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【Sea State.11】Cry for the Sleep Core

Cry for the moon

意味:実現不可能な事を望む

ニューカレドニア・ウベア島リーフ内<<ブーゲンビル>>




『今、私は奇跡を見ているのだろうな』



 様々な観測機器が並ぶ中、フードル級と同様のスペースがあるウェルドック内を窓越しに眺めつつ、フランス極東艦隊司令のデカズはそう嘆息しながら呟いた。このスペースは本来揚陸艦として、揚陸艇や水陸両用戦車などの発進をコントロールする為にあった発令所をあれこれ改装したモノであろう。本来ならなかった手すりに手をつきつつ、ドック内に鎮座している球に近い紡錘体の下方部を切り離した舟形とも言うべき金属体の塊を見つめる



『実際に奇跡というものでしょう。切り出すのにもだいぶ時間が掛かりましたから、この【Coucher(クーシェ) du Lune(ドルーン)】は』

『この極東艦隊の司令にすら現物を見に来るまでは機密保持を優先とはどういうことかと身構えていたが』




 月没(クーシェドルーン)と名付けられたソレを見つめたまま、デカズは技官の説明を思い返した。艦隊総出でニューカレドニアに進出するのも、日米がきな臭くなっているので核実験でも実施するのかと思っていたが、核は核でも・・・



『まさか衛星核を丸ごと入手したとは思いもせんよ』

『そもそもあ(・)る(・)筈(・)の(・)な(・)い(・)物(・)でしたし、複数衝突説自体も比較的近年に提唱されたものでしたから』




 技官は嬉しそうに遠慮もなくデカズに話しかけている。しかし、そうもなろうというものだ。目の前にある物は本来であれば人類がいくら願っても見れないであろう代物と推測されている。学者先生ともなれば垂涎としか言いようがない

 月の成立は地球に対する小惑星の衝突。いわゆるジャイアントインパクト説が有力であったが、その派生として複数の小惑星の衝突によるとするものがある。月として衛星軌道上にとどまったものと、地球に入り込んだものが当然あるわけだが、こいつはその核(コア)の部分といわれている。

 本来、その重さからぶつかった小惑星の核(コア)は地球の核(コア)に吸収されるものだが、コ(・)レ(・)は比較的小さいのもあり、マントル上層部に残った事と、ここニューカレドニアの沖合には他の海嶺とは違い、小型の連続しない海嶺が存在する



『繰り返しになりますが、ジーランディア大陸そのものが海底にそのほとんどを沈降させている・・・地殻の薄い箇所になります。そこから排出された形になりますが、それを確認できたのも奇跡としか言いようがありません』

『それを分割して、最後に回収したのがこれか・・・小惑星の内圧、そしてマントル中にて高温加圧された自然超合金、その塊というわけだ』



 説明によればニッケルとタングステン、イリジウムなどの元素が複雑に入り混じった上で超高圧、超高熱下にあったので再現不能というのが目下の結論との事。もう一度ドック内のそれを眺めてから背を向けた。その様子に技官は残念そうな顔をする。これだから軍人サンは価値を分かっていない、そんな顔だ



『とりあえず神秘の話はここまでとして、我々の目的はワザワザ大仰に、艦隊で輸送する事ではなかろう?』

『それは勿論です。現在切り出した核(コア)は暫定的な加工施設を増設したベレップ諸島、アート島に移送しておりまして、そこで金属としての特性を確認している過程にありますが、我々が持つ火器は至近距離の拳銃弾から5,000mの距離からの100㎜砲までは未貫通を確認しております・・・25㎜の装甲板に対してですが』



 その回答をデカズは頭の中で反芻する。本来1inの装甲板はどこまで行っても破片(スプリンター)防御に過ぎず、米国などはケブラー装甲などの対応で艦の排水量を抑えている面もある。だからこそ、技官の言っている事はおかしい



『それは歩兵の対戦車ミサイルも含めてか?』



 技官は頷く。なんて事だ、現行の100mm砲は榴弾しかないから貫けないというのは分かるが、平均的な装甲板であれば600mmは貫通できるそれを25mmで耐えただと!?




『はい。どうやらその由来からか、高圧・高熱には相当の耐性があるものとみられております。形成炸薬での貫徹が望めないのであれば、実体弾として大きなエネルギーを持つもの、あるいは高高度からの爆弾の投下が必要としました』

『それで我々が出向く必要があったわけだな。おい、隠し事は抜きにしよう。切り出しはどうやった。いや、どれだけで切り出せる』



 そう、我々に必要なのはどう利用できるかだ。そのためには塊ではなく、今回のように装甲板などへと加工する必要がある。価値はあるけれども使えないのでは意味がない、我が国は装甲技術においても他国からは立ち遅れている、装甲の本場である英国はもとより、ケブラー装甲や、大型空母を成立させている高張力鋼を備えるアメリカ、戦艦を実戦で運用するが為に予算を投じ続けることで超合金、Z及びニューZを開発し大改装にこぎ着けた日本らと我がフランスは素材工学に関しては途中で艦載核ミサイル搭載艦にブレた事もあり、及ぶべくもない



『100㎜装甲板までの加工は可能な段階です。切り出し自体は高温・高圧に耐える事自体は見越せたので、先に加熱工程を経たうえで液体窒素等を含む急速冷却でクラックを生じさせたあとに、樹脂を封入して水分の浸透による膨張でどうにか割りました』

『100㎜か・・・』



 装甲厚そのものは一般的な巡洋艦と同程度、しかし25㎜の段階でもその耐弾性を見せるとなれば、増加装甲としてプレート的に上乗せする事も可能であろう。うん、悪くない。悪くないぞ



『他にも何かないのか』

『ああいや・・・』


 技官が少し逡巡している。まだ固まっていない、確認できていない研究状態なのだろう。こういう手合いは、出来る事と出来ない事の間が広くある場合は、実際に出来る事だけしか喋らない



『話してくれ。これが重大な事である事は十分に理解した』

『・・・長期間の圧力下にあった為か、形状記憶合金の気があります。試験の際に超高温にさらされた装甲板が穿孔されるのではなく、切り出した時点での形に戻るようなそぶりを見せました』



 ふむ、と顎に手をあててデカズが考える。形状記憶合金。つまり適切な温度調整で記憶された形に戻せるよう調整できたならば修理の面でも革命的な事になり得るじゃないか



『わかった。それから靭性についてはどうか、100mm榴弾が貫通できないのはわかったが、弾片(スプリンター)が切り裂きにはかかっているはず』

『十分に高い靭性を保っております。割れなどはどのテストでも発生しておりません』




 デカズは強く唸らずをえなかった。日本のやり方だと、装甲巡以上は主砲塔前盾などバイタル部分には既存の装甲にアタッチメントでセラミックを挟み込んだ追加装甲を貼れるよう実用化してるが、あれはあれでかなり割れやすい悪評も聞く。イタリアは装甲板そのものに挟み込むスタイルを確立しているが、メインの装甲板としては分割しているので一枚板の同厚より装甲として弱くなるデメリットもある、と各国が悩む問題も一気に解決出来るわけだ



『我々は奇跡を目撃している』



 旗艦に戻るにあたって、デカズは最初に月没(クーシェドルーン)を見た時と同じく呟いた。フランスにとって福音となるべきレアメタル。存在を匂わせるだけでも市場は動くだろう。ただ、それがあると確信させる成果を流す必要もある。その為には量も悟らせるわけにもいかないから秘匿性も高い・・・試験も関わる艦は少なくするべきだ、やることは多いぞ





翌日、アート島沖フランス海軍極東艦隊<<イヴ・ド・バゼレール>>艦橋




 砲撃終了の冷却水を砲身から流しつつ、名前から【校長級】と呼ばれる彼女は、次の砲撃順である旗艦の<<クレマンソー>>へ針路を譲る



『地上支援にはあまり褒められたものではないねぇ』



 その指示を行った後、艦長のサラフィナは射撃成績の報告資料を挟んだバインダーに目を通す。目標に向けて射撃を行った54口径の5in連装砲の成績はあまり良くなかった



『重対空砲として散布界をある程度取っている砲です、地上目標を撃つのも目的にはしていますが、副次的です』


 わざわざCICからバインダーを持ってきたFC(ファイアコントロール)の長が、そんな弁護をする。現状を追認するならそうなんだろうけどねぇ、とバインダーの紙にサインして返す



『連装砲で砲身が保つし、防空巡だからって疎かにするもんじゃないよ。その為に100mmには搭載していない硬目標用のAPがあるんだからね』



 沿岸のトーチカや設営された陣地を撃つことも見込まれてのAP(徹甲弾)がある。ならば改善していくべきじゃないか。こっちが女艦長だからって舐めるんじゃ無いよ



<<CICより艦橋>>

『艦長だ、どうした』



 艦内電話がかかってきたので、FCを待たせつつ受話器を取る



<<射撃終了後にノイズ、ノイズ自体は現在消失。FC1に指示を求めたいのですが>>



 内容的には軽いものだ。射撃時の振動でメンテが上手くいっていなかったり機器の取付位置の具合でノイズが走ることはないわけじゃない。小さい事でも指示を問うてくるあたりはFCの手腕が良い事の証明でもある



『どうする?』

『再起動に合わせて電源喪失からの復帰訓練に回したく思うのですが、許可をいただけますか?』



 うん、これを上手くこなすならもう少し様子を見るべきか



『許可するよ、うまくやりな』

『はっ!下がります』



 そう言って足早にFCはCICへと下がっていった。演習のプログラムは<<クレマンソー>>の射撃訓練が終わった後は<<ダルラン>>の航空攻撃訓練があるので、それに合わせて対空射撃訓練の流れとなっているから、ちょうどいいだろう。攻撃直前に電子戦を行われる可能性は高いし、対応の時間を訓練内でも減らすのは実戦向きだ




ドドドドドドドド!!!!




 遠くから位置に付いた<<クレマンソー>>の砲声。射距離は5000mで固定であるから命中まで6秒前後、ほぼほぼ仰角0の直射であるから初弾命中も期待できるだろうね、そうなるとこちらの射撃成績が悪目立ちして良く無い。困ったもんだねぇ

 そんなサラフィナの思索をよそに、異変が起きたのは20秒を過ぎた頃であった



<<CICより艦橋!>>

『艦長だ、どうした』



 先ほどと同じようにサラフィナが受話器を取ると、今度は切迫したFCからの声が響く



<<ソナーマンが魚雷発射管の門扉開放音を聴知、<<テュクワーズ>>によるものと思われますが、これは訓練に・・・なに?<<クレマンソー>>からも照準レーダーのCW(継続波)!?これはどういう・・・!>>

『なんだって!?っ!機関室、最大戦速急げ!CICは<<クレマンソー>>へ問い合わせ・・・いや、一時待て、距離をとる!』



 1分かかってない間に何もかもが変わってしまった。なんだい、どうなっている!?



『<<クレマンソー>>の主砲塔、こっちに向けて旋回し始めています!』

『莫迦な!?』


 ワッチからも目視で異常を知らせる絶叫が届く、機関の出力があがる音だけが良い情報だ。速度をあげると潜水艦の<<テュクワーズ>>の情報が失われるが、脅威の順位を考えれば致し方ない、何せ相手は・・・



『<<クレマンソー>>発砲!!!!』

『ずらかるよ!CIC!DAGAIE(ダゲ)デコイ・チャフ射出!なんとしてもポテ島の陰まで入るよ!戦艦(キュイラッセ)相手の近接戦なんてしてられるかい!』



 しかし、初弾についてはすでに撃たれてしまっている、対抗措置(カウンターメジャー)が働きようがない。弾着まであt



『ひぃっ』



 艦橋の前を巨大な砲弾が近距離であることを示すように真横に擦過し、水柱が<<バゼレール>>を包み込む。夾叉、夾叉だ。命中しても縦にでなければ恐らくは過貫通で串刺しになるだけだとしても、中身は別だし、人間にも優しくはない!恐怖を振り払うべく、サラフィナは更に叫んだ



『輝く星になるには、まだまだ早いよ!』



 そうだとも、蒼天の空にまだ太陽は輝いているのだから!

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