第17話 「あらごめんなさい。初めてチートを使ってみたから、力加減を間違えましたわ。くひひひひひ」
……朝だ。
シャワーを浴びて寝直したその夜、意外とよく眠れてしまった。
そして自然と起きられた。目がパッチリだ。
現実のおっさんの体と違って疲労感は残っておらず、体の調子も嘘のようにいい。流石は十代美少女の体。
なんで悪夢を見てしまったんだろうな?
……あっ、うつ伏せで寝て酸欠になったからか。
原因が分かったところでベッドから立ち上がって伸びをしながら部屋の中を移動し、まずは洗面所で顔を洗う。次にトイレを済ませ、身嗜みを整える。
準備が完了してミニチュアハウスを出れば、まだフィーアは寝ていた。
飛んで顔の前まで移動し、軽く頬を叩いてやる。
「フィーア~、おはよう朝だよ~」
「うぅ、痛いですわ。もっと優しく……」
えっ、そんなに!?
あぁ、【地母神の祝福】の効果は軽いビンタにも適用されるのか。
もっと軽く叩いてやる。
「フィーア~、起きろ~」
「ん、あと五分」
……こいつ絶対起きてるだろ。
仕方ない、強硬手段だ!
「起きろ~!」
シャッと閉じているカーテンを開けて外の明るさを中に取り込む。続いて掛け布団を蹴れば、吹っ飛んでフィーアの生まれたままの姿が露わになった。
おおぅ、寝る時は全裸派だったか。
……美しいな。抱けないのが残念だ。
「いやん、そんなに見つめないでくださいまし。恥ずかしいですわ」
起きたフィーアが大事なところを隠して恥じらってみせるが、冗談でやってるだけなので無視だ無視。
「寝起きで悪いけど、今日の予定は~?」
「んー……主にレベル上げですわね。あわよくば武器種ごとに分かれているパッシブスキルの一つでも習得したいですけど、かなり確率が低いのですわ」
「……そこまで低いなら、調整の為のアプデしたら?」
「流石にそれはカッコ悪いので却下ですわ」
まぁカッコ悪いな。
デスゲームを始めたのに途中で調整しますとか、前代未聞だろう。
「じゃあ、朝食摂って街の外で魔物狩りってことでいい~?」
「いえ、ダンジョンに向かいますわ。そちらの方が魔物の出現率は高いですし、他のプレイヤーの邪魔も入りにくいですもの。それに、あわよくばプレイヤーを罠に嵌めて楽しめますわよ」
「それは……素敵だね~」
想像しただけで楽しくなってきた。
罠に掛かって右往左往したり、絶望を味わいながら死んでいく様を早く見たいな。
「よし行こう早く行こう」
「はいはい、身支度をしますのでお待ちなさいな」
身支度を整えるまで暇なので、空中でシャドーボクシングをしたり、筋トレをして過ごす。
それからフィーアと一緒に朝食を摂り、肩に乗って宿を出る。
あっ、昨日干してある下着を見てた奴。
「よ、ようっ!」
向かい側の建物の壁に寄り掛かった状態で、種族ビーストの犬耳男が声を掛けてきた。
道幅が狭いせいで二メートル以内に入り『ジャイロ』と頭の上に名前が表示された。
どうするフィーア?
「ごきげんよう見知らぬお方。わたくしたちにどのようなご用件で?」
「あーなんだ、こんな薄暗い場所にお嬢さんと妖精だけで来ているのが気になってな。ちょっとお話しできたらなーって、待たせてもらった」
「……ストーカーですの?」
「うっ、まぁそう思うよなぁ。でもさ、他のプレイヤーに襲われるんじゃないかって思うと、心配で仕方なかったんだ」
「……まぁいいでしょう。それでどうしますの? わたくしたちは見ての通り、何事も無く一夜を過ごしましたが」
「俺をパーティーに入れてくれないか? 頼む!」
うわっ、マジかこいつ。
犬耳男がいきなり土下座を始めた。その動きは恥も外聞もない。
「理由をお聞きしても?」
「俺は……正直言って弱い。こんな見た目だが、運動が苦手なんだ。誰かの助けがいる。でも、今まで他のプレイヤーに声を掛ける勇気が出なかった。見た目と能力のギャップで誰かが死んで、見捨てられるんじゃないかって……」
「わたくしたちに声を掛けられたのは?」
「……なんでだと思う?」
――来るっ!
ジャイロが土下座の姿勢から素早く動き、フィーアの腹目掛けてタックルをかました。
私はその前に飛んで退避したが、フィーアは避けられず背後のドアに激突し、動けないように組み付かれた。
「フィーア!」
「おっと動くなよ妖精さん。顔は覚えたから、ここで逃げたら追い掛け見つけ出して殺す」
「アハト、大丈夫ですわ」
うん分かってる。お前の心配はしていない。
むしろこいつの心配をしてる。
「仲間の身を案じて躊躇なく自分の体を差し出すか。立派だな。その態度がいつ崩れるのか楽しみだ」
「んっ……くっ……」
ジャイロがフィーアの服の下に手を入れ、体を弄り始めた。特に性的な胸や股間を執拗に触って、顔を体に近づけて匂いを嗅いでいる。変態だ。
フィーアはフィーアで自分の顔を見ていないのをいいことに、声だけ艶めかしく出し始めて、物凄くイイ笑顔をしている。
……ダメだ……まだ笑うな。
でも面白いから、もうちょっと演出しよう。
「あの~」
「あん? なんだよ妖精」
「そいつ、中身男だよ~」
「あっそう。体がしっかり女だったら何も問題ねぇな。むしろ身も心も女に堕としてやるのも楽しそうだ」
わぁ、思ったより変態だぁ。
「っ、いや! 止めてくだいまし! それ以上はいけませんわ!」
「ハハ、こんな辺鄙な場所に助けなんて来ねぇよ。それにお前、意外とノリノリじゃねぇか。スー、ハー……そろそろ本番、始めようか」
「あぁっ! ……誠実そうなお犬さんだと思っていたのに……小賢しくて卑しい、お盛んなお猿さんだったのですね」
「あ?」
おっ、ここで動くか。
動きを止めて顔を上げたジャイロの腕をフィーアが掴むと、ギュッと握ってぐちゃぐちゃに潰し、真っ赤なダメージエフェクトを大量に出した。HPバーが一気に瀕死の域まで減った。
「ぐああああああああ!! う、腕があああああああああ!!」
「あらごめんなさい。初めてチートを使ってみたから、力加減を間違えましたわ。くひひひひひ」
ファーーー!
チ ー ト 使 い や が っ た !
笑える……くっそ笑える!
これぞ、まさに愉悦ッ!
「て、てめぇ……なにもんだ!?」
「初めまして、性欲で頭がいっぱいのクズプレイヤーさん。わたくしはこのデスゲームを開催した黒幕ですわ」
「っ! なんでそんな奴がこんな……」
ジャイロが痛みを堪えながら逃げ出したが、すぐに見えない壁に顔からぶつかって倒れた。HPばさらに減り、一ミリくらいしか残っていない。
「くひひ、逃がしませんわ。それと、あなたが言ったことをそのままお返ししますわ。《《こんな辺鄙な場所に助けなんて来ません》》。観念なさい」
「ぐぅ、うおおおおおおおお!」
立ち上がったジャイロが、後がないと悟ったのか腕の無い状態で突っ込んできた。
「無駄ですわ。――あら?」
あっ、私狙いか。
黒幕には絶対に敵わないからと、素通りして私に向かって蹴りをかましてきた。
が、こいつは一つ忘れている。
妖精になるようなプレイヤーは総じて強者であると。
私は蹴りを軽く避けつつ内側に入り込み、無防備な奴の眉間を力いっぱいに殴った。
ジャイロは吹っ飛びながら光の粒子となって消滅した。




