第二話
シェアハウスの中に入ると、
「お、帰ったか。」
黒と青を基調とした、和装と洋装が混ざった服装の青年が待っていた。
「ただいまー!蓮也君!」
「ごめんね、遅くなっちゃって……」
「いやいや、別にいいって。」
カラカラと笑いながら、返事をする蓮也。
「……なんかマナ、表情が固いな。どした?」
「……先生に怒られた」
「っハハ。またかよ。」
「笑わないでよ……」
「ハイハイ、悪かったな。」なんて笑いながら、頭をポンポンと撫でてくる。……相変わらず私だけ子供扱いされてる。納得いかない。
「そういえば、晩ごはんどうしよ!?」
「ん?ああ、もう作っておいたぞ。」
「マジで!?ありがとう蓮也君!」
相変わらず明るい彼女は、星宮美波ちゃん。私の幼馴染の一人で、学校にも通ってはいるがアイドル活動もしている。実際、かなり売れていて、最近はテレビにもよく出ている。……おかげで、学校でも沢山の人に囲まれて行動不能になることも多々あるみたいだけど。
「そう言えば、美波ちゃん。今週休みの日ある?」
「えーっと、多分日曜日は一日オフだと思うよ!」
すると横からすかさず訂正が入る。
「いいえ、日曜日は午後から番組の収録があるから、厳密には午前中のみオフよ。」
「あれ?そうだっけ?忘れてた!」
「全く……。自分のスケジュールぐらい覚えていて頂戴。」
そう言ってため息をついているのは、橋津尚美ちゃん。私達と同い年だけど、美波ちゃんのプロデューサーでもある。ものすごくしっかりしてるから、学校でも生徒会長を務めてたりする。……ただ時々、ちょっと突拍子もないこと言ったりするんだよね。意外と天然なのかな?
「美波ちゃんも忙しいんだね〜···」
「えへへ。でも楽しいよ?」
「まぁ、美波ちゃんが楽しいなら良かったけど。」
そう言って笑うのは、花寺咲希ちゃん。多分、シェアハウスのメンバーの中でも付き合いが長い方だと思う。見ての通り優しい性格で、誰かが落ち込んでいたら迷いなく寄り添う子。優しいが故に、共感しすぎて自分も落ち込んじゃうことが多いみたいだから心配だけど。
そんな会話をしていると……。
「……お、おかえり。」
か細い声が階段の方から聞こえてきた。
「あ!ただいま、レモラちゃん!」
「う、うん……。」
美波ちゃんの勢いに押されて、モジモジするレモラちゃん。
この子は最近、シェアハウスに住み始めた子だ。何処かの教団に半ば監禁状態だったところを、シェアハウスの住人の一人が助け出した。最初は凄く怯えて、部屋から出てこないことが多かったけど、この頃は打ち解けてきたみたいで、こうして出迎えてくれるようになった。……でもやっぱりまだ人と接するのが怖いみたい。
「んじゃ、全員揃ったし晩飯食うか。」
「あれ?マナト君は?」
「あーなんか今日は仕事が長引きそうだってさ」
「ありゃりゃ。」
「……やっぱり最近の事件のせい?」
「かもな。……まぁ、何にせよ状況は芳しくなさそうだ。」
「そっか……。」
マナトという子も、このシェアハウスの住人の一人。
紅い目に、黒いパーカーを着ている十代後半の青年……に見えるんだけど、実は違う。彼は、所謂"死神"という種族だ。亡くなった人の魂を回収するというあの死神である。……ただ彼は能力が能力なだけに、結構荒事もやるらしい。なので、こうして中々帰れないこともざらにある。
会話を交わしながら、リビングに向かうと。
『——続いてのニュースです』
「あ、ニュースやってる。」
「え、なになに!何のニュース?」
『今日未明、行方不明になっていた黒布氷歌さん(16)が桐谷市の山中で遺体となって発見されました。警察は事件の可能性があると見て捜査を続けており——』
行方不明者の続報が流れていた。……5日前から行方不明だって言われてたから、気になっていたけど。まさか、遺体で発見されるなんて……。その女の子や彼女の帰りを待っていた人たちのことを考えると、私も悔しさと悲しさで胸が痛む。
「え、16歳って、私達と同い年じゃん……」
「それに桐谷市ってここから程近いところよね。」
「……ちょっと警戒した方がいいかもね。」
「だ、大丈夫かな……」
「まぁ、うちは防犯とかはしっかりしてるし大丈夫じゃね?」
「だといいけど……」なんて、みんなが口々に不安を零している。……まぁ、確かに不安ではあるけど。多分、ここにいるメンバーは大丈夫だと思う。なにせ、このシェアハウスに住んでいる子達は全員——何かしらの"能力"を持っているから。
例えば、咲希ちゃん。彼女は。
「……あれ?玄関の前に何か荷物が置いてあるよ?」
「あ、それたぶん私が頼んだ漫画だと思う!」
「もう……びっくりしたよ。」
「ごめんごめん!」
今ので分かる通り、【透視】を持っている。物体を無視して様々なものを見ることができるので、何かが物陰に隠れていたとしても、咲希ちゃんにはすぐにバレる。
あと、レモラちゃんは……。
「痛っ」
「え、尚美ちゃん?」
「ごめんなさい、紙で指を切ってしまったみたい。」
「……わ、私でよければ……治す、よ?」
「お願いしてもいいかしら。」
「う、うん。」
理由が分からないけど、魔術に長けているみたい。だからこうして、時々治癒をしてくれる。しかも精度が凄く高くて、術式の発動までが素早い。私も何度お世話になったことか……。
そして最後に私と蓮兄……じゃなくて蓮也の能力に関しては、ここで詳細を話すのは難しいけど、自分や他の人を守るのには申し分ない。
「きっと大丈夫だよ、ここにいるみんななら。」
「えー、そうかな〜···」
「でもまあ、何かあれば俺かマナトもいるし。あんまり心配する必要はねぇって。」
「確かに!」
……なんか、蓮兄とマナトに絶大な信頼が寄せられてるけど、私だっていざとなればみんなのこと守れるよ?……多分。
みんなはそれからも暫くは心配そうであったが、それも長くは続かず、結局食卓を囲みながら学校の宿題の話なんかをして、各々部屋に戻って行った。
「……なんか一気に静かになったね。」
「だな。」
ほとんどのメンバーが部屋に戻ってしまったので、気づけば。
リビングにいるのは私と蓮兄だけになっていた。
「……さっきの行方不明事件のニュースさ」
「ん?」
「あれ多分、人の仕業じゃないよね。」
「……やっぱ気になるのか?」
「うん、まぁ……被害者が同い年っていうのもあってちょっとね……。」
「確かに人がやったにしては証拠が少ない気もするな。」
「……蓮兄は、どう思う?」
「俺?」
「だって蓮兄、最近政府から結構依頼受けてるじゃん。何か変化とかはなかったの?」
「そうだなぁ···」
少し考える素振りをした後、「あ、そういえば気になることが1つだけあってな……」と言い始めて、「ここ最近、依頼内容の偏りが顕著だったんだよ。」と言った。
「偏る?」
「そそ。ほら、今までは何処どこの調査とかそんな感じのことばっかだっただろ?なのに最近は、"怪異"の討伐任務がほとんどでさ。」
「"怪異"って……なんか、無条件で人に襲いかかってくるっていうやつ?」
「ああ。」
「……あんまり知能が高くないから、そんなに脅威じゃないって話じゃなかったっけ?」
「俺もそう思ってたんだけどさ、この前の任務で出会ったやつは……」
「知能が高かったんだろ?」
少し不機嫌そうな声が返って来た。
「……噂をすれば、死神様のお帰りか。」
「茶化すな。あとその"死神様"っていう呼び方やめろ。」
「へいへい。……つーか、思ったより早かったな。普通に深夜に帰ってくると思ってたんだが。」
「……仕事、早々に切り上げてきたからな。」
「なんだ〜?そんなにマナに会いたかったのか〜?」
「うるせぇ。」
「お、照れ隠しか?」
「……マジで黙れ。」
「あいたっ。」
相当腹が立ったのか、蓮兄の頭に手刀を落とすマナト。……乱暴だけど、今回に関しては蓮兄が悪いよね。
「てか、なんで"怪異"の話なんてしてんだよ。」
「いやな?さっきニュースで行方不明者が遺体で見つかったって出て、マナが"怪異"の仕業じゃないかって言っていてさ。」
「……ああ。なるほどな。」
「冥界のほうはどうなんだよ。死者の数、増えてんのか?」
「……まぁ、前よりかはちょっと仕事のスパンが短くなってはいるな。」
「繁盛してんなぁ。いいじゃねぇか。」
「いやちっとも良くねぇだろ。」
「確かに。」とクツクツ笑う蓮兄。趣味悪いな……。
それは置いておいて。死神の仕事が増えているということは、やはり被害は深刻らしい。……これは、私が思っている以上に大事なのかもしれない。あのニュースを見た時もそうだったが、胸の奥が少しざわついた。恐怖とも、不安ともとれないモヤモヤした気持ちだった。一言で言い表すなら、ある種の"予感"のようなものかもしれない。
——もし、もしもこの予感が本当なら……私は何があってもこの場所は、私達の帰る場所だけは守る。それが今の私にできる最大限の"恩返し"だから。




