第19話 「魔法って強いんだね~」
文句を言う為にアネモネの顔の前まで詰め寄る。
「あのさ~、トレインしてきた敵を赤の他人に押し付けるのはダメでしょ~」
「すいません。最初は二体だけだったんですけど、逃げてるうちにどんどん増えてしまって……それと、トレインってなんですか?」
あぁ、このガチ初心者感はあの時出会った、あのアネモネだ。凄い偶然の出会いだな。
答えるのめんどうだし、開発者、解説よろしく~。
私から答える気は無いとフィーアの肩に座れば、フィーアは軽くコホンを咳払いして言った。
「トレインはゲーム用語で、逃げながら敵を次々と引き寄せて行列を作る行為ですわ。囮、陽動、広範囲攻撃での殲滅に繋がる手法の一つなのですが、ソロプレイで他人を巻き込むのは迷惑行為として忌み嫌われていますわ」
「そうなんですか。すいません、初めて知りました」
「……まさかとは思いますが、あなたゲームは初めて?」
「えっと、スマホでならあるんですけど、こういった本格的なゲームは初めてです」
「今どき珍しいですわね。事情はあるでしょうしリアルの詮索はしませんわ。それよりも、これからどうするおつもりですの? スライム程度で逃げてるようでは、この先生き残れませんわ」
!?
ネットミームの“この先生 きのこるには”!
そしてこいつがあのアネモネなら――
「それならパーティー組んでください! お願いします!」
そう来るよなぁ。
「アハト、どうします?」
「フィーアが決めていいよ~」
前と違って今は状況が違う。黒幕がこいつを生かして育てたいのなら、めんどうでも拒否することではない。
「ということですので、次の階層に行くまでは組んであげますわ」
「ありがとうございます!」
パーティー申請が受理され、アネモネが仲間に加わった。
「じゃあまず自己紹介しようか~。私は妖精のアハト。さっき見ただろうけど、ちょっと凄いスキルが手に入って物理で戦う妖精をやってまーす。ロールプレイの一環で呑気なキャラを演じてるけど……本当は普通に話せるから、そこんとこよろしく」
「あっはい」
「わたくしはフィーア。アハトと同じようにお嬢様キャラを演じてますわ」
「演じてるんですか!? てっきり本物のお嬢様かと思っていました」
「くひひ、あなた随分と素直ですわね。気に入りましたわ」
「はぁ、私はアネモネといいます。本格的なゲームを触るのはこれが初めての初心者です。よろしくお願いします」
「はーいよろしく~」
「よろしくですわ」
「それじゃあ行こっか~」
自己紹介も終わったので私が先導して移動を再開。すぐにまたスライム一体と遭遇した。
「アネモネ~、どれくらい出来るか見てみたいから、頑張ってねー」
「はい!」
威勢よく返事をしたアネモネは前に出て、スライムと対峙する。
こっちに気付いたスライムがぽよんぽよん跳ねながら近づき、射程に入ったのか一気に跳ねて体当たりを仕掛けた。
「ひゃっ!」
ええええええ!?
アネモネは剣を構えていたのに、まさかの回避!
しかも女々しい動きで構えすら解いている。
で、着地したスライムが再び体当たりを仕掛け、普通に攻撃を食らってHPを少し減らし、痛そうにしながら戻ってきた。
「いや何やってんのアネモネ! たかがスライムだよ!?」
「だって可愛いんですもん!」
ウソでしょ、それだけで攻撃しないなんて……。
「これは先が思いやられますわ」
呆れたフィーアがこっちに向かってくるスライムを斬って倒した。
「そうだね~。ちょっとこれは厳しくしないとダメかも~」
「えっ」
「ですわね。可愛いからって魔物を倒せないようでは、流石のわたくしもパーティーから外したくなりますわ」
「そ、それだけはやめてください! 死んでしまいます!」
「ではスライムを倒しなさい。今このゲームは、ゲームであってゲームではありません。戦わなければ生き残れませんわ」
「は、はい!」
脅されてやる気が出たのでよし。
移動してすぐにスライムと遭遇したが、ちょっと変だ。透明なのは気にしないが、なんか金箔が入っているかのようにキラキラしている。
「あら珍しい。“トレジャーエネミー”ですわね。倒すと確定でレアな物が手に入りますわよ。エネミーの強さも変わりませんし、アネモネ、やりなさいな」
「いいんですか?」
「えぇ、現状ではあなたは役立たずですもの」
「役立たず……うぅ、その通りだから言い返せない」
今度はちゃんとやれよ?
固唾を飲んで見守れば、アネモネは剣を構えながらジリジリと少しずつ近づき始めた。その姿勢は明らかにへっぴり腰で、正直言ってカッコ悪い。
「……やああああああ!」
気合の入った叫びと同時に一気に接近。キラキラ光るスライムも気付いてぽよんぽよん近づき、跳ねた!
アネモネは剣を振り下ろし、空中で一刀両断した。HPがゼロになったスライムは消滅し、アネモネにメッセージが表示された。
「あっ、杖……杖が手に入りました!」
「おぉ、おめでとう~!」
「おめでとう。どんな杖ですの?」
聞かれたアネモネがメニューから詳細を開いた。
「えっと……『スライムロッド』、杖に込められた固有魔法【スライムボール】を撃てるみたいです」
「そう。魔法について、ヘルプで確認してみてはどうです?」
「あっ、そうですね」
今度はヘルプを開いて目を通し始めた。少し待つとヘルプが閉じられ、ショートソードがデータ化して消えると入れ替わるように新たな武器が実体化した。
アネモネの身の丈以上の長い木の杖で、先端にスライムっぽい宝石が嵌め込まれている。
「これなら私、戦えそうです!」
「なら試してみましょうか」
少し歩いてスライムに遭遇。
「行きます!」
前に出たアネモネが杖を前に掲げた。すると体が光りだし、足元に魔法陣が展開された。
スライムがこっちに気付いて跳ねながら近づいてくるが――遅い。
「【スライムボール】!」
僅か三秒ほどのチャージで準備が完了したのか、発声して魔法が発動。杖の先端から液体が生み出され、丸くなると高速で飛んでスライムにぶつかり、はじけた。
直撃したスライムはバラバラに砕け散っていて、すぐに消滅した。
「やりました!」
「魔法って強いんだね~」
「それに、様になっていましたわ。もしかしたら魔法使いが向いているのかもしれませんわね」
「はい! 私、魔法使いが向いていると思いますので、これからは魔法専門でいきます」
……前々から感じてたけど、こいつ意外と図々しいな。




