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【Sea state.13】サテライト・パラサイト

メジュロ沖、第34任務部隊<<薩摩>>CIC




『はい、3Fから回ってきたデータ、印刷しといたよ。しっかし、赤(赤本:機密指定)の情報って言うから身構えたけど、これ、衛星画像はそうだけど気象衛星のじゃん?使えんの?』

『元々ニューカレドニア方面で気象予報をする為の衛星名義でフランスと共同出資したものだし、海水面温度の測定の為のカメラが軍用に転用可能だというのは公然の機密だからな。助かる』



 そう言って鳴田から美和は書類を受け取る。使用目的から言えば、帝國海軍が主戦場と考えている中部から北部にかけての太平洋上からは離れている為、軍用としてほとんど使った事はない。どちらかと言えばフランスと使用権がまたぐ事での機密扱いであるが、それは言葉に出さない



『とりあえず撮影時点では現場海域からは動いてないようだ。葛城君も見たまえ』

『拝見します。それなら索敵の面で苦労せずに済みそうですが』



 美和から渡された書類を、葛城はペラペラめくりながら目を通す。音信不通のまま不在となれば大捜索となるから、そうならずに済みそうであるのは喜ばしい事だ



『音信不通がそのまま電波管制になっているからな。しかし、それはそれで別の問題を孕んでいる事になるな』



 美和は座席に深く座り込み、足を組む。温度差や画像を見る限りは、フランス海軍の艦艇に被害などが出ている節もない。航行もしているようなのも見て取れるが、ニューカレドニアから離れてもいない



『これだけの艦艇数をシージャックしたとして、声明も何もないってのもわからんとこですよね。それに』

『それに?』



 葛城が言い淀んだのを見越して美和が促す。葛城は首を傾げながら資料を返した



『あくまで違和感レベルではあるのですが、人の気配というか、人間っぽさがなくありませんか?陣形はそれぞれ見事なものです。ちゃんと艦隊行動をしている、しかし、解像度が粗いのでそうともいえませんが、ワッチなどの人間の匂いが見えない。砲雷長、どうかな?』

『え?なに副長、もしかしてシステムダウンとかウィルスとかの電子戦要因だと思ってる?いや、ないでしょ、システムダウンだとして復旧に時間かかりすぎだし、人間味が出てくるのはむしろこの場合でしょ?人力であれこれするわけだから』



 いくらなんでも、と、鳴田砲雷長が肩をすくめるのに、葛城副長もそうだよなぁ、と肩を落とす。

 そう言うのも無理はない、帝國海軍に於いては海軍全体でのリンクに加え、各艦隊毎にリンクがあり、その接続(アクセス)はコードだけでなく定期的にコンバーターに噛ませて変更する電圧による接続もセキュリティにあるので、在野からハッキングしようにも軍用の電圧と正しい電圧値を用意出来ないで詰む代物になっている。やろうと思っても生半可には出来るものではないし、砲雷長が言うように復旧に動く人間らが本来あるわけだから、フランス艦隊やニューカレドニアの音信不通は異常、常(つね)と異(こと)ならしむ、な訳だ



『アプローチが重要だな』

『こういうの、触らぬなんとやらに祟りなしだけど任務は違うしね。じゃあ私から提案するとしたら別の閉鎖回路(クローズドサーキット)を用意する事だと思うよ。フランス艦隊に一隻足りてないの、気づいてるでしょ?アクセスするコンバーターとして使うならその発見がまず最初じゃない?』



 鳴田の言葉に頷く。一隻、嚮導防空巡の姿が見えない。もしかしたらこの状態に反して沈められたのかもしれないが、かの艦隊がここまで見事にこうなっているのを顧みれば、何故その艦がそうなったのかだけでも分かれば値千金だ。対策が打てるようになる



『となると航空偵察か・・・戦飛12を宮様から回してもらって助かりましたね。位置的には離れているフランス艦隊の空母群がああなっているという事は、通信系は危険だと思いますね。高度を下げて、目視確認(アイズオンリー)がベストかと』



 美和は葛城副長の言にも頷く。汚染と考えれば接触は避けていくべきだ。スティルス機が配備されたのは隠密空母として発艦時点で既存機の機影がレーダーに映って居場所が掴まれかねないのを避ける意図で宮様が回してくれたのだろうが、本当にあの人は持ってらっしゃる



『該当の艦艇が発見できたら発見機より発光信号で反応を確認、合流を計ろう。撃沈の形跡が発見出来たら漂流者を捜索し、回収。情報収集に努める。第一目標はこれでいこう』



 採れる手はとりあえずこれしかないだろう。第二案としては、該当艦が交信出来ない状況、あるいは撃沈の痕跡があるも漂流者が発見できない場合にヘリをNOE(匍匐飛行)でグランドテール島に侵入させる形で人員を送って直接情報収集にかかるぐらいか




『まさか、光学で見たら駄目とか呪いみたいなのじゃないよね』

『やめてくれよ、流石にそりゃ手に負えないぞ、神主なり坊さんなり呼んでこなきゃ。誰か居たっけか?』




 話がひと段落ついたので、そんな冗談を二人が話しだす。光学で駄目なら衛星からのこの画像などももう駄目だろう。理由をつけるなら低高度衛星であるから距離にして800km〜900kmぐらいは効果範囲から離れているという事だろうか、あるいは直視と画像は違うという事になるか、音信不通になっているニューカレドニアのグランドテール島は全長が350㎞前後だからそこまでは考慮に入れるべきか・・・分からないことばかりだ



『まぁ、やるだけやってみようよ。ETI(地球外知的生命体)だったら、艦長主役だよ?ファーストコンタクトはフランス側の方になるかもだけど』

『よしてくれ。そういうのはもっと適任に任せるさ、大体、そういう映画のお約束で軍の長は頭でっかちの石頭にされかねない。非常に不本意だ』



 と、鳴田の軽口に苦笑と冗談で返す。そうだよね、宸光(ひかる)はふわふわだもんね、とか言い出す同期にゲンコツをくらわす。これだから気の置けない同期は。葛城副長の方は、やれやれと肩をすくめる。まぁ、いい感じに方針決定のBS(ブレインストーミング)にはなったのではないだろうか



『よし、絹見飛行長を通じて接触方法も伝達。戦飛12には早速準備してもらおう。来たはなで偵察機じみた事をしてもらうのは気が引けるが、その機体特性を生かしてもらおうか。副長もわざわざCICに降りてきての話で、すまなかったね』

『了解です。いえ、事前に打ち合わせ出来て良かったかと。では!葛城艦橋に戻ります』



 そう言って副長は敬礼して快活に笑うとCICから退出していく。たとえ1日でも半舷上陸できた前半と違い、自身も含め上陸出来なかった後半の乗員達の不満を一身に受けているだろうに、出来た副長である。いつかきちんとお返しをしてやらねばな



『でもさ、あたしたちよりも上のところじゃ話どうなってるんだろうね』

『うん、そうだな』



 フランス海軍はその編制が大西洋・地中海・極東艦隊の3艦隊からなり、英伊に対抗する以上、極東艦隊がフランスの自由に動かせる余剰戦力の全力とも言える。これを失う事はなんとしても避けたいだろうし、我が国としてもなんだかんだありつつも欧州大戦来の友邦国であるから、戦闘は実際として避けたい・・・世界のどこか、パリ7区や霞ヶ関では電話(ホットライン)の応酬が起きてるはずと信じたい



『直接15区から天王洲に話を通して済まそうとしなければ良いが』

『恩を売っておくってやつ?ま、国益には叶うんだろうけどさ』




 外務省が仕事の前面に出てこないというのは宜しくない。15区はパリにあるフランス軍務省の所在地であり、天王洲は海軍省の事である。7区と霞ヶ関はそれぞれの外務省を指す。海軍士官たるもの、海外に立ち寄れば一人一人が外交官であると弁えるべし、というのはありはするが、あまりに仮託されるのもいかがなものかとしか言いようがない



『だからこそ、どうか生き残っていてくれ』



 そう呟いて美和はモニターを注視する。気を利かせた鳴田は該当の艦、<<イヴ・ド・バゼレール>>の画像を画面に添付する。1万tを超える艦だ、痕跡も残さず消失することは無いはずなのだ





同刻、東京都南麻布:フランス大使館。大使公室




 徳川侯爵家から譲り受けた土地に立つフランス大使館では、オフィスを慌ただしく職員達が立ち回っていた。しかし、それが実質的には意味の無い行動だという事もその男は理解していた。軍はこちらに何の情報も渡して来ていない。故に、こちらに問い合わせても現地が音信不通である以上は、渡せる情報が何もないのだ



『日本の外務省は蜂の巣を突いたように問い合わせと大使の召喚を求めています』

『だろうね、ヌーメアには近年になって鳴り物入りで領事館を建てたばかりだし、三井や住友の鉱山関係者も多数にのぼる。あちらとて矢の催促だろうよ』



 苦虫を噛み潰したような顔で、フランス大使であるスボティカは駐在武官を睨みつけた。とは言え、これも意味のない行為だとは理解している。なにせ、彼にも伝えられてなど居ないからだ



『そちらは本国から何も言って来ないのか』

『遺憾ながら』



 事の重大さから言えば、フランス本土の政府からの【指導】があってしかるべきである。あるいは外交暗号よりグレードの高い軍用暗号での【指示】が。だが、それもこの段階で来ていないというならば、他に考えうる手法は



『特命全権大使か?』

『おそらくは』



 手ではある、こちらとしても特命全権大使が来るまで待ってくれという事で責任の委託と時間稼ぎが出来るというものだ。スボティカが考えるに、それなら本土は大物を送り込んで来るはずである、例えば・・・シャラナヤ君のような若手のやり手の女性キャリアなんかが適当だ。当然ながら特命を受けたような大使は目立つし、見栄え上カメラの前で敵対的な行動を相手がした場合、悪く取られるのは相手側の方になる。だがしかし



『ならん!』

『閣下?』



 机を叩き立ち上がったスボティカに武官が困惑する。良い事ずくめであるのに、何を迷う事があろうか



『わからんのかね、現時点で我々がこの様という事は本土の連中にも有効な手は無いという事だ!些末な枝葉の新情報はあるかもしれん。それをもって大使は強行的に出ざるを得ない、当然だ、責任を委託された以上は結果を自国ではなく他国に求められているのだからな!』



 そして、その差配は前線にいる友邦の軍を振り回すだろう。そうなって大使が去し後に残されるのは誰だ。我々ではないか!いや、我々がただ罷免されるのは良い。幸いな事に我が外務省に於いて任地が日本というのは駐米や駐英と同様のトップ(アポジェ)だ。この上には実質、内閣(キャビネ)や省(ミニステーヌ)の長やその次官でしかない。ここからの罷免で下がるキャリアなど大した事ではない!だが、大使とされた側は違う!あたら若い才能に傷を持たせて失う事になる。これはフランスの損失である・・・!



『君はDGSEに知り合いが居たな。いや、君自身がそうかもしれんが、日本滞在を伸ばしたいだろう?本国で軽微な事故を起こしてもらいたい。精密検査だけは必要になるようなくらいのな』



パチパチパチパチ



『なぁんだ閣下、知ってらしたんですね』



 武官が手を叩いて喜ぶ、プレイボーイな整った笑顔の奧に潜む、心臓まで凍ってしまいそうな冷徹な瞳を大使は受け止める。そうだとも、此処(日本)にいる駐在武官がただの士官であるものか。私はてっきり、軍からの情報はまだかと愚痴をずっと言われるのかと思ってましたよ、と軽薄な言葉を吐くのにも嫌悪感を感じる。名前も本当にこの名前なのかにも疑わざるをえない。しかし、しっかりと相手を見て大使は命じた



『やれるな、ソットサス海軍中佐』

『仰せのままに(アヴォゾルドル)スボティカ大使』



 大仰な一礼と共に、ソットサスは足音もなく公室から退室していった。

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