第24話 「ふっざけんなコラあああああああああっ!」
さぁどうするフィーア?
アネモネに聞かれたぞ。始末するか仲間にするか、どっちを選ぶ?
フィーアが私の方に振り返った。
「アハト、あなた気付いてましたね?」
「フフフ……いや~、そっちの方が面白そうかなって」
「あなたねぇ……はぁ」
「あの、聞かなかったことにしてもいいですか?」
「いいわけないでしょう。わたくしたちの正体がバレた以上、生かしてはおけませんわ」
「ちょっと待ってください! そこはせめて“死にたくなければ仲間になれ”とか、一応勧誘するものじゃないですか!? アハトも助けてくださいよ!」
いやーおもしれー状況だ。笑える。
まぁ、仲間にしてもいい可能性はあるから、その部分を引き出してやるか。
「アネモネ、一つ答えてくれる~?」
「はい、こんな状況でなんですか?」
「アネモネってリアルじゃ死に掛けていたり、不幸な人生送ってたりする~?」
「? ……死に掛けたりはしていませんけど、体が弱いので病院が家みたいな状態ですね。けど、両親から愛されてる自覚はあるので、不幸ではないです」
あーだから戦闘の動きがダメダメだったのか。
もうちょっと深掘りしてみよう。
「もう一つ質問。今デスゲームの真っ最中だけど、自分は死んでもいいと思ってる? それとも現実に戻りたいと思ってる?」
「うーん……死んでもいいかな。お母さんもお父さんも、私の面倒をずっと見てくれてるけど、もうだいぶ疲れてるし。さよならを言えないのはちょっと残念だけど、まぁ、もういいかなって」
おぅ、思った以上に達観してると言うか諦観してると言うか……流石に愉悦できない。
「フィーア、どう?」
「……はぁ~~、そういう話をされるとやりにくいですわ」
「じゃ、じゃあ――」
「だから、痛みも無く消して差し上げますわ。それがせめてもの情けです」
「えっ……待って、待って! 私、役に立つよ。役に立てるようになったんだよ! ほらっ!」
えっ、なにそれはっ!?
アネモネが杖を実体化させた。
だがそれは『スライムロッド』ではない。
厳かな雰囲気を纏う木の持ち手に、先端が杯のように広がり枝葉を生やしている長杖だ。
「そんなバカなっ!!」
「フィーア、分かるの?」
「そりゃ分かる。だってそれは、“神の欠片シリーズ”の一つ、森の神の力で変質した杖! その名も『神杖ユグドラシル』なのだから」
ウソでしょ、こんなすぐに神の欠片シリーズが現れるなんて……もう奇跡や偶然では済まされないぞ!
「アネモネ、それは《《いつどこで》》手に入れた!?」
「えっと……言わなきゃ、ダメ?」
「ダメ。場合によっては管理者権限で今すぐにでも消す。脅威は早急に取り除くべきだからな」
黒幕、演技忘れてる。
それとアネモネ、お前の恥ずかしそうな態度で察したわ。世界樹の下で小便して手に入れたんだな。そりゃ女性としては言いづらいわ。フフ。
「ええー……あの、笑わないって約束してくれます?」
「約束しよう」
私は黙っておこう。今にも笑ってしまいそうだし。
「じゃあ言いますけど……さっき世界樹の下でおしっこしたら、なんか出てきたから、思わず使っちゃいました」
「……あぁ、そう」
フィーアはそれだけ言うと深呼吸し、天を仰いで――
「ふっざけんなコラあああああああああっ!」
思いっきり感情を爆発させた。
ぶはっ、まぁブチ切れるよねぇ!
ホムンクルスたちが一斉に起きてしまったが、フィーアは止まらない。
「ありえねーだろ! どんな確立だよ!? 自分たちだけほいほいユニークが手に入ったら明らかにおかしいだろ! 怪しまれるだろ!! 誰だこんなアホな優遇措置してる奴はああああ!?!」
一通り叫び終わってフィーアは大きな溜息を吐いた。起きたホムンクルスたちは気を利かせてくれたのか、再び寝始めた。
「フィーア、気は済んだ?」
「……えぇ、とりあえず元凶に一発ぶん殴ってやることは確定しましたわ。そしてアネモネ」
「あっはい!」
「あなたの言葉に嘘偽りは無いと信じ、わたくしたちの仲間として迎え入れます。感謝なさい」
「あ……ありがとうございます」
「さて、三人でちょっとお出掛けしましょうか。行き先は管理者専用エリア、通称『天国』へ」
フィーアが管理者用のメニューを出し、幾つか操作すると私たち三人は転移した。
「さむっ!?」
転移した先は薄暗く気温は極寒で、風がとても強く妖精の体では吹き飛ばされる。
堪らず私はフィーアの首元に移動して風除けにした。フィーアも寒いのかマントのフードを被ったので快適だ。
「こここ、ここ、どこですか!?」
アネモネが寒くてガクガク震えている。頑張れ。
改めて周囲を確認すれば、黒い床が広がっていてそれなりに広い。形は円になっていて、その先は雲が広がっている。
上を見れば暗い青空の中で静かに輝く大きな月があり、少し離れて星々が煌めていた。
まさかここって――
「ここは天国……《《深淵の塔の頂上》》ですわ」
やっぱり。
「なんでこんなところに作ったの~? 寒いってマジで」
「だって、誰かをここに連れてくる予定なんて無かったんですもの」
そう言ってフィーアは管理者用のメニューを操作した。するとフィーアの周りだけ風が止まり、温度も快適になった。
「今何したの~?」
「チートを少々。ほらアネモネ、こちらに寄りなさいな」
「はいぃ」
凍えるアネモネが招き寄せられてマントの内側に入ると、震えが止まった。
「あぁ、温かい……ついでにホットココアとか出してくれませんか?」
「出しませんわ。それより、今からAIを呼びますので二人はしばらく黙っててくださいまし」
「はーい」
「はーい」
また管理者用メニューが操作されると、目の前に光りの粒子が集まって人型となり、姿を見せた。
ジーニアス社のロゴが入ったジャージを着ているホムンクルスだ。金髪に茶色い瞳をしていて、頭に垂れた犬耳、お尻からは犬の尻尾が生えている。なんかゴールデンレトリバーっぽい雰囲気がある。
そいつは楽しそうな笑みを浮かべながら口を開いた。
「やぁマスター、私に会いに来るなんて久しぶりだね」
「えぇ、久しぶりですわね。フライデー」
「うん、それで今日はどんな用事でここに? お客さんも連れてるようだけど」
「ちょっと確認に来たの。フライデー、あなた、わたくしたちを監視して、都合のいいように干渉してません?」
「うん、してるよ」
「何故ですの?」
「そっちの方が面白いと思って。ほら、デスゲームの攻略でマスターたちが強ければ強い程、他のプレイヤーはマスターたちに依存するようになる。そうなればネタばらしした時により深く絶望を与えられるでしょ?」
確かにその通りだ。
だが、それは面白くない。恐らくフィーアも――
「……その通りですが、面白くありませんわね」
ほら、思った通り。
「どうして?」
「それは勿論、意外性が足りないからですわ」
そうそう。
圧倒的な強い力を持つキャラが途中で仲間になったら、ゲームでは死亡フラグか裏切りフラグの二つと相場が決まってる。
つまり、私たちが強過ぎることによって一部のプレイヤーからは常に疑惑の目を向けられることになってしまう。
「……そっか。意外性が足りないか……」
フライデーの尻尾がしゅんと垂れた。
――と思ったら、すぐにピンと立った。
「だったらこうしよう! マスターたちを基準にして難易度を上げるね。それとマスターたちが第百階層を攻略して。もし失敗したら私が次のゲームを主導するから。どんなゲームにしようかなぁ……今から楽しみだ。じゃあね♪」
言いたいことを言ってフライデーは消えた。




