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師匠を殺された私は復讐のために魔法学園に潜入するも、なぜか復讐相手の令嬢を助けてしまう!?  作者: 赤城ハル


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第6話 寮

 魔法学園リュミエールの敷地に入ったアリス達はまず学園事務所の校舎に向かい、入学と寮住まいの最終手続きを行なった。事務所には駅と同じく大勢の新一年生がいて、最終手続きも時間がかかった。


「こりゃあ時間をズラせば良かったわね」


 疲れたセレンが肩を落としながら言う。


「そうだね。まさかこんなに混雑するとは……」


 アリスもセレンの意見に同意した。


「でも、ハンコを押してもらって、クラスと寮部屋を教えてもらうだけじゃん」


 一人疲れのないスーザンが言う。


 最終手続きの書類はあらかじめ記入してきたもの。後は事務員がチェックしてハンコを押し、クラスと寮部屋を教えられ、入学式のプログラムと学園敷地内の地図を受け取り、最後に注意事項として立ち入り禁止エリアを教えてもらうだけ。


「それまでどれだけ時間を食ったのよ」


 アリス達は事務所を出て、寮へ向かう。

 大勢の生徒の流れが寮へと向かっているため、アリス達は地図を見ずに歩いている。


「三人同じクラスでよかったわね」

「そうだな」

「ねえ、二人はどこの寮?」


 アリスは聞いた。


「私はアンバー寮」

「お! 同じ」

「アリスは?」

「私は……グラース寮」


 二人と寮が違ったのが少しショックだったアリス。クラスも一緒なのだから寮も一緒だと期待していた。


「グラース寮は……北の方ね」


 セレンが地図を広げて、真っ直ぐ道を指す。


「このまま真っ直ぐだな」


 女子寮はアリーゼ寮、ダルタン寮、アンバー寮、グラース寮の四つある。アリーゼ寮は道を西方角に折れて北上したところにあり、ダルタン寮とアンバー寮は同じく道を西の方角に折れて南東にある。

 そしてグラース寮だけが北の坂道を通った山の中腹。


「アリスも相部屋なんだよね?」

「うん。相部屋」


 平民は相部屋が基本。


「もしかしてその相部屋の相手が普通じゃないのかもな」


 スーザンが笑いながら言う。


「何馬鹿言ってんのよ」

「おっ、あの道じゃね?」


 スーザンが指差す方に十字路がある。道案内板がある。


「あそこ……か」


 生徒が西へと折れているということは北への道がグラース寮への道なのだろう。


 ただ、ほとんどの──いや、全ての生徒が西へと折れている。


 誰も北への道には進んでいなかった。

 本当に道は合ってるのかと道案内板を確かめる。

 確かにグラース寮はこのまま北へ真っ直ぐだった。


「……それじゃあ」


 アリスとセレン達は十字路で別れる。


「おう、がんばれよ!」


 スーザンが手を振る。


「……うん」


 アリスは弱々しく手を振り返す。


 他の生徒達が道を西に曲がる時、独りぽつねんと残るアリスを不審の目で見る。


 アリスは真っ直ぐ北への坂道を独りで歩く。


 木々に挟まれた道。影が道を陰させ、アリスに不安を与える。


 道はゆるやかなカーブとなる。

 風が吹き、枝が鳴いた。アリスの肩が強張る。


 一度、立ち止まり、息を整える。

 一本道ゆえに迷うことはないのだが、それでも心細い者には迷いを与える。


「本当に合ってるよね」


 アリスは独りごちた。


 また木々がゴソゴソと音を鳴らした。

 風ではない。

 音は大きくなる。


(近づいている?)


 そして音がアリスに近づき──。


「おっ! 人、発見! やったー!」


 茂みから赤茶色の髪を持つ少女が現れた。


(この子どこから現れてるの!?)


「ねえねえ、グラース寮って、どこ?」

「グ、グラース寮?」

「うん。そこに向かってたら迷った」


 屈託のない笑みで女の子が答える。


「この道を進んで行ったら着くと思うよ」

「もしかして貴女もグラース寮?」

「うん。新一年生だよ」

「おんなんじー」

「一緒に行く?」

「うん。行こう」


 並んで歩くと背丈はアリスと同じくらいだった。

 幼く見えるのは無邪気さによるものだろうか。


「私、アリス・レイエス」

「エリセ・ヌハサ。よろしく〜」

「エリセはどうして迷ったの?」


 ここまで一本道。迷うことはないはず。


「えっと、山に登って、帰ろうとしたら迷ったの」


 山に登った……ということはエリセは少し前からグラース寮に住んでいるということか。


「いつからグラース寮に?」

「先週から」

「そんな前から?」

「うん。センセーが早く済ませたの」

「センセー……学園内に知り合いがいるの?」

「いないよー」

「ならセンセーって……」

「あっ! 着いたよ!」


 グラース寮が見えてエリセが駆ける。


「待って」

「ここがグラース寮」


 まるで自分の家のようにエリセは誇る。


「すごいでしょ」

「うん。大きいね」


 さすが貴族のご子息・令嬢が通う学園。寮も校舎並みに大きかった。


「食堂もあるんだよ」

「すごいね」

「部屋も広いんだよ」


 と、そこへ観音開きのドアが開かれ、私服の黒髪メガネ女性が現れた。


「エリセ、どこ行ってた!?」


 黒髪メガネ女性はエリセに怒鳴り、怒り肩で詰め寄る。


「あわわっ、違うの。山に登ってたの」

「こんな時間までハイキングか?」

「違うの。迷ったの。ねえ?」


 エリセがアリスに同意を求める。


「あ、はい。迷っていたらしいです。私は途中で会って……」


 黒髪メガネ女性はアリスへ向く。そしてアリスを上から下まで眺めてから、


「君、ここまで案内ありがとうね」


 と、礼を言ってエリセの首を掴んで寮へと引っ張る。


「引っ張らないでー」

「うっさい!」


 そして二人は寮の中へと消えた。


 なかなかの騒がしい出来事にアリスは少し思考が止まった。

「……さて、私も入るか」


  ◯

 

 アリスは寮の三階一番端のドアをノックした。

 室内から『入って』と声が発せられ、アリスはドアを開けた。


 玄関に一羽の青い蝶が飛んでいた。


 アリスは一目見てそれが魔導具【通信蝶】だと分かった。


『こっち』


 アリスが名乗る前に相手が喋り、蝶をひらひらと奥へと飛ばす。

 アリスは蝶に従って、短い廊下を進み、リビングに入る。さらに入って左側の廊下にあるドアの前まで辿り着く。


 ドアの前に紙と小袋が置いてある。


『紙と小袋を取って』


 言われた通り、アリスは紙と小袋を取る。紙には一日のやるべきことリストが記されている。


『基本は紙に書いている通りにやるように。あとはこちらで連絡する。いいね?』

「あの、その前に私はアリス・レイエスと申します。この度は平民である私を相部屋にお招き入れたありがとうございます」


 平民は上級生の貴族と相部屋と決まっていて、二人は兄弟・姉妹の関係となり、兄はブルーダー、弟はフレール。姉はシュヴェスターで妹はスールと呼ぶ。


『私のことは説明不要よね』

「はい。マーガレット・アイスバーン様ですね」

『ええ。ここには使用人がいないから、貴女が使用人代わりにあれこれ頼むわよ』

「使用人がいない?」


 貴族のご子息、令嬢が通う魔法学園リュミエールは寮内に使用人を一人連れ込むことが許可されている。


『そうよ。だから貴女が使用人代わりに動いてもらうわ。といってもただの雑用よ。料理をしろとか、裁縫をしろとか、化粧を施せとか言わないから安心して。ただし、言うことは聞くように。聞かない場合は追い出すから。分かった?』

「はい。分かりました」

『部屋は反対の部屋を使いなさい。リビング入って左手だから。それと【通信蝶】の使い方は知ってるわね?』

「はい」

『なら、その【通信蝶】を普段から使いなさい。学園には話を通してあるから問題ないわ』


  ◯


 あてがわれた部屋に入ったアリスは鞄と小袋を床に置いて、ベッドにダイブした。


「疲れたー」


 魔法学園リュミエールの敷地は広く、さらに渋滞気味であったゆえに駅馬車を降りた頃は腰が痛かった。そこへきて寮移動。顔を合わせてくれない偏屈な姉様に挨拶をして今に至る。


「しんどい。もう嫌っ」


 そこへ窓がトントンと鳴る。


 なんだとアリスが枕から顔を上げると使い魔の黒猫クラムが外から窓を叩いていた。


 体を使いたくないアリスは魔法でドアを開ける。

 クラムが開けられた窓から入り、ベッドで横になっているアリスのもとへ駆け寄る。


「どうしたんだよ。ぐったりして」

「疲れたの」

「馬車で移動しただけだろ」

「駅から学園まで遠いし。それに初対面の相手との乗り合いだったから」

「こっちは歩きだぜ」

「そういえば早いね。結界があるから入るのに時間がかかると思ったのに」


 ここは貴族のご子息や令嬢が通う魔法学園。警備システムも盤石ばんじゃくのはず。


「それがよー。なんかあっさりと侵入できた」

「なんで? マークされてないよね?」


 中にはわざと侵入させて相手を中から迎え撃つというものもある。その際、相手をマークしてどこにいるのかを把握する。


「その気配もない」

「ちょっと待って」


 念の為にアリスは状態感知スキルでクラムの体を調べる。


「うん。ない」


 クラムの体には何一つ異常は見当たらなかった。


「だろ? おくしくね?」

「おかしい。これだと悪いやつから学園が狙われてしまう」

「守衛や近衛特務隊が配置されているからかな?」

「いくらそれらがあっても侵入をいとも簡単に通すなんて……」

「ま、考えても分かんねえなら、もういいじゃん。成功したってことでさ」

「そう……だね」


 こちらに問題がないならそれは嬉しいことだ。

 けど、魔女の弟子であった身として結界の謎に気にならないわけではなかった。だから今は答えが見つからない以上、頭に隅に留めておくだけにする。


「それより腹減った。なんかねえの?」


 アリスは寝転んだままポケットからクルミを取り出す。そしてそれをクラムの前に置く。


「本当にクルミ好きだな。リスか?」

「日持ちがするからよ」

「いつかクルミとカヤククルミを間違えて食って死ぬんじゃねえのか?」

「そんなヘマはしない。それに売ってないよ」


 カヤククルミとはクルミに見た目はそっくりであるが、中の実は赤色で全然違う。さらに食べると危険で最悪死に至る。ゆえに一般的には絶対に流通しない。


「なあ、干し肉はないのか?」

「えー?」


 アリスはポケットから白い包みを取り出して、広げる。

「これでいい?」


 中にはぺらぺらだが噛み切りにくい干し肉が。


「……日中酔っ払いの下民が噛んでそうなやつだな」


 このまま眠りたかったが、アリスにはやるべきことがある。ポケットから折り畳んだ紙を広げる。それは姉様から渡された注意事項が載っている紙。


「なんだそれ? 飯を運べとか、湯を沸かせとか」

「ここ使用人がいないんだよ。で、私が使用人の代わりを務めるんだよ」


 大きな仕事をすることはないようだが、小間使いをさせられるのは面倒だ。


「めんどくさいな。個室はなかったのか?」

「平民は皆、貴族と相部屋なのよ」

「どうして?」

「いじめ防止のため」


 身分の差があるとどうしても問題が発生する。


「貴族様からのいじめ防止か」

「相部屋の貴族様からの庇護下があればいじめはないでしょ? そういうことよ」

「伯爵とか庇護下とか最高だな。逆に子爵達を顎で使えるかもな」

「残念だけど、相部屋の貴族様は男爵と決まってるの」


 平民が強い権力者の庇護下に当たらないための措置である。

 そして平民が相部屋の貴族を盾に権力を振りまわさないようにと。

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