第20話 「じゃあ二人とも~、ボス戦始めるよ~」
アネモネが魔法使い専門で生きていくことを決め、出てくるスライムを蹴散らし、時々他のプレイヤーとすれ違いながらダンジョンの中を進むこと数分――
「あの、私って役立たずですか?」
「そうだね~」
「ですわね」
自虐的なアネモネの問い掛けに私もフィーアも同意する。だって、この短時間で【スライムボール】を五回発動しただけでガス欠したのだから。
「うぅ……まさかMPの回復が遅くて、誰も回復アイテムを持っていないなんて……」
「まだ序盤ですから、魔法を主体とするプレイヤーなんてそんなものですわ」
「そうだよ~。ゲームだと魔法使いは基本的に大器晩成タイプだから~」
「……そう言ってくれて気が楽になりました。成長するまでよろしくお願いしますね」
いやよろしくじゃないから。フィーアが少し前に言ったこと覚えてる?
「……わたくしたちが手伝うのは第三階層までですわよ」
「ええっ!? そこは仲良くなったから“これからも一緒に行きましょう”とか、“丁度、魔法使いを探していたからよろしく”とか言うところじゃないんですか!?」
「ないですわね」
「だね~」
普通のプレイヤーならそういう選択肢もアリなんだろうけど、私たち、正体を隠してる黒幕なんでね。すまないけどアネモネ、バレるリスクは極力取りたくないんだ。言わないけど。
「じゃあせめて、第三階層で新しいパーティーを見つけるのを手伝ってください」
それくらい自力でやれよ。私たちはお前の保護者じゃないんだから。
「……仕方ありませんわね」
「やった!」
いいのかフィーア? こいついいパーティーが見つからなかったら絶対に私たちに付いて来るぞ?
……まぁ、何か考えがあるんだろう。
スライムを倒しながらダンジョン内を進み続ける。まだ第二階層だからか出てくる魔物はスライムだけ。罠とか隠し部屋とか無くて非常に単調だ。レベルがまた上がって12になったが、暇で欠伸が出てしまう。
角を曲がったところで、ガイドの光が初めて見る大きな扉の前で消えた。両開きの重厚な鉄の扉で、明らかにボス部屋だ。
着いた……か?
先行して鉄の扉に近づけば、ウィンドウが表示された。
ボス『バイスライム』 討伐済み
再戦しますか?
はい
いいえ
……もう討伐済みか。
「二人とも~着いたよ~」
「着いたって、どこにですか?」
「ボス部屋ですわ」
「ボス部屋……!」
初心者なアネモネが表情を硬くして杖をギュッと握りしめた。
「……ねぇフィーア、ボスは討伐済みだけど、再戦するの?」
「えぇ、リスクを冒してでも、序盤のうちにボスがどういうものか経験しておく方がいいですわ」
「ということは、アネモネも一緒?」
「勿論。一緒に戦ってもらいますわ。無理のない範囲で、ですけど」
「が、頑張ります」
「……まぁ、ヘイトの分散にはなるかな~」
攻撃には期待しないでおこう。
「アハト、ヘイトって何ですか?」
「フィーア~」
すっかり解説役が板についたフィーアは、コホン、と咳払いをした。
「ヘイトとは、敵がどのプレイヤーを優先して攻撃するかを決める、“狙われやすさ”の指標のことですわ。敵によって、ヘイトが溜まったプレイヤーだけを狙ったり、ある程度の狙いに留めて他のプレイヤーをたまに攻撃したりなどしますの」
「へー……ということは、何もしなくても狙われたりすることがあるってことですか?」
「そうなりますわね。あと、場合によっては後衛――アネモネみたいな魔法使いや回復役を積極的に狙うパターンもあるのでご注意を」
「えっ!? 何でわざわざ後ろにいるプレイヤーを狙うんですか!?」
「遠距離攻撃や回復役は、敵側からしたら厄介に映るものですわ」
「……あっ! あー……そうです、ね」
お、気付いたか。場合によっては前衛より後衛の方が狙われる可能性が高くて危険なことに。
「まぁ安心なさい。まだここは第二階層、ボスといっても行動パターンは単調で強くはないと思いますわ」
「そ、そうですよね! ししし死なない程度に頑張ります!」
うん、頑張れ~。
流石に初めてのボス戦で他人を気にする余裕は無いだろうから、死ぬなよ。
「じゃあ二人とも~、ボス戦始めるよ~」
「はいっ!」
「よろしくてよ」
再戦の“はい”ボタンを押せばメッセージが消え、鉄の扉がゴゴゴゴゴゴと地響きを立てながらゆっくりと開いた。
中は地面が泥まみれの何もない空間で、広々としていて、壁は石レンガが綺麗に積まれて作られている。
警戒しつつ三人で中に入れば背後で扉が閉まり始めた。開くよりも速く、完全に閉まりきった時には大きな音が鳴った。
それを合図に、臨場感あふれるBGMが部屋全体に流れ始め、中央に光の粒子が集まってボスが実体化して出現した。
でっっっか!!
キングスライムかと思う程の超巨大な青色のスライムだ。ボスだけの仕様なのか常に名前とやたら長いHPバーが頭上に表示されている。
「アハト! アネモネ! 呆けている暇はありませんわ! 構えて!」
――ああ、そうだな!
フィーアの言葉に意識を切り替え、私は拳を構えた。
バイスライムが動き出した。ぼよんと一度跳ねただけで高い天井ギリギリまで上昇し、広範囲を踏み潰そうとしてくる。私も含め、全員で走って回避。
着地したバイスライムに拳を振るえば、体が大きく揺れ動き、二つに裂けた。
どちらにも名前とHPバーが出ている。
っ!?
バイスライムって、そういうことかよ!
このボス、恐らくダメージを与えると分裂するギミックっぽい。
私とフィーアで二体になったバイスライムに攻撃すれば、さらに分裂して四体になった。
「フィーア! これってどれくらい分裂させたら倒せる?」
「知りませんわそんなの! アネモネ、あなたも杖で殴るなりして攻撃してくださいまし!」
「はい!」
動きが普通のスライム同様に緩慢で、小さくなればなるほど脅威度は下がっていくのでアネモネも充分に戦えている。
バイスライムの体当たりや踏み潰しを回避しながら攻撃を加えれば分裂を繰り返し、数十体の普通のスライム程度の大きさになった。
攻撃を受けないようにST管理をしながら逃げつつ攻撃すれば、ようやくHPバーが削れて消滅した。
勝機!
ここが攻め時と見た私は逃げるのを止めて突っ込み、ただのスライムになったバイスライムを次々と殴って蹴って倒して行く。STはどんどん減るが、ある程度の高度を上げればスライムたちの攻撃は届かないので安全に休憩が可能。
その間に二人の様子を窺えば、フィーアはバックステップで下がりつつショートソードで数回斬って倒す、というのを繰り返していた。動きの中に何もしない時間が挟まれていて、上手くST調整をしているように見える。
アネモネの方はひたすら逃げていたが、ある程度の数をトレインして離れてくれているので初心者としては上出来だ。
さて、終わらせるか。
STが回復し、状況も分かった。勝利は確信的でここから負ける要素は不意打ちのギミックが発動するか、これが前哨戦で後半がヤバイとかくらいだろう。
高度を下げた私は再びスライムの群れに突っ込んで多数を蹴散らした。
それをあと二回ほど続けると、遂に最後に一体がフィーアによって倒された。
BGMが止み、プレイヤーの勝利を祝うかのようなSEが鳴り、部屋の中央の空中に大きなメッセージが表示された。
『Congratulations!』




