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【Sea State.4】Island of Clots

グァム島、知事公園



 タキシングしたまま駐機したヘリは4機、周りには防弾チョッキを着た<<薩摩>>の整備兵達がそれぞれ散開し、不用意に飛び出してくるものがいないか銃口をむける。上空にはドアガンナー役のヘリが2機、グァムにある領事館からここまで来るための交差点で支援任務に当たっている。昇飛92の定数は8機であるから、ほぼ全力に近い



『なんでこんな開けた上に、遮蔽物の無いところにRZ(ランディングゾーン)なんて設定したんだあの白髪頭!』



 グァムの市街地は所々炎上していた。しかし、近場にはスタジアムや広大な駐車場もあり、やろうと思えば自動車を移動させての阻止線だって容易に作れただろうに。大規模な治安戦をやっている様子だった空港や病院を避けるのはわかるが、避難する邦人を領事館・・・グァムの日本領事館は空港近くのビルにあるフロアにあったから、この事態に空港に近づけなかった邦人らが(たむろ)していた。これを移動させなきゃならないので、悪態もわからないではなかった



『お前、説明聞いてなかったのかよ!あの新任のダンディライオン様いわく、その車両だって誰かの財産だとよ、そんな段かよ!とは思うがな!』

『畜生!美人な艦長でヤッター!って舞い上がってたのによ!』



 タキシングし続けるヘリからのダウンウォッシュに負けないように叫び返す。このダウンウォッシュで不意に近づいてくる奴の態勢を崩す意もあるが、1機だけではないのでこれ本当に誘導できんのか!?と、疑問も湧く。とはいえ、グァムに来る邦人というのは大体が日本本土で自由でないガンシューティングの場として世界各国の銃が撃てるというトリガーハッピーなのがメインで、あとは南洋府の彩帆市からの隣人貿易(おおよそ食料や市販品のやり取り、勿論、国境を越えての闇貿易もありはするが、取り締まりはきつい)をする商社マンあたりぐらいしかいない。とりあえずは健常な成人男性が殆どであると見込まれた



『止まれ!止まらんと撃つぞ!』




 他の辻を見張っていた班から英語の怒声が上がる。それに反応して手元のFA-MASを構える。帝國陸軍が7.62㎜と6.5㎜のAR(アサルトライフル)を整備したのに対して、帝國海軍はフランスに付き合ってこの評判があまり良くない自動小銃のヘヴィユーザーとなっていた。弾薬が採用されている国が多いベルギー製の5.56㎜の弾が使え、携行弾数を多く出来るので継戦能力が保てると、それらしい理由はつけられている



『やめろやめろ、近付いて来るんじゃねぇ。あっ』



 制止を聞かずに近付いてくる薄汚れた女がダウンウォッシュに煽られたのか、ずさっと引っ張られるように倒れる。その倒れる際に確かに見た。顔から片方の目が飛び出ていた。悲鳴や怒声もあげす、明らかに様子がおかしい。まるで車にでも弾き飛ばされて起き上がって来たかのような様相だったのである。その上、その女は不自然・・・手をつくでもなく、足をバタつかせて膝をつくと、上体を機械的に起き上がらさせた。痛がるでもなく無言のまま

 そして誰何をして来た班員の方を見ると、歪んだままの体躯で走り寄ろうとして来たのだ



『構わん!第一班、撃てっ撃てっ!』



ダダダダダダッ



 班長の号令と共に数挺のFA-MASからの射弾が彼女の身体を貫き、巻き添えを食ったHighway14の標識が穴だらけになる。被弾にその身を踊らせる彼女は、そのうちの一弾を頭に受け、弾け飛ぶ。それでお終いだった



『撃ち方やめ!』



 その様子を確認して、あちらの班長がやっちまったと言う顔をして射撃を止める。本来ならもっと懇切丁寧に確認を行うべきなんだろうけれども、兵の安全第一と言っていた艦長の言の通りやるとこうなるわけだ。あれこれ言われてもしーらねっと、カメラでも回しときゃ良かったんだ。いや、俺らが下手こくとそれはそれでマズいか



<<RZ、RZ、こちらコマドリ2、領事館からゲストがワゴンで出た。マイクロバス含め5両、受け入れ頼む!先頭車両は青!>>



 ドアガンナー役から保護対象の車が出たことを無線でがなりたてる、上手く建物から出られたようだ。後は辿り着くのを待てば良い。しかし5両?



<<コマドリ2、初期の想定より車輌数が多い、どういう事か>>

<<領事館員が集まった人間全部乗せた、人道的配慮って奴らしい!>>



 チクショウめ、これじゃ危険手当じゃおっつかんぞ!




同刻、サイパン島沖 <<薩摩>>CIC




『領事館員の判断は正しい。可能ならば長期間の拘束を伴う可能性もあると今のうちに説明を依頼してくれ』

『ここまでは想定通り、だよね』



 流石に報告で妨害対象を排除と来たときはCICでうめく奴も出た。そりゃあそうだ、いくら海外領土とはいえアメリカ国内でわが軍の兵士がその国民らしきものを撃ち倒したとなれば、どうやったって終末戦争が頭をよぎるのは仕方ない。全面戦争となれば間違いなくそうなるし、そうなってもおかしくない事をしているのだ。それでも目の前の同期、いや艦長は動じずにそこにいた



『ああ、むしろ好ましいと思っている。複数国籍である方が調査に資するからな』



 そこから他の国にも情報を流しやすくなるって話だったし、その方が感染対象を拾う可能性を高められる(避難民が確実に罹患してるとは言えない)からだ



『オッケ、とりあえずはGPD(グァム警察)からの反応もないし、抵抗する勢力も無いみたいだしね。あと艦長、艦隊司令部の方から朗報』

『朗報?』



 ヘリが発艦してからRZが確保されるまで見ててはっきりわかるほど張り詰めている美和に、上役の艦隊司令(たかまつのみや)からのアプローチをいまが今伝えるのも躊躇われた為、鳴田は少し時間を空けたのだ。緊急の報でもなかったからだ。叱責されてもそれはそれで仕方ないとも思っている



『そ、アメさんの国務省と話しがついて、米海軍経由でハワイ大学の疫学者をこっちの調査チームに合流させたいってさ』

『そうか!それは良い報せだ』



 ハワイ大学の衛生学科は、米国の疫学の最前線であるため本邦の長崎大学と同じく感染症研究に長ける。それに第三国を含めた調査チームに米国人も組み込めるならその信憑性をさらに担保できるというものだ



『おそらくハワイの顔馴染みの3隻のうちどれかを経由してこっちにヘリなり寄越すんじゃないかな。調整にもう少し時間はかかりそうだけど』



 ハワイの顔馴染みというのは、ハワイを母港とする米海軍の第5空母群(CVG5)の原子力空母3隻の事をいう。前線配備された彼女達はなおのこと今回のデフコン2で緊急出航をしているはずだから、ハワイから直接乗り込むということが出来なかったのだろう



『しかし、昨日今日の話でここまで話が進むという事は、米国にとっても寝耳に水だったのも間違いないという事か』



 これは美和達には知る由もないが、先行して米陸軍の防疫部隊が動いているため初動にかかれなかったCDCのチームをそのまま転用出来たと言うのが大きいし、日本の動きを知った米国務省側としても<<薩摩>>へ退避した米国民を回収するのにチームを派遣した方が回収に資すると考えたからだった。その意向は帝國、高松宮にとっても渡りに船だった



『これでヘリの回収さえ建て付け通りいけば、戦闘の恐れはなんとか避けられそうじゃない?』

『そうだな』



 しかし、好時魔多し。CICのモニターを2人で眺めている時、その凶報は意識の外にあった1300キロほど外れた北方から訪れた。モニターに表示されるプロットボードの外、南鳥島観測所からもたらされた。あそこは管轄で言えば第5艦隊(帝國海軍は基地航空隊を一纏めにしてナンバリングフリートとして制式化した)の管轄であり、滑走路こそあれど短すぎて現用機の運用に向かないので気象および対空レーダーの観測所のみしかない。あまりにも各所から離れすぎていて、有事には維持しきれないと見込まれたからだ。そもそも地勢的に高所が取れないというのもある。しかし、そんな観測所が捉えた目標は高所にあるため探知に成功したのだ



『北方から機影?』

『そうみたい、推定40機以上。方向から考えるなら空軍機よね』



 別のモニターに南鳥島から送られてくるデータを反映させて、アップする。タイミングからして、米国交省からのそれとは違う。美和は手元の艦内電話をとり、通話ボタンを押す。呼び出されたのは艦橋につめてフライトデッキを回している絹見飛行長だ



『飛行長、これから上がるCAP(戦闘空中哨戒)機はどの隊か』

『902の1小隊、2機です』



 902、飛行長を含む隊で本来の3機編成から1機減った状態の隊だが・・・目標編隊にコンタクトを取るには少数機の方がアプローチしやすいだろうか。美和が頷いて矢継ぎ早に聞く



『よし、902をそのまま北方の編隊に宛てる。現在あがってる隊の燃料は』

『908の1小隊が入れ替わりで着艦予定。戦闘機動コンバットマニューバを考えれば2小隊も降ろしたいです』



 打てば響くように絹見が答える。つまり、戦力的に言えば<<薩摩>>の戦闘飛行隊は全力で36機、この2個小隊を降ろして再発艦の余裕はないだろう。だから手持ちの戦力は30機だ。相手との距離が1300km以上あろうが、敵の保有するTASM-Ⅱの射程は推定800km、500kmの余裕は現用機にとって余裕が30分も無い事を意味する。航空戦とはそこまでの速度に達しているのだ



『908の1を降ろし次第、全機発進、迎撃態勢を整える。その後908の2を降ろしてから隊を移動させる。飛行長、手早く頼む』



 あっさりと美和は絹見にデッキコントロールを任せる。カタパルトの為にスチームを回復させていたのはこの時のためと言えるだろう。<<薩摩>>のカタパルトは艦首2基にアングルドデッキ側に1基の3基で、帝國海軍では一番少ないが、これを最大効率で回すなら60秒ごとに6機、それを2回した所で後続に置いている機体を通常発艦で4機を2回、そしてその間にスチームを回復させて残を同様にカタパルト発進で2回だから10分で離艦、高度をとり編隊を組む時間を考えれば20分内で整えられれば御の字かな、と鳴田は皮算用する。そういや、退役間近のこの空母が隠密空母として試験改装を受けたのはこのカタパルト数の少なさからだとも聞いた覚えがある。艦首や艦尾にあんなガジェット付けるんだからそりゃそうか



ビーッ!ビーッ!



 けたたましいアラートと共に、アップした南鳥島のモニターに複数の飛行物体のプロットが表示される。それの向かう先は南鳥島の観測所だと見込まれた。数にして20、あんな島の迎撃能力じゃ捌ききれない!いきなりぶっぱなしやがったぞこいつら、本気か!?



『うそでしょ・・・艦長!』



 美和も鳴田の声にモニターを見つめて頷き、もう一度飛行長へと電話をとる



『飛行長、902に交戦許可。南鳥島の通信途絶のバックアップにもう1機のAEW(星雲)を回す。戦飛各隊は戦闘管制指示に従え、上がった機の編隊構築を急がせろ。目標はすでに飛翔体を観測所へ向け発射、敵性と判断。全面武器使用許可』

『りょ、了解』



 流石の事態に絹見サンも息を呑んだのが聞こえてくる。相手は米空軍、しかも方向はアラスカでしょ?本当にどうなってんの、話ついたんじゃないの?



『いいだろう、私なりの解を見せてやろうじゃないか』



 その怒気を孕んだ美和の声を聞いた鳴田は、同期がことさら一層大きく見えたが、今は口をつむぐことしか出来なかった

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