第23話 「それはそれとして~……聞かれてるよ、フィーア」
「フィーア~ただいま~!」
「おかえりなさい。何かありました?」
ツリーハウスに戻ったら、フィーアがバルコニーから外を眺めていた。
二人だけで話したいのでアネモネの存在が気になって中を覗き込むが、見当たらない。
「アネモネは?」
「果物ばかりで食べ飽きたと、外に出て他の食料をたかりに行きましたわ」
「ええ……想像以上に図々しいね~」
「ですわね。ある意味で大物ですわ」
ほんとだよ。政治家とか向いてそう。
「それで、何がありましたの?」
「そうそう、ユニークアイテム手に入れたよ~」
「はぁ!?」
「ユニークアイテム手に入れたよ~」
「聞こえてますわ! どういうことですの!?」
こっちが聞きたい。
「とにかく調べてほしい」
演技を止めてインベントリから赤い花を出して渡す。
受け取ったフィーアは眉間に皺を寄せながら花を回転させて見渡し、それからアイテムの詳細を開いた。
「……なんですのこれ? わたくし、こんな物を作った覚えはありませんわ」
「そうなの?」
「えぇ、そもそも、この隠れ里もウルドという特殊個体のホムンクルスも初めて知りましたわ」
「……会社の仲間が勝手に作ったとか?」
「その可能性を否定できませんが、まぁ無いでしょう。コードは全てわたくしが管理していましたので。むしろ、このわたくしたちに都合のいい状況はAIの暴走と考えると自然ですわ」
「AIの暴走……ゲームでも起こるんだな」
「……とにかく、詳しい話は宴の後にしましょう。これはお返ししますわ」
「ん、りょーかい」
不意にアネモネが帰って来たり、ウルドが来たら言い訳が面倒だもんな。
それにしても、AIの暴走か……いやこれ暴走か?
明らかに私たちに有利なように動いてるように思うが?
……まぁ、いいか。
そこら辺は黒幕が考えることだ。私はこのご都合主義みたいな状況を楽しませてもらおう。
報告を済ませた私は赤い花をインベントリに仕舞い、ミニチュアハウスに入って宴が始まるまでひと眠りすることにした。
――――温かい。
――明るい。
パチパチと焚火の音がする。
…………あれ?
起きたら目の前に大きな焚火が存在していた。辺りは暗く静まり返っている。薄っすらとだが、地面に横たわって寝ているホムンクルスたちが見える。
「あら、ようやくお目覚めになりましたのね」
「フィーア……」
声が横から聞こえて振り向くと、フィーアが丸太に座っていた。どうやら私は丸太の上で、掛け布団を掛けて寝ていたらしい。
「ここは?」
「隠れ里ユグドラシルの広場ですわ。残念ながら、既に宴は終わって皆さんお眠りになられましたわ」
宴が終わった!?
「なんで起こしてくれなかったの?」
「あまりにも気持ち良さそうに眠っていましたので。それに、寝たまま連れて行ったらそのうち起きるだろうと思っていましたの」
「でも起きなかったと?」
「えぇ、余程疲れていたのか、それともここの居心地が良かったのかは分かりませんけれど」
うーん、多分どっちもかな。
空を飛ぶのは慣れたけど、それでも動きには細心の注意を払っている。人間も魔物も相対的に巨大だから、戦えると分かっていても恐怖はある。意識しなくても相当なストレスが掛かっていたんだと思う。悪夢を見なかったのは幸いだ。
それはそれとして、お腹空いたし喉が渇いたな。
あとトイレ行きたい。
「……私の分の料理、残してある?」
「ありますわよ。今から出しますわ」
「ちょっと待って。その前にトイレ行ってくる」
「あっ、行ってらっしゃいませ」
まだちょっと寝惚けているので、ゆっくり飛んで自分たちのツリーハウスを目指す。
ツリーハウスごとに明かりが点いているのでなんとか場所が分かり、バルコニーから中に入ってミニチュアハウス内のトイレで用を足す。
「ふぅ……よし戻ろう」
スッキリしたので、飛んでバルコニーから外に出る。目指すはここからでもよく見える、広場の焚火。
「ん?」
焚火の一つがなんか動いてる……あぁ、アネモネか。トイレかな?
――ちょちょちょっ、おいおいまさか、そこでするのか! そこでするのか!?
なんとなく観察してたら、アネモネが世界樹の足下でズボンや下着を脱ぎ、あろうことか用を足し始めた。
世界樹がご神木相当だと考えるとかなりの罰当たりだ。かといって自分が注意をしに行くのは中身男としてどうかと思うとすぐに行動出来ず、右往左往してしまう。
「…………よし。見なかったことにしよう」
そう決めた私は、何もなかったかのようにフィーアの所に戻った。
「ただいま~」
「おかえりなさい。はいこれ、宴で出された料理、の切れ端ですわ」
「ありがとう~」
妖精サイズのお盆を受け取る。上には幾つかの料理と液体が入った大ジョッキ、フォークとナイフがある。
「いただきまーす」
手を合わせてから食べ始める。美味い。
「では、食べつつわたくしの話を聞いてくださいな」
「ん」
「……いきなりぶっちゃけますが、この『アビスダンジョン・オンライン』は、ただのゲームではありません。開発者であるわたくしでさえ、把握していないブラックボックスがありますの」
あっ、アネモネが戻ってきた。聞き耳立ててるし、フィーアは気付いてない……面白そうだし黙っておこう。
「そのブラックボックスは、AIとこの世界そのものとVR機器ですわ」
「……どういうこと?」
その三つは、ほぼ全部って言ってるようなものだ。
「まずAIですけど、中身のコードが存在しませんの。つまり、AIのようなナニカですわ。NPCのホムンクルスたちも完全に自立行動していて、わたくしはどうしてあのような動作をしているのか分かっていません」
ええ……それもうNPCじゃないじゃん。
「次に世界そのものですけど、わたくしは『犬神』と名乗る存在から世界全てのアセットを提供され、それを使ってゲームを製作しただけですわ」
ええ……。
「最後にVR機器ですけど、新興企業が製造できるレベルを逸脱していますわ。現代社会ではフルダイブ型VRなんて、それこそ空想のものだった。それがシンギュラリティ――技術的特異点でも起きたかのように突如として誕生し、初めての機器なのにかなりの薄型、しかも日本限定とはいえ十万台以上を容易に製造して販売された。おかしいと思いません?」
「……確かに」
そういえばそうだ。
現代では普通のVRゲームでさえ、技術が未熟で製作コストが高く、高画質化に難儀している。なのに数十年レベルで先を行くこのゲームが突如として発表された。私はそれを当たり前として認識し、普通に注文して買っていた。
明らかにおかしい。
これだけ凄い技術のゲームなら世界的に熱狂して予約が殺到し、抽選販売される筈なのに、それが無かった。何故?
「疑問の全ては『犬神』にありますわ。けれど残念なことに、わたくしは犬神に関する記憶が名前以外抜け落ちていますの」
「なにそれ、本当の神様だったとでも?」
「その可能性はありますわ。わたくしは天才ですけど、天才一人と仕事仲間数人でここまで出来るはずありませんもの」
「で、これからどうするの?」
「AIに確認を取りますわ。もし何かしでかしていたなら、動くな、とでも言うつもりですわ」
「ふむ。それはそれとして~……聞かれてるよ、フィーア」
「は? ――あっ」
「あはは……なんか、ごめんなさい」




