表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたの幼なじみはどうやら私にご執心のようです  作者: ぽーりー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/28

7 俺がいる



ロアス視点





修道院を出て半刻ほど経っただろうか。

俺は修道僧に追従しながら馬を走らせていた。

これだけ早く馬を走らせるということは緊急事態に違いない。

やはり魔物が出たのか?

そんなことを考えていると、彼が街道の先を指差した。


『ロアスさん!兵士です!』


目を凝らすと、灰色の鎧を着た兵士たちが緑色の何かと戦っているようだった。

あれは・・・ゴブリンか!?


『馬車があります!リナさんの馬車かもしれません!』


兵士とゴブリンが戦っている真っ只中に横転した一台の馬車があった。

まさかリナ嬢があの中に!?

馬車まで10馬身ほどの距離まで近付くと、兵士とゴブリンたちが入り乱れていてこれ以上は進めなかった。

くそっ。

俺は馬を降りると馬車に向かって走り出した。


『誰だ!?市民がいるぞ!!』

『お前!危ないだろう!』


兵士たちが俺に向かって何かを叫んでいるが俺は走り続けた。

目の前のゴブリンを屠りながら突き進むと、兵士たちからどよめきが起こった。

横転した馬車に飛び乗り窓から中を覗くと、赤い髪の女性が膝を曲げて座っていた。

怯えているのか両耳を塞いでいる。


「リナ嬢・・・」


そう呼びかけると、彼女はゆっくりと顔を上げた。


「ロアス様?」

「大丈夫か?」

「・・・はい」


彼女は放心状態なのか、瞳に生気が感じられなかった。


「すまないが戦闘が終わるまでもう少し待っていてくれるか?」

「はい・・・」

「大丈夫だ。必ず助ける」


それから半刻ほどで兵士たちと共にゴブリンを一掃し、リナ嬢を馬車から助け出すと、兵士たちから拍手喝采が起こった。


『兄ちゃんやるな!どこの兵士だ??』

『スカウトさせてくれ!名前は?』

『こりゃまたすごい美男子だな!』


兵士たちが変わるがわる肩を叩いて労をねぎらってくれているようだった。


「リナ嬢、歩けるか?」

「大丈夫です」


彼女は微笑んではいるが顔面蒼白で、無理をしているのは明らかだった。

騎士でさえ初めての戦闘がトラウマになってしまう者がいる。

命が脅かされ続ける極限状態で精神がやられてしまうからだ。

何の訓練も受けていない彼女ならばなおさらのことだろう。


「家まで送ろう」

「ですが・・・」

「大丈夫だ。送らせてくれ」

「・・・ありがとうございます」

『お嬢様!』


使用人らしき男が兵士たちを掻き分けてこちらに向かって来た。


『レイモンドさん!ご無事だったんですね』

『お嬢様こそ・・・ご無事でよかった・・・』

『もしかしてレイモンドさんが兵士を?』

『はい。あれからすぐにゴブリンを討伐に来たという兵士たちと遭遇したんです』

『そうだったんですね・・・。ありがとうございます』

『こちらこそ・・・ありがとうございます』


リナ嬢の屋敷の御者だという彼には俺が彼女を送ることを伝え、先に屋敷に戻ってもらった。

ここまで案内してくれた修道僧にも彼女が無事だったこと、今日は休講にしてほしいことを修道院に伝えてもらうことにした。







二人で馬に跨り、街道沿いをゆっくり走っていると、ほどなくして雨が降り始めた。

この季節でもこのまま雨に打たれ続ければ体には堪えるだろう。


「近くに休憩出来そうなところはないか?」

「小さな街でしたらこの先にありますが」

「宿はあるか?」

「どうでしょう・・・」

「とりあえず行ってみよう。掴まってくれ」


しばらく馬を走らせると、小高い丘の上に街が見えてきた。


「あれです」

「小さいな・・・。宿があればいいんだが」


雨のせいもあって人通りもなく街は閑散としていた。


「あっ。あの看板に宿と書いてあります」

「そうか」


店の塀に馬の手綱をくくりつけると、俺たちは店の中へと入った。

宿の女将によるとどうやら二階の一室だけ空いているようで、リナ嬢が先に支払いを済ませた。


「すまない。ラビナスに戻ったら必ず支払う」

「そんな、気にしないでください。助けに来てくださったんですから、私が支払うのは当然のことです」


部屋はベッドルームにシャワー室がついた質素なものだった。

俺は遠征でこういった部屋には慣れているが、リナ嬢にとってはきっと窮屈だろう。

まず俺はシャワーからお湯が出るかを確かめた。


「大丈夫だ。先にシャワーを使ってくれ」

「いえ、ロアス様が使ってください」

「だめだ。先ほどから震えているだろう?このままでは風邪を引いてしまう」

「・・・では、お言葉に甘えて」


リナ嬢がシャワー室に入ると、俺は濡れたシャツを脱いで部屋にあった暖炉に火をつけた。

暖かいな・・・。

俺は少しずつ大きくなる炎を見つめながら、剣を振るった感触を思い返していた。

意外と戦えるものだな・・・。

ドラゴンとの戦闘以来、また剣を振るえるのか自信がなかった。

だがあの時、彼女が危険に晒されているかと思うと、恐怖を抱く暇もなく気付いた時には剣を抜いていた。

人は誰かのためなら強くなれるというのは本当のようだな・・・。


しばらく暖炉を眺めていると、リナ嬢がシャワー室から出てきた。


「ありがとうございました」


彼女の顔に血の気が戻っていた。


「髪を乾かした方がいい。ここに座ってくれ」

「はい」

「替えの服があれば良かったんだが・・・」


リナ嬢は濡れたままのドレスを着用していた。


「大丈夫です。暖炉がありますから」


恥じらいがあるのはわかるが、これではシャワーを浴びた意味がない。


「下着は着ているんだろう?」

「は、はい」

「俺のことは気にせず脱いでくれ。ドレスも今のうちに乾かした方がいい」

「ですが・・・」

「なら俺は席を外そう。下の酒場にいるから何かあったら呼んでくれ」


シャツを持って部屋から出ようとすると、彼女が俺の腕を掴んだ。


「わ、わかりました。ロアス様がシャワー室に行かれたら脱ぎますから。お願いですからここにいてください」

「・・・そうか」




シャワーを終えて部屋に戻ると、リナ嬢は薄手の白いワンピース姿になっていた。

先程まで来ていたドレスを椅子に掛けて暖炉の前に座っている。

窓の外に目を向けると、雨足が先程よりも強くなっていた。


「今日は止まないかもしれないな」

「そうですね・・・」

「君の両親が心配するんじゃないか?」

「いえ、レイモンドさんが話してくださるので大丈夫だと思います」

「そうか・・・。俺も座っていいか?」

「はい」


隣に座ると、リナ嬢は自ずと俺から距離をとった。


「離れなくていい」


腰を持って引き寄せると、彼女がびくりと肩を震わせた。


「ロ、ロアス様?」

「どうした?」

「い、いえ」


彼女は恥ずかしそうに顔を背けた。


「ふっ・・・やっといつもの顔に戻ったな」

「え?」

「先程まではひどい顔をしていた」

「あ・・・すみません」

「謝らなくていい。ただ今日のことがトラウマになってしまわないか心配だったんだ」

「・・・・」

「無理して平然を装わなくていい。怖かったなら怖かったと言ってくれ。自分の心の中だけで処理しようと思わないでくれ」


俺を見つめる彼女の黒い瞳が迷っているかのように揺れた。


「俺も初めて命を奪った日は、それがたとえ魔物だとしても心が痛かった。何か一つでも違っていたら自分が命を落としていたかもしれない、仲間を失っていたかもしれないと思うと手が震えた・・・。だが俺には同じ思いを共有出来る仲間がいた。だから乗り越えることが出来たんだ」

「ロアス様・・・」

「君にも・・・俺がいるということを忘れないでほしい」


すると、彼女の瞳から大粒の涙が溢れた。


「私・・・怖かったんです・・・。もうだめかと・・・。両親にも・・・修道院のみんなにも・・・ロアス様にも・・・もう会えないかと・・・」

「そうか」

「ゴブリンが・・・こちらを見て笑ったんです・・・。それがあまりにも人間のようで・・・恐ろしくて・・・」

「そうだな・・・。あいつらには知性がある。俺も何度か戦ったが、まるで同族で殺し合っているかのような錯覚に陥ることがあるんだ。何度戦っても・・・あいつらと対峙するのは怖い」

「ロアス様も、ですか?」

「あぁ。俺にだって怖いと思うことはある」

「では今日も・・・」

「いや、今日は君を救うことに必死で恐怖は感じなかった」


俺は彼女の前髪に触れて額の傷を確かめた。


「痛むか?」

「いえ・・・平気です」

「そうか」

「ロアス様・・・助けに来てくださってありがとうございます」

「あぁ」


それからリナ嬢が眠りに落ちるまで、俺たちは暖炉の前で身を寄せ合っていた。






評価、ブックマーク、リアクション、ありがとうございます☺️



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ