第18話 「あの、すいません助けてください!」
……性的暴行を加えようとしたとはいえ、やっちまったな。これで人殺しかぁー。
まぁ、目撃者もいないし、クズが一人世の中から減ったと思えば――
「よしっ!」
ついでに指さし確認。
死体も残っていないので、これはもう完全犯罪だ。
「お見事ですわ。罪悪感などはありまして?」
「いや全然。男はベッドの上以外では紳士じゃないと、ただのケダモノに成り下がるからね~」
「それを聞いて安心しましたわ。これからもこういったことをするので、そのつもりで」
「むしろ愉悦が味わえるからどんどんやって~」
「分かりましたわ。くひひ」
事が終わったので、もう定位置になったフィーアの肩に座る。私が座ったのを確認したフィーアが移動を始めた。
あっ、これは聞いておこう。
「フィーア~、ちょっといい~?」
「なんです?」
「もしさっきのケダモノが本当に困っているプレイヤーだったら、どうしたの~?」
「まだ序盤ですし、普通に助けてあげましたわ」
「ふーん……じゃあそれ以降は?」
「気分によりますわね。関わっていて気持ちのいいプレイヤーなら助けますし、嫌ならタイミングを見て死んでもらいますわ」
「ん、分かった~」
気分によるか……デスゲームの主催者としては真面目にゲーム攻略してくれるプレイヤーは好ましいし、迷惑なプレイヤーはちょっとしたスパイスになるけど、全体のやる気を削ぐからある程度は排除したいってところだろうな。
標識に従って街中を移動し門を抜ける。
ダンジョンまでの道のりは、点々と存在する池を避けるように敷かれた土の道を進む必要がある。当然のようにカエルやイモリやトンボの魔物が徘徊していて、プレイヤーたちが戦っている。
まだ朝早いからか、人はそこまで多くない。
「ここらの魔物は戦いにくいですし、駆け抜けますわよ」
「あいよ~」
私はフードの内側に入って退避。駆け出したフィーアは戦うプレイヤーと魔物の横を素通りし、襲い掛かられても軽く避けて無視して進んだ。
被弾せずダンジョン前に到着。ダンジョン名は『スライムの沼地』といい、足元が水っぽい泥でぬかるんでいる。壁は背が高くて頑丈そうなイネ科の植物がみっちり生えていて、迷宮らしい道となっている。
「スライム……強いの~?」
「それは戦ってみてのお楽しみですわ」
言われた通りお楽しみにしつつダンジョン内へ。
私は定位置の肩に座っているので平気だが、フィーアは滑って転倒しないように慎重に歩いている。他のプレイヤーがいない方へ進んでいると、早速、バスケットボールほどの大きさのどう見てもスライムな魔物と遭遇。
ぷよぷよした青色の液体が丸っぽい形状を保っていて、くりっとした目の形が浮かんでいる。ちょっと可愛い。
「ではアハト、戦ってみてくださいまし」
「はーい」
肩から飛んで推定スライムの前に着地。名前が表示されたら、やっぱり『スライム』だった。
……思ったよりでかいな。
妖精の自分を体内に取り込んでしまえる大きさだ。打撃が効くのかどうか分からないし、下手に接近戦を仕掛けるのは不安だ。
でも、現状はそれしか攻撃手段がない。
まぁ、やってみるか。
スライムがぽよんぽよん跳ねて接近してきたので万が一を考えてギリギリで回避し、手足を絡め捕られないよう、掠めるように蹴りを入れた。
――パァンッ!
あっ、弱いわ。
蹴りを入れた箇所を中心にスライムが弾けた。HPバーが一気に減って無くなると光の粒子となって消滅。
リザルトで『スライムの体液』を入手したが、重量過多でフィーアに送られた。
「どうでした?」
「弱い……けどさ~、妖精って不便過ぎない? アイテムさえほとんど自前で持てないし」
「あなたのような強者は、アイテムを持てるだけでも充分脅威ですので」
「徹底してるね~」
その通りだから反論のしようがない。
もし妖精の体で大量にアイテムが所持できたら、丁度いいタイミングで回復アイテムとか攻撃用のアイテムを使って仲間を援護できる。出来てしまう。被弾面積が小さくて空を飛べるというアドバンテージはかなり大きいのだ。
「次、行こっか~」
「えぇ」
私が前を飛んで進む。
「ところでアハト、妖精専用スキル【ガイド】は使いまして?」
「あっ、忘れてた」
いつもフィーアが分かっていて行動するから、完全に失念していた。
えーっと、スキルの使い方は……。
メニューを開いてスキルの詳細を確認。
妖精専用スキル【ガイド】
分類:アクティブスキル
ST消費:なし
指定した場所への道筋を本人だけに表示する。
スキル発動は『【ガイド】、〇〇(指定場所)』と声に出すこと。
スキル終了は『【ガイド】、終了』と声に出すこと。
なるほど。発声の必要はあるけどシンプルでいいな。
「フィーア、案内はボス部屋でいい?」
「えぇ、構いませんわ」
「【ガイド】、ボス部屋」
スキルを発動すると、ダンジョンの道に薄っすらと光の線が現れた。それは途切れることなく伸びていて、角を曲がっている。
「なんか、発動したら光の線が出たんだけど~?」
「それを辿って行けば目的地に到着しますわ。わたくしは別に無くても大丈夫ですが、不審に思われない為の演技には必須ですので、これからは案内をお願いしますわ」
「あいよ~」
そういうわけで、今度からダンジョンや見知った場所へは私が先導することになった。
飛んで進むこと少し、誰かがこっちに近づく足音が聞こえ始めた。足元が濡れているからバシャバシャと一定のリズムで速く、走っていると分かる。
「フィーア、誰か来るよ~」
「そのようですわね。構えて」
身構えて誰かが来るのを待っていると、少し先の角からプレイヤーが一人こっちに曲がった。
十代前半っぽい背の低い人間の少女で、セミショートのピンク髪に、髪色と同じ瞳の色をしている。
服と防具は初期のままで、手にはショートソードが握られている。
なにかから逃げているのか必死な表情をしていて、その背後から遅れて登場したのは色とりどりのスライム十数体。
多いな……いや多いなっ!?
逃げる彼女と目が合った。
「あの、すいません助けてください!」
なんだろう……ものすっっっごいデジャブを感じる!!
逃げてきた彼女が二メートル以内に入り、名前が表示された。
『アネモネ』……お前かぁ~。
アネモネは私の横を通り過ぎ、フィーアより後ろに来たところでようやく振り返って剣を構えた。
いや下がり過ぎだって!
……まぁいい、やるか。
構え直し、迫りくるスライムに向かって突っ込み、殴って蹴って倒して行く。数体くらい後ろへ通してしまったが、それはフィーアがなんなく倒した。
レベルが上がって11になった。




