12 清算
ロアス視点
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リナ視点
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ロアス視点
俺はマイラをラビナスの自宅に送り届けると、彼女の両親にこれまでの経緯を話して自分の屋敷へと戻った。
父上と母上は予期せぬ息子の帰還に喜んだが、マイラの件を話すと難色を示した。
昔から両親はマイラのことを我が娘のように可愛がっていたが、俺が亡くなってすぐにセインと結ばれたことに関しては、二人も思うところがあったようだ。
翌朝、俺はセインの元を訪れた。
今はリナ嬢と結婚をした時にあつらえた屋敷に一人で暮らしているようだった。
侍女に応接室に通されて待っていると、ガウン姿のセインが入ってきた。
「ロアス・・・」
「朝早くにすまないな」
「いや・・・。お前がマイラを連れ戻してくれたと彼女の両親から聞いた。すまなかった・・・」
昨夜は眠れなかったのか、セインは疲れ切った様子だった。
「まさかモンテタールまでお前に会いにいくとは思いもしなかった・・・。迷惑をかけたな」
マイラが俺のことを忘れていないとわかっていながら、セインはマイラのすべてを受け入れようとしている。
その献身的な姿に胸が痛んだが、同情するのは違うと感じた。
「今後はこういったことがないようにマイラとちゃんと話し合ってくれ」
「あぁ・・・。だがマイラが聞く耳を持ってくれなくて・・・。あいつは昔からずっとお前が好きだったからな」
「・・・・」
俺もマイラのことが好きだった。
そしてセインもマイラのことが好きだということに俺は気付いていた。
だが21歳になった頃、急にセインが婚約者を紹介したいと俺たちを呼び出した。
まさかセインが他の女性を好きになるとは思いもしなかったが、リナ嬢に会った瞬間、セインが彼女を好きになるのもわかる気がした。
彼女は凛としていて実年齢よりも大人びた美しい女性だった。
セインが彼女を愛したのならと、俺はこの時マイラに婚約を申し込むことを決意した。
だが俺が死んだことになり、その後セインとマイラが結ばれたと知って俺は衝撃を受けた。
それはマイラが奪われたからではなく、セインがまだマイラのことを愛していたとわかったからだ。
自分の気持ちを偽ってリナ嬢と結婚したことに対して怒りが湧いた。
だが冷静になって考えてみると、あの時そういう選択をしたのは俺のためかもしれないとも思った。
自分のことは気にせず一緒になってくれと、俺の背中を押したかったのかもしれない・・・。
「マイラもそのうち俺のことは忘れるだろう」
「そうだといいけどな・・・。まぁ気長に待つよ」
お前はやっと自分の気持ちに正直になれたんだな・・・。
「失礼いたします」
侍女がお茶を運んできたが、長居をする気はなかった。
「マイラが落ち着くまでは王都に滞在しようと思う。何かあったら連絡をくれ」
「そうか・・・。ありがとう」
『本当にロアス君をラビナスに行かせてしまって良かったの?あんな子放っておけば良かったじゃない』
私の部屋を訪れたお母様がここぞとばかりに不満を漏らした。
お母様は他の家族がいる場ではこういう話はなさらないけれど、二人きりになるとこうやってロアス様とのことを聞いてくる。
『あのままマイラさんをモンテタールに置いておくわけにはいかないもの。一人ではきっと帰らなかっただろうし・・・』
『そうだけど・・・。ロアス君がいつ戻って来られるかわからないじゃない。あの子が立ち直るかどうかなんてわからないんだから』
『きっと大丈夫よ・・・。ラビナスにはセインもいるんだから』
『あんな男頼りにならないわよ!もしもロアス君とあの子が縒りを戻してしまったらどうするの?』
『もしそうなったとしたら・・・それが二人の運命なんでしょう』
マイラさんを送ってほしいと頼んだのは別に彼女のためだけではなかった。
彼女にもしものことがあったらロアス様が後悔してしまうと思ったから・・・。
でもそれによって二人がどうなるのかまでは私にもわからなかった。
『この子ったら・・・強がりなところは誰に似たのかしら?』
『お母様でしょう?』
『そうね・・・。悪かったわ』
お母様が部屋から出ていくと、私は深いため息を吐いた。
お母様に言われなくても、ロアス様がいつこちらに戻って来るのか、本当に戻って来てくれるのか、私は毎日そのことばかりを考えていた。
いつの間にか私の中でロアス様の存在が大きくなっていて、ここのところ何をするにも彼のことが思い浮かんだ。
美味しいものを食べればロアス様にも食べてもらいたいし、美しい夕焼けを見たら彼に会いたいと思った。
でも私はこの気持ちを認めてしまうのが怖かった。
だってロアス様からしたら私は幼なじみの前妻・・・愛してもらえるはずがないのだから。
もしかしたらこのままロアス様が戻って来ない方がいいのかもしれない・・・。
そんなことを考えながら、雪の舞う空を窓からずっと眺めていた。
数日後、セインに呼ばれてまた屋敷を訪れると、応接室にマイラの姿があった。
セインと二人で話していたようで、二人とも泣き腫らした目で俺を待っていた。
「ロアス、また来てもらってすまない」
「いや・・・」
「マイラと俺から話があるんだ」
二人の顔からはなぜか笑みが溢れていた。
「俺たち、婚約を破棄することにしたんだ」
・・・はっ?
「二人で話し合って決めた・・・」
「どういうことだ?」
「お前が死んだと思ったから俺たちは婚約をした・・・。だからこの関係は一度解消した方がいいと思ったんだ」
「だが・・・婚約を破棄したからといって俺は・・・」
「わかってる。今更お前とマイラが元に戻れないことは・・・。でもマイラもそれでいいと納得してるんだ」
「・・・そうなのか?」
マイラは俯きながら微笑んだ。
「えぇ。もうこれ以上誰かに頼るのはやめようと思うの。やっと気付いたの・・・このままじゃダメだって」
マイラから想像も出来ない言葉が返って来たことに俺は内心驚いていた。
「ラビナスに戻って来るまでにマイラも色々と考えていたそうだ・・・」
「リナさんがテネッタまで送ってくれた時、彼女に言われたの・・・。これは私の弱さが招いたことでしょうって・・・。それからずっと考えていたけど、本当にその通りだったわ。私がもっと強ければ、セインに頼ることもなかったし、セインとリナさんが離縁することもなかった。ロアスも私の元に戻って来てくれたと思うの。だから、こんな自分を変えたいと思った・・・。これからは二人に頼らずにやっていくわ」
「・・・そうか」
「これまで迷惑をかけてごめんなさい」
セインは隣に座るマイラの手をずっと握っていた。
これからもこいつはこうやってマイラを愛し支えていくのだろう。
「リナさんにも迷惑をかけたことを謝っておいてほしいの。あとこれ・・・宿泊料を立て替えてもらっていたから、彼女に渡してもらえる?」
「あぁ」
「俺からも・・・すまなかったと伝えてくれ」
「わかった。伝えよう」
「ロアス・・・元気でな」
執務室から出た俺は自然と笑みが溢れていた。
早くリナ嬢に伝えないとな・・・。
この時、長い間止まっていた時間がようやく動き出した、そんな気がした。
〜第一章 完〜




