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リナ視点
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ロアス視点
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リナ視点
「ロアス様、今日は寄り道をしてもいいですか?」
「あぁ。構わない」
御者のレイモンドさんに行き先を告げてしばらくすると、街道沿いの街テネッタに到着した。
ここはそれほど大きくはないけれど、家から一番近くて一通りの物が揃う便利な街だ。
「どこへ行くんだ?」
「ここです」
馬車を降りると、昔からお父様が通っている老舗の紳士服屋さんへと入った。
「服を買うのか?」
「いえ、服ではなくて・・・」
私は飾ってあった耳付きの帽子を手に取った。
「これです。モンテタールの冬はラビナスよりも寒いですから、馬に乗る時にはこれが必要なんです。一度被ってみていただけますか?」
「俺か??」
「はい」
ロアス様は渋々といった感じで帽子を被った。
か・・・かわいい。
まるで耳の垂れた大型犬みたいだわ・・・。
「これにします」
「買うのか??」
「はい」
はぁ・・・早くこれを被って馬で駆けるロアス様を見たいわ・・・。
店を出ると、ロアス様も少し必要なものがあるというので、日用品や食料品を一緒に見て回った。
買い物を済ませて屋敷に戻ると、門の近くに見知らぬ馬車が止まっていた。
誰かしら?
お客様でもないようだし・・・。
お客様であれば馬車を門の中にお通ししているはずだ。
レイモンドさんが呼び鈴を鳴らして門が開くと、先ほどの馬車から貴族のご令嬢が降りてきた。
綺麗に巻かれた銀髪にあの華奢な体つき・・・。
私の心臓はうるさいほど早鐘を打っていた。
ロアス様は彼女に気付くなり深いため息を吐いた。
「すまない・・・いってくる」
ロアス様が馬車から降りると、レイモンドさんが御者台側の小窓を開けた。
『お嬢様、どうされますか?お待ちになりますか?』
『いえ・・・先に入りましょう』
「マイラ・・・どうしてこんなところに」
マイラは目も合わせず俯いたまま口を開いた。
「ただ・・・あなたに会いたくて」
「・・・何度も言っているだろう。セインと幸せになれと・・・。セインはこのことを知っているのか?」
「いいえ。ここへ来ることは言っていないわ・・・」
ラビナスにいる間もこうやってマイラは俺を訪ねてきた。
もう過ぎたことだと何度も言ったが、マイラは納得していない様子だった。
「今更俺にどうしろと言うんだ?もう元には戻れない・・・。お前にもわかるだろう?」
「でも・・・私はまだ・・・あなたのことが・・・」
だったらなぜセインと・・・。
「ラビナスに戻ってくれ」
「ロアス・・・」
マイラが俺の腕を掴もうとしたが、俺はそれを避けるようにしてその場を後にした。
屋敷に入ると、玄関ホールでリナ嬢が待っていた。
「すまない。マイラがこんなところまで来るとは思わなかった」
「いえ・・・彼女は?」
「ラビナスに戻れとは言ったが・・・」
「そうですか・・・」
彼女もマイラの顔を見るのは辛いだろう。
ラビナスにいる間にもっと強く言っておくべきだった。
数刻後、夕食を済ませて部屋に戻ろうとすると、リナ嬢に呼び止められた。
「ロアス様、まだ門の外に馬車がいるようです」
「そうか・・・」
「この季節にこのまま屋外にいるのは危険です。御者の方も心配ですし・・・」
モンテタールの冬は厳しい。
この時刻はすでに氷点下になっているだろう。
だがここでまたマイラに会いに行ってしまったら・・・。
「私に行かせてください。私も彼女とは一度話さなくてはならないと思っていました」
「だが・・・」
リナ嬢は外套を羽織ると微笑んだ。
「大丈夫です。説得出来るかどうかはわかりませんが、いってみます」
馬車の扉をノックすると、マイラさんが窓から顔を覗かせた。
「近くの宿にご案内しますので、馬車でついて来てください」
「・・・・」
「このままだと御者の方が倒れてしまいますよ?」
マイラさんがコクッと頷いたので、私は御者の方に馬車で先導するのでついて来て欲しいと伝えた。
テネッタの宿に到着すると、私は二人分の部屋をとって御者の方に鍵を一つ手渡した。
「ありがとうございます」
「マイラさんは私が部屋にお連れしますので、先に休んでください」
「そうですか・・・。では、よろしくお願いします」
マイラさんを部屋に連れて行くと、私は暖炉に火をつけた。
「すぐに暖まりますから」
「・・・・」
マイラさんは気まずそうに入り口付近に立ち尽くしていた。
「座ってください。すぐにお茶を淹れますので」
私は備え付けのキッチンでお湯を沸かすと紅茶を淹れてマイラさんに手渡した。
「まさかあなたがこんなところまで来るとは思いませんでした」
「・・・・」
「セインはどうしたんですか?彼は知っているのですか?」
「・・・・」
「黙っていてはわかりません・・・。これまであなたの気持ちを周りの方が代弁してくださっていたのかもしれませんが、今は私とあなたしかいないのです」
するとマイラさんはハッとした顔をして私に目を向けた。
「あなたは私からセインを奪った時も、私に弁解も謝罪もなく、会いにすら来ませんでしたね」
「・・・それは・・・あなたに顔を合わせづらくて・・・。でも、セインとのことは誤解なんです!」
「誤解・・・?」
「私はあの頃、ロアスが死んでしまったと思って・・・苦しくて辛くて・・・セインに頼ってしまったんです。でもあなたからセインを奪うつもりはありませんでした・・・」
あんなことがあったのだから、誰かに縋りたくなるのもわかるわ。
「ですが・・・セインに頼り続けることで私たち夫婦がどうなってしまうのか、あなたは考えるべきでした。私は夫を失い、ラビナスでの居場所を失ってしまいました。お祖父様の家名にまで傷をつけてしまって・・・」
「ごめんなさい・・・」
「謝罪は結構です。あなたがどんなに悔いたところで今更すべてを元に戻すことなど出来ないのですから・・・。私はセインと寄りを戻すことも、ラビナスに戻ることも出来ないのに、あなただけロアス様と元通りになるおつもりですか?そんなことが許されると思いますか?」
「・・・でも私は・・・今でもロアスのことが・・・ゔぅ・・・」
彼女の泣く姿など見たくなかった。
あなたはこうやってセインに泣き縋ったんでしょう??
「泣くのはやめてください!!これはあなたの弱さが招いたことではありませんか!あなたのせいで私もロアス様も、こんなに傷ついているというのに、まるで自分だけが被害者のような顔をしないでください!不愉快です!!」
「・・・ゔぅ〜〜〜」
マイラさんは大粒の涙を流しながら何度も謝罪の言葉を繰り返した。
彼女はこれ以上話せる状態ではなかったので、私は御者の方に挨拶をしてから宿を出た。
屋敷へ戻ると、ロアス様が玄関ホールで私の帰りを待っていた。
「大丈夫だったか?」
「はい。私は大丈夫ですが・・・」
「どうかしたのか?」
「実は・・・ロアス様にお願いがございます」
「なんだ?」
「マイラさんをラビナスまで送っていただけないでしょうか」
するとロアス様が目を見張った。
「彼女にも気持ちを整理する時間が必要なのだと思います。それまではあまり突き放さずに、時間をかけて説得してみてはいかがでしょうか」
こんなことを言ったらロアス様を困らせてしまうかもしれないけれど、あんな状態の彼女を異国の地に放っておくことは出来なかった。
ロアス様は少し思案してから深いため息を吐いた。
「そうだな・・・。わかった」
「ありがとうございます・・・」




