↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/17

【Sea State.12】四季七曜に囲まれて

南洋府都洛市 春島、裳焔(もえん)港桟橋




『『『上陸だぁー!!!』』』



 <<薩摩>>からの内火艇が桟橋に着いたとたんに水兵たちの歓声が上がる。

 ここ、トラック諸島はドイツから第一次世界大戦後に委託統治領として日本が領有し、信託統治を経て現在も南洋府として帝國の版図にあり、海軍が主体となって都度整備はされたものの、<<薩摩>>ほどの巨艦が入れる大規模港湾までは整備できなかったため、春島と夏島の間にある錨地にその身を浮かべていた



『普通の上陸なら、騒ぐな!ぐらい一喝も言われそうだが、無さそうだな』

『今回ばかりはな』



 不破と中山ははしゃぐ水兵達を乗せた内火艇を後続の内火艇からみやりながら話す。ようやく隔離されていたとは言え、感染の恐れのある避難民らと隣り合わせで生活をしていたのはストレスだったろうし、こうして半舷上陸を許されるという事は感染の可能性の否定にもなればそうもなろう



『ジャジルちゃんにモーションかけとくべきだったかなぁ』

『未練がましいぞ尽(じん)』



 宣戦布告なき空中戦の結果、出会う事となった米空軍のパイロット達と短いながらの交流はおおよそ穏やかな終わりを迎えることが出来ていた。艦長の美和が捕虜としての扱いをしなかったのもあるだろうが、お互いプロフェッショナルとして命のやり取りをした、それだけと割り切れたのだ。それに、艦長本人が共通の話題としてシモのネタになってくれたのもあるが



『ナカヤマ。もう少し事態が落ち着いたら、またお互い空を飛んでみたいわね。次は負けないわ』

『ハッ今度はラプターで来いよ、ステルス機とやりあってみてぇからな』




 そんな話をした後、彼女達は<<ジョン・C・タワー>>に回収されて行ったのだった。そんな日数がたったわけでもないのに、随分と前の事に思える・・・少し寂しいのかもしれねぇな、と口には出さずに空を仰ぐ。口寂しい、タバコはやってないが咥えるキャンディは切らしていた。この際に買い込んでおかねぇとな




『あんたらは仕事での上陸だが、持って行くか?』

『いらねぇ』




 上陸に際して全員に渡されるサック(コンドーム)を断る。俺たちは機体を喪失している為、その受領もかねての上陸であるからそんな暇は殆どない。風呂には浸かりたいとこではあるが。んで、余談も余談であるが、俺たちがこっちに来たのだって、飛行場がこっちにあるからであって、士官以上は司令部もある夏島の方の施設や、歓楽街を使うのでグレードは向こうが数段上。気やすさはあるがそこまで飢えちゃいねぇよってとこだ

 北岸にある民間空港と共用の第一飛行場ではなく、南岸の第二飛行場での受領になるので、港からは少し移動しなければならない




『ま、とりあえず行く前に腹ごしらえはしていこうや、せっかく赤道近くまで来て軍の食堂でしか飯食いませんじゃ味気ないだろ』

『それには賛成だ』



 とはいえ、目につく食堂や酒場などは先に上陸した連中やらでごった返しているだろうから、案外と狙うべきはこじゃれたカフェなんかでの軽食が穴場なんだよなぁ、と、目を泳がせる。そこは不破も勝手知ったりというか、賭場近くの飯屋なんかで嗅覚は良くなっている



『あそこにしよう』



 内火艇を降りて上陸してから見つけたのは、市街地の中心からは少し離れたBar、Blue Pisepと名前がグラスのネオンと一緒に小さく店頭につけられている。いい感じにこじゃれていて、なかなか兵隊は入りにくい。待(・)合(・)に使うぐらいだろうか。そのためもあってか軽食のメニューも充実しているというわけだ



『らっしゃい』



 暗めの照明の奥にマスターであろう男が関心なさそうに佇んでそう応えた。座席3つにカウンター、古いジュークボックス、ヤニに汚れたメニュー表、いい雰囲気じゃねぇか。そして座席には先客が



『な、中山サン!?』

『あぁ?芽乃じゃねーか!』



 見知った後輩の顔を見つけて驚く。お前さんがなんでこんな所に。まさか



『増派の部隊ってお前がいる所なのか?』

『中山サンこそ、まさか<<薩摩>>に?』



 お互い同じ考えに至って頭を抱える。不破の方は笙野達の机に並べられた料理を見ている。鼻をくすぐるのは、醤油とレモンの香り



『なんか良いもん食ってんじゃねぇか、知り合いなら立ち話もなんだ、隣いいか?』

『どうぞどうぞ、あ、自分幌星いいます。レモンポークステーキ言うらしいですわ、美味しいですよ』



 芽乃の幌星さん!という悲痛な声をよそに、マスターの咳払いに合わせてそれぞれの席に治まる。マスター!同じものをふたつ!という不破に、マスターはあいよ、と応える。メインの皿にはレモンポークステーキに、サイドディッシュとしてパンの実のチップス、天ぷらと言っていいかもがあり、平皿に盛られた福神漬け付きのライスと味噌汁の定食スタイルだ。まぁ不服はない



『こんなところでご一緒するとは思っていなかったです』

『そりゃこっちのセリフだ』



 まさか後輩が海技厰の実験航空隊入りしてるなんて思いもよらないというか、さんざ後輩弄りとして彼女(こいつ)に悪の道を教え込もうとしては断るべく面白いリアクションしてくれるので、実直にも程があんだろ、むしろ任官せずに警察官にでもなった方が向いてると意地になって嫌がらせをしたもんだから、なんというか気まずいところはある

 考えてみれば当たり前の話だった。那覇に分派した攻飛の連中なんかを受け入れるには、海上で着艦させるよりも、元水上機飛行場を拡大伸長させた春島の第二飛行場は海に面しているのだから、そっちに着陸した後に艀で空母に移した方が機体の消耗を抑えられる。だったらその機体の搭乗員達もこの狭い島に出てくる訳だから、そりゃ鉢合わせにならない方がおかしい



『あ、来ましたよ。ここ穴場ですよねぇ』

『おお、やっぱ分厚いよな。佐世保じゃレモンステーキだって食ってたけどちょっと違う感じだな』



 そんなこっちの空気も知らずに同席の二人は届いた料理を前に嬉々としてる。確か、こっちの方じゃレモン醤油が醤油のメインストリームを歩いてるってのは聞いた事がある。俺たち第3艦隊が母港にしている佐世保のレモンステーキは牛肉の薄切りにレモン醤油ではなく醬油ベースのレモンソースだから、似て非なるものだ。しぶしぶ目の前の料理にありつく、豚肉のステーキはすでに切ってくれているので出された箸で食える。ソースは佐世保のレモンステーキよりは薄味で酸味が強いが、おそらく醤油に砂糖も加えているのだろうか、よく絡んで豚肉によく合っている。ご飯に合う味付けだ



『おう、いいな』



 トンテキとご飯を飲み込んだ後、味噌汁で喉を潤す。味噌汁は熱い気候に合わせてかしょっぱめで好みに合った。ビールが飲みてぇ!なんだよアサヒパシフィックってと不破は吠えている。うん、今度は1人で来るとして贔屓にしよう。他にメニューは・・・ラグーンフィッシュのフライ?なんだよラグーンフィッシュって



『マスター、ラグーンフィッシュってなんでありますか?』

『名前の通り、環礁(ラグーン)で採れる小魚の事だが、砂浜で採れるヒラメもそれに入る。うちは大体ヒラメのフライだ』



 躊躇なく聞く笙野に呆れる。こういう奴だったなぁ、お前は。



『で、お二人はどうしてここに?芽乃と私らは異動前の食事ですけど』



 おおよそ平らげたあと、コーヒーを持ってきたマスターが引っ込んだ所で幌星とかいった笙野の後席が切り出す。あまり表立った所でどこまで話せるかというのもあるから言葉を選ぶ



『という事は、2人はこれであがりか。俺達はシートの確認だよ。ぶっ壊れちまったから仕方なくな』

『レンタルにしろ新車にしろ、使えるようにしなきゃいけねぇからな』



 帝國海軍じゃこれも割れているが、機体の属人化が進んでいる。スクランブル時には近場にあった自分の乗機のものじゃない機体に乗り込んで、という事態にも備えよ。という建前ではあるが、機体整備の高度化と機体更新の期間が伸び続けている(そうぽんぽん新型機が出てきてたまるか、習熟出来んわ)のもあり、同じ機体のシートに乗り続けているのが現実だからだ



『モノになってんのか?』



 まっすぐ笙野を見据えつつ、中山は一番聞きたい事を問うた。彼女達が乗るA15K(じんぷう)は新型機だ。既に第1、第2艦隊では配備が進んでいるとは言え実態は見えてきていない。機密のベールの向こうにポンコツが潜んでいる可能性すらある



『・・・使えます。今なら、貴女を落とせるくらいには』

『へっ!言うじゃねぇか。マスターおあいそ』



 笙野の鋭い視線に、中山は楽しそうに立ち上がる。不破はあーあ、と嬉しげにその後ろに続く。分の悪い勝負は嫌いじゃない、ギャン中コンビに火をつけると痛い目みるぜ、嬢ちゃん達。と不破の目が語っていた





南洋府都洛市 夏島、南星寮




『良いお湯でしたね』



そう言いながら先頭を御旅屋大佐が歩き、美和と鹿屋を部屋へと誘導する。夏島の統合カロリン空司令部(かつての第4艦隊司令部を継続して使用している)に挨拶に伺ったあと、御旅屋の勧めで部隊の意思統一と打ち合わせとして泊をする事となったのだ



『また葛城君から追い出されてしまったよ』



 美和としては戦飛12や攻飛の受け入れをするために艦に残っていたかったのだが、葛城副長から



『実際に着艦をするでなし、今は部隊全体をまとめ上げた方がいいのは間違いないですから、どうぞ、行ってください!』



 と、人好きのする笑顔で送り出されてしまった。



『有能な部下をお持ちです。私にも覚えがあります』



 クスクスと笑いながら、到着した部屋に御旅屋が招き入れる。途中で人が入らぬように、部屋の机には夕餉がすでに並べられている。海軍料亭としてはかなり建物が新しい。部屋の壁も分厚く整えられていて、以前どこぞで振動感知を利用した集音器による盗聴の恐れありとか部内報を読んだことがあるが、対応出来ているようだ

 そもそも、将兵たちからはサザンスター、あるいはサザンと呼ばれるこの南星寮は、元来ここにあった横須賀の料亭小松の支店が、本店の火災(全焼)に合わせて、この時のため、と小松を復活させるべく全ての建材や設備を持って行った後に責任持って拡大を行ったという事なので、実際建物としては新しいのだ



『さしでがましい話ですが、そういう時は赦すことですよ。赦しは相手を縛ります』

『夢路ちゃん怖い怖い、束縛系の物言いはよくありませんよー。ほら、一献。喋り始めたら食事だって進まないでしょ?』



 と、会話を割って、直接顔を合わせるのは初めてだが、41駆司令の鹿屋が徳利の冷酒を御旅屋と私の盃に注ぐ。こちらに注がれたのを受け取って相手にも一献。それを嬉しそうに鹿屋は受け取る。糸目の目尻が下がっているので本当に嬉しそうだ



『私、名前に反して郷(クニ)が新潟なので日本酒には目がなくて。【春来(しゅんらい)】と言うらしいです、ポナペ島の神社に奉納するからって言うのが由来らしいですけど、南洋にて春が来たるというのが良くて、頼んじゃいました』

『まぁ、鹿屋さんらしいと申しますか。ビールの方がよろしかったすいませんが、最初の乾杯だけは付き合っていただけますか?』



 ちょっと疲れた感じで御旅屋大佐が盃をかかげる。風呂の時も絡まれていたが、どうに彼女は鹿屋大佐は苦手な方らしい。こちらも苦笑を返しつつ



『私も生まれこそ福島ですが、育ちは鹿児島になりますし、酒造の娘ですので大丈夫です。では、第34統合任務部隊に、乾杯』



 と、音頭をとって盃を交わす。ちなみに御旅屋大佐は富山の出という事で、旅館の出との事、目の前には旅館割烹らしい和風の食べ物がならぶが、それをとても褒めていた。南洋でも本土の食べ物をという事で、春島の民間空港で空輸されたものをさらに夏島まで輸送という手間をかけたものもあり、値段はかなり張っているようだが、心づくしとはそういうものだろう



『しかし、ニューカレドニアですか』



 一通り鹿屋大佐の言葉の通り舌鼓をうったあと御旅屋が切り出す。捲り上げた袖から細い腕が伸び、盃を満たす。その座った瞳に酔いはない



『かなり遠いというのは理解しています。ここでの給油に加え、タンカーの手配も依頼するつもりです。そして御二方には道中で<<薩摩>>からの補給訓練も実施していただきたい』



 スティルス性の船体には特性上船体を大きくし過ぎないという制約がある為、積載量も多くはない。だから、長距離進出する際は主力艦から給油を受ける事はままある話だ。第4艦隊は両用戦部隊、後方から進出してくる部隊かつ、民間船の徴用もやるので油にはあまり困った事はないだろう。逆を言えば習得の機会が乏しいとも言える



『なるほど、確かに正しい』

『あらあら、どっちかというと航海術は夢路ちゃん苦手だし大丈夫?』



 絡み酒らしい鹿屋が御旅屋に抱きついている。本人はまどろっこしいと徳利ごと口に運んでいる。今度のお歳暮にはイカ徳利でも贈ろうか



『ええい、まろび出てしまいますよ鹿屋さん。それに、操艦は艦長の職分です。私がしゃしゃり出る必要は無いはずです』

『えー?夢路ちゃんCICからASW(対潜戦闘)でバリバリ口出すのに?凄いんですよ美和さん!第4艦隊で一番信頼できます!私が保証します』



 御旅屋の頭に顎を乗せたまま、ご機嫌で鹿屋はそう言い放った。がっちりホールドしてなければ好意的に同意も出来ようものだが



『だから美和さん。そちらのヘリ運用も預けて下さるかしら。フランス極東艦隊は少なくとも1隻の原潜は海域に随伴させているでしょうし、いくら電子戦対応していても、航走音は海中に響くのは変わらない。でしょう?』



 細目の目の奥が笑っていなかった。そこで理解する。彼女は少なくともこれでは酔えないのだ。そして、言っている事は正しい。フランス極東艦隊の動きに合わせてANZACの潜水艦が遊弋している事は考慮すべきだし、そうなれば対潜部隊の統一運用がモアベターなのもそうだ。薩川湾での合流以来、そつなく任務をこなしてきた第4艦隊の護衛部隊たる駆逐隊の筆頭司令とはこうあるのだ



『私としては異存ありません。駆逐隊の各位にお任せします』



Prrrr・・・



 美和が頭を下げたと同時に携帯電話が鳴る。失礼、と2人にことわって相手を見ると高松宮。嫌な予感がしつつも、音声は2人にも聞こえるように切り替えて応える




<<夜分にすまん。艦隊系の通信で正式に伝えられるほど情報が収集出来てないが、おかしな【波】が出ている>>

『波、ですか』



 波、電波傍受の事だ。チラリと視線を向けると、御旅屋は店の方に移動手段(アシ)の用意を依頼しており、鹿屋は冷酒を冷やすための水桶の水を頭から被り、頬を叩いて酔いを醒ましていた




<<フランス極東艦隊だけでなく、ニューカレドニア全域と連絡が取れない為、あちこちに呼びかけているらしい。明日(みょうにち)をもって任務部隊は予定より早く現地へ向かってくれ>>

『了解。そちらは?』



 艦隊の主力はパラオにいるはず。そこまで遠い訳じゃない。一地域まるごと音信不通となると不測の事態が起きかねない



<<湛江(フランス極東艦隊の母港である)騒いでんのがこっちでも掴めてるんだ。香港(英極東艦隊)が掴んでない訳ない。こちらで牽制にあたる>>



 プツッと言いたいことだけ言うと高松宮からの電話は切れた。これだから宮様は・・・!



『貧乏暇なし、といったところでしょうか。車と内火艇も用意出来ました』

『久しぶりに布団で寝たかったのだけどねぇ』




 二人が苦笑しつつ美和に話し掛ける。うん、でもまぁ曲がりなりにも腹を割って話せたとは思う。この人達は信用出来る。任せるだけ任せてみよう



『不束な部隊司令ですが、宜しくお願いします』



 四季七曜の島々に囲まれた穏やかな時間は、慌ただしく去ろうとしていた

感想・御意見等お待ちしています

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。