6 魔物襲来
ロアス視点
↓
リナ視点
剣の鍛錬をしていると、一人の子供がこちらに向かって走ってきた。
『ロアス!ロアス!』
こいつは確か・・・レニーと言ったか。
『大変だ!先生が魔物に襲われたかもしれないって!』
何を言ってるんだ?
俺にはモンテタール語がわからない。
通訳が来るまでまだ時間があるしな・・・。
どうしようかと悩んでいると、レニーが俺のシャツの袖を掴んだ。
『リナ先生だよ!リナ!』
「リナ?」
『そう!リナ!』
リナ嬢に何かあったのか?
レニーに袖を掴まれたまま修道院の門までついて行くと、神父のモーガンと修道女が落ち着かない様子で立っていた。
『レニー、ロアスさんを連れてきたのかい?』
『うん。だってこの人強そうだし』
『でもロアスさんは言葉がわからないでしょう?』
『そうだけど、他に頼れる人いないだろ?なぁ、ロアス!リナ先生が講義の時間になっても来ないんだよ!そしたらさっき街道沿いに魔物が出たっていう緊急連絡が来たんだ!もしかしたら先生の馬車が襲われちゃったのかもしれないだろ?』
レニーが必死に訴えてくるが何を言っているのか理解出来なかった。
だがリナ嬢に危険が迫っていることだけは伝わった。
「わかった。剣と馬はあるか?」
『え?何?』
俺は身振り手振りで剣と馬が必要なことを伝えた。
『あ!剣だな!モーガンさん剣だって!あと・・・馬!馬もいるって!』
『わ、わかった。すぐに用意しよう』
しばらく待っていると、一人の修道僧が馬を二頭連れてきた。
彼は一頭の手綱を俺に渡すと、もう一頭に跨った。
『私が案内します。リナさんのお屋敷の方角はわかりますから』
『そうか。ではロアスさんをよろしく頼んだよ』
『はい』
どうやら彼が道案内をしてくれるらしい。
モーガンは修道女が持ってきた剣を受け取ると俺に手渡した。
『少し古びていますがまだ使えると思います』
『ロアス頼んだぞ!リナ先生を助けてくれよ?』
この時レニーが何と言ったのかわかった気がした。
「あぁ。行ってくる」
一刻ほど前、エンデルヘン街道ーーー
「う・・・」
いたっ。
額を触るとぬるっとした感触がした。
血だわ・・・。
先程馬車が急停止した拍子にぶつけてしまったのだ。
何があったのかしら・・・?
外の様子を確認しようと窓のカーテンを開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。
人間のようで人間ではない、緑色の肌をした魔物たちが外を徘徊していたのだ。
『お、お嬢様!ゴブリンです!』
御者のレイモンドさんが慌てて馬車の中に入って来た。
『ゴブリン!?どうしてこんなところに??』
『わ、わかりません!まさか街道にゴブリンが出るなんて!』
ゴブリンの生息地はレイズンの森、ここから50キロ以上は離れているはずよ?
『武器のような物を持っていました!あれで殴られたらひとたまりもありません!』
そんな・・・。
『今すぐ馬車を走らせてください!』
『む、無理です!前の道が塞がれているんです!』
どうすればいいの?
このまま馬車の中にいても安全とは限らないわ・・・。
『そうだわ。二頭の馬を馬車から外しましょう!馬に乗って引き返せば振り切れるかもしれません!』
『危険です!外に出てはなりません!』
『でもこのままここにいたら囲まれてしまいます!』
ゴブリンたちはまだこちらに注意を向けていなかった。
囲まれる前に何とかして逃げないと!
私は急いで外に出ると、馬車と馬を繋いでいる器具を取り外し始めた。
いつもレイモンドさんの作業を見ているから勝手はわかっていた。
『レイモンドさん!用意が出来ました!早く!』
『お嬢様、ありがとうございます!』
レイモンドさんに手綱を渡すと、彼は難なく馬に跨った。
私ももう一頭に跨ろうとしたけれど、馬には鞍をつけておらず馬の背に上がることが出来なかった。
『お、お嬢様、こちらにお早く』
そう言ってレイモンドさんが私に手を差し出した時、数匹のゴブリンがこちらに向かって来るのが見えた。
『先に行ってください!兵士を!助けを呼んでください!』
『そんな!お嬢様を置いて行くなんて・・・』
『ゴブリンが来ます!行ってください!私はどうにかしますから!』
私が急いで馬車の中に戻ると、レイモンドさんの声がした。
『お嬢様!必ず戻ります!』
レイモンドさんを窓から見送ると、私はカーテンを閉めてその場にかがんだ。
神様・・・どうかお助けください・・・。
しばらく息を潜めていると、ゴブリンたちの足音が聞こえてきた。
ザッザッザッ・・・
ガンッ
カンカンッ
コンッ
ゴブリンたちがすれ違いざまに馬車を叩いているようだった。
お願い・・・このままどこかへ行って・・・。
ガシャーンッ
『きゃあっ』
窓が割られて思わず声を上げると、中に何かがいるとわかったゴブリンたちが馬車を横から押し始めた。
いや・・・やめて・・・。
ドーーン・・・
馬車を倒された拍子にガラスの破片が降り注ぎ、私は咄嗟に顔を覆った。
『う・・・ゲホッ・・・ケホッ』
破片を払いながら体を起こすと、頭上から「はぁ、はぁ」という荒い息遣いが聞こえてきた。
まさか・・・。
恐る恐る顔を上げると、ガラスの割れた窓から一匹のゴブリンがこちらを見下ろしていて、その不気味に笑う顔を見た瞬間、背筋に冷たいものが走った。
ロアス様・・・助けて・・・。




