平民と貴族と出発と
ジェイクには元々手紙を書いていたが、ディラン、マーク、ローズにもあの通信の後、手紙を出していた。今までの感謝の気持ちや、みんなそれぞれに思っている事などを綴った手紙だ。そしてそのみんなへの手紙の中に出発の日時も書いていたのだ。学校があるから来れないと思っていたが、まさか来てくれるなんて!
「その子は友達です!!縛り上げるなんて……すぐに縄を解いて!!それに、友達に平民とか貴族とか関係ないから!!ま、まさか……乱暴にしてないよね?乱暴してたら私………許さないから、だから今すぐ解放して!!あと、すぐ向かうから待っててもらって!!!」
予定より少し早いが、お父様と、お母様を連れて馬車が待つ門の前へと足早にやって来た。そこにはディラン達3人と少し離れて青ざめているジェイクが居た。
「みんな来てくれてありがとう!それにジェイクごめんね、怪我とか無い?本当にごめん!!」
みんなの元へ駆け寄るが、ジェイクは身分の差を気にしているのか、遠巻きにアデレイドを見ている。気持ちは分かるが、モヤモヤしたアデレイドは
「ジェイクもこっち来て!!ハグしよ!!カモン!!」
ビクッと肩を揺らし、その場から動かないジェイク。そんなジェイクを見て、アデレイドは小走りでジェイクの元へ行き抱きついた。ジェイクは顔を真っ赤にして
「なっ!アデレイド俺こんな平民の服だから、その綺麗な服汚れちまうかもしれねぇからハグすんなって……俺、いつも後から手紙で知るからさ、今日は直接会って伝えたくて来たんだ」
ジェイクは自分は汚いと散々貴族に言われてきた。それが分かっているから直接侯爵家に行き挨拶するのを躊躇ったが、自分の知っているアデレイドは、そんな事気にしないと言ってくれる気がして勇気を出して今日ここに来たのだが、嘘つき呼ばわりされ、縄で縛られてしまったのである。悲しかったが、いつもの事だからダメージは少ない。それに、しばらくアデレイドに会えなくなるならやっぱり手紙だけで別れるのは嫌だった。しかしまだこの場の空気は少しピリ付いていた。そして、ジェイクが何か伝えようとしたその時、横からマークが出てきてジェイクを牽制する。
「なになに?随分仲良いじゃん?お前もアデルの友達?あれ?お前、あのダンスの時俺の次に踊った奴か?けど、俺も友達なんだよね、先に俺らから話してもいいかな?ジェイク」
「あ、ああ……うん、はい、俺は別に後でも、、いいです。」
なぜマークが先に話したがったかと言うと、ジェイクが赤い顔で会って伝えたい事があると言った事が原因だ。このシュチュエーション、もしかしたら今ここでアデルに告白をするのではと思ったのだ。しかも平民が自分達よりも優先されている様なこの空気も嫌だった。やはり、貴族で育ってきた環境は中々平民を受け入れ難いのであった。
それに比べてジェイクはマークの態度こそいつもの貴族からの態度なので一生懸命自分なりの敬語で対応していた。アデレイドはマークの態度に思う所があったが、この世界の貴族と平民の間柄も何度か見てきているので、騒ぎにならない様に「本当にごめん。少しだけ待っててね」とジェイクに一言言ってから、マーク達と話をする事にした。本当だったら大好きな皆んなに囲まれたいのにと、涙を飲む……クゥーー……
「アデル!!!」
ローズがタックル、もとい、おもいきり抱きついてきた。そして見上げたローズの目と目が合った。ローズの目にはうっすらと涙の膜が張っている。つられて私も涙ぐんでしまう。
「アデルと離れるのはとても辛いですわ……私の一番のお友達なんですもの…………アデルも私が一番じゃなきゃ許さなくてよ!!って、こんな事が言いたいんじゃ無いの、、アデルの幸せを願ってるわ、私もアデルに負けないくらい楽しい学園生活を送るから、アデルも楽しい学園生活を過ごしなさい、約束よ?もし約束を破ったら許しませんわよ?」
ふふっと泣き笑いでアデルに笑いかける。いつも、健気で、ツンデレだが、優しすぎるローズ。励ましてくれる言葉がとっても嬉しい。子猫の様な大きい吊り目の赤い瞳に見惚れていると、後ろから急にハグされる。
「ローズだけずるいぞ、俺にも挨拶させてくれ!!アデルが学校から居なくなるなんて寂しすぎる……また俺たちに内緒で決めちまうし、行動力有るのは良いけど、いつになったら俺たちの事頼ってくれるんだよ……はぁ、本当離れたくねぇー、、、けど、事情が事情だから仕方ないのも分かるし、納得したつもりだったけど、直接会っちまうとダメだな…………ってかごめん、急に抱きついて!!」
マークは真っ赤になりながら手をパッと離した。アデレイドはそんな素直なマークを見てクスリと笑った。少し早とちりしがちで、自分の意見がハッキリしていて、素直なマーク。寂しいと言う事と、まだまだ離れるのが嫌なのがすごく伝わってくる。ハグはビックリしたが、された私よりも真っ赤になっているマークを見たら笑うしかなかった。
「笑うなよ、俺、カッコ悪いし、恥ずかしいな……って、アデル!俺は今よりもっと剣と魔法を鍛えて強くなるよ、そして、今よりもっと強くなったらアデルに伝えたい事があるんだ。その時はまたこうやって聞いてくれるか?」
今度は真剣な表情で見つめられて、少したじろいでしまう。そして、数秒して、アデレイドは
「うん!頑張って強くなってね、報告楽しみに待ってるね」
と笑顔で微笑んだ。マークの想いは微塵も伝わって無かったが、今はまだ伝わらなくても良いと思うマークであった。
マークが思いを伝え終わると、今度はディランがアデレイドの両手を取り、自然と向かい合う姿勢になった。ディランはいつ見てもインテリかわいい顔をしている。眼鏡をかけさせたらもっと萌えがアップするなぁとポヤ〜と考えていたら
「あの衝撃の出会いからアデルはずっと僕の天使様だよ。アデルの言葉にいつも僕は救われる事が多かったと思う。アデルが笑えば僕も嬉しいし、悲しければ悲しい、苦しかったら苦しい。僕とアデルはとっても近い存在だと思ってる。同じ侯爵家だし、今回の事知ってたらもっと力になれたと思う。気づかなかった僕を許して欲しい。本当にごめん………」
ディランは眉を下げ唇を噛んでいる。シュンとして、子犬の様な姿がとっても可愛らしい。出会った時からディランの方こそ天使の様にかわいく、常に綺麗な心で優しいし、純粋だ。しかも今でも天使様と言ってくれる…………しかし、ちょっと待って欲しい、その設定はもう恥ずかしいので流石にもう忘れてほしいと思っている。
「謝らないで、ディランが悪いわけじゃ無いよ?多分、王様には何してもダメだったから、私が魔力ないとか、それくらいの衝撃がないと意見変えなかったと思う!ディランは色々考えてくれたんだね、その気持ちがとっても嬉しいんだよ。本当にありがとう大大大好きだよ!いつまでもそのままの(可愛い)ディランでいてね(久しぶりの自称天使スマイル)」
小首を傾げた自称天使スマイルの破壊力は凄かった。ローズ、マーク以外にも周りに居る護衛達にも被害が出た。その場で崩れ落ちる者や、祈る者、涙する者も居た。そんなペ天使スマイルを直撃してしまったディランは真っ赤になりながら固まった。そして、小声で「天使さま……アデル……行かないで……ょ……」と涙声で呟いた。やっぱり、ディランがいかに頭が良くて聞き分けが良い性格だとしても、まだ子供なのだ、自分の天使様と離れるのは嫌だったのだ。
アデルは少しだけ困った顔をした後、ディランを強く抱きしめた。お兄様に抱きしめられるとアデルは落ち着くので今実践してみただけなのだが、ディランは心臓がドコドコと壊れそうなくらい音を立てた。そして、耳元で囁いた。
「ディランの困った時にはいつでも駆けつけるから呼んでね、いつでもディランの元に駆けつけるから、なんたって、私は貴方の天使様でしょ?それと、ディランの可愛い顔は悲しい顔より、笑ってる方が好きだよ、笑って欲しいな」
キスしてしまいそうなほど近い距離でアデレイドに笑ってと言われ、会えなくなる寂しさなんて通り越してしまう。気を失いそうになりながらも、真っ赤な顔で一生懸命にはにかむディラン。それを見て満足そうに笑顔になるアデレイドはディランから離れ
「ディランの笑顔大好き!さっき言った事は本当だからね、だからもう寂しくないでしょディラン!!」
手を繋いだまま問いかける。ディランは真っ赤なまま大きく頷く。
そして、最後にジェイクの所に駆け寄る。平民だからか、皆んな遠巻きに、だが、警戒する様に2人を見ている。しかし、当の本人達は気にする事なく話し始める。
「アデレイド、手紙ありがとうな!今まで一緒の学校だったけど、まぁ、クラスも違かったし会う事少なかったからあんまし状況は変わんねぇーよな。でも、アデレイドが貴族なのに周りに関係なく俺と仲良くしてくれた事、死にかけた時助けてくれた事本当に感謝してる。俺めっちゃ嬉しかったんだぜ!!離れててもずっと友達だぞ!!他の学校でもたくさん友達作れよな!」
いつものあの元気な笑顔で話すジェイク。言われているこちらもおもわず元気になってしまう、そんなストレートなジェイクの言葉。
「ありがとうジェイク、とっても嬉しい。あっ!そうだ、ジェイクにこれ渡そうと思ってたんだ。これ私が作った連絡石がついたネックレスだよ。手紙だと見るまでに時間が掛かるし、これでいつでも連絡取れるね」
ギュッとジェイクの手にネックレスを渡す。すると、ジェイクも自分のポケットからゴソゴソと袋を取り出し、照れくさそうにアデレイドに袋を手渡す。アデレイドは「開けて良い?」と聞いて袋を開ける。中にはお守りが入っていた。
「なんかさ、アデレイドって厄介ごとに巻き込まれる事が多い気がするからさ、そんな中でも無事に過ごせる様にって願い込めて作ったんだ……手作りでかっこ悪ぃけど良かったらもらって欲しい」
へへっと鼻を擦りながら可愛い事を言うジェイクお守りに使われている布も選んでくれたのか、白い布に銀の糸で御守りと刺繍してある。そして、お守りの裏には茶色い頭の男の子らしきものと、銀色の女の子らしきものが手を繋いでいる刺繍がしてあった。まるで、ジェイクとアデレイドに見える。決して刺繍は上手いわけではないが、その不恰好な手作り感がジェイクが気持ちを込めて作ってくれたのがすごく伝わってきてとっても嬉しい。
「ジェイクとっても嬉しい。このお守りがあれば何があっても無事に過ごせそう!!ありがとう」
ほんわかした和やかな雰囲気の中、離れてみていた3人が近寄ってきた。そして、マークがジェイクに話しかける。
「ジェイク、、さっきはすまなかった。平民だからって、アデルの友達なのは分かってたのに、ちょっと嫉妬してたんだと思う。でも、まだ気を許せるまではいかないそれも含めてすまない…………」
「ぜ、全然大丈夫です。俺なんかに気を使ってもらってすんません。暫く会えなくなるアデレイドにどうしても直接会いたくて無理矢理来たのは俺の方なので……」
貴族に謝られるなんて初めての事でビックリしてジェイクは自分を卑下してしまう。全員が気まずい雰囲気になってしまう。だけどそこでアデレイドは明るく声を上げる
「私はみんなが仲良くしてくれると嬉しいけど、急には流石に無理だよねぇ〜、エヘヘ、いつかみんなが仲良くなって遊ぶ日が来るといいなぁ」
アデレイドがふやけた笑顔をみんなに向けた。気まずい空気は一気になくなり、釣られてみんなが笑顔になる。ひと時の和やかな時間が流れた。
暫くして、ルーシーが両手をパンッと鳴らし空気を一変させて話し始める。
「ふふ、皆んな仲良しになったわね。さぁアデル、そろそろ時間よ、皆んなもアデルをお見送りしてくれるかしら?」
優しく皆んなに呼びかける。アデレイドは一緒についてきてくれるサシャと馬車に乗った。準備が整い馬車が動き出すと、「頑張れよー」「楽しんでね」など、それぞれ思い思いの声が聞こえてきた。アデレイドは皆んなの姿が見えなくなるまで手を振り、ドミノレイル王国へと旅立っていった。




