第27話 「――最後にもう一度問う! 勇気ある者、或いは、実力ある者はGMが一人、ここにいる妖精『ニケ』の下へ集え! 我らがギルド『攻略前線』で共にゲームクリアを目指し、リアルに帰ろうではないか!」
――……朝か。
綺麗なベッドから起き上がって伸びをしながらカーテンを開ければ、カーテンが閉じた宿屋の部屋が見える。
欠伸をしながら移動して顔を洗い、トイレを済ませ、身嗜みを整えて妖精用のドールハウスを出る。
翅を光らせながら飛んでカーテンを開ければ、朝の眩しい日差しが部屋を明るくしてくれる。
ベッドを見る。ぽっこり膨らんだ布団から二人の頭が出ていて、すぅすぅと寝息を立てている。
そういえば、一緒の部屋にしたんだった。
確かフィーアが「序盤のお金は大事ですわ」とか言ってこうなったんだ。お嬢様ロールプレイしてるくせにみみっちいな。
「さて、起こすか。起きろ~おぉっ!?」
布団を剥いだら、二人が生まれたままの姿で抱き合うように寝ていた。フィーアが裸族なのは知ってるけど、まさかアネモネまで全裸だとは……衝撃だ。
「とにかく、起きろー!!」
「んん……もう朝ですの?」
声を張り上げれば、フィーアが起きてくれた。まだ眠いのか目をこすっている。
「朝だよ~。ほらフィーア、アネモネを起こして服を着て~」
「……あぁ、はいはい。ほら起きなさい、朝ですわよ」
ゆさゆさとアネモネが揺らされる。
「うー……もう朝?」
「えぇ、おはようございます。昨夜はお楽しみでしたね」
お楽しみしたの!?
全く気付かなかった……。
「え……あぁ、そうですね?」
あっ、この反応はやっていないし分かってないな。有名なミームなのに。
「……準備をしたらすぐに朝食を摂りますわよ」
「っ! すぐ準備します」
飯に反応してベッドから飛び出たアネモネがトイレに駆け込んだ。
しばらく時間が掛かるだろうから、その間はのんびりさせてもらおう。
……それなりに準備に時間が掛かって、ようやく朝食。昨日の夜のうちにフォレストドラゴンの肉を含めて持ってる食材といらない素材を宿屋に提供及び売却したからか、出された料理は豪華だった。
「どうぞ、『ドラゴンステーキ』と具沢山スープ、それとパンです」
どでかい骨付き肉と添え物の野菜、野菜がどっさりと入ったスープ、パンという構成。私には細かく刻まれたそれらが妖精用のお皿に載っている。
朝食にしてはかなり重いが、まぁゲームの中だし、肉体的には若いから大丈夫だろう。
全員揃って「いただきます」をして食べ始める。まずはメインのドラゴンの肉から――パクリ。
……食べたことのない肉の味だけど、凄く美味しい。ちょっと硬いけど。
「店主さん、ステーキ美味しいですね! おかわりください」
「分かりました。焼いてくるので他のものを食べながらお待ちください」
どうやらアネモネは気に入ったらしい。フィーアもお嬢様ロールプレイで優雅に食べているが、微かに笑みが零れている。
いいな、この感じ。昔やってたMMOのギルドを思い出す。……あの時のメンバー、もしかしてこのゲームに参加してたり? フッ、まさかな。
食事が終わって宿屋を出る。特に行き先は決まっていないので私はフィーアの肩に座っている。
そのフィーアが狭い路地裏を歩き出したので聞いてみる。
「フィーア、どこ行くの~?」
「まずは街の広場ですわ。第五階層で手こずっているのなら、少しでも戦力を求めてこの階層でも声掛けをしている筈ですから」
「第五階層になんかあるの~?」
「このゲームは五階層ごとに壁となる強力なボスを設置していますの。デスゲームになった今は、仕込んでおいた追加要素で更に強くなっていますので、最前線にいるプレイヤーやGMたちは苦戦していると思いますわ」
「……本当にそれだけ? AIが余計な付け足ししてフィーアも知らない状態かもしれないよ?」
「その可能性はありますわね。ボス戦は油断せず挑みましょう」
「あの、GMってなんです?」
アネモネが控えめに手を上げながら聞いてきた。
ほら、説明よろしく開発者。
「……GMとは、ゲームマスターの略称ですわ。オンラインでチャット要素があるゲームなら必ず配置される運営の人間。このゲームではわたくしの仕事仲間がやっていますの」
「そうなんですか。バレたら面倒ですし、今からヤっちゃいます?」
いや早くない!?
俺より過激じゃん。
「それも一つの考えですけど、まだですわ。信頼を勝ち取ってから、ダンジョン内で絶体絶命の罠に一緒に掛かったフリをして、高みの見物をしながら秘かにヤりますわ」
あぁ、それそれ。そういうのでいいんだよそういうので。考えただけで興奮してきた!
「うわー酷いですねー。その時は私もちょっと遊んだりして構いませんか?」
「声を掛けますから、独断はやめてくださいな」
「はーい」
前方の宿からプレイヤーが出てきたので会話終了。そのプレイヤーは同じ方向を歩き、人通りが多い道に入った。真夜中と違って人がやたらと多い。まるで開園直後のテーマパークだ。
「アハト、フードの内側へ」
「ん」
「アネモネ、はぐれないように手を繋ぎましょう」
「は、はい!」
フィーアは人目を気にしてマントのフードを被り、アネモネはフィーアと手を繋いで流れに逆らわずに進む。
そうして到着したのは街の広場。広いから人口密度も幾分かマシになったが、中央付近では何やら人が一方向を向いて集まっていた。気になって飛んで確認してみると、お立ち台の周りを守るようにプレイヤーが囲み、その上に二人のプレイヤーが立っていた。
一人はこの序盤では珍しい、顔以外を綺麗な銀の甲冑に身を包んだ茶髪の爽やかイケメン。見た目年齢は二十代前半といったところ。
もう一人は妖精だ。何故かスカート丈の短いメイド服を着ている。髪は燃えるような赤色で足元まで真っ直ぐ伸びていて、赤い瞳にクールな美しい顔立ちをしている。見た目年齢は十代半ば。
そんな二人は演説の最中だったようで、イケメンが少しだけ間を置いて声高らかに言った。
「――最後にもう一度問う! 勇気ある者、或いは、実力ある者はGMが一人、ここにいる妖精『ニケ』の下へ集え! 我らがギルド『攻略前線』で共にゲームクリアを目指し、リアルに帰ろうではないか!」
イケメンが拳を掲げた瞬間、釣られて一部のプレイヤーが拳を掲げた。
やる気があるようで何よりだ。それにGMの妖精ねぇ……あっ、目が合った。
妖精が飛んでわざわざ私の前まで来た。
「君、私らのギルドに興味あるの?」
「あ~えっと~、ちょっと待って」
待たせてフィーアのところへ戻り、聞いてみる。
「フィーア、なんか誘われたけどどうする~?」
「丁度いいですわね。誘いに乗りましょう。――はいちょっと失礼しますわ」
フィーアが手を上げ声を上げ、演説を聞いていた群衆を掻き分けてお立ち台へ向かう。私は一足先に飛んで台で待機。
二人が台の上に立ったところで、イケメンが皆に向けて言った。
「見よっ! たった今、彼女たちは我らの思いに共感し、共に戦う為にここに立ってくれた。我々はまだまだ人手を欲している。我こそはと思う者は手を上げよっ!」
再度拳が掲げられると、幾人かのプレイヤーが拳を掲げた。
満足そうに頷いたイケメンがフィーアの方に向いた。
「自己紹介が遅れた。俺は『デューク』。ギルド『攻略前線』の副長をしている。妖精の彼女はGMの一人、ニケだ」
「こんな姿だけど中身は男だ。まぁよろしく」
紹介を受けたフィーアは、お嬢様っぽくお辞儀をしてから言った。
「初めまして、わたくしフィーアと申します。妖精の彼女はアハト、エルフの彼女はアネモネ。これからよろしくお願いいたしますわ」
「よろしく~」
「お願いしまーす」
私とアネモネも一言添え、フィーアが差し出した手をデュークは握った。
「あぁ、よろしく頼む」




