第四話
——その日の昼。
私は急遽学校に欠席連絡をした後、その足で政府が運営している依頼専門の機関に向かっていた。
任務の詳細に関してはメールに添付してあった資料を確認しているから、ある程度頭に入ってる。……ここに来たのは資料とは別の目的があるからだ。
「すみません。今回の任務の実行に当たって能力の使用許可を取りたいのですが……」
「……承知致しました。お名前をお聞かせ願えますか?」
「竹崎マナです。」
「竹崎様ですね。少々お待ちください。」
窓口にいた女性が必要な書類を取りに行っている間に、再度任務内容を振り返ってみる。
今回の討伐対象は、推定難易度Aの怪異。桐谷市内にて確認されたとのことだが、具体的にどういった場所で目撃情報があったのかは不明。恐らく目撃した人も一瞬それらしき影を見た程度だったのだろう。目撃情報すら少ないということは、怪異の実力も当然未知数……のはずなのだが。
「なんでAランクなんて見通しが立てられてるんだろ。」
ここまで情報が不足しているにもかかわらず、政府側の資料には推定とはいえ難易度が設定されている。とすれば、この資料の根拠として考えられるのは……。
「……やっぱり桐谷市内で見つかった遺体と、何らかの関連性があると政府側も考えてるわけか。」
「お待たせしました、竹崎様」
丁度考えがまとまったところで、職員の人が戻って来た。手には何枚かの書類が握られている。
「こちらが今回の任務の際の能力の使用及び戦闘行為を許可する書類になります。」
「ありがとうございます。」
「では、こちらにお名前をお書き下さい。」
戦闘行為に関する書類はともかく、能力の使用許可に関する書類は今までにも何回か見たことがある。日常生活において能力を使うことは特に禁止されているわけではないが、政府から受託した任務の最中となれば話は別だ。万が一、一般人が巻き込まれた場合にそれが事故なのか、或いは故意に行われたものなのかを判別することができなければ、冤罪をかけられることになる。それを防ぐためにも、任務中の能力使用には厳しい制限がかけられている。正直言って、不便だけど仕方がない。
「……はい。確認できました。それではくれぐれもお気を付けて。」
「ありがとうございました。」
無事、書類作成も済んだところで施設を後にする。今回に関しては事前に調査できることも少ないだろうし、このまま桐谷市に向かおうと思う。桐谷市へは電車に乗って数分程度で行けるので、私はそのまま駅舎へと歩みを進めた。
改札を通り抜け、そのまま階段を上る。ホームの時刻表を見る限り、次の電車は5分後らしい。……少しだけ時間が空いたな。その間、改めて任務について考えてみる。
まず、討伐難易度を思い返してみる。大体の任務は最大でBランクぐらいなんだけど。今回は難易度のうち上から数番目のAランクに当たる。Aランクの強さは、端的に言えば「兵器を用いるか、攻撃特化の能力者を十数人集めたら倒せる」ぐらい。まぁ、少なくともちょっと強い一般人では太刀打ちできない存在である。一般人であれば、抵抗する間もなく命を落とす可能性が高い。……それこそ、例の被害者のように。
次に気になったのは、とにかく情報が少ないこと。もし仮に事件の原因が今回の討伐対象であるなら、怪異に襲われている瞬間は見ていなくても、被害者の悲鳴だったり抵抗した痕跡だったり、何かしらの証拠はあるはず。でも、今回はそれが無い。となると、考えられる怪異の行動パターンは……。
「異界を作り出すか、動きが異様に速いか……ってところかな。」
異界に関しては、蓮兄経由でしか聞いたことがないからぶっちゃけ予想がつかない。確か脱出には何かしらの"条件"を満たす必要があるとか何とか言っていたような……。これに関しては、もう臨機応変にいくしかない。でも、動きが速いだけなら……まだ私でも勝算はある。
「……とにかく、ちゃんと終わらせて家に帰ろう。」
目の前に停まった電車を見ながら、改めてそう決意した。
——「次は、桐谷。桐谷です。お出口は左側です。」
「あ。」
電車のアナウンスでふと目が覚める。いけない、危うく乗り過ごしてしまうところだった。席を立って、ドアの前へと急ぐ。
——カタン。
走るたびに腰元から音が鳴る。
……これ以上、犠牲者を出さないためにも私が終止符を打たないと。
腰に下げた、二振りの刀に手を添えながら電車を後にした。




