女児向けの方も好きですよ」
「そっか」
明るく言ってるけどさぁ、ベッドの上で視聴してるシーンを想像しただけでお労しいって。
――ん? また来た。
通路の方からツリーマンが二体。
「アネモネ」
「はーい。……【ツリーグロウ】」
一体を魔法で倒したので残り一体は私が殴って倒す。これで落ち着けるかと思いきや、通路の奥からまたもやツリーマンがやって来ているのが見えた。
「……ちょっと引き寄せ効果強過ぎじゃないかな~」
「ですねー。これでは休憩出来ません」
後でフィーアに修正するよう言っておこう。今は倒すことに集中だ。
魔法と拳でさっさと倒し、少し休憩。一分ほどでまたまたまたツリーマンが来たので倒す。
それを繰り返すこと十数回……守っている小屋のドアが開いた。
「お待たせしましたわ。食事の時間でしてよ」
「やっとか~」
「ですねー」
正直言って疲れた。精神的に。
「フィーア、一ついい?」
「えぇ」
「魔物が来る頻度が異常に高い気がするんだけど、気のせい?」
「……少々お待ちを」
聞いてみるとフィーアは管理者用のメニューを開いて調べ始めた。
そして数秒経ってメニューを閉じた。
「結論から申し上げますと、AIに数値を弄られた痕跡は見当たりませんでしたわ。つまり仕様通りですわ」
「そっか~~……今すぐ魔物が来る頻度を下げろ黒幕。休憩所の定義が壊れるくらいにもう何度も戦ってるんだよ」
「二人とも、また来ましたよ」
ほらぁ、まただっ!
今度は五体もツリーマンがやって来ていた。
うんざりしつつも身構え、アネモネの【ツリーグロウ】に合わせて接近しツリーマンを倒す。
戻ってフィーアの顔の前で止まり、笑顔と拳を向ける。
「そーいうわけで~……黒幕、修正よろしく~」
「……はい」
脅しが聞いたようで、フィーアはすぐに休憩所に引き寄せられる魔物の頻度を下げてくれた。ご丁寧にプレイヤーの全員に向けてお知らせまで出した。こういうところは開発者らしい。
これでようやく落ち着いて食事ができる。念の為に外で通路を見ながら食べていると、魔物ではなくプレイヤーが二人やって来た。
身長が百センチほどのモジャモジャ髭のおっさんドワーフと、同じくらいの身長の幼女っぽい見た目のドワーフだ。二人とも鋼鉄の鎧を装備し、頭にはバイキングみたいな二本角の兜を被っている。
でも武器は違う。男は両手斧を、女はでかいハンマーを持っている。
夫婦か? 或いは兄弟……なわけないか。
それよりも斬撃と打撃で攻撃の属性を変えているのはちゃんと考えているな。あとはタンクと斥候、魔法使いがいればいいパーティーになる。
……あれ? これ私たちのパーティーがほぼ合致してね?
まだ距離があるし、今のうちに聞いておこう。
「フィーア、もしパーティーに加わるお誘いが来たらどうする~?」
「面倒ですし、罠に誘い込んで死んでもらいますわ」
おっ、やるのか。楽しみだなぁ。
プレイヤー二人が名前が表示されない三メートルほどの位置で足を止め、女ドワーフが口を開いた。
「食事中に失礼、私たちもここで休憩していいかね?」
声ええええぇぇっ!?
女ドワーフなのに、声がものすっっごいダンディだった。まるで男性声優がナイスミドルな役をしているようだ。見た目とのギャップのせいで違和感がヤバい。まぁ口調から中身男だと分かりやすくていいけど。
フィーア、どうす――うんまぁ、そういう反応をするなって方が難しいわな!
振り向いたらフィーアがそっぽを向きながら体を震わせて笑いを堪えていた。アネモネは初めて見た現象らしく、ぽかんと口を開けていた。
仕方ないので私が応答する。
「休憩してもいいけど~、一つ質問いい?」
「うむ、どんな質問が来るか予想は付いているが、どうぞ」
「じゃあ遠慮なく~……その声、何がどうしてそうなったの?」
「やはりその質問か。特に面白くもない話だが、フィクサーが我々プレイヤーの姿を変えた《《あの日》》、私はこの姿と声になったのだよ」
「へぇ~」
やっぱりな。
「追加で質問。その外見と違う性別の声って、他のプレイヤーにも起こっていたり?」
「調査をしたわけではないのでどれくらいのプレイヤーがそうなっているのかは分からないが、少なくとも隣の彼も私と同じ状態だ。ただ、彼の声は、それはもうキャピキャピした愛らしい少女の声をしている。恥ずかしくて普段は黙っているようにしているから、揶揄わないでやってほしい」
隣のドワーフ男がうんうんと力強く頷いてみせた。両手斧を持つ手が力強く握りしめられたのを私は見逃さない。
……うん、そっとしておこう。
「質問に答えてくれてありがと~。小屋は使いたかったら使って。ただし、お互いの為に距離は取ろうか~」
「うむ、そうさせてもらおう。お互いの為に、ね」
二人は横へ動き、壁に背を預けて座って休憩を始めた。
……これは殺さなくていいな。面白い二人組だし、どこまで生き延びられるか見ものだ。




