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【Sea state.14】Aliens In Sight

バヌアツ沖 JTF-34、空母<<薩摩>>搭乗員待機室




『よぅ、お疲れさん』

『中山サンでありますか』



 出撃前の待機室(レスト)で、笙野がげっそりしていたので声をかける。生真面目なこいつは聞かれるままに新型機であるA15K(じんぷう)の話を振られては話していたのだから仕方がない。なんやかんや言って期待値が高いのだ。攻飛の連中が戻ってきたので人数が増えているのも大きい



『相方は?』



 笙野のペアで後席の幌星の姿が見えない。いや、正確に言うと戦飛12の後席達全員の姿が待機室(レスト)を見回しても見えない



『手信号の説明に召集されたみたいであります』

『ああ、用心して無線封止するからってのあれか。しっかし大丈夫か?CAP任務でもなく、このご時世に単騎での扇状偵察なんて仰せつかうなんて』



 笙野は戦闘機パイロットとしては割と稀有な、孤高を嫌う性分であるため、単独行という偵察機特有の飛行はあまり得意ではないはず



『任務でありますからね。それに、偵飛の皆さんがいる分、海技廠での飛行より指示は多い方でありますよ』



 事も無げに笙野は言い返す。まあそうか、AEWによる管制指示を実験飛行隊ではそうやらんだろうから、むしろそっちの方が孤独な事は多いか



『なんでありますか?中山サンはそれほど私が頼りなく見えますか?』

『怒んなよ、ほれ』



 多少怒気を孕んだ笙野の態度に、中山は酒保で買ってきたアンパンと牛乳を差し出す。好物だったはず



『・・・ありがとうございます』



 ここで受け取ってしまうから可愛い奴なんだよなぁ、と表情には出さずに思う。何とかしてやらないと、と思わせる事で支えられる奴だ・・・まぁ、それは俺も同じか



『お前は知ってるだろうが、俺達は立場上英仏の極東艦隊やタイ海軍と交流演習(DACT)をそれなりにこなしてんだ。ラファールについての感想くらいは聞かせてやろうと思ってな』

『それは・・・』




 ここまで聞かれるばかりだったんだから、それなりの情報を聞かせてやるのは礼儀だと思ったのだ。それが、場合によっては交戦もあり得るなら尚更だ



『まあなんだ、一番の違いは海軍型だと頭がひとつって事だ』

『ひとつって言われましても』



 どんなことを言われるのかと顔を険しくしていた笙野の眉間から険が採れる。いやいや、馬鹿にしたもんじゃないんだぜこれが



『グァム沖でヤンキーどもとやり合って一番違うと思ったのはそこだ。短距離AAM1発分の重量でパニック度が違う、ミサイルの投げ合いしている内の情報錯綜に頭がひとつ多いのはまず間違いのないアドバンテージだ』



 それに、と一呼吸置く



『俺達戦闘機乗りって奴は感覚を頼りに率先で動きがちだ。ドッグファイトやるならそれで良いだろうが、いざって時にひとりだとこれだと思って突っ走りがちになる。ベットしてる掛け金がテメェひとりだから尚更だ。だが、編隊空戦の仕掛けの先ずは槍合わせだ、A15K(じんぷう)がスティルスだからって、アドをわざわざ捨てる必要はねぇし、ミサイルもケチるな、混乱が第一だ』

『それぐらいわかってるであります!』



 この、ミサイルをケチるなというのはあれだ。せっかく砕風と同じように長距離AAMを持っていても、スティルスで敵の発見が遅れるのを見越して運動性のよい中~短距離AAMの必中界に入ってから確実に墜とそうとするやつだ。しかし、芽乃のこの反応さては



『お前やったことあるんだな』

『そうです、A14K(さいふう)相手に上手く捌かれました』


 

 そう言って笙野はアンパンの袋を開けると、そのまま不機嫌そうにかぶりつく。戦飛11、実験飛行隊にしてアグレッサー部隊の一つ、その成田にコテンパンにヤられたのは記憶にこびりついている。必殺を期しては良いが、それが油断になっているとこっぴどく絞られた。面目丸潰れだ



『そんな不貞腐れんじゃねぇよ、じゃあ機体についてだが、飛行特性についちゃ、ぶん回せる攻飛のB12A(しんせい)が近い。エンジンが2つになってエネルギーがあるのと、マルチロールってんで兵装搭載能力にも設計を回してるからだな』

『んぐっ、だとするとロールよりヨーが強いタイプですか』



 アンパンを牛乳を飲み下して言った笙野に中山は頷く。地表や海面を這う事の多い攻撃機にとって、この特性があると機体を横滑りさせやすいので好ましいのだ。これが高じて回避行動の癖にもなりやすい



『装備は長距離のコメットに中距離のミカ、短距離はマジック2、全距離揃ってるから油断なんねぇ。機銃もうちの25mmよりデカい30mmだからドッグファイトなら気持ち遠目から撃ってくるから気をつけろ』

『コメットはウチからさっさと導入すべきだとだいぶ言ったやつでしたっけ。まぁ、ありがとうございます』



 コメットは艦載SAM、アスター30を機載バージョンにしたもので、長距離AAMはあって然るべきとした帝國海軍からの強い意向もあって、アスターの配備とほぼ同時期に調達が開始され普及したものだ。それがなければ英軍のミーティアとのミサイルギャップで圧倒的に仏軍は劣勢に立たされていただろうと言われる



『優等生のお前にとっちゃ既知の話だったか。すまんね、座学はヤマカンばかりしてたからな』

『それを当ててるから凄いんですよ、貴女は。おや』



 笙野がガヤつきが増した方を見ると、講習が終わったのか、幌星達が待機室(レスト)の扉を開けて入って来る。となると出撃だ



『じゃあな、ちゃんと帰ってこいよ』

『・・・なんなんでありますか、あの人は』



 来た時と同じく、唐突に話を打ち切って中山サンは去っていく。余計なおせっかいとまでは思わないけれども、むず痒いというか、人に言えた口ではないが不器用なんだろう。食べ終えたアンパンの袋と牛乳パックを屑籠へ入れる



『芽乃大丈夫?絡まれてなかった?』

『いえ、そんな事ありませんよ。アンパンを奢ってもらいました』



 心配そうに駆け寄ってきた幌星に頭を下げる。態度をもう少し改めるべきかもしれませんね、苦手なのはそうですが、本人や相席にまで心配されるようでは良くない



『いきましょう。私達の初陣ですよ』



 出撃準備は運用長により整えられており万全・・・運用長の森小路さんは、なんだこの塗装の量、これ維持してぬりつづけなきゃなんねぇのか!?え?機体も基本的に格納庫に入れておいて欲しい?マジかよ!?とか声も高らかに放言していらしたが、これを無事にこなして、自分は、そしてA15K(じんぷう)は大丈夫であると認めさせなければ・・・でなければ、ここまで出向いてきた意味がないではないですか





チェスターフィールド諸島上空 戦飛12、A15K 笙野機〖クロウ4〗




<<こちら〖ステラ2〗、現在フランス海軍の警戒機とおぼしき電波のみ確認されている。クロウ各機、針路よし、継続して進まれたし>>



 今回の件からとの事だが、電波統制もかねてコールサインが付けられることとなった。任務ごとにコールサインは変わっていくものだが、AEWの星雲は頭文字のSから星(ステラ)と呼ばれることとなった。で、A15K(じんぷう)の自分たちはどうなるのでありますか?と(飛行)隊長に聞いたら、俺たちの機体の塗装は黒いし、戦場をかき回すという意味では九郎判官(くろうほうがん)からクロウで良かろう、英語でも烏で通るからな!と個人の趣味でクロウになったとの事。ちなみに既存のA14K(さいふう)の隊はサイファーだとかSで統一したみたいだった

 で、航空作戦上敵性存在からの電子的な接触が見込まれてしまうため、今回の出撃(ソーティ)はAEWを基点に艦隊及び外部に繋がる通信は封鎖したままで単機扇状偵察を行う必要上、計器の信頼を〖ステラ2〗に頼らなければならない。ただ漠然と操縦桿を握っているだけでもズレていく代物だし、捜索レーダーを起動させずに海面を見るべく頻繁に機体を傾かせるのだから細かい針路の修正は必須だ。漏れが出ると再度そこを確認せざるをえなくなる。何度もやりたくないミッションだ




『幌星さん、大丈夫ですか?』

『まーかせて、久々にウェーキ識別法なんて見たけど、割と覚えててびっくりしたんだから。手信号の方がまだ不安なくらい』



 そう言って幌星はカシャカシャと信号機を明滅させてみる。大丈夫だろうか、ウェーキ識別法はウェーキの大きさで艦艇の速力などを確認するものだが、確かに練習機での訓練でいの一番に習うような代物で、ファイターパイロットに分科してからは特に勉強し直すこともない為、縁遠い事を偵察機任務で今更やる羽目になったのは大きな負担だろう



『<<バゼレール>>だっけ、結構大きいみたいだから沈んでたら相当な油膜が浮くと思うから、芽乃はそっちを重点に置いて目を滑らせておくといいと思うよ。あるいはヘリ巡でもあるから、機体が落ちてても同様!後席とは一心同体、少しは信用してよ』

『そうでありますな』




 これは一本取られたと笙野は頬を掻く。後席を信頼してのペアであるのだから、自分が信用しなきゃ何も始まらないだろう



『下は結構波が立ってるみたいでありますな』



 チェスターフィールド諸島は諸島というよりは環礁(リーフ)だ、晴れてはいるが風があるのだろう。珊瑚礁に波が当たって弾け、白く湧き立っている。割り当てられた針路はこの環礁(リーフ)の真ん中を縦断する形になっているので、見落としの無いように機体を揺らす。暫くの間、笙野は言われた通り前方を中心に目を滑らせて何か痕跡が無いか機体を飛ばしながら探す・・・何か白っぽいものが視界に入った気がする




『正面右30度、不明艦らしきもの、VC(ヴィジュアルコンタクト)』

『えっ!?環礁(リーフ)内!?』




 正直、浅深度で座礁の可能性もあるので中には居まいと思って居たので内心こちらも驚いている。機体を傾け、幌星にも確認してもらうべく視界をとる




『見えますか!?』

『艦型識別、間違いないよ!<<バゼレール>>だ!』



 二人で確認できた事で確信を得る



<<〖クロウ4〗より〖ステラ2〗、目標艦らしきもの発見。位置、方位送る>>

<<〖ステラ2〗了解、〖クロウ4〗は接触を開始せよ。両隣の〖クロウ3〗〖クロウ5〗を支援に回す。残りのクロウ各機は追って指示の地点まで集合>>



 接触の許可が降りたので、<<バゼレール>>の右舷側を擦過するべく降下する。時々映画や漫画の真似をして管制塔(コントロール)を横切るような馬鹿な真似を本官がする事になるとは、思いもしなかったであります。と、苦笑する



『何があるかわかりません!自分も注視しますが、最初はバンクしながら高速で通り抜けます!幌星さんは相手の状況を確認してください!』

『OK任された!』




 降下に合わせてフルスロットル、バンクして国籍標を見せながら艦の後方から右舷側を低空で通り抜ける。同時に逆探(ESM)を起動させ、FCSに照準されないか警戒も怠らない。



『甲板にヘリの姿を見ました!幌星さんどうです!?』

『艦橋横、ワッチを確認、動いてた!人だ!生きてる人だよ!』



 火を入れた逆探(ESM)を確認する。FCSからの照準は認められない。よし、それなら



<<〖クロウ4〗より〖ステラ2〗、目標艦に人影を確認!甲板にはヘリ、本機は逆探(ESM)を起動、FCSの反応なし、今度は速度を落として発光信号による交信を試みたい>>

<<〖ステラ2〗了解、〖クロウ4〗交信を許可する・・・気を付けるんだぞ>>



 〖ステラ2〗に乗り込んでいる絹見飛行長の声だ。危険を承知で彼も乗り込んでいる。うん、着任して日がまだ浅いけれど、<<薩摩>>は想像していたよりも励むにたる場所だと思う



『それじゃ、幌星さん行きますよ』

『機材良し、宜候』



 今度は速度を落とし、失速しないぐらいの速度にして同じように右舷側を擦過する。後席の幌星がカシャカシャと信号機で文言を送る。これを繰り返せばなんらかの反応が返ってくるはず。通信が問題になりかねないのが手間を増しているがしょうがない



【本機ハ大日本帝國海軍(IJN)空母<<薩摩>>所属機、貴艦ノ状態ヲ知リタシ】



 擦過して旋回し、もう一度アプローチをかけると、艦橋横のワッチからこちらと同じように発光信号が返ってきた。生きてる、生きていますよ!幌星さん!



【本艦ハ健在、貴艦ラと合流シタイ、マタ、危急ノ事態説明ノ為、ヘリヲ受入タシ。誘導ネガウ】



 返信を幌星が解読し、書き留める。それを〖ステラ2〗へ



<<〖クロウ4〗より〖ステラ2〗、目標艦より反応あり、ヘリ受入を希望>>

<<・・・〖ステラ2〗より〖クロウ4〗受入を許可すると伝達されたし。爾後、こちらが誘導する>>



 しばし逡巡の間があった後、絹見の声が通信から響く。そうか、ヘリが発艦するという事は、フランス側のAEWにそれが捕捉されかねないという事を意味する。トレースされれば<<バゼレール>>やこちらの位置もだ



<<〖クロウ1〗より〖ステラ2〗、AEWを狩るか?>>



 そう。スティルス機であるならば、探知される距離が短いので長距離AAMで先手を打って暗殺じみた事も出来る。AEWを失えば再度代替機が上がってくるまで低空を飛ぶヘリを探知される可能性は大きく減じる。現実的な手だ




<<却下する〖クロウ1〗まだ敵性(ホスタイル)と断じられた訳ではない。逆に相手の反応を見る。ヘリについては迂回したコースをとらせる>>

<<〖クロウ1〗了解>>



 ヘリの許可を<<バゼレール>>に伝えるべく、笙野は再び同じコースをたどって飛ばす。その頃には支援を指示された〖クロウ3〗と〖クロウ5〗を視界に入れる。<<バゼレール>>の方ではヘリがタキシングを始めていて、人がさらに動いているのが見られた



<<〖クロウ3から5〗、貴機らはヘリが離艦次第<<バゼレール>>の直掩とする。高度5,000で待機・・・ん、ちょっと待てRC(ラウルコンタクト)増加中、2つ、4っつ。なおも増加中。進行方向は・・・<<バゼレール>>へだ。直接の邀撃は貴機らで行う。追って指示を待たれたし>>



 そういって、通信は途絶えた。来るべき時が来たのだなと笙野は操縦桿を強く握りしめる。A15K(じんぷう)の戦闘証明(コンバットプルーブン)がいよいよ成されるのだ、それも自分たちの手によって



『どうか見ていてください、私はこの機体に秘められた力を、その力を存分に振るう術(すべ)を知っていると証明してみせます・・・!』



  獅子吼するは黒の獣か、あるいは化鳥か、疾風の先の超常現象(フェノーメノ)が南溟に巻き起こらんとしていた

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