14 再会
『わざわざ送ってもらってごめんなさい』
『いえ、久しぶりにリナさんのご家族にもお会いしたいので』
今朝、ライオネルが果樹園に行くついでに送ってくれると言うので、私はお言葉に甘えることにした。
玄関先まで見送ってくれたセティアのニヤついた顔ったら憎たらしくて仕方なかったけれど、私は気付かないふりをして馬車に乗り込んだ。
大事な弟を使ってセティアは何がしたいのかしら・・・。
半刻ほどして我が家に到着すると、馬車を降りたライオネルが深いため息を吐いた。
『はぁ・・・懐かしいな・・・』
『ふふっ。この時間ならみんな広間にいるかもしれないわ。さぁ、入って』
『ありがとうございます』
ライオネルと他愛のない会話をしながら中に入ると、そこには思いもよらない人が立っていた。
「ロアス様!?いつ戻られたんですか!?」
ロアス様は私を見るなりホッとした顔をしてこちらに歩いてきた。
「昨夜到着した」
「そうだったんですね!お早いお帰りでびっくりしました!」
「早く君に伝えたいことがあってな」
「伝えたいこと?」
もしかしてマイラさんのことかしら・・・。
『リナさん、そちらの方は?』
『あ、ライオネル、こちらの方はラビナス王国の侯爵家のご子息、ロアス・ランヒューレ様よ』
『ラビナスの?』
「ロアス様、彼は私の幼なじみの弟で伯爵家のご子息、ライオネル・ヘンアット様です」
「初めまして。ライオネル・ヘンアットです」
「え??ライオネル、ラビナス語を話せるの?」
「はい。昔からリナさんに教わってたでしょう?リナさんがラビナスに行ってからもラビナス語を勉強してたんです」
「そうだったの??」
「それはすごいな・・・。ロアスだ。よろしく頼む」
「こちらこそ」
「ロアス様は今私の護衛をしてくださっているの」
「え?護衛ですか?」
「えぇ。色々とあって・・・」
『まさか、何か危険な目に遭ったんですか??大丈夫でしたか??』
ライオネルは驚いた顔で私の肩を掴んだ。
『だ、大丈夫よ!ロアス様が助けてくれたから!驚かせてごめんなさい・・・』
『いえ・・・無事だったならいいんです』
『あ、そうだ。みんなに会って行くわよね?』
『あ・・・はい』
ライオネルに家族と久しぶりに会ってもらって、彼を馬車まで見送ると、私はロアス様の待つ応接室へと向かった。
「お待たせしてすみません」
「いや・・・彼は帰ったのか?」
「はい。今見送って来ました」
「そうか・・・」
なんだかロアス様の顔色が優れないわ。
「ロアス様、昨夜お着きになったばかりでまだ疲れていらっしゃるのではないですか?お部屋でお休みになってください。話はまたあとでも・・・」
「いや、今君に聞いてほしい」
「そうですか・・・」
ロアス様はラビナスでセインとマイラさんと話し合った内容を教えてくださった。
「マイラさんがそんなことを・・・」
「あぁ。俺も驚いた」
「あの時はついカッとなってしまって、後で言い過ぎたのではないかと後悔していました」
「いや・・・君のおかげでマイラは変わろうと思えたんだ。マイラは昔から揉め事を避けるきらいがあったが、君と話したことでこのままじゃだめだと思ったんだろう」
ロアス様は彼女のことをよくご存知なのね・・・。
「でもまさか二人が婚約を破棄するとは思いませんでした」
「そうだな・・・。二人とも一度ゆっくり考えたかったんだろう・・・。それと、マイラからこれを預かった。宿代だそうだ」
「あ・・・わざわざありがとうございます」
封筒の中にはお金と、謝罪と感謝の言葉が綴られた手紙が入っていた。
「セインも君にすまなかったと伝えてほしいと・・・」
「そうですか・・・。ありがとうございます。これで二人のことを考えるのは最後にしたいと思います・・・」
「そうだな・・・」
恨み続けるのではなく、これからは二人のことを忘れて生きていきたいと思った。
「護衛の仕事も長い間休んで申し訳なかった。昨夜君のお祖父様と話して、今日から復帰させてもらうことになった」
「そんな、もっとお休みになられて良かったのに」
「いや、俺も体を動かしたいんだ・・・。あと、モンテタール語の家庭教師をつけてもらうことになった」
「そうなんですね。私がお教え出来れば良かったんですが・・・」
「君は講義の準備で忙しいだろう」
「忙しいわけではないのですが、ちゃんとした方に教えて頂く方が良いかと思いまして・・・。でも何か質問があればいつでも聞いてくださいね」
「あぁ。頼りにしている」
数日後ーーー
『お嬢様、先程ロアス様の家庭教師の方がいらっしゃいました』
『そう・・・』
『貴族の女性のようでしたよ?もしかしたらお嬢様もご存知のお方ではないですか?』
『貴族の女性?』
お祖父様のご友人のお孫さんだとは聞いていたけれど、女性だったのね・・・。
『お名前はお聞きした?』
『確か・・・コートニー様だったかと』
『コートニー??』
まさか貴族学院の一つ上の学年にいた、あのコートニー・チェイストンじゃないわよね??
『もしかして、銀髪の綺麗なお方だった?』
『あ、はい。とても綺麗なお方でした』
やっぱりそうだわ。
まさかロアス様の家庭教師がコートニー様だなんて・・・。
彼女は学院を首席で卒業したとても優秀な方で、ラビナス語が堪能なことでも有名だった。
確かお祖父様が貿易商会を営んでいて一族みんな大富豪なのよね。
働く必要のない彼女がなぜ家庭教師の仕事を・・・。
『後で挨拶に行ってみるわ。応接室で講義をするのよね?』
『はい。週に2回、応接室をお使いになるそうです』
彼女に会うのは彼女が学院を卒業してからだから、5、6年ぶりかしら?
数刻後、講義が終わるのを玄関ホールで待っていると、ロアス様とコートニー様が応接室から出てきた。
『あら?リナさん、お久しぶりね』
コートニー様は相変わらずお美しかった。
光の加減によっては白く見えるほどの明るい銀髪は、まるでおとぎ話に出てくる妖精のようだった。
着用しているパープルのドレスも一目で高価なことがわかる逸品で、シルクの刺繍が細部にまで施されていた。
『コートニー様、ご無沙汰しております』
『講義の前に挨拶に行けなくてごめんなさいね。馬車が遅れてしまったのよ』
『そんな、とんでもないです。私こそお出迎え出来ず申し訳ありませんでした。まさかロアス様の講師がコートニー様だとは・・・』
『あら?お祖父様からお聞きになっていなかったのね。私はリナさんのご実家だとわかっていたのよ?あなたに会えるのを楽しみにしていたわ』
『それは光栄です・・・。我が家で何かご不便なことがありましたらいつでもおっしゃってください』
『不便なことなんてあるはずがないわ?とても素敵なお屋敷ね・・・。それにロアスさんも素敵な方だし・・・。毎日彼と過ごせるあなたが羨ましいわ』
『え?』
『ふふっ。冗談よ。では私はあなたのお祖父様にご挨拶してから失礼するわ』
『あ、はい。執務室にいらっしゃいます』
「ではロアスさん、次回までに課題を終わらせておいてくださいね」
「はい」
「ではリナさん、ご機嫌よう」
「はい。失礼いたします」
執務室へ向かうコートニーさんを見送ると、ロアス様が首を傾げた。
「彼女と何を話していたんだ?」
「あ・・・コートニー様は学院時代の先輩なんです」
「そうだったのか」
「お久しぶりなのでご挨拶していました。講義はいかがでしたか?」
「あぁ。彼女の説明は簡潔でわかりやすかった」
「それは良かったですね」
「忘れないうちに少し復習をしたいんだが、時間はあるか?」
「もちろんです」
それから執務室でロアス様にモンテタール語を教えてみたのだけれど、カタコトのロアス様があまりにも新鮮で可愛くて、私はずっとにやけてしまうのだった。




