第10話 「つ、疲れましたわ……」
「あぁ、痛かったですわ!」
だろうね。
フィーアの左目は、涙目でちょっと赤くなっていた。
「それで~? そのキャンディで習得出来るパッシブスキル、どんな効果?」
「パッシブスキル【成長期】は、経験値効率を僅かながら上昇させますわ。序盤で習得できれば他のプレイヤーより優位に事を進められますわ」
「予想通りだ~……一つしかないけど、もしかしてもう一つ取る必要がある?」
「その必要はありませんわ。妖精は体が小さい分、こういった食材は他のプレイヤーと一緒に食べても完璧に効果を発揮しますの」
「おぉ~」
でもそれって、物によっては間接キス確定では?
……まぁいいか。今は女同士だし。
「じゃあ早速、いただきまーす」
ペロリ。
――っ、思った以上に甘い!
濃厚なメイプルシロップの風味で、強烈な糖分が脳にガツンと来る。
私は甘過ぎるのはあんまり好きじゃなかったけど……何故だか幾らでも食べられそうだ。
ペロペロ、ペロペロ……――おっ!
舐めていたら脳内でピコン! とスキル習得の音がした。
小さなメッセージが表示される。
『パッシブスキル【成長期】を習得しました』
「ん、習得出来たよ~」
「ではわたくしも……」
私がキャンディから離れると、フィーアはキャンディを口に入れ、コロコロと転がして片方の頬が膨らんだ。
「……この甘さ、何故だか病みつきになりますわね。おやつに幾つか確保したくなりますわ」
「やらないよ~」
あんな狭くて暗い場所で芋虫と対峙なんて、二度としたくないっての!
「仕方ないですわね。ではこのキャンディを食べ終えたら、泳いでもう一つのスキルを習得しましょうか」
「はーい」
泳ぎで取れるスキル……恐らく泳ぎが上手くなったり息が長く続くスキルだろうな。そういったスキルが存在するということは、十中八九、泳ぎが重要なギミックとか階層があるはず。
……でもそんなスキル、こんな序盤で取る必要あるか?
「ねぇフィーア~」
「なんですの?」
「泳いで取れるスキル、今取る必要があるものなの~?」
「別に必須ではありませんわ。ただ、今習得しておくと事故死は限りなく低い状態で、この階層のもう一つの隠し要素を見つけられますわ」
「ふーん、それってどんなの~?」
「村にある水車小屋ですわ。ドアは施錠されていますが、川の中からなら侵入出来ますわ」
不法侵入じゃん。
「中には何が~?」
「それは流石に秘密ですわ。脅威はない、とだけ言っておきます」
となると……貴重なアイテムや装備品か。或いはレアイベントのトリガーとかか?
いずれにしても、気になるな。
「じゃあ早速泳ごっか~」
「いえその前にアカマルの実を食べて腹ごしらえですわ」
「あっ、忘れてた」
そういうわけで、二人でアカマルの実を採集開始。妖精の私は飛んでアカマルの実を揺らして落とし、下で構えるフィーアがキャッチ! これを何回も繰り返して大量に採集した。
二人でアカマルの実を食べながら移動し、川に到着。
「乾かすのも面倒ですし、服は脱ぎましょうか」
「だね~」
フィーアに倣って私も衣服をデータ化してインベントリに仕舞う。
「それでは始め――る前に、習得方法と注意事項を言っておきますわ。泳ぎに関するスキルは、しっかりと息を止めて泳ぐ必要がありますわ。そして、息を止めて泳ぐ場合は常にスタミナを消費しますわ。水中でスタミナを消費しきった場合は問答無用で溺れてしまうので、くれぐれもスタミナが尽きる前に息継ぎをしてくださいまし」
「はーい」
リアルに近い仕様だな。だいたいのゲームは酸素が無くなるとHPが減り始めるだけである程度猶予があるけど、即溺れるとは……気を付けないと。
「では始めましょう」
邪魔にならないように少し離れ、二人で川に入って泳ぎ始める。息を止めて泳ぐので、どちらかと言えば潜水だ。
水中で呼吸を止めている間はみるみるうちにSTゲージが減り始める。パッシブスキル【ランナーズハイ】で減少速度が軽減されているだろうけれど、それでも減りが速い。
息が苦しくなってきた……一度息継ぎして…………回復して……もう一度!
再び水の中に顔をつけて泳ぐ。それを何度も何度も繰り返していると――
……ヤバイ、尿意を催してきた。
一度中断して――いや待てよ、このまま出せばいいのでは?
どうせ妖精だから出る量は人間に比べると少ないし、フィーアには気付かれない。うん、このまま出そう。
結論が出たので泳いだまま出せば、尿意もすっかり消えた。スッキリ!
問題も無くなって泳ぐことに集中してすぐ、ピコン! とスキル習得の音がした。
おっ、早いな。フィーアは習得は確率だって言ってたし、今回は運が良かったか。
水の中から出てメッセージを確認。
『パッシブスキル【泳ぎ上手】を習得しました』
ほうほう……予想は出来てるけど、どんな効果かな?
川から出て石に座りながらスキル詳細を見てみる。
パッシブスキル【泳ぎ上手】
・水中行動力上昇(中)
・水泳ST消費軽減(中)
まぁ予想通りの効果だ。
メニューを閉じてフィーアを見てみる。未だ泳いでいて、息継ぎに顔を上げた時に俺と視線が交差し、二度見して驚きの表情を見せた。
笑顔で手を振ってやる。
頑張れ~。
私はここで、必死なあなたを見て愉悦を味わっておくから。
フィーアは引き攣った笑みで手を振り返すと、また泳ぎに戻った。
……十分ぐらい経っただろうか、意外と早くにスキル習得が出来たのかフィーアが川から上がってきた。
が、相当疲れているらしく、私の傍で膝から崩れて両手を地面に着いた。
「つ、疲れましたわ……」
だろうね。
「お疲れ~」
「えぇ……お疲れさま……ですわ」
「……だいじょーぶ?」
「えぇ……今ちょっと、過去の自分を恨んでますけど……大丈夫ですわ」
……草生えるわ。
――ん?
笑いを堪え、気を紛らわせる為に周囲を見渡せば、ちらほらと単独行動しているプレイヤーが遠くに見えた。
「フィーア、プレイヤーが見え始めたけど、どうする~?」
「ふむ……十万人もいれば、こんな辺鄙なところに来るプレイヤーもそれなりにいますわね。目的は達しましたし、服が乾いたら移動しましょう」
「はーい」




