第19話 再会
「おう! 大丈夫だったか?」
ドアを開けて教室に戻ると、室内は一瞬だけ静まり返った。
その後、いつものように各々は雑談をするが、どこか視線はアリスに集中していた。
本来なら授業がある時間だが、今日だけは担任からの連絡事項があるまで全学年教室待機となっている。
「うん。特に何もなかったよ」
「何を聞かれたの?」
「昨日の件。放課後のね」
「それだけ? 校長は何か言ってた?」
「校長はいなかった。捜査員と学年主任とかがいたよ。あ、あと近衛特務隊の隊長も」
「近衛特務隊の隊長ってあの赤髪の?」
「知ってるの?」
「有名よ」
セレンが強く答える。
「近衛っていうからには第3王子の?」
「でしょうね」
「でも、女性だったからびっくり、近衛隊って、屈強な男性というらイメージがあったから」
「女性だからといってヴィヴィ隊長を舐めてはダメよ。彼女は二年連続国家剣技大会を優勝しているのよ。実力は折り紙つきだから」
「そ、そうなんだ」
いつも冷静なセレンが興奮気味に語るのでちょっとアリスは引いていた。
「それより事件の件で何か言ってたか?」
「それはたぶん担任が話すと思うよ」
そこでちょうど担任が教室に入って来た。
「皆さん、ここ最近、学内で魔法に関わる事件が発生しております。すでに知っていると思いますが、B組のコーディリア・ハイエマン達が何者かに襲われました。怪我も僅かなもので命には別状はありません。皆さんも決して一人にならないように、そして薄暗いところには気をつけるように」
「はい、質問です」
男子生徒が手を挙げる。
「なんでしょう?」
「犯人は誰なんですか?」
「犯人はまだ不明です。ハイエマン達の話から複数名と言われています」
「敵は外から来たんですか?」
女子生徒が質問し、それには担任ではなく別の女子生徒が「当たり前でしょ」と馬鹿にする。
「あら? ここには結界が張られているのをご存知ではないのかしら?」
馬鹿にされた女子生徒が鼻で笑いつつ、言い返す。
「はい。聞いてください」
担任が手を叩き、喧嘩を仲裁し、自分へと注目させる。
「犯人は外から来たのか内にいるものかは不明です」
これで静かになるだろうと担任は踏んでいたようだが逆に、
「内からってことは犯人は生徒?」、「魔法が使えるってことは二年生?」、「一年でも魔法は使えるだろ」、「魔導具使えば誰でもやれるわよ」、「教師かもしれねえぞ」、「去年に大きな事件があったって聞いたわ」
「ちょっ、皆さん、落ち着いて、落ち着いてください!」
◯
放課後、アリスはイレーヌの約束として香水をつけた。
そして今日もまた購買部に向かった。
ただ今日はアイスバーンの使いではなく、折れた杖のため新しい杖を求めて購買部に訪れた。
購買部には杖は置いてなかったが、取り寄せくれることとなった。
そしてアリスは購買部を出て、廊下を歩き、寮へ帰宅しようとしていた。
その時だ。
「そこの人、動かないで。じっとしていて」
後ろから声をかけられ、アリスは立ち止まった。
「落ち着いて。後ろに肩に蜂が止まっているわ。お願いそのままでいて」
肩越しに蜂を。そして後ろからゆっくりと近づく一年生の生徒。
蜂くらいな魔法で潰せるのだが、彼女が手に持つ紐を見て、魔法を使わず、じっと立ち尽くした。
彼女はアリスの肩に止まる蜂の体に紐をくくりつけた。
「よし」
そして彼女はアリスから離れて手で風を軽く起こす。すると蜂はアリスの肩からゆっくりと飛び去った。
「蜂の巣でも探しているんですか?」
「そうだよ。分かる?」
アリスも昔、蜂の巣を探すため蜂の腹に紐をくくりつけたことがある。
紐には魔法が施されていてどこに蜂が向かったのか分かるようになっている。
「ん? 貴女、あの時の」
アリスは目の前の一年生が誰か思い当たった。
そして向こうもアリスを見て、思い出したようだ。
「「駅の時の」」
そう、蜂の腹に紐をくくりつけた一年生は駅でイレーヌから相席を誘われた子であった。
「まさかこんな再会をするとはね。私はエブリン・ホブソン」
「私はアリス・レイエスです」
「これからもよろしくね」
エブリンが手を差し出すのでアリスはその手を握る。
「はい。ちなみにどうして蜂の巣を?」
「蜂が多くて困ってるって聞いてね。寮にも被害が出ているのよ。貴族様は虫が嫌いでね。しかも蜂に顔を刺されたくないから毎回大騒ぎ。『イヤァー、イヤァー』って」
「それは大変ですね」
「で、それで学園側が動いたの。でも蜂の数が多くてね。学園側も困っちゃったらしいの。それで蜂の駆除の募集が出たの。報酬も出るらしいの。私、田舎出身の平民だからこういうのは得意なの。さっき蜂に動じなかったけどアリスも蜂は平気?」
「平気ではありませんけど、エブリンが蜂に紐を付けようとしているが分かったので」
「そっか。それじゃあ、私はこれで」
そう言ってエブリンは蜂が飛んでいった方角へと走り去る。
◯
エブリンとの後でアリスまたしても見知った顔と再会した。
「やあ、久しぶり」
ラニーだった。
今日は正装に胸に鋼のプレート、籠手、脛当てを装着している。
「久しぶりといっても一週間くらいしか経ってませんよ」
「ハハッ、そうだね。元気にしてた?」
「はい。ラニーさんはどうして校舎に?」
近衛特務隊は学園敷地内を警備しているが、校舎には入ってこない。
「事件があったからね」
「生徒会長のですか? それともハイエマン嬢の?」
「両方。というかそのどちらにも君が関わっているんでしょ? 事件詳細を聞いた時はびっくりだよ」
「たまたまです。あと犯人ではありませんから」
「大丈夫。それは分かってるよ。入学して早々大変だね」
「ラニー、何をしている?」
背後からの呼びかけにラニーは背筋を伸ばした。振り返り、
「た、隊長!」
声の主は近衛特務隊隊長のヴィヴィだった。
「おしゃべりか? っと、……君はアリスだね?」
「はい。どうもです」
アリスは会釈する。
「隊長、この子が前に言っていた魔猪戦で協力してくれた子です」
「ああ! 君が! その節はうちの部下が世話になった。礼を言う」
ヴィヴィが慇懃に頭を下げた。
「いえいえそんな。あまりたいしたことはできませんでしたよ」
「謙遜を。貴女がいなければうちのラニーは命を落としていましたよ」
「ええ! 隊長、さすがにそれは……あるかな?」
ラニーは小首を傾げながら答える。
「魔法が得意なんですね」
「ええ。まあ、少しは」
「それほどの器がありながらどうしてここへ? 貴女ほどなら魔法院エイワスも難しくはないのでは?」
「む、難しいですよ」
魔法院エイワスは最高学府。魔女リズベルトから魔法を教わったといえ、さすがに無理であろうとアリスは考えている。
「ここに入学したのには何かワケが?」
「ありません」
「隊長、尋問になってません?」
「……そうか」
ラニーに咎められ、ヴィヴィは質問をやめた。
「では、我々はこれで」
「はい。お疲れ様です」
◯
アリスと別れて、ラニーはヴィヴィの隣を歩きつつ尋ねた。
「隊長、どうしたんです?」
「知っているだろう。彼女は関係者だ」
「でも、犯人という可能性は低いかと」
「ああ。それでも関係者だ。関係者なら何かあるのではとな」
「一体何があるというんですか?」
「知らんよ」
ヴィヴィは本当に分からなかった。
本当に第三王子が入学しているのか、していないのか。
去年の事件と今年の事件は同一犯なのか、それとも違うのか。
そしてなぜ魔法に無頓着な自分達近衛兵が選ばれたのか。その編成の理由も。
もし要人を守れというのであればなぜ寮から離れた兵舎に置くのか。
(これではまるで置き物ではないか。国は形としてきちんと守備をしているという体裁を作っているだけなのではないか?)




