15 招待
『本日はお招き頂きありがとうございます』
そう言ってコートニー様が完璧なカーテシーをした。
彼女はいつもより豪華なドレスを身にまとい、大ぶりなイヤリングとネックレスを着用していた。
『こちらに来て座りなさい』
お祖父様に手招きされ、コートニー様はロアス様の隣の席に座った。
ロアス様が日頃からお世話になっていることもあり、お祖父様が彼女をディナーに招待なさったのだ。
『君の家の食卓と比べると質素なものだろう。すまないね』
『そんな、我が家でもこんな豪勢なお料理は滅多にいただけませんわ。今夜はとても楽しみにしておりました』
『そうか。まぁ遠慮せずにたくさん食べなさい』
『ありがとうございます』
コートニー様はナフキンを膝にかけると、隣のロアス様に微笑んだ。
「いつもこんなご馳走をいただいているなんて、あなたが羨ましいわ」
「光栄なことだが、俺は太ってしまわないか心配だ」
「ふふっ。私も気を付けなきゃいけないわね」
二人はもうあんなに打ち解けているのね・・・。
メインディッシュが終わってみんなでお茶をいただいていると、コートニー様がロアス様に一通の封筒を差し出した。
「これは?」
「うちが主催している園遊会の招待状よ」
「園遊会?」
「毎年お祖父様が春と秋にお世話になっている方々を招待してささやかなパーティーを開いているの」
「そうなのか」
「あなたもこの国のパーティーがどんなものか見ておいた方がいいかと思って。社交界向けのモンテタール語を学ぶのも大切よ?もちろん侯爵様と奥様も招待しているわ。あなたには私のパートナーとして出席してもらいたいんだけれど、どうかしら?」
「・・・・」
『侯爵様、今ロアスさんも園遊会に誘っているんです。よろしいでしょうか?』
『そうか・・・。まぁいい経験になるだろう』
「侯爵様も賛成なさっているわ」
「そうなのか?」
「私の家族も一度ロアスさんに会いたいそうなの・・・」
「・・・・」
ロアス様はしばらく悩んだ後、渋々といった表情で了承した。
チェイストン家の園遊会はこの国でも最大規模のパーティーだとお祖父様から聞いたことがある。
まるでテーマパークのようだったとご満悦だったから、きっとロアス様も楽しめるだろう・・・。
ディナーが終わり、ロアス様と一緒にコートニー様を馬車まで見送ると、コートニー様が突然私の手を取った。
『ごめんなさいね・・・。園遊会にはパートナー同伴だと決まっているの。あなたもご招待したかったのだけれど・・・』
私にはパートナーがいないでしょうという意味ね・・・。
『お気になさらないでください。ロアス様をよろしくお願いします』
『えぇ・・・。今日はお招きありがとう』
コートニー様を見送って屋敷に戻ると、ロアス様が襟元のタイを緩めた。
「こういう堅苦しいのは苦手なんだ」
「もうすぐパーティーに行かれるのに大丈夫ですか?」
「だから悩んでいた」
「チェイストン家の園遊会は色んな催しがあって楽しいようですよ?」
「そうか・・・」
「冷えてしまいましたね。暖炉で暖まりましょう」
「あぁ」
それから数日後、突然ライオネルが私を訪ねてきた。
急いで応接室に駈けつけると、彼はウキウキした様子で私を待っていた。
『ライオネル、急にどうしたの?』
『手紙でも良かったんですけど、直接誘いたくて来ちゃいました』
『え?』
『これを見てください』
そう言って彼が差し出したのは一通の招待状だった。
そこにはチェイストン家、園遊会と書かれてあって・・・。
『うちからチェイストン家の商会に葡萄酒を卸している関係で、園遊会に招待されたんです。でも僕はその、パートナーがいなくて・・・』
『まさか・・・これに私を?』
『はい。リナさんを招待しに来ました』
・・・こんな偶然があるのかしら。
私が黙り込んでいると、ライオネルが不安そうに私の顔を覗き込んだ。
『迷惑でしたか?』
『いえ、そういうわけではないんだけど・・・』
『もしかして何か他の予定がありましたか?』
『・・・そうじゃなくて、お祖父様とお祖母様とロアス様も園遊会に行くらしいの』
あちらでコートニー様とロアス様に顔を合わせるのは・・・。
『リナさんが気が進まないんだったら他の方を誘った方がいいですかね』
『そうね・・・。他に誘える方がいたらそうしてもらえる?』
『リナさん以外かぁ。誰かいたかな・・・』
ライオネルはいくら考えても他に誘える女性がいないようだった。
『今回は諦めようかな・・・』
ライオネル??
諦めるのが早いんじゃない??
『ほら、同級生とか、果樹園の方とかいるでしょう?』
『いえ・・・貴族で未婚の女性となると・・・』
確かにライオネルは昔から女性の友人がいなかった気がするわ・・・。
『姉さんを連れていくわけにもいかないし・・・』
もう・・・仕方ないわね。
『わかったわ・・・。私で良ければ、一緒に行くわ』
『いいんですか??』
『えぇ』
こうして私も思いがけず春の園遊会に出席することになったのだった。




