↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/12

第八話

 ——あれから、どのくらい時間が経ったんだろう。酸欠のせいで、時の感覚すらも曖昧な気がする。これだけ、怪異に絞め上げられているのに、意識が朦朧とするだけで一向に死の予感がない。


「……まだ、シんデなイ?」

 怪異も予想外だったようで、少し驚きの混じった声色だ。

 ——私にも、分からないよ。なんで死なないのかなんて。

 幼い頃から、そうだった。軽い傷は瞬きの間に治り、どんなに殴られようが、蹴られようが痛むだけで、致命傷にはならない。……もう、いっそのこと楽になりたかったのに。


「……っ」

 状況が絶望的なせいで、思考が変な方向にいく。……ダメだ。こんなところで、死んじゃダメだ。まだ、私は遺品を"帰せて"いない。それに、友達も私の帰りを待っているはずだから。ぐっと刀を強く握り、怪異の触手を斬り捨てる。

「ギッ……!?」

 ——さっき、核を狙ったのに全く手応えが無かった。……核が違う場所にあるのだろうか。いや、だとしてもおかしい。それなら【斬波】で、身体の大部分を斬った時に消滅しているはず。

 怪異から距離を取りつつ、思考する。……本当は能力を使って、【透視】した方が一番手っ取り早い。でも、それを使う時の負荷が計り知れない。もし、怪異の前で倒れでもしたら、それこそ一巻の終わりだ。それなら……と、私は踵を返して、教室の引き戸に手を伸ばす。

「マ、って」

 怪異がすかさず触手を伸ばしてくる。軽く身体を逸らして、回避した後そのまま引き戸を開け放って、廊下を駆ける。……恐らくアレは、本体じゃない。いくら怪異といっても、あんなに攻撃を受けてもなお、無限に再生するわけない。とすれば、アレは分身のようなものと考えたほうが良い。

 ——ヌチャヌチャ

 背後から音が迫る。どうやら追ってきたようだ。……本体を探す前に、やられては元も子もない。私は階段を駆け上がりながら、刀を構える。

「【斬波】」

 踊り場に着いた瞬間、振り返りざまに衝撃波を放つ。

 ——グチャッ!

 ゲルが壁に激突するような、気色の悪い音を立てながら、怪異は階段から落ちる。

「邪魔しないで」

 刀を鞘に納め、そう吐き捨てると、私は再び階段を登る。……確信はない。でも、この上から異様な気配がする。この違和感が本当なら、きっとこの上に……。

 階段を一気に駆け上がると、そこには扉が1つだけあった。ここが現世の学校と同じ作りなら、屋上があるはず。そう考えながら、ドアノブに手をかける。

 ——キィィ……

 少し、耳障りな音を立てながら扉が開く。

 ——まず目に飛び込んできたのは、黒だった。廊下の窓から見えた、あの黒に塗りつぶされた空間。光が一筋も差し込まないせいで、前が全く見えない。

 ——グチャリ

 ……でも空間の奥から響く音が、そこに私以外の何かがいることを知らせていた。……さっきの分身とは比べ物にならないくらい、濃い異臭と気配。——この奥に本体がいる。本能的に分かった。

「……懐中電灯とか持ってきたら良かったな」

 思わずそんな言葉が漏れる。まさかここまで暗い空間だったとは思いもしなかった。……でも、ここまで来たんだ。そんな理由で諦めたくない。……もう頭の痛みも、息苦しさもない。今なら使える。

 ——一度刀から手を離し、深呼吸して目を閉じる。

『アクセス開始。検索対象:怪異の核』

 頭の中でそう呟き、目を開ける。……一本の光の筋が、地面を走っていく。そのまま、”何か”の上をなぞって、とある一点と繋がる。光に照らされて、不気味に鼓動する怪異の核。……あそこだ。核の位置を確認すると、今度は刀を握る手に力を込め、私の霊力を少しずつ刀に流し込む。——刃が僅かに紅く光り始めた。そのまま、構えの姿勢をとる。

 ——ダッ

 渾身の力を込めて地面を蹴り、一直線にその光を目指す。

「グロロ……!」

 途中、何かの鳴き声のようなものが聞こえると同時に、刀の光が黒光りする触手に反射する。……一本一本丁寧に捌く余裕はない。まとめて斬り飛ばす……!そのまま空中で刀を振ると同時に【斬波】を発動する。ぐしゃっという音とともに、触手が吹っ飛んだ。

 前を見据えると、もうすぐそこに光が見えた。

「いや、ダ。いヤダァァァ……!」

 そんな声が響く。……私だって、本当は刃を向けたくはない。怪異だって、私たちと同じ、生き物だ。でも、ここで止めなければ”あの子”みたいに普通の人生を奪われる人が増えるかもしれない。それは、絶対にダメだ。

「……もう、終わりにしよう。」

 ——ガッ

 硬い感触がした。——刃が核に刺さりかけている。確実に貫けるよう、更に腕に力を込める。

 

 ——バキンッ

 刹那、ガラスが割れるような音と共に硬かった感触が無くなる。能力で見えていた光も消えた。

 同時に、さっきまでの異臭や気配も薄れ始めた。ホッと息をついた束の間……。

「痛っ」

 能力を長く使いすぎたせいか、頭が茹るように熱くなり始めた。思わずその場に倒れこむ。すると……。

 ——ピキピキッ

 目の前の空間にヒビが入り始めた。……異界の”主”が消滅したことで、異界が消え始めているんだ。ぼんやりした頭でそう思った。


 ——パリンッ……!

 ヒビが大きく広がると、そこから世界が”割れ”始めた。割れた部分からは、私がいた山の中が見える。

 ……良かった。私、ちゃんと任務、終わらせられたんだ。

 そう思った途端、身体に浮遊感が走る。景色が反転する。異界が崩れるとともに、私の身体も重力に従って落ちていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。