第2話 「む、一撃……急所だったか?」
ここは――おぉっ!
引っ張られる感覚が無くなり、地に足が着いて真っ白な視界が戻ったら……そこは『ホープタウン』と呼ばれる最初の街の広場だった。
PVで紹介された廃墟同然のファンタジーな街並みが拝めるはずだが、右を見ても左を見ても人ヒトひと……プレイヤーだらけだ。種族こそエルフやドワーフやリザードマン、ビーストなど様々だが、オンラインゲームのサービス開始直後の定番風景として、俺も含めて全員が同じ初期服を着ている。
そして、視界の左上の隅にゲームらしいプレイヤーネームとLv.1という文字があり、その下にHPとSTバーが貼り付いていて、半径二メートル以内で視界の正面に捉えたプレイヤーの頭上に名前が表示された。
そうそう、これこれ……この雰囲気がいいんだ。
頬が緩むのを気を引き締めて戻し、人とぶつからないようにしながら移動する。
確か、あの塔が深淵への入り口だったはず。
街の中心にある、先端が見えないほどに高くて巨大な黒い塔を目指して進み、その真下に到着。大勢のプレイヤーが塔の側面にある巨大な門をくぐって中に入っていく。残念ながら中は見えない。
門は『境界の霧』というもので遮られているからだ。この霧は人を通すが、手元から離れた物や魔物を通さないらしい。
他プレイヤーと一緒に境界の霧をくぐって門を通り抜ける。
「おぉー……」
凄い……まさにファンタジーだ。
門の先は、絵で見るような広大な草原だった。
空には太陽があり、日差しと微風がとても暖かい。
地面は高さ数センチの芝生が広がり、ところどころに赤い実の生っている木が立ち、岩が転がり、豚っぽいピンク色の魔物が点々と存在してのんびり闊歩している。既にプレイヤーたちが戦いを挑んでいるのが見える。
足元は土の道となっていて、それはずっと先にある低めの丘の向こう側まで伸びている。
視界の隅に『第一階層:穏やか草原』と表示された。
これが全部、リアルじゃなくてゲームなのか。凄いな!
道から外れてちょっと走ってみれば、風を感じ、草の匂いがする。
「……ハハ、スタミナは減っていくけど、息が上がらない! それに、力強く踏みしめても、骨が軋まない! 関節が痛まない! 素晴らしいっ!」
立ち止まってみればすぐにSTが回復し、満タンになる。
「それで――」
剣を鞘から出して数回振れば、一振りごとにSTが少しずつ消費された。振っている間はSTが回復せず、素振りが終わった一秒ほど後に回復した。
今度はバックステップをしたり、ステップで前進したり床が柔らかいから飛び込み前転をしてみれば、STが少し消費された。
「攻撃にも回避行動にもスタミナを使うと。しかも行動中はスタミナ回復が止まる……よくあるシステムだけど、自分の体でやるのは新鮮だな。まぁ……とりあえず戦ってみるか」
近くにいる豚っぽいピンク色の魔物に振り向く。人と同じ大きさだ。
でかい! けど、ゲームだから怖くないっ!
魔物に向かって走り出し、無反応でのんきに草を食っているそいつの――『ピブ』という名前の魔物の横腹に剣を突き刺す。
赤いダメージエフェクトが少し出て、ピブの頭上に出たHPバーが一気に減って無くなった。
ピブは悲鳴を上げながら光の粒子となって消滅した。
「む、一撃……急所だったか?」
近くにいるピブにもう一度攻撃してみる。今度は弱点ではないだろうお尻を斬った。赤いダメージエフェクトが少し出て、赤いエフェクトの傷跡が残る。HPバーが三割ほど削れた。
「ふむ、やっぱり攻撃する箇所によってダメージは違うか」
攻撃を受けたピブがこちらに振り向くと、前足を掻いて明らかな攻撃の意思を見せ始めた。
バックステップで少し離れて観察すれば、ピブーッ! と可愛い怒り声を上げながら俺に向かって突進を開始した。
……おっそい!
どったどったどったどった……そんな擬音が似合いそうな脚の回転速度で、人間がマラソンで走る程度の速さしか出ていない。
タイミングを合わせて真横にひょいと避けつつ剣を振るって流し斬り。胴体をズバッと斬られたピブは、通り過ぎる頃にはHPバーが無くなって光の粒子になった。
「おっ、なんだ?」
戦いが終わった直後、小さなメッセージウィンドウが目の前に現れた。いわゆるリザルトだ。
『以下のアイテムを手に入れました』
・ピブの肉×1
「肉……」
メッセージに触れてみると、手に入れたアイテムの詳細を表示できるみたいなので、表示してみた。
新たなウィンドウとして表示された詳細を流し読み。
ピブの肉
食べると空腹度が回復する。
ただし、適切な調理をせず食べると体調を崩す。
味は普通。
「……なるほど。要するに食材か。空腹度がどこにも表示されてないけど……まさか腹具合か?」
その可能性は高い。
そして空腹度が限界に達した時……恐らく無視できないレベルのデメリットが生じるだろうことが容易に想像がつく。
「これは早めに食料を確保しておかないとな」
周りを見れば、既に木に生っている赤い実を採集しているプレイヤーがチラホラいた。恐らく俺と同じようにピブの肉を調べて食料の重要性に気付いたのだろう。
俺もうかうかしていられない。彼ら彼女らと同じように木の実の採集を始めた。
で、木に登って手に入れた赤い実は『アカマルの実』というらしい。赤くて丸いし、どう考えてもリンゴだ。
食べてみたら、薄味だがほぼほぼリンゴだった。
手に入れたアカマルの実を思考による操作でデータ化してインベントリに仕舞う。動作も必要無く、思うだけで出来るから便利だ。
あとは採れるだけ採る。
「さて……あっち行ってみよう」
ある程度の食料が確保できたので、他の人と同じ……土の道に沿って進んでみる。ついでに他の人の邪魔にならないようにしながら、道中のピブを狩っていく。
「おっ、レベル上がった」
祝福するような軽快な効果音が短く流れ、同時にメッセージが表示された。
『レベルが1→2に上がりました』
「……えっ、それだけ?」
メッセージに続きが無い。数秒で消えた。
ステータスのどれが上がったとか、ポイントの割り振りがどうとかいう話が無い。
仕方なくメニューからステータスを確認しようとして――手が止まる。
「マジか……」
メニューにステータスが無いなんて、流石にちょっと不親切すぎるだろ!
ヘルプはあったので開いて調べてみたら……ステータスに関する情報が載っていた。
ステータスはHP、ST、筋力、防御力、素早さの五項目となっているが、どうやらステータスそのものがマスクデータとなっているっぽい。しかもプレイヤー自身の特定の行動で経験値が溜まり、レベルアップ時のステータスポイントの割り振りが勝手に決まるらしい。
参考例として、限界まで走り回ればSTが、回復を繰り返せばHPが、筋トレすれば筋力が伸びるらしい。
因みに魔物を倒しまくってレベル上げした場合、バランスよく伸びるようになっている。
それと、特定の条件を満たせば確率でスキルを習得出来るんだとか。
「これは……早めに自分の戦い方の方向性を決めないとな」
でないと、取り返しのつかないことになる。
回避盾を目指したいのに、防御とHPばかり上がってガチタンクにしか適性がありませんとか、そうなったらおしまいだ。




