第20話 強襲
「……ということがあったの」
夕方、アリスは事件のことをあらかたクラムに話した。
「これまた大変だな」
「授業も一年生は応用科目の見学を休んでもいいってお達がきたよ」
「でも、帰宅が遅いじゃねえか」
「購買部に寄ってたからだよ」
「またお使いか?」
「今日は違う」
昨日発言のせいか、それとも事件のせいか、今日はマーガレットからのお使いはなかった。ただ、杖が折れたので新しい杖を購買部で注文した。
ここ最近、ほぼ毎日来店しているせいか売店のおばさんに顔を覚えられ、すぐに取り寄せるからと動いてくれた。
「なんかおかしくなってきたよね」
ハイエマン嬢に取り入り、ジェラルド嬢を攻撃、そのために魔法学園に入学した。それが今ではハイエマン嬢に嫌わられ、ジェラルド嬢と仲良くなり、暗殺事件に巻き込まれて大変なことに。
「犯人の目的ってなんだろう
呟いて、アリスはクルミを割った。
「これ!?」
アリスはクルミの中身を見て驚く。
「ん? なんだ?」
「クラム、ダメ! これ、クルミではない! カヤククルミだ!」
顔を近づけようとするクラムにアリスは手で制する。
「危険なやつだよ。どうしてクルミの中に?」
「紛れ込んでたのか? 似ているもんな」
「ありえないよ。カヤククルミは一般には流通しない。カヤククルミは実が毒だし、花や葉には精神向上の成分があるの」
「精神向上ってことは薬ってことか?」
「薬は薬でも麻薬だよ。国の許可なく栽培することは禁じられているの。だからクルミに紛れ込むなんてことは起こらないの」
「ならなんで紛れ込んでんだよ。どこかで拾ったのか?」
「拾ったなんて……あっ!?」
アリスは拾っていた。人にぶつかり、クルミを地面に落とした。その時に急いで拾い集めた。
「もしかしてこれは私のではなく……」
◯
翌日の放課後、アリスは植物園へと足を向けていた。
「ここなのかな?」
背の低い生垣があり、その向こうには木々、花壇がある。
「何してるんだ?」
声をかけられて、振り向くとこの前のぽっちゃりした二年生の平民がいた。
「あ、あなたは、ええと……」
「自己紹介がまだだったな。二年のルシウス・クラウディウスだ。見ての通り平民だからルシウスでいいよ」
「私は一年のアリス・レイエスです」
「で、何してんだ?」
「何って植物園があると聞いて……」
「ここは植物園というか……ただの庭園だな」
「それでは……他にも植物園はありますか? 生垣の迷路とドームハウスの植物園とは別の」
「はあ? それ以外はないよ」
「そうですか」
「あ、でも、教師用の植物園があるな」
「教師用。それって蛇みたい目をしている男性教師?」
アリスは自身の両目の端を吊り伸ばす。
「ケイネス先生のことか? ひどいなー?」
そう言うが彼は面白そうに笑っていた。
「ああ、あるよ」
「どこにですか?」
「ケイネス先生のは君が言っていた生垣の迷路の奥さ」
「あそこに?」
生徒が踏み入れるような教材園の近くに教師用の教材園があるとは考えにくい。
「不思議に思っているだろ。魔法で生垣の奥に生徒が入らないようになっているんだぜ」
「なるほど。ありがとうございます」
アリスは一礼して、その場を去ろうとした。
「ここ最近、物騒だから気をつけろよ」
「はい」
◯
アリスはルシウスに教わった通り、生垣の迷路も前に来ていた。
この中にドームハウスがあり、奥には教師の植物園があるということか。
アリスは生垣に右手を当てる。そして魔力感知を調べる。
(ここには全くない。奥に進まないといけないのかな?)
そして生垣に右手を当てつつ進んでいく。
ドームハウスのある方角を避けて、なるべく《《壁などの行き止まりに当たる》》ように。
そしてとうとう他の生垣と質が違う生垣に行き当たった。
その生垣は魔法を使うことにより、形を変える壁にも通路にも侵入者を取り押さえる縄にもなる生垣だった。
(この向こうに)
これ以上の捜索はやめておこうと、アリスはその場を去った。
◯
生垣を出て、寮に帰ろうと中庭を歩いていた時、アリスの周囲を煙が包む。
(魔法?)
後ろから誰かが棍棒を振り上げてアリスを強襲。
アリスは横に避け、振り上げてきた暴漢に対して、ルーン魔法で雷撃を与える。
相手は苦痛の声を漏らして、よろめきながら煙の中へと戻る。
相手は目出し帽を被り、素性が判らないようにしている。
だが、目出し帽以外は制服のため生徒の誰かだろう。
(タイの色から二年生か。バッジは外しているのかな?)
次は前から別の暴漢が現れた。
でも、アリスは前の暴漢ではなく、もう1人の暴漢に注意を払っていた。
前方から現れた暴漢が横殴りに棍棒を振る。
それを軽々と回避して、次に攻撃する相手をルーン魔法で雷撃。
そして次に風魔法を使い、アリスを囲む煙を霧散させる?
周囲が晴れると相手の数が判明。
計四名。三名は棍棒を持ち、もう一人は杖を持っている。
「おい、杖が折れてるんじゃねえのか?」、「こいつ場慣れしてる!」
相手側に動揺が走る。
それ機にアリスはリーダー格であろう人物にルーン魔法で火球で攻撃。
「あちぃ!」
相手の左腕に命中。
「おい、消せ」
リーダー格が杖の男に命じる。杖の男は急いで魔法で水を出して火を消す。
火が消えてリーダー格の男はアリスに次の攻撃をしようと睨む。
その時、アリスは詠唱魔法を終えて、風魔法で取り巻きの相手を吹き飛ばす。
「くっ! 逃げるぞ!」
勝ち目がないと判断したのかリーダー格の男は叫んだ。
「煙幕を張れ!」
そして杖の男に命じて、一目散に逃げる。
残された杖の男は魔法で煙幕を張ろうとするが、その前にアリスがルーン魔法で相手の杖を弾いた。
そのまま相手を攻撃しようとした時、アリスの体が魔法の輪で拘束された。
「逃げて!」
女子生徒が現れて、杖の男に向かって叫ぶ。
「早く!」
杖の男は急いであさっての方向に逃げた。
アリスは声の主に振り返る。
「ボードレール嬢。どうして貴女が彼を助けるのですか?」
彼女は子爵のご子息と揉めていた時、助けにきた人だ。
「……すべては私のせいです」
アリスは拘束の輪に魔力を注いで破壊。
アリスは少し明後日の方向をちらりと見て、ボードレール嬢に魔法の輪で拘束。
「うぐっ!」
ボードレール嬢はアリスの邪魔程度として拘束魔法をつかったが、アリスは本当に拘束するため魔法を使った。そのため強く体が締められる。
「どうして私を狙ったのですか?」
地面に膝をついたボードレール嬢にアリスは問う。その絵面は離れたところからではいじめのように見られる。
「貴女が……ジェラルド嬢と仲が良いから」
「それで彼らをけしかけたと?」
「ええ」
「目出し帽は被ってませんが」
「前に出るつもりはなかったから?」
アリスは溜め息を吐き、
「平民シャーロットと子爵達とのいざこざは? あれも貴女が生徒会長に助けを出したから事を丸く収めたんですよ」
「あれもちょっとやりすぎかと思って」
「その生徒会長を魔法で狙ったのは?」
「あれは貴女を狙ったもので」
「私を?」
「あっ!? ち、違う」
「違うとは?」
ここでボードレール嬢は黙り始めた。
「話さないというなら精神干渉魔法を使わせていただきますよ」
精神干渉魔法は副作用があり、強い精神干渉魔法や下手な精神干渉魔法を使うとより多くの副作用が発生する。
「そ、そんな!?」
「今、杖がないため、失敗するかもしれませんが、ごめんなさいね。最悪、全ての記憶を無くして赤ちゃんになるかも」
ボードレール嬢の顔が真っ青になる。
(いい顔ですね。これなら──)
アリスはゆっくりとボードレール嬢に近づく。
ボードレール嬢は怯え、目を強くつむる。
その時だ。
「やめろ!」
アリスを襲ってきた暴漢の一人、杖の男が戻ってきたのだ。
彼は逃げたのではなく、こっそりと二人の様子を伺っていた。
そしてそのことをアリスは分かっていた。きっと声までは聞こえてなかっただろうが、拘束魔法に地面に座り、怖がるボードレール嬢からただならないことだ感じて前に出てきたのだ。
「俺が悪いんだ。彼女は関係ない。本当だ」
彼は目出し帽を外した。その顔は覚えがあった。子爵の取り巻きの一人で平民の男。
「ジャック! やめて!」
「いいんだ、カトレア」
(おや? ファーストネームで呼び合う仲なのですね)
「アリス・レイエス、全ては俺の責任だ」
「他の人は子爵とその取り巻きですよね?」
「……」
「なぜそこまで黙るのですか? 子爵の養子縁組でも目指してます?」
「ち、違う。おれはただ……」
「ただ?」
ジャックを一息吐き、
「俺は小さい港町の商会長の息子なんだ。それで地元子爵であるウルス家に逆らえないんだ」
「そういうしがらみですか」
「で、どうして私を?」
「それは……カヤククルミだ。君はそれを持ってるだろ?」
「はい。拾いました。それをどうして知っているんです?」
「それはウルスが言っていた」
「…………そういえばサロンがあると言っていましたね?」
「ああ、そうだが」
それがなんだとジャックは怪訝な顔をする。
「貴方はサロンに参加したことは?」
「俺は平民だから。参加はしないけど、準備の手伝いは少し」
「ボードレール嬢は知っているようですね」
「……」
ボードレールは俯いて口をつぐむ。
(なるほど。だから……)
アリスはボードレールの拘束魔法を解いた。
「今回の件、少し私に預けてもらえませんか」
「君に?」
「はい。任せてください。早くて今日中には終わるかもしれません。あと、子爵に伝言をお願いします」




