【Sea state.15】 荒ぶ風、嘯く海
グランドテール島沖上空 戦飛12、A15K 笙野機〖クロウ4〗
<<目標は8機、真っ直ぐ<<バゼレール>>へむけて進行中。ヘリの動きを確認しての索見攻撃とみられる。〖クロウ3〗から〖クロウ5〗迎撃せよ。繰り返す、迎撃せよ。全武器使用許可>>
『・・・』
AEWからの指示がコックピット内に響く。8機、上空直掩を除いて指向出来る機数はシャルルドゴール級のような中型空母だと多くはない。なんでも屋としてラファールMは全機にエグゾゼを2発搭載しているとして16発。防空巡の迎撃能力で言えばギリギリ迎撃しきれるか怪しいくらいの飽和度だろうか
『芽乃、何か考えてるでしょ』
『幌星さん・・・』
後席からの声に苦笑する。バレバレでありますか
『相手はブリーフィングを聞いた限り、何らかの制御下に置かれてしまっていると思うのであります』
『助けたいのね』
頷く。ただスティルスを生かして撃墜するだけなら容易くはある。探知されないまま必殺界まで接近して発射、単純にこれで終わりである
『発射に合わせて対艦ミサイルだけを迎撃して離脱、ドッグファイトはせずにそのまま逃げ切るであります』
捕捉する目標が小さくなるので、こちらの電探の性能も試されます。なにより、迎撃戦闘機として大量の米海軍艦載機から撃たれるであろうミサイルも迎撃せんとイエロートムキャットの汚名を着てでも実装したA14Kを超える機体である為には、この程度は出来なくてはなりたせん。しかも与えられたスティルス性で正面から投げかけるでなく、後方からいける優位性もある。やるという強い意志さえあれば十分やれる範疇であります・・・機動はともかく、大部分は目標選別を行うRIOの彼女にかかっているのでありますが
『一応、迎撃せよとは言われておりますが、敵機を撃墜せよとは言われておりません。処分は甘んじて受け入れます』
『始末書、私たちの分も書いてよ?それに、3機じゃ落とせて12発。全部じゃないしそれを追いかけてってのは無しよ』
A15Kのミサイル搭載量はA14Kと同様に七六式の長距離AAMが6本、七八式短距離AAMが2本を基本としてそれを機内搭載できる。七六式は1本につき2本の七〇式中距離AAMとバーター出来るので、そこを任務で入れ替えする。スティルスでより接近できるのだから長距離AAMを搭載するよりも中距離ミサイルを多数搭載する方が好ましいという派閥もある。で、今回は長距離進出も考えられていたので、七六式は2本降ろして機体重量を軽めにしているから、1機4本で3機、待機している戦飛12の機体を投入してもらえれば対応は可能だろうし、艦側でも4本で迎撃をしくじるという可能性は低い、あとは
<<こちら〖クロウ4〗、〖クロウ3〗〖クロウ5〗やりたい事があります>>
列機となる両機に呼びかける。笙野が2小隊の長機で良かった、ここに1小隊の〖クロウ1〗がいたら言下に具申は退けられていた筈だ。〖ステラ2〗にしてもそうだ、指揮者は部下に命ずるとき行程をより簡略化するべきというの正しく守っている。撃って、落とせ。これだけでいいのを別途あれこれしようというのだ。そういう意味では中山の評の通り、笙野は向いていないというのは正しくあった
<<危険だぞ〖クロウ4〗、ラファールにはSPECTRAがある。全周警戒が可能だしスティルスで接近出来るとしても、照準レーダーは探知される>>
と、〖クロウ3〗が反駁する。そう、Fire&Forgetにしても目標に命中させるための電波照射はしなければならない。走査レーダーと照準レーダーの電波は観測される。照準元はミサイルの方だが、こちらの存在は露見する。オフボアサイトで命中率は低くともこちらにミサイルを投げつけられる可能性すらある。極めて命中の可能性は低いが、ゼロではない
<<だから、お願いしたいのであります>>
<<まぁ、色々定まってないですからねぇ。〖クロウ5〗は乗りますよ、それ。小隊長が甘いのはいつもの事ですし>>
小隊員である〖クロウ5〗の方は危険も承知で従ってくれた。〖クロウ3〗は諦めたのか、バンクで同意を示して続行する
<<〖クロウ4〗より〖ステラ2〗、目標の後方に遷移したい。ESM(電波管制)での誘導乞う>>
<<〖ステラ2〗了解、これより指示を行う>>
うん、〖ステラ2〗は慎重さを期していると思って誘導してくれそうだ。そこのところに胸を痛めつつも指示の通りに機を動かす。そもそもとして、相手に接近を気づかれたらこの策も成立しない。そこは祈るしかない
<<〖ステラ2〗より〖クロウ〗各機、位置についた。射撃よろし・・・どうした、エグゾゼの射撃位置が近い、アクシデントか!?>>
<<〖クロウ4〗より〖ステラ2〗、これより敵ASMの迎撃を行います>>
通信の向こうが息を呑むのがわかる。迎撃の難度がいきなりあがったのだ、しかも小隊長格の一存でだ
<<・・・後で譴責だぞ。後詰を敵ミサイル残弾を処理するのに投入する>>
<<了解、責は私にあります>>
敵機の後方に回って待機する。エグゾゼの射程距離は最新型だと150㎞を超える筈だから、撃たれるまでにそう時間はない。ずっと自分の判断に間違いはないのかと呼びかける脳内をシャットダウンする。もう決めたのだからやり切るしかない
『目標数増大、捕捉したよ!』
『幌星さん、頼みます!』
リンクを介して情報はAEWと列機に伝わる。目標が被らないように選定するのはRIOの腕次第だ。そして私は幌星さんの腕を信用しています
『いける!』
<<各機斉発!フランソワ3!>>
米英軍におけるFox3と同様のコードでミサイルがエグゾゼに向けて放たれる。その白線は先行する白線と重なり爆炎を青空に彩る
<<各機、全速でそのまま下降!退避します!>>
『旋回しないの!?』
疑問を投げかける幌星に頷く、SPECTRAで後方になにかいるとだけは気づいた相手は、電波強度を得るべく旋回して機首をこちらに向ける事が見込まれますし、だとするならばこちらも旋回して背後を見せるのは排気炎を見せるという意味でもよくない、旋回する分速度も落ちます。下降するのはそのまま速度を稼ぎたいのと、またこれもレーダーの特性上ルックダウン性能は機体の陰になってどうしても劣るからそれを期待するのであります。が、説明している暇も惜しいので、そのままフルスロットルで下降に移る。対艦ミサイルを撃ち放ったラファールはより身軽になっているはず。重量面で見ても降下の方が正しいとみました
<<いいぞ〖クロウ4〗、目標は相手を認識出来ず迷走している。残りのASMについては対応中>>
〖ステラ2〗からの通信で上手くいったと確信する。このまま距離をとってから高度を回復させよう。それと、残弾がない
<<〖クロウ4〗より〖ステラ2〗、こちらは長距離AAMを射耗した。RTCをリクエストしたい>>
<<〖ステラ2〗より〖クロウ4〗少し待て・・・艦隊は減速中、追って待機地点含め連絡する>>
そう言って〖ステラ2〗との交信が切れる。好き勝手やって真っ先に着艦したいはいささか強欲だったでしょうか・・・?
『艦隊が減速してるって何かあったのかな?』
『どうでしょうか・・・』
他の通信が溢れているわけではないので、沈黙においての作戦行動なのでしょうが、艦隊は一体何を・・・
バヌアツ沖、JTF-34 第42駆逐隊<<有明>>CIC
小さな体躯がモニターを見つめている。モニターに残る光点は一気に増え、そしてそのほとんどが消える。その様に小さな体躯の主である御旅屋は席に深く座りなおして深く息をついた
『航空隊はコバエを落とさなかったようですね、お優しい事だ』
残った光点は迷走を始めている。スティルス機に上手くしてやられたならこうもなりますか、さてこちらはこちらの仕事を始めましょうか
『任務部隊指揮官と41駆司令に連絡、これより我が隊は隊前方に進出し、ASWを実施します。3つ固め、本艦が勢子』
『了解、僚艦に指示下達します』
バヌアツ、エスピリットゥサント島近くにはニューへブリディーズ諸島に沿うかたちでニューへブリディーズ海溝があり、フランス海軍側の潜水艦が身を潜ませるなら深度がとれる関係上ここが一番良い
『しかし、おりますかね』
伝達を終えた艦長が疑義を示す。まぁそうですね
『ヘリ到着後に詳細はおって来るでしょうが、<<バゼレール>>が座礁の危険を犯してまで環礁に陣取って居たのは、航空機を使えないままでは潜水艦に対しての危惧があったのが見てとれます。ならば仕掛けるならここでしょう』
今のところ、位置隠匿でヘリが使えないのはこちらも同じだ。そして三つ固めというのは3艦が曳航ソナーを降ろして探知につとめ、1艦が勢子として探知した敵艦を攻撃し、追い回す役をやるやり方だ。他にも四つ固めとして駆隊全艦で曳航ソナーをおろし、ソナーバリアーを作るやり方・・・これだと全艦が速力を落とす事になるので、他に艦か哨戒機が居て勢子役をやってくれる事が前提になる。どちらかと言うと哨戒ヘリがソノブイバリアを張って、探知後アスロックで艦の方から攻撃を行うやり方に近い
『奇襲効果を得られるならここまでです。ここしかない。というより、出ざるをえないでしょう。航空戦力をみるなら我が艦隊の方が優勢です。空母に圧力をかけて運用能力にセーブをかける。定石です』
モニターを見直すと、速度を落とし転舵した<<薩摩>>とそれをいち早く囲むように41駆が遷移している。流石です、鹿屋さん。これで、42駆のノイズは著しく減った
『想定される敵潜はリュビ級後期型、比較的小型である為推定で逆に米潜より深く潜れます。境界層に注意、こちらはこの海域のデータに乏しいですからね、艦長。油断なきよう』
『は、了解です。努めます』
我が駆隊の艦長達ならばある程度弁えているでしょうが、この曳航ソナーを曳いている低速移動時のこの時こそ敵潜がこちらを狩りやすいタイミングでもある。そして、隻数を考えるならば迎撃を避けるために同時に仕留めたい筈。加えてヘリを使えない我々の状態だと、対応時間の短さで潜水艦発射型のエグゾゼでの攻撃を企図すると推測できる
『となれば、攻撃基点をどこに置くか』
御旅屋は見下すような怜悧な視線を航図に落とす。ここで攻撃をかけないのであればこちらも助かるし、水上艦隊をノイズもなく追いかけられる道理もない。航空戦力の活用にも許可が下りればさらに詰められるのはあちら側である。戦う必要がなければ逃げますね、私なら・・・だが、<<バゼレール>>に攻撃隊を送ったのをみるに、機械的に相手は動いている。攻撃隊だってバラしてみたり、人為的に工夫を凝らしても良い所なのに、それをしない
『統制する頭が素人?ですが、普通の素人がフリートジャックなど行えよう筈もない。空母群もそうですが、潜水艦までそうなるとなると媒体は限られるでしょうね』
独り言を呟きながら思索を続ける。美和さんがしている電波統制がそれというのは頷ける。ですが、潜水艦をその範疇に入れるなら、むしろ統制すべきは・・・
『・・・音波?これはいけません!』
『司令?』
御旅屋が慌てて駆隊の通信を開く。想定がそうであるなら、一刻も猶予はない
<<隊司令より緊急!全艦曳航ソナーを回収、艦ソナーを主とし、速度上げ、ワッチ強化>>
<<こちら<<白妙>>、展張中の曳航ソナーより強大なクリック音のようなものを聴知、継続聴音を希望>>
強大なクリック音!目標への最終照準・・・!
<<隊司令より<<白妙>>は曳航ソナー投棄、全速、推定速度はマッハ4>>
<<は?は!曳航ソナー投棄宜候>>
要領を得ない話ではあるが、この司令の言うことなら、と<<白妙>>が対応を始める。間に合うか
『ワッチより報告!水中を走る航跡状のもの、<<白妙>>に向かいます!早い!』
でしょうね、射撃位置はおそらく対艦ミサイルの射撃位置、30㎞以内として命中まで22秒を切る、艦の位置をずらすとして曳航ソナーを曳くには15kn以下の速度だったはず・・・停止状態ではなかったですが、間に合うかどうか
ザパァッ!!!
巨大な水柱が<<白妙>>の後方に巻き上がり、投棄された曳航ソナーは空中に巻き上げられ海面に叩きつけられ破壊される。その水柱の巨大さからレーダーに捉えられ、輝点としてCICのモニターにも表示される
『<<白妙>>健在!<<白妙>>健在!』
『なんだありゃ・・・!何を撃たれた!?』
パン!
ざわつくCICに乾いた音が響く。御旅屋が手を叩いたのだ。それだけで部屋は静寂を取り戻した
『我々がやることは変わりません。あれはおそらく音響ビームです、それもとても強力な。加えて恐らく・・・』
『Rコンタクト、飛翔物探知!エグゾゼです!』
御旅屋は艦長に視線を向けると艦長が頷き発破をかける
『想定内だ、弾数も多くはない、対処して見せろ!42駆はこんなものでは揺るがんぞ!』
『敵潜発射位置の測定始めます!』
『防空戦闘、射撃位置確認、撃てるなら自動で撃て!リンクは上手く稼働しているな?』
きびきび回りだしたCICに満足しつつ、御旅屋は艦長に近づくように促す。推測を伝えておく必要があった
『あの音響ビームを自艦のソナーに当てられてはなりません、おそらくあれが今回の事態の根源に近いものだと推測できます。ソナーの使用は限定、VLAの準備を』
『つまり司令はヘリ、ソナー無しで目標を詰められる。と』
御旅屋は不敵に笑った。艦長は良く理解している。世はなべて宜候というものですよ
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