3 感謝
「リナ嬢がどうして・・・ここは一体どこなんだ??」
ロアス様は少し混乱されているようだった。
「ロアス様、落ち着いてください。ここはモンテタールの修道院です」
「モンテタール?どうしてそんなところに・・・」
「ロアス様はドラゴンに連れ去られてしまったと聞きました。覚えていませんか?」
「ドラゴン・・・そうか・・・そうだった。振り落とされないように必死で・・・モンテタールまで来てしまっていたのか」
状況が飲み込めたのか、ロアス様は少し落ち着きを取り戻したようだった。
「ご無事で何よりです。お体は大丈夫ですか?痛むところはありませんか?」
「あぁ」
ロアス様は自ら触診して体の状態を確かめた。
「筋力は落ちているが問題なさそうだ」
「そうですか・・・」
「それで、俺はどれくらいここにいたんだ?」
「私は先程ここに来たばかりで、ロアス様がいつここへ運ばれたのかはわかりませんが、ロアス様が行方不明になったのは九ヶ月ほど前です」
「九ヶ月?」
「はい。捜索隊が探しても見つからず・・・」
「・・・・」
よほどショックだったのか、ロアス様は押し黙ってしまった。
すると私たちの様子を側で見守っていたモーガンさんが口を開いた。
『二人はお知り合いだったようですね?彼は大丈夫ですか?』
『あ、はい。ラビナスの方なんです。今のところ体に問題はないようです』
『そうですか。ですが念の為に治療師に見ていただきましょう』
『はい』
それからすぐに治療師が来たので、ロアス様を一通り診察してもらった後、私たちは二人きりにしてもらった。
「ラビナスで俺は亡くなったことになっているんだな」
「はい・・・。半年前に大聖堂で告別式が執り行われました。まさか生きていらっしゃるとは夢にも思わず・・・」
「そうだろうな・・・」
「どうされますか?すぐにでもご無事であることをご両親にお伝えした方が・・・」
するとロアス様は小さく首を振った。
「少し気持ちを整理させて欲しい。まだこの状況を受け止めきれないんだ」
しばらく沈黙が続いた後、ふとロアス様が顔を上げた。
「そういえば、リナ嬢はどうしてモンテタールに?セインは一緒じゃないのか?」
「・・・・・」
どう説明するべきか。
私たちが離縁したと知ったら、離縁に至った理由を推察してしまうかもしれない。
こんな状態のロアス様にそんな残酷な事実を知らせたくなかった。
「故郷が恋しくなったんです。セインもゆっくりして来てくれと言うものですから、お言葉に甘えさせてもらいました」
そう言って微笑むと、ロアス様は「そうか」とだけ呟いた。
「ラビナスに戻られる際は私が馬車と宿を手配しますのでご安心ください。ですがここからラビナスまでは馬車で8日はかかりますから、まずは体力を回復なさらないと・・・」
「そうか。8日もかかるんだな」
「はい。その前にご家族に手紙を出したい場合はいつでもおっしゃってください。次回便箋とペンをお持ちいたします。あとは・・・こちらにラビナス語が堪能な方がいらっしゃるかも確認しておきますね。言葉が通じないのは不便でしょうから」
「そうだな・・・。何から何まですまない」
ロアス様には休息が必要だろうと思い、私は早々に病室を出た。
それからモーガンさんに彼のことを話し、賃金はこちらで支払うので彼に通訳をつけて欲しいと伝えて私は修道院を後にした。
はぁ・・・本当に驚いたわ・・・。
私は帰りの馬車に揺られながらロアス様と再会した時の光景を思い返していた。
病室で彼と目が合った瞬間、彼が生きていたことに驚愕し、そして感謝した。
今でもあの時の感動と興奮を思い出すと手が震えるほどだ。
彼と私は特別な間柄ではなかったけれど、彼が亡くなった時は私も大きなショックを受けたし食事も喉を通らなかった。
セインには私が淡々と生活しているように見えていたのかもしれないけれど、私もロアス様の死を悼んでいたのだ。
神様・・・ありがとうございます。
私はこの時、これから物事がいい方向に向かっていく、そんな予感がしていた。




