第25話 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!」
まさにAIの暴走だな。
「どうするのフィーア? なんか勝手に難易度上げられたっぽいけど」
「どうもしませんわ。第百階層の攻略は元々わたくしたち自身でする予定でしたし、難易度上昇はデスゲームらしくなって楽しそうじゃありませんの」
「あのぉ、AIのフライデーが私たちの妨害をして来る可能性はあるんじゃないですか?」
「あるでしょうね。直接的でなくとも、大勢のプレイヤーを巻き込んで間接的に仕掛けてくるでしょう。そう考えておいた方がいいですわ」
妨害有りで難易度上昇のデスゲーム……か。これは大勢死ぬな、間違いなく。
「で、これからどうするの~?」
「予定を前倒しして最前線に行きますわ。そこでわたくしたち自身を売り込んで、攻略してる連中の中に潜り込むとしましょう」
……いよいよか。
いよいよ、ゲーム攻略をしつつ邪魔なプレイヤーをひそかに消していくのか。胸が熱くなるな。
管理者用のメニューが開かれ、私たちは元の場所へ転移して戻った。
「おかえりなさいませ。もう出立されるのですね」
静まり返った広場に戻れば、焚火の傍でウルズが立っていた。
「えぇ、短い間でしたがお世話になりましたわ」
「料理美味しかったです。最後に何か残り物を貰えませんか?」
「そちらのテーブルにありますよ」
手で示された先にあるテーブルの上には、葉で包まれた料理らしい物が積まれていた。
最後まで図々しいなアネモネは。それに応えるウルズも凄いけど。
アネモネは全てをインベントリに入れると、満足そうな顔で頭を下げた。
「えへへ、ありがとうございます。また来てもいいですか?」
「はい、いつでもいらしてください。ただ、妖精のアハトさんの案内でなければここへは辿り着けませんから、ご注意を」
「分かりました」
「ではそろそろお暇させていただきますわ」
「またのお越しをお待ちしております」
深々と頭を下げるウルズに見送られ、私たちは隠れ里ユグドラシルを後にした。
よし、それじゃあ案内しますか。
「【ガイド】、プレイヤーの多い街」
条件を入れて妖精専用スキルを発動すれば、真っ暗闇の森の中に光りの線が伸びて道を示してくれる。
飛んで自分の翅を光らせて照明を兼ねて先行して進めば、早速魔物と遭遇。森らしく昆虫型の魔物で、人並みに大きなカマキリっぽい。名前は『キリカマ』。
光っている私を執拗に狙って二本の鎌を振るってくるけど、動きが遅いので簡単に避けられる。
今は誰もいないしアネモネが仲間になったので、回避しながら聞いてみる。
「フィーア、こいつは?」
「『キリカマ』ですわ。腕の大きな鎌による攻撃が強力ですけど、それ以外は貧弱。大きいせいで動きも速くはない。アハトはそのまま攻撃を引き受けておいて。アネモネ、森の神の力とやらを見せてください」
「あっはい。私がやるんですね」
指示されたアネモネは神杖ユグドラシルを両手に持って腕を伸ばし、斜め前に先端を向けて構えると足元に光る魔法陣が展開され、アネモネ自身が輝き始めた。
おぉ、これがこのゲームの魔法か。カッコイイな! けど――
ヘルプの説明を読んだ通り、滅茶苦茶目立つ。私より光っているせいでキリカマはすぐさま標的を変え、まるで魔法を撃たせまいとするかの如く一直線に向かった。
だが遅い。
いや、アネモネが速かった。もう魔法のチャージが終わったらしい。
「【ツリーグロウ】」
ちゃんとした発声によりスキルが発動。
接近して鎌を振り上げたキリカマの足下から木が生えると、急成長しながらまるで生きている触手のように動いて絡め捕り、引き離すように持ち上げつつ締め付けて何もさせないようにした。そのまま徐々にHPバーを減らし、倒して光の粒子に変えた。
残ったのは、上ではなく横に伸びつつ変な空洞のある、不自然な形をした一本の木だけ。
うわえっぐ。
「フィーア、どうですか?」
「上出来ですわ。その魔法はまだ基礎、習熟させれば新たな魔法を習得出来るので頑張りなさいな」
「はい」
これより更に凄い魔法が使えるようになるのか、ヤバいな。
案内を再開して森の中を進む。次に遭遇した魔物は人並みにでかいクモ。周囲のでかい木の間に幾つも巣を張っているが、動く気配がない。
「フィーア、こいつは~?」
「『マチグモ』ですわね。巣に触れた瞬間に襲い掛かって来ますが、何もしなければ無害ですわ」
「じゃあスルーで~」
マチグモを通り過ぎ、暫く暗い中を歩く。話すこともないので二人の足音だけがしていたが、正面から地響きがし始めた。それは次第にドスンドスンという足音となって近づいて来て、とうとう私の翅の光が届いた。
おぅ、こいつはでかい……トカゲかな?
人を丸呑みできそうなほど大きな頭部はトカゲっぽくて、縦長の黄色い瞳をした目が、ギョロリと私たちを捉えた。
「フィーア~」
……あれ?
返事が無い。振り返れば二人の背中が光の届くギリギリで見えた。
逃げてるし!
二人を追って逃げれば、背後から振動すら感じられる凄まじい咆哮が聞こえ、地響きを起こしながら追って来た。
……これは追いつかれるな。狙いは私か? なら丁度いい。死ぬかもしれないけど、試してみるか!
くるっと反転し、私は真っ直ぐにトカゲの口の中を目指す。開いた口からは鋭い牙が綺麗に生え揃っていて、食われる直前で名前が分かった。『フォレストドラゴン』だ。
序盤で出していい敵じゃなくね?
思った直後、私はぱくりと食われた。ユニークスキル【地母神の祝福】のおかげで丸呑みされてもブヨブヨした肉壁に圧殺されずに済み、私は食道を通って胃の中へ。
どぼん、と臭い胃酸の海に落ちる。
同時に、視界の中でゲージが現れて徐々に減り始めた。このペースだと一分が限界だ。体には薄い膜みたいなものが淡く光っている。
「ふむ、これが『神秘バリア』か……さぁて、一寸法師作戦、始めようか」
ニヤリと笑って指をパキパキ慣らし、構え、飛んだ勢いのままに胃壁をぶん殴る!
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!」
有名な漫画の主人公を真似て、スタミナの続く限りの怒涛のラッシュを叩き込む。最初の数発は胃壁を揺らすだけだったが次第に傷ついて赤いダメージエフェクトが滲み、やがて破れて大量のダメージエフェクトが噴き出した。
フォレストドランのHPゲージが一気に三分の一ほど減り、悲鳴に似た咆哮を上げたのが体の中からでも分かる。同時に、荒れ始めた胃がもがき苦しむように激しく蠕動し始めた。
スタミナが切れる寸前だったので胃壁から離れ、圧し潰されないように回避しながら休憩。
「フハハハハハ、どれだけ強かろうと体の内側から攻撃されては手も足も出まい! ……よしっ、スタミナも回復したし、もう一丁! オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!」
愉悦を味わいつつの休憩を終えてラッシュ再開、別の場所に穴を開けてやる。フォレストドラゴンのHPは残り三分の一になった。
「うわっ」
胃がキュッと収縮し、胃液が一気に沸き上がり始めた。恐らく嘔吐するのだろう。私は息を大きく吸い込んで止め、開けた穴の中へ入って吐き出されないようにする。数秒で胃は収縮を止めて元の状態に戻ったので、穴から出る。
「ふぅ……それじゃあ、死ぬがいい! オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!」
三度目のラッシュを叩き込めばフォレストドラゴンのHPが途中でゼロになり、光の粒子となって消えた。
あぁ……まさに愉悦ッ!




