第13話 「……分かった。物理特化の妖精、やってみよう」
「さて、道具は手に入りましたし、採掘のお時間ですわ」
ピッケル担いだフィーアは店を出るとすぐに歩き出した。
「――の前に、トイレですわ」
そう言って急に方向転換し、街のところどころで見掛けたトイレに向かい始めた。
トイレの中は現代的な構造になっていて、女子トイレは個室が並んでいる。ただ、窓の窪みに妖精用のミニチュアみたいな個室も並んでいた。
肩に座っていた私はそこに降ろされ、フィーアは個室に消えた。
……まぁ、私も出しておくか。
妖精用の個室に入り、妖精の初期服であるワンピースの裾をたくし上げ、シンプルな下着を下ろし、洋式便器に座って出すものを出す。
川の中で一度経験しているし、思春期なんてとうの昔に過ぎた自分としては、今更女の体で排泄行為をしても羞恥心的なものはない。流石に見られた状態でやるのは恥ずかしいが。
出なくなったのでトイレットペーパーで股間を軽く拭き、下着を上げて立ち上がれば自動で水が流れた。便器の上から水が出たので手を洗い、個室から出れば丁度フィーアも出たところだった。
「では、行きましょうか」
トイレから出たフィーアは躊躇なく歩く。
「これどこに向かってるの~?」
「街の北側を出た先にある、鉱石が採掘できる泥の沼地ですわ」
「北側……方角分かるの?」
「分かりますわ。ほらアレ」
指さした先には、目に入っていたのに当たり前すぎて疑問に感じなかった標識がある。
北門 泥の沼地↑
東門 転移門→
南門 湖↓
西門 ダンジョン←
ほんとだ。ご丁寧に東西南北で書かれてる……。
標識通りに進み北門に到着。少し進んだ先から泥濘の道が続いていて、奥には泥まみれの岩場がある。
数人のプレイヤーに混じって同じ方向に歩くこと数分……道を踏み外したら沈んでいきそうな泥の中から、魔物が飛び出してきた。
一メートル以上はある巨大なナマズこと『マナズ』。本来のナマズは歯が無いのだが、魔物のこいつはサメみたいなギザギザの歯をしていて、ビチビチと泥をはね飛ばしながら泥の上を移動している。
だけどフィーアは慌てない。
じっとする私たちがまるで目に入っていないかのように、マナズは通り過ぎて再び泥の中に潜った。
……あの歯で大人しい魔物なのか。
マナズって、美味いのかな?
岩場の沼地に到着したフィーアは他のプレイヤーから離れるように別の場所に移動し、岩に囲まれた小さな袋小路で足を止めた。
「着きましたわ」
「ここで掘るの?」
「えぇ、ここが第二階層で最高効率の採掘場所でしてよ」
泥水に膝まで浸かっている足を動かして壁に接近したフィーアは、ピッケルを勢いよく振り下ろした。すると小さなメッセージが表示され、アイテムとして『石ころ』と『鉄鉱石』が採れて自動で採掘用魔法袋に転送された。
もう一度ピッケルを振るえば、メッセージ内のアイテムの個数が増えた。
フィーアは黙々とピッケルを振るい続ける。
「……アハト、暇なのでしたら筋トレでもしたらどうです?」
「えっ、筋トレ? なんで~?」
「わたくしだけ働いて、あなたは何もしないのは不公平ですわ」
「いや妖精の私にどうしろと!?」
妖精じゃなかったらちゃんと手伝ってるわ!
「だから筋トレをしてくださいまし。でないと泥に埋めますわよ」
泥に埋められるのはちょっと嫌だな。
けど、これだけは聞いておかないとダメだ。
「筋トレの理由は~? ステータスが変な伸び方しそうな気がするんだけど?」
「するでしょうね。でも、それでいいのですわ」
「……だから何故?」
「今思いついたのですが、物理特化の妖精とか面白くありません?」
「確かに面白いけど、それ、普通の人は絶対にやらない変態ビルドじゃん」
「いいじゃありませんの。誰もやらないからこそ手に入るものもあるかもしれませんわよ?」
まさか……!
「……そういうスキル、仕込んだ?」
「まぁ、仕込んだと言えば仕込みましたわね。唯一無二のスキル――“ユニークスキル”というのですけど、普通じゃないプレイヤーとAIが判定すると、そのものに合わせた専用スキルが与えられますわ。その名の通り、そのプレイヤー個人のみに使えるスキルであり、基本的に強力無比になるよう設定していますの。どうです? 欲しくありませんか?」
「……」
欲しい! そんなの知ると欲しくなるに決まってる!
けど、妖精で物理特化はどう考えても頭おかしい。幾ら鍛えたところで桁違いの身長と体重の差は如何ともしがたい。
でも、それでも戦えそうだという実感がある。フィーアの目を殴ってHPが減った時にそう感じた。
「……分かった。物理特化の妖精、やってみよう」
「っ! えぇ、えぇ! やってみせてくださいまし! アハト!」
私は力強く頷き、飛んで岩の上に着地。ピッケルの動作に合わせて腕立て伏せを開始した。
どうやら筋トレはSTを消費するアクションには含まれないらしく、無限に出来る。
そうして数十回くらい腕立て伏せをやっていると、ピッケルの動きが止まった。
「どうしたの~?」
「……いえ、ちょっと想定していない物が手に入ってしまいまして」
「想定していない物~?」
「……本当に想定外ですわ。確立なんて天文学的な数字なのに、それを開発者であるわたくしが引いてしまうなんて」
「勿体ぶらずに、何手に入れたの?」
「……ユニークアイテム『地母神の欠片』ですわ」
「は?」
ユニークアイテム?
なんでそんなもんが第二階層で取れるんだおかしいだろ!?
……とにかく、訳を聞こう。
「……フィーア、黒幕、そのアイテムがここにある理由を聞こうか」
「ユニークアイテム、“神の欠片”シリーズは完全にランダムですわ。地母神なら全ての階層の何処かの地面や壁の中に一つだけ生成され、生成された場所で採掘することによって、十万分の一の確率で手に入りますの。つまり、天文学的な確率によって偶然にも掘り当ててしまっただけですわ」
「非常に疑わしいな。そういうレアアイテムが簡単に手に入るよう、確率を弄ったり引き寄せるようにしていないか?」
「していませんわよっ! けど、今から確認しますわ」
フィーアはピッケルを壁に掛けて置くと、管理者用のメニューを開いてウィンドウの一つを表示させ、すぐに閉じた。
「確認しましたが、そういったチートコードは起動していませんでしたわ」
「つまり本当に全くの偶然だと?」
「そうなりますわ。あっ、でも……」
「でも?」
「…………いえ、何でもないございませんわ」
ほんとに? ほんとに何でもない?
……まぁ、これ以上聞いても話してくれなさそうだし、聞かないけど。
あと、演技演技。
「ところで、その『地母神の欠片』だっけ~? どういうアイテムなの~?」
「使用すればユニークスキルが手に入るだけですわ。それも、物理特化妖精を目指すあなたに最適な、サイズ差補正無視の効果がありますわよ」
「……本当に偶然かこれ?」
「偶然ですわ。そう思う方が精神衛生的によろしくてよ」
「アッハイ」
そう言うってことは、お前これ絶対裏で何か起こってるよな!?
頼むよ開発者、バグってゲーム進行不可能とかやめてくれよ。そんな終わり方は誰も望んでいないだろうから。




