第15話 「因みに妖精は他のプレイヤーと一緒の場合、宿泊費は請求されませんわ」
街に帰還して隅っこにある武器屋に戻れば、相変わらず店内は閑古鳥が鳴いている。店主もまた昼寝をしていて、フィーアはカウンターをコンコンと叩いて起こそうとした……が、起きない。
はぁ、と溜息を吐くとピッケルを取り出し、それを大きく振り被ってカウンターに叩きつけた。切先がめり込み、大きな音と衝撃によって店主は飛び起きた。
「おはようございます。ただいま戻りましたわ」
「お、おかえりなさい。鉱石は取れましたか?」
「えぇ、今お出ししますわ」
インベントリから採掘用魔法袋が実体化され、カウンターの上に置かれた。
店主が魔法袋の側面に触れると、メッセージとして中身が表示された。
「……この短時間で凄い量ですね」
「偶然、いい採掘場所を見つけまして」
「なるほど。では約束通りこちらの鉄鉱石は換金させてもらいます。少々お待ちを」
店主が素早く鉄鉱石の数を数え始めた。
少し暇になったフィーアは目的も無く店内をぶらつき、様々な武器を見つめる。
「そういえばフィーアは、最終的にどんな戦闘スタイルで戦うつもり~?」
「剣と盾、軽装甲の防具でバランスのいい、生存性重視の戦闘スタイルを考えてますわ」
「それって既に完成してない?」
「してますわね」
……話すこと無くなっちゃったよ。
二刀流とか防御特化とか目指すのなら、どういう剣が欲しいとか、どんな防具の見た目にするとか聞けたのに。
「そういうアハトは、どんな装備が欲しいですの?」
「ん? んー……」
いきなりどんなと聞かれても思いつかないな。
素手で殴っても充分な威力だし、今のところ武器を持つ必要性が無い。
防具も、重い物とか動きの阻害する物はいらない。
でも、欲しい物なら一つあるな。
「……装備というか、衣服が欲しいかな~。動きやすいやつ」
このワンピース、可愛いのは確かだが高速移動には向いていない。ヒラヒラしてるから風の抵抗をもろに受けて邪魔だ。
「ふむ、動きやすいやつ……分かりましたわ。お金が貯まったら何か買いましょう」
「よろしく~」
「お客様、換金の準備が整いましたので、カウンターにお越しください」
丁度呼ばれたのでカウンターに向かう。既に鉄鉱石と突き刺さっていたピッケルは撤去され、担保として出していた盾のラウンドシールドと、お盆の上に貨幣が幾らか積まれた状態で出されていた。
「こちら、担保として預かっていた盾と、750イェンとなります」
「ありがとう」
「またの起こしをお待ちしております」
盾とお金を受け取り、私たちは店を出た。
「ねぇフィーア、イェンの価値って日本円にしてどれくらい~?」
「1イェンで10円ですわ。今から宿を探すのですけど、安宿なら素泊まりで一泊300イェンといったところですわね」
あらお安い。
「因みに妖精は他のプレイヤーと一緒の場合、宿泊費は請求されませんわ」
「……小さすぎるから?」
「ですわ」
本当のところは多分、妖精プレイヤーが独りで生きていく設計にしてないからだろうな。
「で、どこに泊まるの~?」
「逆にお聞きしますが、どこがよろしいと思います? 今のわたくしたちの容姿を考えて、答えてくださいまし」
容姿を考えて、か。悩むな。
安全を考えるなら、多少高くても主要道路に面した人通りの多い場所に泊まるのがいい。
けど、私たちは普通のプレイヤーじゃない。フィーアは黒幕だから安全を確保する為に何かしらのチートを起動して襲われないような対策を取れるし、襲った方が可哀想なことをしそうな気がする。私は私で妖精のような何かって状態だから問題無い。
これはつまり、そういういかがわしいイベント――というか事件に遭遇したいかどうかを聞いているってことか。
でも、デスゲームが始まって間もないし、そういう邪なことをするプレイヤーはまだ出ないんじゃないか?
「……安宿でいいんじゃないかな~? そういうことをする人はまだいないだろうし」
「ではそうしましょう」
昼時だからかあちこちからいい匂いがする街中を歩き、人通りが少なく薄暗い場所へと入っていく。道幅も四人並んで歩くのが精いっぱいの狭さで、上を見れば多くの家同士が紐で繋がり、ホムンクルスの物だろう洗濯物が幾つか干されていた。
……意外と上等な下着を着けてるな。
少し先では種族ビーストの犬耳と尻尾を生やした男性プレイヤーの一人が道の真ん中で上を見上げていた。視線の先には下着があり、無意識なのかフサフサの尻尾が左右にフリフリと動いている。
フィーアの足音に気付いたのか耳がピクリと動いて振り返り、一瞬慌て、何事も無かったかのように足早にその場から離れて行った。
まぁうん。女に見られたら気まずいわな。
ベッドの上以外は紳士でいろよ、見知らぬプレイヤー。
「今の人、こっちから誘って食ってやるのも楽しそうですわね」
「いやダメでしょ~」
やるのはまだ早いし、食うの意味が絶対に性的じゃないだろ。
「宿にはまだ着かないの~?」
「今着きましたわ」
立ち止まった宿屋は『隠れ家亭』という看板が掲げられている。ドア横には花の咲いたプランターがちょこんと一つあるだけ。
フィーアがドアノブを回して中に入れば、真横に受付カウンターが一つ。その向かい側にはぴったりはまるように設置された応接セットが一つ。通路は人がギリギリすれ違える幅で、階段下にはトイレが設置されている。
従業員、或いは店主の姿は見当たらない。
だが、店内は肉が焼けるいい匂いが充満していて、食堂らしき暖簾の掛かった部屋から音がする。
口の中で唾液が分泌され、お腹が鳴った。フィーアのお腹も鳴った。
「ついでに腹ごしらえもしましょう」
「さんせーい」
カウンター上の呼び鈴が押される。チーン、と子気味の良い音が響いて少し……食堂からホムンクルスがやって来た。
「お待たせしました、店主です。お二人は同じ部屋でお泊りですか?」
「えぇ、ついでに昼食と夕食、明日の朝食をいただけるかしら」
「450イェンになりますが、よろしいですか?」
「えぇ、お願いするわ」
フィーアがインベントリを開き、450イェン丁度をカウンターに置いた。
「ありがとうございます。丁度昼食が出来上がるので、こちらの食堂でお待ちください」
とのことなので、私たちは食堂に入って席に着いた。店主が言った通り昼食はすぐに出てきた。
「どうぞ、ピブの肉を使った肉サンドです」
出されたのは、食パンの耳が付いたままの四角いサンドイッチだ。パンは分厚く、パンと同じくらい分厚い肉は焼きたてだからか肉汁と脂が垂れ出ている。また、レタスらしきシャキシャキしてそうな野菜がこんもり盛られていて、正直言って挟み切れていない。
いいね~。こういうのでいいんだよ、こういうので。
「じゃあ、いただきまーす」
「いただきます」
フィーアより先に肉サンドにかぶりつく。
……美味い。
けどこれ、手でちぎって組み合わせないと本来の味を楽しめないな。めんどくさ。




