第22話 近衛特務隊
近衛兵とは王族そして国の重要人物を守るためにある。
ゆえに基本は王都にいる。
が、今は近衛特務隊は王都から離れ、魔法学園に駐在している。
魔法学園に第三王子がいる……ということで近衛兵が駐在していてもおかしくはない。
けれど、現在学園内にいるのは近衛特務隊。
何かがおかしい。
第三王子が身分を隠して在籍しているからか。そもそも本当に在籍しているのか。やはり噂なのか。
それともまだ何か裏があるのか。
その異常性を学園にいる者は少なからずいる。
そしてその異常性を誰よりも一番感じているのが近衛特務隊の隊長ヴィヴィ・アルルフランである。
◯
轟音で就寝中のヴィヴィはすぐに起き上がって、近衛服そして軽装備を装着。
部屋出て、駆け足で廊下を進む。
詰所に入ると部下達が敬礼した。
「状況は?」
「現在、当直中のゼントラが調査に向かっています。現場は植物園のあたりだそうです」
「そうか。私とラニーも現場に向かう」
「はっ!」
「他は周囲を警戒。リチャード、ハルトマンは門衛と協力して門から誰も通すな」
ヴィヴィは部下に命令をしておいておかしいと感じた。
それは轟音の正体ではなく、今の自分の役割だ。
本来近衛は王族と要人を守るための組織。それなら学園内にいるという噂の第3王子のもとに向かうのが当たり前。
しかし、上からは学園内で発生した異常の調査、そして侵入者の捕縛を命じられている。
(こんなの近衛の仕事ではない)
ヴィヴィは馬に乗り、現場に駆け込んだ。
現場は植物園。
「ここにはドームハウスがあったが……」
「いえ、教師ケイネスの植物園とのことです」
「なるほど」
そして二人は馬から降りて、生垣の迷路へと入る。
(こういう時は苛立つな)
なかなか奥に進めず、苛立つ。
だが、焦って注意を怠り、潜入中の敵から攻撃を受けては駄目である。
「ここか」
ケイネスの植物園に行くには生垣が壁となっていると聞く。そしてその生垣が今は破壊されている。
「はい。誰かが破壊したんでしょうか?」
「ゼントラかもな」
生垣は刃物で斬られている形跡がある。
「行くぞ」
「はっ!」
ヴィヴィ達はケイネスが管理する教材園に向かうための通路を通った。
奥に進んでいくと光が見えた。
それはランタンの光で側にはゼントラがいた。
ゼントラは足跡で気づいて振り返る。そして立ち上がり、ヴィヴィに対して敬礼をした。
「状況は?」
「はっ。私が現場に来た時は教師ケイネスが倒れていました。周りとケイネスの状態から察するに魔法による戦闘があったもようです」
「そうか」
ヴィヴィはランタンの光で倒れているケイネスを照らす。
「息はあるのか?」
「命には別状はありません」
「黒い……実か?」
割れた黒い実がケイネスの体の上に置かれている。
ヴィヴィが手を伸ばそうしたのをゼントラが慌てて止める。
「駄目です。それはカヤククルミかと思われます」
「毒の? どうしてここに?」
「分かりません」
「戦ってたということは相手は?」
ゼントラは首を横に振る。
「ゼントラはすぐに戻って、このことを皆に」
「はっ!」
そしてヴィヴィはラニーを現場に残し、教材園へと向かおうとする。
「危険です。敵がいる可能性が」
「大丈夫だ。こう見えて剣技大会で優勝した身だ。遅れはとらんさ」
植物園には様々な木々や花が育てられていた。
その中の一つ、ある木にヴィヴィは足を止めた。そして実を一つ取って割った。
「これはカヤククルミ!?」
中の実を見て、ヴィヴィは驚きの声を漏らす。
そして他の木々や畑を見ると違法性のある植物が育てられている。
◯
ケイネスは学園内の医療室に送り、現場を学園内の魔法学の教師に検証。そして校長と薬学の教師に植物園で育てられている植物について聞いた。
「まさかこんなものを育てられいたとは」
校長が信じられないといった感じで嘆く。
「隊長、捜査員が到着しました」
部下が植物園に入ってきて、ヴィヴィに告げる。
その部下の後ろに捜査員が植物園の植物を見ながら歩いてきた。
「これはまあ……すごいですね。違法薬物のオンパレードですか?」
ある意味感心している捜査員の言葉に校長が苦虫を潰した顔をする。
「ケイネス先生は?」
「医療室に」
「ケイネス先生を倒した人物は?」
「不明です」
「ここに来るまで戦闘の現場を見ましたが、相当なものですね。地面が広く捲れてましたよ」
「相手は相当な実力者でしょうね」
「ええ。現在、敷地内を完全封鎖中です」
「とっくに外へ出た可能性は?」
「生憎、ここの結界は外を出ることに関しては強いものとなっていますので」
捜査員の問いに校長が絶対的自信を持って答えた。
「なるほど」
◯
「先程、結界は外に出ることに関して強いものと仰ってましたけど、それはどういうことですか?」
捜査員が去った後、ヴィヴィは校長に聞いた。
「ここは貴族がいるとはいえ、それほど大金があるわけでありません。大金が欲しければ近隣の街にある銀行やお店の方がありますし、リスクも少ないですしね。ゆえにわざわざこんなところまで強盗侵入する者は少ないのです。ただ──」
校長はヴィヴィに向けて目を細める。
「暗殺する者とかいるんですよね。貴族社会とは怖い者ですね」
「……ならなおのこと強固な結界を張るべきでは?」
「強固な結界は消費する魔力量半端ないんですよ。それに結界をすり抜ける暗殺者もいるんですよね。それなら……逆にというやつです」
「つまり暗殺が発生したら結界が強く作動するようにしていると」
ヴィヴィの問いに校長は頷いた。
「貴族といえど、一応生徒でしょ? それに第三王子もいるんですよね?」
「あくまで学内外の噂でしょ?」
「本当に第三王子は在学しているんですか?」
ヴィヴィは本当のところを知らない。
第三王子が本当にいるかどうかを。そして誰が第三王子なのかを。
第三王子は病弱ゆえに社交界や行事に一度も出席出来ないとされているが、本当は妾の子ゆえに欠席扱いされているらしいと。
それゆえに誰も第三王子の顔を知らない。ヴィヴィすらも近衛特務隊隊長として学園に配属されたが、一度も顔を見たことはなく、本当に在学しているのかどうかも曖昧とされている。
だからヴィヴィ今ここで確かめた。第三王子は本当に在学しているのかを。
けれど校長は笑みを向けるだけで、答えようとはしない。
「今日みたいなことが起こると大変ですよ」
ヴィヴィは注意として苦言を述べる。
「ええ。ですので頼みますよ」
そう言って校長はヴィヴィに会釈してからその場を去る。
その背をヴィヴィは半眼で見つめる。
(狸め)
「第三王子って、本当にいるんでしょうかね?」
校長とヴィヴィの会話を聞いていたラニーが疑問を投げる。
ヴィヴィはわざわざ近衛がいるんだから第三王子はいるだろうと言いたい。けれど、ここにいるのは近衛特務隊。
そしてやってることは捜査員と同じこと。
「さあな。私も見たことがないから分からんよ」
ヴィヴィは溜め息交じりに答える。
「隊長でも見たことないんですか?」
「ああ。それに……本当に在学しているのやらどうかも怪しい」
「さすがに在学はしているでしょう?」
「今はそんなことより報告だ。魔法学や魔導具学と先生達は何を言っている?」
「跡から察するに一対一の可能性が高いと見られるようです」
「ということは学生は容疑者から排除か?」
「いえ、教師ケイネスは実力はあれど薬学専攻の人。三年生で魔法の応用科目を受講されている生徒のトップレベルなら可能かと言われています」
「トップレベルか。先生方から、その有力候補の名前を聞き、そいつらからアリバイを聞いてこい」
「はっ!」
捜査員は麻薬絡みと考えている。倒れたケイネスの体の上にカヤククルミが置かれていたことかその線は濃厚だろう。
しかし、魔法学や魔導学とトップレベルの実力者が麻薬を使うだろうか。ブースターならまだしも。
麻薬は落ちこぼれの者が嗜好品として使う者だ。何か大きな悩みがあったなら別だが。
ヴィヴィは植物園の小屋へと入る。
「何か進展はあったか?」
「はい。イニシャルですが、麻薬購入者のリストと金銭が書いてあるノートがありました」
「そうか。特定は出来るか?」
「イニシャルですので難しいです」
「こういう輩は親に脅迫するためにいくつかの証拠をどこにか残しているはずだ」
「はっ!」
「ちなみにカヤククルミ以外に何か違法薬物はあったか?」
これだけの色々な木々や花が育てられているんだ。他にも危険なものがあるだろう。
「ええ。あったわよ」
その問いには眼鏡をかけた女性の薬学教師が答える。寝起きだったのか、それとも普段からそうなのか、長い紫色の髪がボサボサ。服装は上から第3ボタンまで開いたピンクのシャツ。扇状的で谷間が見えている。下は黒のミニパンとニーソックス。上に白衣を羽織っている。その服装と少し気怠げな表情から薬学教師にはとうてい見えない。歓楽街のいかがわしいお店の店員が妥当であろう。
「これは急だだからよ。普段はちゃんと息苦しい服を着てるわよ」
ヴィヴィの視線を察して、薬学教師は弁明する。
「で、あったとは?」
「一般的なマリファナからマジックマッシュルーム。そして合成麻薬も。まさかこんなところで麻薬生産と密売があるとはね。怖い怖い」
薬学教師は面白そうに言う。胸の下で腕を組んだため、たわわな胸が弾んだ。
「貴女はしていませんよね」
「してないよ。私はこんな教材園なんて持ってないし。せいぜい研究室で花を育てるだけだよ」
「その花、大麻ではないですよね?」
「違うよ。赤いチューリップだよー」
薬学教師はラニーの髪の色を見て言う。
「変な薬を生成してませんよね?」
「変な薬って?」
ヴィヴィは目をわずかに細める。
「薬学教師全員の研究室を調べることになると思いますが、問題ありませんよね?」
「ないよー。私は調べられても問題ないよー」
薬学教師は問題ないとあっけらんかんに答えた。
ヴィヴィは息を吐いて、心を落ち着かせる。




