【Sea State.5】Shake the Rock
咸臨平頂海山上空 戦飛902、A14K4 中山機
<<902!南鳥島観測所から通信途絶!緊急電では北方より40機を超える機影を確認!到着予定時間は・・・!>>
通信音声ががなり立てている。ここにいるのは、CAP中だった908の3小隊の3機とおっとり刀で上がった私達902の2機の5機しかいない。推定8倍の数だが、当然の事として遅滞の為にそのまま突っ込まされるだろう
『年貢の納め時かな?』
『嬉しそうに言うんじゃねぇよ、中山、世は常に一天地六だろ』
心底嬉しそうに不破が応える。まぁそうだ、もともと退役間近だった<<薩摩>>には固有の航空隊はおらず、基幹要員と成績優良な搭乗員を集めてあらためてでっちあげた航空隊に過ぎない。そんな俺たちが第一艦隊や第二艦隊の連中ですら味わえない、本当の実践空戦をやる事が出来るんだから、これが愉快でなくてなんだって言うんだ
『で、どんなイカサマ思いついたんだ?』
『まぁ、無策で突っ込むわけにはいかねぇしな』
砕風改の特徴としては超長距離AAMである七六式を6発搭載できるというのが売りの機体であるが、CAP任務の際は不明機に接近して警告を行ったりする関係上2発しか積んでおらず、残りのハードポイントには七〇式中距離AAMが4発、短距離AAMの七八式が2発の構成となっている。(年式は皇紀由来)
『七〇式、目標無しでホットランチ出来るよな?』
『そりゃ出来なくもないが』
その回答にほくそ笑む、艦隊対抗の戦評空戦会で第二艦隊の連中が第一艦隊の連中にやったってのを部隊報を片手に[センセイ]から聞いたのを覚えていた。アレンジを忘れてはいけないよ、というのも含めて
『七六式を撃った後、すぐに緩いトスボミングの要領で2発撃つ。七〇式は撃ちっぱなしの出来るミサイルだ、命中精度は落ちるが、カタログスペックより遠くに飛ばせる』
『お前それ、お互いの編隊が大きい場合にの話だし、それでも届かねぇだろ』
当然の話であるが、ミサイルギャップの緩和のための行為だけれど、それだけミサイル側も燃料を使っているのもあって、回避機動やチャフ、フレアなどの対抗措置に弱くなって回避されやすくなるので、投げるなら数と、当てようとする母数を大きくしないと無駄弾になるぞという指摘である
『知ってるさ、でも連中は知らねぇ』
『ハッタリかますってか?ハッたまんねぇな、乗るぜ!』
不破が楽しそうに了承する。兵装担当士官ってやつはそうじゃなきゃな。連中の皮算用としては分派状態のこっちが投げてくる長距離AAMでの損失を少なくしてスクランブルしてくる残りの機を対処したいってのは透けて見えてる。その許容量を超えるとなれば散開するしかない。この散開ってーのが厄介で、ミサイルのロックを外すべく編隊を解いて運動を始めるって事だが、ロックされてない機もロックを外したミサイルからの再ロックをされない様に(編隊を構成する以上、可能性は低くない)アラートが出てない機もバラけるのだ。こうなると個々の空対空戦闘に至るので、ミサイルによる槍衾を叩き合うような戦闘と比べると撃墜効率は一気に落ちる。5機が40機だかに挑んですぐにすり潰されないようにするには、これしかねぇ
<<908の3、ちょいと付き合いな>>
かいつまんで無線でこっちの考えを伝える。908の方は最大射程で七六式を投げた後は運天(運を天に任せる)で七〇式を放るぐらいしか手が浮かんでいなかったので渋々同意した。あっちのAMRAAMも間違いなく傑作なので、まともにやり合ったらこっちが軽く捻られるのは明らかだもんな
『目標振り分け、完了したぜ』
接敵まで時間がそうないのもあるが、各機と調整しつつ手短に不破が仕事を仕上げる。
『仕事が早い。大したもんだ』
『スマートストライクが信条でな』
まったく、大した野郎だ。操縦桿を操作して編隊を形成する。相対距離もこんなもんだろう
<<各機、フランソワ3!フランソワ3!>>
バシュッバシュゥッ
こちらの号令に合わせて、10条の白煙が伸びていく、見惚れているわけにも行かない。機首を上げてもう一度
<<フランソワ2!フランソワ2!>>
放たれる目標無きミサイルに後席が中指を立てつつ吠える
『こいつがブレイクショットってな!』
米空軍 第313戦闘飛行隊、F-15C++ ジャジル機
アラスカから飛び立った戦闘機隊で、この空域に到達したのは40機中37機だった。それぞれ、エンジントラブルと給油機との給油失敗によるものになる。機体はF-15C++、空軍は戦闘飛行隊をおおよそF-22Aに機種更新予定であったが、海軍がF-35Cに追加で海軍機仕様のF-22Nを開発するにあたり、現用機のイーグルを近代化改修したものになる。更新前の代車と言った体であるが、現場では好評だった。崩壊したソ連機の相手をするのに、不足を感じることはなく、F-22Aに到っては過剰とすら話されていた
『しかしどうかな、日本人は』
突然の戦闘任務に皆が怪訝に思ってはいたが、正式な命令系統から下されたものには従うしかないし、実戦に興奮もしていた。日本人どもはどこまでやれるのか。空軍だとアイスランドのケプラヴィーク配備の航空隊がRAFと対峙しているのが序列で一番で、二番がアラスカでロシア人と対峙している俺たち、三番がイタリア人やフランス人と対峙してるリベリアのロバーツフィールドだから今更ながら初見参に近い。サイファーだか砕風だか言うイエロートムキャットは、海軍機乗りの連中が高尚に言うほどの相手か見てやらねば
<<アルカイド4よりアルカイド1、相手にロックオンされた>>
同様の報告が隊の各人からあがる。ここまでは予定調和だ、連中もAIM-54と同じような長距離AAMを保持しているのは知れているが、そいつは基本的に対爆撃機用で機動性に欠けるものだから、対抗処置である程度阻止できる。今迎撃に上がってきているのはCAP任務中の機であるのは支援で後方にいるE-3C(コールサイン:ポラリス)から伝えられていたし、長距離AAMの搭載数には限度があるから、あとは押し潰せばいい。しかし、スパイクコールはそこで終わりじゃなかった
『まさか、ここまで届くの!?』
幸いにして自分の機体はスパイクされていないが、仮に10機も落とされてしまえば後続機とイーブンにされてしまう、となると護衛任務に支障をきたすだろう。散開するしかない、そう思ってハタと気づく
<<アルカイド3よりポラリス、敵機の直近の行動を報せ>>
<<ポラリスよりアルカイド3、若干の高度上昇、加速中>>
本来なら通信が混雑するので長機以外がAWACSに投げかけるのは違反行為だが、構っていられない。加速中はこっちのレーダーでも捉えている。若干の高度上昇、機首を上げたんだな、という事は。つまり・・・ハメられっ
<<アルカイド1より各機!散開!>>
AWACSに問い合わせている分、一手間に合わなかったっ!接近してくるのは格闘戦を意図してだ、脅しのためを考えるなら中距離AAMも全部撃ち放しても良かった筈なのに、それをしないのは連中が逃げるだけでなく、後続の到着までこちらを拘束し勝ちを譲らないつもりだからだ。なんたる強欲!周りのスパイクを受けた機以外も散開を受けて回避機動を始める
『チッ上等じゃない!』
自分だけでなく、アリオトの方の何機かも散開せずに残っている。クソ度胸か、それともズブいのか、突っ込んでくる機体をロックする。一瞬遅れてこっちにスパイク、そうよね、連中からしたら一番私たちの方が脅威よね
<<FOX3!FOX3!>>
AMRAAMをロックした相手に2本放ち、軽くなった反動を生かして翼を翻し回避マニューバへ、お互いがミサイルを撃ち合う形になればここからは一緒だ、距離が近くなった分、必中界に入り込んでる可能性が高い。昔のように撃ちっぱなしが出来ていなければ、命中するまで照準し続けなければならなかった時代よりはマシだが
『ぐうううううううう!!!』
交錯するミサイル。鳴り響くアラーム音が消えない。かかるGに歯を食いしばって耐えつつ、来てるだろうミサイルに対して見せかけの表面積が減るように操縦桿を動かし、対抗措置としてチャフも撒く。良い加減にしなさいよ、垂れちゃうでしょ!乳が!
目まぐるしく変わる空中の景色の中に爆煙も見かけるが、敵味方どちらかなのかわからない。訂正、マシだといったけど敵から目を離さなきゃいけないのもそれはそれで恐怖なのだというのも良くわかるわ
『コイツッ!』
アラームが消えてすぐ、頭上を擦過していった機影、味方じゃない。目視確認、日本人だ!ドッグファイトなら勝てると思ったか艦載機乗りめ!
A14K4 中山機
『まずいぞ中山!敵に囲まれる!』
『んなの最初から分ってんだろ!』
さっきの機体、ヤり損ねた機体が絡んでくる。こっちのハッタリに乗らなかった奴だ、続けて七〇式を投げてやったが上手く避けたようだし、こっちが突っ込みすぎて機銃で仕留められなかった。元々ハッタリの七六式は命中をきせない弾であったし、アラートが切れた機体から復帰してくるわけで、追跡機は増えていくばかりだ
『間に割り込ませないよう機銃でいく!』
『さっき躱したんでチャフもフレアも残量そんなねぇぞ!』
不破と怒声を交わしつつ同意を得る。必要なのはミサイルをロックされて撃たれることだ。こっちにも最低射程というのがあるので残り2発の短距離AAMは使えなくなるが、そうでもないと割り込まれるか、遠巻きにロックされて終わりだ
川西お得意の自動空戦フラップから発展した砕風の可動翼が機動力を上げるべく翼を広げる。こいつのおかげで機動力も負けねぇ、翼下装備のハードポイントが少なくなってるのは目をつむる!相手のイーグルもよく回る、ジャジャ馬め!
『思った以上にやる!』
『おい!ケツにつかれた!団子だぞ!』
相手もミサイルで仕留めるのをあきらめて、1機が中山機のケツに食らいつく。そうだよな!同じように銃で食うなら問題ねぇよな!
『やっこさんとの距離はどうだ!?』
『こっちの25㎜ならもう撃たれてる!』
『ならフレアだ!フレア撒け!目くらましだ!』
『おい、サイドワインダー(赤外線誘導である)をこれからどう避けんだよ!知らねぇぞ!』
ボボボッ
思い切りよくフレアをまき散らす。当然発火するものが目の前に現れるわけなので驚いた敵機が一時的に離れる。速度を落としたくないし、離れたくもないので円を描くうちに高度もだんだんと下がっていく。まだ味方は来ないのか!
『くっそ!いいぜぇ、ヒリついてきたぜ!』
Gをこらえつつ、そう言い放って歯を嚙みしめる。G自体は後席の方がキツいので、もう不破も言葉も出ない。高度を失えば当然高度を復帰させるのに時間が必要になる。成層圏にいる爆撃機の方の護衛に差し障りが出てくるから、それはそれで勝利条件を満たせる。満たせはするが、戦闘機乗りは生き残ってなんぼだ。ギリギリのところで可能性を踏んできたが、正直もう厳しい、目の前の相手にはもうすぐ届いて差せそうだが・・・!
F-15C++ ジャジル機
『振り切れ・・・ない!』
僚機が助けに来てくれたが、フレアで上手く離されてしまった。もう一度喰いついてきてくれてもその前にこっちは落とされているだろう。イジェクションシートに手が伸びる、落とされるのもシャクだが、ここで死ぬつもりもない
<<ポラリスより各機、新たな敵機接近中、接敵中の機を除き、集合せよ>>
ここで集合がかかってしまった、まずい、自力でどうにかしなきゃ、何か手を・・・手を、そうだ!フレアじゃなくとも、F-35ではHMDで出来ることがある、この機体とこのヘルメットでは出来ないけれども、それを敵は知らない!
ガコッ
追いかけてくる敵機にこれ見よがしにミサイルを投棄してみせる。最新鋭の機であればそうすることで短距離AAMを相手に対して撃つことが出来る、目ざとい奴ほど見つける筈だ。あとは振り切る為に降下も含めて速度を出していくしかない。ここで撃たれたらおしまいだけど、レーダーでは追ってきた敵機も離れていくのが確認できた。最初から接敵してたやつだから、中長距離ミサイルはもう残ってはいないだろう。こちらも護衛任務がありはするが、戻るには少々厳しいか
<<こちらアルカイド3、ポラリス、高度を喪失した、指示求む>>
<<アルカイド3、アリオト7、貴機らは1万フィートまで上昇、本機の直掩へ回れ>>
想定したとおり予備戦力としての集合が言い渡される。しかし、一息ついた後にジャジルに訪れたのは敗北感であった。僚機は後続の敵戦闘機との戦闘をしているようだが、状況はかんばしく無い。
この時点で彼女は知る由もないが、結果からいえばファーストコンタクト時の戦闘で3機の砕風を撃墜するも、合計7機のイーグルが失われ、ジャジルら2機が戦域を離脱する結果となり、<<薩摩>>からの迎撃第二波再砕風22機(エンジン不調で2機が発艦出来なかった)を迎え撃つことになっていた。数的にはまだ米空軍側が優位であったが、同様に同じプロセスでコンタクトを行う事になるので、先に長距離ミサイルの投射を受ける側としては非常に厄介だった
『してやられた・・・!』
絞り出した言葉に悔しさが滲む。それでもまだ、成層圏の要塞達はまだ無傷で前進を止めずに進んでいる。だから勝ったのは自分達だ!と思うしかない
同刻 <<薩摩>>CIC
そんな激しく流れるような空戦を美和はモニター越しに眺めていた。撃墜された3機のうちベイルアウト信号があったのは1機のみ、おそらく確定で4名の戦死者が出てしまった、そしてこれからも増えるだろう。それでも冷徹そのものの表情は変わらなかった
『飛行長、後続の戦飛各隊は敵護衛戦闘機との戦闘に注力、無理に爆撃機の迎撃を行わぬように』
改めて事前に彼女はそう命じていた。敵のスクリーンを無理やり突破するようにするなら損害は大きくなるだろう。だがそう、そこでとどまってる以上は敵にとっては上手く阻止出来ているともいえる
『運用長、どうか』
艦内電話を取り、美和は格納庫からCICに上がってきていた森小路に問いかける。その表情は疲労困憊で隈が出来ている。攻飛の分の整備を陸戦隊として送り出し、そして先ほどの戦飛の急速発艦、戦功第一はまさしくこの人である。それでいてこの艦の新しいギミックを任されている第一人者でもあった
『やっぱ後部両舷の水電妨の効きが悪いっすね、冷却の関係だと思います。敵側に向けて艦首を向けるべきかと』
『わかった』
このためのアクティブスティルスである。敵がこちらを攻撃する為には当然ながらこちらを目標として捕捉していなくてはならない。この前提を壊すつもりであるのだ。合成風力を作るため、速力を上げ艦首を敵方へ
『砲雷長、第41駆逐隊にも引き続きEMCON(電波統制)を継続するよう伝えてくれ』
『了解』
そして美和は護衛をしてくれている41駆が自発的に囮になりかねない射撃レーダーの照射も封じていた。今、艦隊の目は飛んでいる星雲がリンクをもって送ってくる情報以外存在しない、徹底したものだった
『これで敵爆撃機隊は相当なストレスを受けている事だろうね』
『ストレス?』
思わず連絡を終えた鳴田はその言葉に反応するが、一瞥するだけで美和は何も答えなかった。その視線はずっとCICのモニターの1点に、怜悧に向けられていた
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