第22話 「……宴が終わって、アネモネが寝てから話がありますわ」
……でかいな。いやほんとでかいなっ!?
「これは……凄いですわね」
「ですね。こんな大きな木、現実にあるんでしょうか?」
「流石にありませんわ」
フィーアの言う通りだ。これはもう、神話やファンタジーで言うところの“世界樹”だ。
「ん? フィーア、アネモネ、なんか来たよ~」
ホムンクルスの一人がこっちに向かって歩いている。他のホムンクルスより髪の色が明るく、無表情でなく柔和な笑みを浮かべていて、目が合うと手を振ってくれた。
こいつ、もしかして特殊個体という奴か?
こんな低階層に??
そのホムンクルスは目の前まで来ると口を開いた。
「ようこそプレイヤーの方々。ここは隠れ里『ユグドラシル』です。そして私は、この村の村長をしているホムンクルスの『ウルド』と申します。皆さんのお名前は?」
「アハトだよ~」
「アネモネです」
「フィーアですわ」
ウルド……北欧神話の……なんだっけ?
確か女神的な存在だった筈。
「アハト、アネモネ、フィーアですね。あなた方はこのユグドラシルで初めての訪問者。それを祝して歓迎の宴を開きたいと思いますが、いかがされますか?」
初めての来訪者に歓迎の宴……初回限定の隠しイベントかな?
私は気になるからやってほしいけど……。
「二人とも、どうする~?」
「私は歓迎されたいです。実はお腹がペコペコで、美味しい料理が食べたいです。あと、デザートに甘いケーキが食べたい」
「…………そうですわね。ここは好意に甘えましょう」
おい今の間はなんだ!?
アネモネの図々しさはもうどうでもいいけど、絶対何か起こってるだろ!
「では今からお部屋へご案内しますね」
案内を始めたウルドに付いて行き、大樹の周りにあるツリーハウスの一つに入る。中は1LDKで現代的な家具が一通り揃っていて、奥はバルコニーになっている。見晴らしが素晴らしい。部屋の隅の台には妖精用のミニチュアハウスも置かれている。
「この家を自由にお使いください。お腹が空いているということなので、今から何軽く食べられる物を持って来させます。宴は夕食を兼ねて始めますので、それまでは好きに過ごしてください。では」
言い終えるとウルズは部屋から出て行った。アネモネは既にキッチンの冷蔵庫の中を漁って見つけた干し肉っぽいものを食べていて、フィーアはバルコニーから外を眺めている。
フィーアに近づいて顔を覗き込めば、眉間に皺を寄せていた。
「フィーア、どうしたの~?」
「ん? ……あぁ、少し考え事をしていただけですわ」
「考え事……話なら聞くよ~?」
「そうですわね……」
フィーアが振り返ったので、私も振り返る。視線の先にはアネモネがいる。
「……宴が終わって、アネモネが寝てから話がありますわ」
「分かった」
黒幕としての重大な話なんだろうな。
それはそれとして――
「けど、それまでは楽しんだら~?」
「……えぇ、楽しまないと損ですものね」
フィーアがいつもの調子に戻って部屋の中で自由に寛ぐ。
……少ししてドアがノックされ、応対したアネモネが山盛りの果物が入ったバスケットをホムンクルスから受け取り、テーブルの上に置いた。
「えへへ、果物をこんなに貰えましたよ。私たち凄く歓迎されてますね!。あむっ」
早速、見知らぬ果物を食べ始めた。
バスケットの中にはアネモネが口にした物以外に、数種類の果物が入っている。
これ、近場で採れたやつか?
それとも栽培してるのか?
……まぁいいや。宴の時に聞いてみよう。
私もお腹が減っているので、てきとうにブドウっぽい奴を食べ始める。
美味しいなこれ。
見た目通りの味だ。フィーアも食べ始めた。
腹ごしらえも済んだところで、二人に言う。
「ちょっと里を探検してくるね~」
「行ってらっしゃい」
「何かあったらすぐに知らせなさい」
「あいよ~」
バルコニーから飛んで里の中を探検する。世界樹を中心として里が作られていて、私たちには見えていなかった場所に野菜と畜舎があった。
高度を上げて世界樹を調べれば、様々な種類の果実が実っていて、ホムンクルスたちが不自然に幹から生えた枝に腰掛け、籠を背負って収穫していた。
というか、今、枝が動いた!
この世界樹、もしかして生きてる?
――あっ、やっぱ生きてるわ。
幹から生えた枝が私の前に来ると、フリフリと手を振るように動いた。
そして、まるでプロポーズするかのように先端から赤いバラっぽい花を咲かせた。
「……えっと、くれるの?」
うんうん、と縦に揺れた。
「あ、ありがとう」
お礼を言って赤い花を受け取り、その場で詳細を確認。
ユニークアイテム『ユグドラシルの花』
・詳細不明
ユ ニ ー ク ア イ テ ム!?!
しかも詳細不明って、ナニコレ!?
いやマジでナニコレ!?
というか、こんなあっさりとユニークが取れたらダメだろ。一度目はまだ偶然の可能性もある。本当に幸運だったで済ませられる。けど、二度もこうだと……疑わざるを得ない。黒幕であるフィーアが感知しない存在がこのデスゲームで暗躍しているということを。
私は枝葉で覆われた空を見上げた。今この瞬間も恐らく、誰かが私たちを監視しているのだろう。そうでなければここまで都合のいい展開など、連続して起こるわけがない。
「フィーアに報告だな」
花をデータ化してインベントリに仕舞い、私はツリーハウスへ戻った。




