5 奉納祭
『わぁ!先生きれい!』
『女神様だ!』
『見せて見せて!』
部屋に入って来た子供たちが私を見るなり歓声を上げた。
今日は秋の実りを女神様に感謝する奉納祭。
地元で採れた野菜や果物を女神様にお供えして、大きな樽に入った葡萄酒をみんなで飲み交わす、年に一度のお祭りだ。
子供たちは思い思いの仮装をして、顔にはフェイスペイントを施していた。
私も修道女のお姉様方たっての希望で奉納の女神様の仮装をすることになって、先ほどから孤児院の一室で準備に勤しんでいた。
『あなたたちも素敵よ。すごく可愛いわ』
『へへっ』
『この剣かっこいいだろ?自分で作ったんだ』
『先生見て!私も可愛いでしょ?』
『やっぱり私の目に狂いはなかったわ!白いドレスもとてもお似合いですし、赤い髪もまるで女神様のようです』
そう言って修道女のアンナさんが満足そうに微笑んだ。
は、恥ずかしい・・・。
『さぁ、出来ました。どうですか?』
手渡された手鏡を覗き込むと、ハーフアップに編み込んだ髪には色とりどりの木の実が飾られていた。
『素敵ですね!アンナさんありがとうございます』
『ふふ。気に入っていただけてよかったです。では大聖堂に参りましょうか。そろそろ皆さん集まる頃ですから』
『そうですね』
私たちは大聖堂で祈りを捧げた後、急いで中庭へと向かった。
今夜は地元の方々が料理を持ち寄って大宴会が開催されるのだ。
会場に着くと、子供たちが私の手を引いた。
『先生、あそこ!あそこに座ろう!』
『そうね』
庭木には赤いランプが吊り下げられていて、長テーブルにはたくさんの料理が盛り付けられていた。
なんて幻想的なのかしら。
まるで楽園に迷い込んだようだわ・・・。
席に着いて辺りを見回してみたけれど、ロアス様の姿はなかった。
病室にいるのかしら?
奉納祭の日に一人で過ごすだなんて・・・。
『皆さん、お集まりいただきありがとうございます』
あ、モーガンさんだわ。
『今日は思う存分食べて飲んで、この恵みをくださった女神様に感謝いたしましょう』
モーガンさんの挨拶が終わると、屈強な男性たちが各テーブルにひとつ酒樽を運んできて、大きなハンマーで蓋を叩き壊すと会場は大いに盛り上がった。
『いいぞー!』
『自慢の筋肉をもっと見せろー!』
グラスに注がれた葡萄酒が皆さんに行き渡ると大宴会が始まった。
それからどれくらいの時間が経ったのか、私は少し酔いを覚まそうと席を立った。
久しぶりのお酒だったし、楽しくてつい飲み過ぎてしまったわ。
水を飲んだ方が良さそうね・・・。
そう思って調理場へ向かっていると。
『いてぇ・・・』
『あ、すみません』
どうやらぶつかってしまったようで、大きな男性が私を見下ろしていた。
『お姉さん酔ってんのか?足元がフラフラだぞ?俺が運んでやろうか?』
『い、いえ、結構です』
『遠慮するなって、ほら抱っこしてやるから』
『や、やめてください。本当に大丈夫ですから』
掴まれた腕を振り解こうとしたけれど、男性はびくともしなかった。
危うく腰を掴まれそうになった時、後ろから聞き覚えのある声がした。
「その手を離せ」
『・・・はっ?』
「・・・そうか。言葉が通じないんだったな」
『誰だお前?』
「はぁ。まったく不便だな」
そう言ってロアス様は私の腕を掴んでいる男性の腕を掴んだ。
「この手を離せ」
『何だ?こいつはお前の女か?』
「離せと言っているだろう」
『お前異国人か?』
「何を言ってるんだ?」
『何だって?』
「何だって?」
『・・・・』
「・・・・」
『ぷっ!あはははははっ!』
私は二人のやりとりが妙にツボにハマってしまった。
いや、ただ酔っていただけかもしれない。
すると、男性もロアス様も豆鉄砲をくらった鳩のような顔をして私を見下ろすものだから、さらに笑いが止まらなくなってしまって。
『きゃはははははっ!うふふふふふっ』
『何だこの女、心配して損したぜ』
男性は呆れて去っていった。
ロアス様も困った様子で私を見下ろしている。
「ご、ごめんなさい。ふふっ。少し酔ってしまったようです」
「そ、そうか・・・。君は笑い上戸だったんだな」
「いえ、そういうわけではないのですが。ふふっ」
「歩けるか?」
「大丈夫です。きゃっ」
よろけた私の肩をロアス様が支えてくれた。
「すみません」
「どれだけ飲んだんだ?」
「ん〜・・・6杯くらいでしょうか」
「飲み過ぎだ」
「だって、心の底から楽しいと思えたのは久しぶりだったんです。だからつい飲み過ぎてしまって」
「そうか・・・」
「ロアス様も楽しんでください。せっかくの奉納祭なんですから。スナーフェン地方の葡萄酒は本当に美味しいですから、飲まなきゃ損ですよ?」
「わかった。あとで顔を出そう」
そこからは意識が朦朧としていたけれど、ロアス様が私を背負ってくれた・・・ような気がした。
「はぁ・・・夢みたい・・・」
「・・・嬢・・・起きろ」
「んん・・・」
「リナ嬢」
「え?」
名前を呼ばれて目を開けると、綺麗なお顔が私を見下ろしていた。
「やっと起きたか。帰りの馬車が待ってるんじゃないのか?」
どうやらロアス様の病室で寝てしまっていたようで、私は思わず飛び起きた。
「わ、私ったら!申し訳ありません!」
どういうこと?
宴会でお酒を飲んでいたはずなのに・・・。
「君が酔っていたからここに運んできたんだ。だがそろそろ帰らないとまずいんじゃないかと思ってな」
「もうそんな時間ですか?」
「あぁ。宴会も今片付け始めている」
「そ、そうですか」
帰りが遅いとみんなが心配してしまうわ。
急いでベッドから降りようとすると、ドレスの裾がめくれ上がって太ももがあらわになってしまった。
きゃあっ。
下着が見えそうなギリギリのところでドレスを押さえつけると、ロアス様がバッと顔を背けた。
「す、すみません!お目汚しを!」
「い、いや、俺こそすまない!」
なんてことなのっ!
恥ずかしいったらないわ!
「で、では、失礼いたします!」
「リ、リナ嬢、靴を・・・」
私はロアス様のお顔も見ずに逃げるようにして病室を後にした。
「くくく・・・面白い人だ」




